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中期経営計画で定めた方向性は正しかったと判断――、NEC・森田隆之社長

独自の生成AI提供も表明

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOは、共同インタビューに応じ、「NEC独自の生成AIを開発し、提供することを検討している」と述べた。時期については明確にしなかったが、「近々に発表できる」とした。また、「中期経営計画で定めた方向性は正しかったと判断している」と述べ、「2023年4月の組織改革は、2025中期経営計画の実行のために最適と考えられる形にした。これから3年間は組織を変更するつもりはなく、遅滞なく動ける組織体制になったと思っている。中期経営計画の達成には徹底的にこだわっていきたい」と意欲をみせた。

NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏

 生成AIについて森田社長兼CEOは、「生成AIは、非常に大きな機会だととらえている。インターネットの登場に匹敵するぐらい、社会のあらゆるところに波及し、影響を及ぼすものになるだろう。ビジネスユースで安心して生成AIを利用できるようにするためには、デジタルトラストが大切であり、どういうデータを取得し、どういう用途で使うのか、誤情報や著作権に関する課題をどう解決するのか、人権を侵さないようにするにはどうするのか、日本語で利用するようにするにはどうすべきか、といった条件をクリアしなくてはならない。NECは、こうした課題に対して、さまざまな技術やサービスで貢献できると考え、準備を進めている」と述べた。

 また、「NECは難関学会における論文採択数でグローバル トップ10に入る唯一の日本企業であり、AIでは圧倒的な能力を持ち、研究開発も進んでいる。また、NEC自らも、2023年5月から、ChatGPTをはじめ、いくつかの大規模言語モデルの社内利用を開始した。ビジネスユースで責任をもって生成AIを利用できるようにするため、専門家チームを設置して利用ルールを定め、検証を行っているところだ」と語った。

 その上で、「その取り組みのひとつとして、NEC独自の生成AIの開発、提供を検討している。生成AIのビジネスは、汎用的に利用するものと、企業内などが個別の環境で利用するものに分かれるが、個別環境で利用する生成AIの市場の方が大きくなるとみている。オンプレミスのバージョンや、プライベートクラウドのバージョンなども想定される。ここでは、さまざまな技術やサービスが考えられ、いろいろな用途にビジネスを展開していくことができるだろう。しかるべきタイミングで発表は行うが、近々に生成AI関連ビジネス全体の取り組みについて発表ができる」と述べた。

 NECは、AIに関しては、50年以上に渡る研究開発の歴史を持っており、顔認証をはじめとして、さまざまな領域で、AIを実用化している。その実績を持つNECが、生成AIの世界において、どんなサービスを提供することになるのか。時期を「近々」とする、その内容が注目される。

 NECは、2022年4月に、組織数を約150から約50へと3分の1に減らし、CEOから担当者までの階層を8階層から6階層へと削減。「組織の大括り化」と「レイヤーのフラット化」により、現場起点での意思決定と実行スピードの向上を図れる組織へと移行した。

 その実績をもとに、2023年4月には、デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス事業を「DGDFビジネスユニット」として新たにビジネスユニット化。新設した「テレコムサービスビジネスユニット」に、グローバル5G事業を含む国内外の通信事業者向け事業を統合し、成長事業の戦略実行に集中できる組織体制を確立することで、実行を加速することになる。

 また、「デジタルプラットフォームビジネスユニット」を新設。グループ横断でDX事業の展開に必要な製品、サービスを一元的に企画、開発、提供し、共通的な機能やアセットの標準化をグローバル視点で推進。戦略コンサルティングから共通基盤、デリバリまでのエンドトゥエンドでのDXオファリングを拡充、強化する考えを示している。

2023年4月からの新たな組織体制

 森田社長兼CEOは、「今回の組織変更では、デジタルプラットフォームビジネスユニットとして、すべてのエンジニアリングリソース、テクノロジーリソースを集結し、ひとつにしたことが大きい。重複開発ができにくい形になり、逃げられない体制になった。また ITサービスや社会インフラという枠を緩く設けることで、BUを越えて、ビジネス面での資源配分のアクションが取りやすく なった。全社レベルで調整しなくても、お互いに合意すれば スムーズに進められる形になった」とした。

 その上で、「これから中身を作るという組織ではなく、すでに中期経営計画を実行する組織になっている。中期経営計画の最終年度となる2025年度までの3年間は、これ以上、組織を変更するつもりはない。これで遅滞なく動けるはずと考えている」と述べた。

自社のDX、企業のDX、社会のDXの3つからのアプローチが正しいやり方だ

 NECでは、成長事業として、デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス(DG/DF)、グローバル5G、コアDXの3つを掲げている。そのうち、コアDX事業について、時間を割いて説明した。

 森田社長兼CEOは、「自社のDX、企業のDX、社会のDXの3つからのアプローチが正しいやり方だと考えている」とし、「社会のDXでは、他社とは異なり、スマートシティやインフラ協調型モビリティなど、具体的なプロジェクトを実行しており、社会的な価値を実現するとともに、さまざまな領域への波及効果がある」とする。

 一方、「自社のDXでは、NECは2023年5月に、新たな基幹システムをカットオーバーした。2008年からGlobal Oneプロジェクトを稼働。会計システムをSAPに移行し、その後、SAP/HANAによりクラウドにリフト。今回は、DX化してデータドリブン経営へと移行する。グループ横断で連結損益を一気通貫で見える化し、経営改善を進めていくものであり、他社に先駆けた取り組みになる。10年前のNEC社内には、約2000ものシステムがあった。これをモダナイゼーションし、DX化ができるのか。頭が痛い問題だが、各社が取り組みたいと考えていることを、実験台としてNECの規模で実践した」との取り組みを説明。

 「自社のDXを、私がCEOとして取り組んでいるからこそ、自分の問題意識、課題意識のなかで課題を見ることができ、そうした体験を、いろいろな企業の社長が興味深く聞いてくれる。お客さまから本当に使えるのと聞かれたときにも、NECでは12万人の社員が使っていると答えられる。また、NECは、製造も販売も手掛け、ハードウェアも、ソフトウェアも、サービスも扱っている。いろいろなビジネスの形態に対して語ることができる。相手の安心感が違う」などと述べた。

 NECによる「自社のDX」の取り組みにおいては、グローバルアライアンスを組んでいるSAPやマイクロソフト、AWSが、多くの技術や開発リソースをコミットし、技術ロードマップの共有まで行ったという。例えば、世界12万人規模でのバーチャルデスクトップ環境を実現するために、マイクロソフトとNECにそれぞれ専任チームを作り、最新バージョンで展開できるようにした。また、ServiceNowが社内で実験中の技術をNEC社内でも先行する形で活用。さらに、「NECが持つ顔認証技術も使い倒したら、オフィスがどう改善できるのかといった取り組みも行った」と話す。

 「実践を通じた知見を、どれだけ多く、懐に持っているかが大事である。これは売り物であるが、これは使う物であるといったように切り分けていると肌感覚が持てない。われわれ自身が実験台になって最先端のもの使い、技術的な課題を解決しながら、戦略的パートナーとともに取り組んだ成果が蓄積できた」とした。

 また、「企業のDXなどを推進する上では、アビームコンサルティングの存在が大きい」と語り、「上流のアジェンダ設定から課題抽出、DXテーマの設定、システムの実装、運用までを連携しながら提供していくことができる。日本に7000人弱のコンサルティング部隊を抱えているITベンダーはほぼいない。この強みを生かしていける」とした。
さらに、「いままでは個別SIでやってきたものを、共通技術基盤であるNEC Digital Platformに置き換え、人月商売のモデルを変えることができる。幸か不幸か、NECには開発力があるため、各部門で開発を行い、結果的に同じようなものが出来上がっていたということが多かった。それは極力やめて、お客さまに特殊な理由がない限り、共通的なものを使い、カスタマイズを追加していくことにする。これは、お客さまにとってもメリットがある」とした。

 また、「ベンダーが見直されるタイミングであり、DXに対する考え方も変わっている。かつてはIT部門の仕事だったものが、いまはCEOの仕事になっている。その結果、ビジネスの規模が大きくなっている。プロジェクト単位の商談ではなく、戦略アジェンダをともに解決する関係へと変えることができる。そこには手応えを感じている」とした。

5G普及の遅れから国際競争力に影響が出ることを心配

 もうひとつの成長事業であるグローバル5G事業については、「日本における5Gの展開スピードが、4Gに比べて半分程度にとどまっている。早くキャッチアップしないと6Gが来てしまう。ネットワークの高度化はIoTなどの技術革新のベースになる。5Gの普及の遅れは国際競争力に影響が出ることを心配している。今後、5Gへの投資が戻ることを期待している。一方で海外では、Open RANの認知度があがり、フォローの風が吹いている。だが、欧米の通信事業者は短期的に投資を抑制しており、展開が少し後ろ倒しになっている」と指摘。

 「NECは、O-RANでフットプリントを獲得することを狙ったが、いまの市場環境では、フットプリントから市場を拡大していくという動きが短期的には機能していない。2022年度は、5G事業だけで損益が100億円以上悪化している。構造改革を行い、投資と費用の適正化を行っているところであり、2023年度は確実に150億円以上改善する」と述べた。

 だが、「市場のなかで、計画をどう現実のものにするかが鍵である。方向性は変わらないものの、場合によっては、中期経営計画の見直しを行わなければならないと考えている。2025年度に5G事業で見ていた190億円の利益を、別の事業で稼ぎ出すことも十分にありうる。しかし、5Gの領域で手を緩めることはない」とした。

 5G事業の計画の見直しなどについては、秋に予定しているIR Dayなどで、その方向性を明らかにする姿勢をみせた。

 また、NEC本体では2017年度に約50人だった中途採用者数が、2021年度以降は600人強に増加。新卒に比べて中途採用の方が多くなっていることや、女性や外国籍の社員を積極的に採用していることを強調した。また、働き方や雇用形態の多様化も進めており、子会社のアビームコンサルティングや海外子会社、2023年4月に設立したNECセキュリティでは、それぞれの市場慣行を踏まえた雇用形態や処遇を積極的に採用。 NECグループの全社員の流動性を高めること、ジョブ型を2024年度からNEC本体の全社員を対象に導入することにも触れた。