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未来の小売店からサッカートレーニングまで、本場ドイツで体験したSAPのソリューション

 ドイツ・フランクフルトから約100km南に位置する町ヴァルドルフ。人口約1万5000人のこの小さな町に、ヨーロッパ最大のソフトウェア企業SAPが本社を構えている。本社とその近郊オフィスに所属する従業員数は約1万6000人で、ヴァルドルフの人口を超える規模だ。現在全世界で10万人以上の従業員を抱えるSAPは、1972年にこの地でスタートした。

 そのSAPがこのほど、世界各国の報道関係者をこの地に招いて同社の最新技術を紹介する機会を設けた。ここでは、同社のソリューションが体験できる「SAP Experience Center」の様子と、SAPが長年にわたってスポンサーしているサッカーチーム、TSGホッフェンハイムが同社の技術をいかに活用しているかを紹介したい。

何十棟ものビルが立ち並ぶSAP本社

未来の小売店が体験できる「S.MART」

 「SAP Experience Center」の中には、一見社内の売店と見間違えるような店舗「S.MART」が設けられている。品ぞろえも豊富ではあるが、ここは買い物をする場所ではない。SAPのソリューションを活用した未来の小売店を実現している場だ。

 店舗に買い物客が入店すると、入り口の監視カメラがその顧客の様子をとらえる。顔の表情まで把握し、パーソナライズされたエクスペリエンスが提供できるよう、それぞれの顧客に適したプロモーションやレコメンデーションを送る。

 冷蔵庫にはIoTセンサーが製品ごとに設置されており、それぞれの製品に適切な温度を超えていないか管理する。もちろん、サステナビリティを考慮し、温度が低すぎる場合もアラートで知らせる。

 商品棚は、多数のカメラによって見守られている。在庫の確認はもちろん、商品が別の場所に置かれていないかもチェックする。在庫や商品の位置に問題がある場合は、監視モニター上でその棚が赤枠で表示されるようになる。

 リアルタイムでプロモーションを管理することも可能だ。日や時間によって商品の価格を変更する場合、システム上で価格を変更すれば、すぐに店舗のデジタル化された値札に反映されるようになっている。

 スーパーの前には電気自動車の充電ステーションを設け、買い物中に急速充電する仕組みを提供することも可能だ。購入金額によって充電料金の割引クーポンを発行するといったプロモーションを用意することもできるだろう。

 このように、小売店で提供されるさまざまなエクスペリエンスが、すべてSAPのソリューションで実現できるという。

S.MART
ゾーンごとの滞留時間も把握できる

 このほかにもSAPには、デジタルファクトリーの様子が再現された「SAP Industry 4.0 Center」が存在する。その広さは500平方メートルを超え、工場内で製造工程を支援する部品生産ロボットや無人輸送システムが稼働しているほか、液体を混ぜて充填し、製造物ができあがるまでの生産ラインが実際に確認できるようになっている。

SAP Industry 4.0 Center

SAPのソリューションをフル活用するTSGホッフェンハイム

 2000年にはアマチュアのサッカーチームだったTSGホッフェンハイムは、2008年にはドイツのトップリーグに昇格するという大躍進を遂げている。それは、人材とイノベーション、そしてテクノロジに投資したからこその成果だという。

 同チームでは、すでに活躍している選手を高額な契約金で引き抜くのではなく、若い選手を育成することに注力している。テクノロジで潜在的才能のある選手を見つけ出し、育成した上で他チームに引き抜かれるようなトップ選手へと成長させ、成長した選手の移籍による契約金で新たな投資への資金を得るという戦略だ。

 選手を育成する過程の中でも特徴的なのが、トレーニングに日々活用している「Footbonaut」というマシンである。

 Footbonautは、正方形のフィールドの中にサッカーボールの発射機が4面それぞれに設置されている。選手はさまざまな方面から飛んでくるサッカーボールを受け、光で指示される場所にサッカーボールをシュートするという練習を、Footbonautにて行っている。

 ボールの速さやスピンなどは、レベルによって調整できるため、プロ選手はもちろんジュニア選手や素人でもFootbonautを使ったサッカーのトレーニングが可能だ。実際、われわれ見学者もFootbonautを使ってサッカーボールを蹴る機会を得た。SAPは、Footbonautの使用時に生成されるデータを評価し処理しているという。

Footbonautによるトレーニング

 また、TSGホッフェンハイムでは選手の集中力や認知力を向上させる「Helix」も活用。サッカースタジアムを再現したような360度のスクリーンを備えた部屋の中で、試合のシナリオに素早く反応できるようコンピュータゲームのようなシミュレーショントレーニングを行う。Helixは当初SAPが開発していたが、2020年にはTSGホッフェンハイムが自ら改良を施した。現在SAPはそのデータの評価と処理を担当している。

 TSGホッフェンハイムが活用するSAPのソリューションは、選手に向けたトレーニングテクノロジだけではない。コーチやスタッフはスポーツ管理スイートの「SAP Sports One」を活用し、チームと選手のデータやトレーニング情報、パフォーマンス診断などを管理しているという。

 このほかにも、試合のチケット販売には「SAP Event Ticketing」、グッズやフード・ドリンク類などの販売には「SAP Customer Checkout」を活用。もちろん、財務データの管理は「SAP ERP」が担い、従業員向けのソリューションとして「SAP SuccessFactors」も導入している。

TSGホッフェンハイムのトレーニング施設

 今回、本社とTSGホッフェンハイムの2拠点にてSAPのソリューションを目にする機会を得たが、実はSAPは世界のさまざまな拠点にSAP Experience Centerを設けており、日本も例外ではない。ドイツ本社を訪問することは難しくても、同社のソリューションを体験してみたい人は東京・大手町を訪れてみてはいかがだろうか。