大河原克行のキーマンウォッチ

125周年を迎えたNECのいまを森田社長兼CEOに聞く

BluStellarは、社会価値創造型企業を進化させる「創業3.1」に

 日本電気株式会社(以下、NEC)は2024年7月に、創業125年の節目を迎えた。日本初の外資系企業であるNECは、激動の時代のなかを、社会環境の変化やテクノロジーの進化にあわせて変革を続けながら、成長を遂げてきた。そして2013年には、第3の創業と位置づける「社会価値創造型企業」への変革を打ち出し、そこから10年を経過している。

125周年のロゴ

 そのNECが2024年5月からスタートしたのが、新たな価値創造モデルであるBluStellarである。森田隆之社長兼CEOは、「BluStellarは、社会価値創造型企業を進化させる『創業3.1』」とし、次なる変革に挑む姿勢をみせる。

 「変わり続けることを、変えない」と語る森田社長兼CEOに話を聞いた。

NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

「いまのままでいい」とか「最適な状況」といった状態はない

――2024年は、NECにとって、創業125周年の節目となります。この節目に、社員に対してはどんなことを言っていますか。

 NECは、1899年7月に、日本で初めて海外資本が入った合弁企業として誕生しました。創業者の岩垂邦彦氏は、発明王であるトーマス・エジソン氏のもとで汗を流した人物であり、アントレプレナーシップに富んだ人物でした。電話の普及に取り組み、通信技術で近代日本の発展に貢献したのが、創業期のNECでした。

 また1977年には、小林宏治氏が、C&C(コンピュータ&コミュニケーション)を提唱し、これがNECの成長の推進力となりました。インターネットがない当時としては奇抜な発想でしたが、技術の進化という観点からとらえれば、コンピュータと通信がひとつになるということをいち早く指摘し、そこに向けて関連するさまざまな領域に事業を拡大していきました。慧眼であったと感じます。そして、PC事業の拡大や民需の拡大に取り組み、NTTに依存していた体質からも脱却を図りました。

 こうしてみると、NECの歴史は、自立すること、独立することに取り組んできた歴史であり、常に変化してきた歴史であるといえます。

 社員には、こうした歴史を振り返りながら、自主自立を目指し、自分たちの技術に誇りを持ち、自分たちのNECとして発展させてほしいと思っていますし、変わり続けることの大事さも伝えています。変化が激しい世の中であるというだけでなく、NECが身を置いているのは、最も激変する産業です。成長するための大きな機会があるともいえますが、逆に、少しでも立ち止まるようなことがあると、それは死活問題に直結します。「いまのままでいい」とか、「最適な状況」といった状態はありません。ミッションやパーパスをきちっと自覚し、どん欲に変化することが大事です。

 NECは創業にあわせて、「Better Products, Better Service」のスローガンを掲げました。ここに「Best」ではなく、「Better」という言葉を使ったのは、NECの姿勢そのものです。「Best」といった途端に、それ以上のものは求めなくなります。しかし、「Better Products, Better Service」とすることで、常に改善し、常に良いものを追求し、終わりのない挑戦がはじまります。この言葉には、そうした意図が込められています。先を目指す姿勢は、技術に傾注し続けてきたNECらしい言葉だといえます。

 そして小林宏治氏は、「安定な企業は不安定で、不安定な企業は安定であると心得よ」と述べています。これは私が肝に銘じている言葉のひとつです。自ら変わることを恐れずに、確かな実行力と目に見える結果を出してこそ、社会に対して価値を示すことができます。

 NECグループのカルチャーは、「変わり続ける」ことです。私はこのカルチャーをはぐくみ、その結果、11万人の社員が生み出す力に期待していきます。「変わり続けることを、変えない」というのが、NEC社長としての私の基本姿勢です。

社会価値創造型企業への変革は“第3の創業”である

――NECは、2013年に、「社会価値創造型企業」への変革を打ち出しました。それから約10年を経過し、その成果はどう現れていますか。

 NECは、2000年代後半に、過去の成功体験や、縦割り組織の旧弊にとらわれて、時代に先駆けた変化ができなくなっていました。そこで、2012年に、私を含む当時の経営陣が集まり、「自分たちは社会にとって必要なのか」ということから議論を重ねていきました。その結果、生まれたのがパーパス(存在意義)です。

 NECは、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します」をパーパスに掲げ、これを核に、プロダクト型企業から価値創造型企業に変革することを社会との約束にしました。このときから、パーパスを、ただの言葉で終わらせない旅が続いています。また、パーパスを実現するために組織の形を変え、有望な事業分野への投資を加速し、データドリブン経営にも取り組んできました。

 さらに、社外の人材を多く迎え入れて多様性を拡充し、社内カルチャーを変え、先進デジタル技術によるDXを進めています。こうした10年以上にわたる変革によって、NECグループは、過去最高益の業績を生み、健全な財務基盤を持つ企業へと変わってきました。

 社会価値創造型企業への変革は、NECにとって、第3の創業といえるものです。メーカーやシステムインテグレータといったくくりにはとらわれず、さまざまな先進技術や人材によって、お客さまや社会のDXを加速する会社へと変革しています。

NECの価値創造の軌跡

日本に国籍を持つ企業である、ということの意味

――ここ数年、森田社長兼CEOは、ダボス会議に出席するなど、グローバルでの発信に力を注いでいると感じます。その狙いは何ですか。

 私は、企業の国籍が大切な時代が訪れたと思っています。NECは米国企業にはなれないですし、中国企業にもなれません。だが、日本に国籍を持つ企業である、ということの意味は非常に重要であり、いまの時代においては、そのポジションがますます重視されています。世界は、米国か、中国かといった分断が進むなかで、地政学的にも、日本の国籍の企業が果たす役割は大きくなっています。

 一方で、NECの名前は知っているが、何をやっている会社から知らないという人が多いのも事実です。これは、多くの日本の企業にも当てはまるものであり、当社を含めて日本の企業は、世界に向けてもっと発信することが必要だと思っています。NECの社長だというと、多くの人が会ってくれます。それだけのブランドがあり、歴史があるからです。私は、そういう立場にあるのだから、国際的な会議にも積極的に出席し、日本の企業として、世界に発信していく責務があると思っています。

――世界に向けて、NECはどんな企業であると発信しているのですが。

 NECは、DXで社会を変える企業であり、テクノロジーによって、より良い未来を創る会社である――。それを世界に向けて訴求しています。いまの時代は、テクノロジーを革新するだけでは駄目です。テクノロジーを社会実装し、社会変革してこそ意味があります。かつての「C&C」は、非常にいいコンセプトですが、テクノロジービジョンであり、C&Cが何に使えるのか、何ができるのかといったことは明確に言っていませんでした。いまの時代は、テクノロジーやデジタル技術を活用して、どう変わるのかを示すことが重要で、より良い世の中にするために、社会実装をしていくことがポイントとなります。NECが2013年に定めたパーパスも、その点に触れています。

 私は、テクノロジーには色がないと思っています。テクノロジーに色を付けるのは人であり、どう使っていくかは、人や、企業が決めることになります。そして、色というのは、人間性の尊重でもあります。テクノロジーを使い、より安全で、安心で、利便性の高い世の中を作る。これが、NECが目指す社会価値創造型企業の姿であり、社会DXへの貢献ということになります。

――社会実装という点で、NECが重視しているポイントは何ですか。

 クライアントゼロです。NEC自らが0番目のクライアントとなって、テクノロジーを活用し、DXを実践することになります。DXは、デジタルトランスフォーメーションの略称ですが、トランスフォーメーションの部分で先行するには、経験することが大切です。

 NECは、長年に渡って顔認証の技術に取り組んできましたが、恥ずかしいことに自分たちで使ってこなかったという反省があります。私は、それはとても大きな問題だと思っていました。自分で使わなければ、いいところも、悪いところもわからない。自分たちで徹底的に使って、初めて価値を実感できるようになるわけで、それを実感できなければ、自信を持って売ることはできません。失敗を含めて、自分たちの経験そのものが、お客さまに価値を提供することにつながります。テクノロジーをいち早く実践できる立場にあるのは、テクノロジーを持っているNECならではの強みです。

 なかには、社内で利用し培ったノウハウを、これは「マル秘」だから外に出したくないという人もいるんですが、よく聞いてみると、「マル秘」というほどのものじゃないことばかりで(笑)。むしろ公開して、「まねができるのならば、まねしてみろ!」ぐらいの気持ちでやって、まねされたときには自分たちはさらに先に行っているといった状況でないといけない。その姿勢がないと、変わり続けることなんてできません。止まったらすぐに追いつかれてしまいます。

価値創造モデル「BluStellar」により「創業3.1」といえるフェーズを迎えた

――NECは、2024年5月に、価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を発表しました。これはNECにとって、どんな意味を持つ変革になりますか。

 先にも触れたように、NECは、1899年の創業時は通信技術のベンチャー企業として、通信機器の輸入から始まり、電話機などさまざまな機器を自社生産する企業へと進化し、通信技術で近代日本の発展に貢献してきました。これを第1の創業とすれば、1977年にC&Cを提唱し、ICT企業へと変革し、高度な情報社会を追求しはじめたときが、第2の創業となります。

 そして、2013年からは、DXによってお客さまや社会の変革を支援する社会価値創造型企業となり、いわば第3の創業期を迎えました。そうした観点から見ると、BluStellarは、社会価値創造型企業の役割を進化させ、「創業3.1」といえるフェーズを迎えたともいえます。言い換えれば、BluStellarは、自分たちのビジネスモデルを、テクノロジーセントリックから、価値創造セントリックへと変革する象徴的な取り組みとなります。

BluStellar

 もともと、中核を成す共通基盤をNEC Digital Platformと呼んでいたのですが、新たなブランドを付けることで、自分たちで責任を持ち、価値創造モデルを推進していく意思を込め、新たにBluStellarという名称を付けました。BluStellarは、イタリア語で「青い星」を意味し、お客さまの道しるべとして、光る星になるとの思いを込めています。つまり、お客さまを未来に導く価値創造モデルであるというわけです。

 BluStellarを発表して以降、思った以上に社内外に効果がありました。社外からはBluStellarに対する関心が高まり、社内では、自分たちが何を提供できるのかといったことを、より深く考えるようになりました。

 BluStellarは、テクノロジーの集積ではなく、価値創造モデルであり、上流コンサルティングから開発、デリバリー、運用、保守までがつながったプロセスを通じて、価値を提供するものになります。

――BluStellarのゴールは何でしょうか。

 BluStellarは、スタティック(静的)なものではありません。例えば、これがBluStellarだが、あれはBluStellarではない、ということを決めつけることはしませんし、区別化することなく、進化させ、育てていくものだと考えています。これによって、BluStellar1.0が2.0になり、3.0へと進化していくことになります。

 課題解決するための価値創造シナリオは、これからも増えていくことになりますし、ホリゾンタル領域におけるBluStellarの提案だけでなく、BluStellar for Bankingのようなバーティカル領域のBluStellarの提案も出てくることになります。

 そして、BluStellarは、オープンなエコシステムをもとに推進するものであり、パートナーシップの形も単なるリセールや技術開発といったことにとどまるのではなく、BluStellarに乗せることで、どんな付加価値が提供できるのかといったことを一緒に考えていく共創モデルを目指します。

――NECが125年に渡って浸透させてきたDNAのひとつに「逃げ出さない」文化があります。これは、BluStellarでも変わりませんか。

 NECは、ミッションクリティカルなプロジェクトをやり続けてきました。自分たちがインフラを支えているという自負があり、同時に、自分たちの後ろには誰もいない、自分たちでやり切るという高い意識が定着しています。その点では、まじめすぎるぐらいにまじめです(笑)。プロジェクトがトラブっても、撤退することはしませんし、万が一、そういうことがあっても、そのあとのお客さまへの対応をしっかりと合意してから、進めることになります。自分たちの利益のために、物事を放り出すことは決してしません。これは、NECの社員に染みついたものであり、125年間培ってきた揺るぎのない姿勢です。これからも変わりません。

――BluStellarの推進においては、AIが重要な鍵を握ります。NECは日本語LLM「cotomi(コトミ)」を自社で開発しました。この狙いは何ですか。

 私は、AIによって、新たな産業革命の前夜を迎えていると思っています。今後、AIが人々の生活のあらゆるところに入り込んでくるのは明らかです。一般的に技術革新が起こってから、世の中にインパクトを及ぼし、定着するまでに50年ぐらいかかります。変化が激しくなったと言われますが、そこには人が介在してきますから、やはりそれぐらいの歳月が必要です。

 例えばインターネットの場合にも、1969年10月にARPAnetが登場し、50年近くを経過して、社会的な変革に対して大きなインパクトを与えています。AIは第1次、第2次といった黎明(れいめい)期があり、それらを経て、いまにつながっているわけで、やはり50年ぐらいの期間を経ています。

 AIがDXの中核になることは明らかです。そこに、OpenAIやマイクロソフトなどのAI技術をいかに活用するかといった要素は重要なことですが、それだけでは不十分です。AIは、どういうデータを食わせるか、どうアウトプットをするかでまったく変わります。自分たちも、AI技術を持っていないと、そうした大切なことが理解できません。

 また、DXの中核となる技術のすべてを、外部に依存してしまっては、日本の文化も、安全保障も、人の手に委ねることになりかねません。それは絶対に避けるべきです。そのためには、選択肢を持つことが大切であり、NECは、その選択肢を提供する企業なのです。極論すれば、米国か、中国かという選択に対して、日本という選択肢を用意することにもつながります。

 NECは世界でも数少ないLLMをゼロから作った会社のひとつです。AIという新たなテクノロジー分野においては、そうした存在と選択肢が必要であり、その中心的役割を、NECは担いたいと考えています。それによって、日本の社会や企業に対して価値を提供でき、NEC自らも、この分野でしっかりとしたビジネスの基盤を構築できると考えています。

 ちなみに、独自開発のLLMにcotomiという名前を付けたのは、他社は、学習しただけのAIに名前を付けているのに、ゼロから作っているNECのLLMに名前がないのはおかしいのではないかというところから始まっています(笑)。

事実をきちっと見て、事実に基づいて行動できるようになってきた

――NECは、2025中期経営計画を推進しており、計画達成に向けて着実な進捗をみせています。同時に同中計では、体質改善や人・カルチャーの変革にも取り組んでいます。NECが変わった手応えはありますか。

 最近の事例のひとつを紹介すると、2023年4月から、7人が参加するトップマネジメントチームを作ったことが挙げられます。毎週1時間、私が考えていることや抱えていることを話す場とし、心配なことや問題点をオープンに共有できるようにしています。課題があったときに誰かを責めるのではなく、全員が意見を持ち寄り、どうやって解決してくかという話ができるようになっています。風通しが良くなり、この仕組みが回り始めたという実感があります。

 例えば、グローバル5G事業は、海外市場の立ち上がりの遅れなどが影響し厳しい状況に陥りましたが、期の途中ではあっても、大胆な組織変更を実施し、海外における構造改革やビジネスモデルの変更、お客さまへの方針変更の説明、マネジメント体制の変更といったことを、極めて短期間に、速いスピードで実行することができました。

 ここでは、整理を行うための投資も実行し、戦略変更による損失を減らすといったことも行いました。利益があげるビジネスに転換するために、全社ではどんな協力や連携を敷くことができるのかといった点での実行力も成果につながっています。この成果もあり、グローバル5G事業は、2025年度には国内外ともに黒字化する予定です。

 また、2025中期経営計画を通じて、NECは事実をきちっと見て、事実に基づいて行動することができるようになってきたと思っています。これまでは、事実から目を背けて、希望的観測で物事を動かすという部分がありました。誰かが片付けてくれるだろうと期待したり、確信もないのに、待っていれば南風が吹いたり、太陽が出てきて、解決されるというようなことを考えていた部分が散見されていたのです。実行する前に、事実をきちんと認識し、そこから物事をスタートすることが大切です。見たくない現実であっても、それをしっかりと見て、その現実に向かいあわなくてはいけません。そういう方向にだいぶ変わってきたという手応えはあります。

――NECは、社員に選ばれる会社を目指した改革を推進しています。同時に、積極的にキャリア採用も進めていますね。

 NECでは、働き方やマインドセットの改革を推し進め、エンゲージメントスコアの向上を目指しています。また、中途採用は、この5年間で約10倍に増やし、年間採用者数では、600人を計画し、新卒との比率は1対1というところまで変わってきました。NECに入れば、社会を変えられるのではないかと思ってくれる人が増えている手応えがありますし、その期待を裏切ってはいけないと強く思っています。NEC自らも変わってきているとは思いますが、まだまだやらなくてはいけないですね。

――NECはどんな会社と言われたいですか。

 NECは、グループ全体で11万人の社員が在籍しています。国内のグループ会社や、欧州3社(NECソフトウェアソリューションズUK、KMD、Avaloq)といった買収した会社との連携は強まっているものの、正直なところ、まだバラバラ感があるとも感じます。外から見たときに、これはNECグループの会社であるというような認識が定着しておらず、グループとしての力に期待したいといった認識も少ないといえます。それぞれの会社や事業の強さとともに、NECグループという強みを生かすことができれば、さらなる成長につながります。お客さまから見たときに、NECグループとしての総合力が期待され、その力を発揮できる企業になりたいですね。