ニュース

NEC・森田隆之社長兼CEO、BluStellarや生成AI、人材戦略などについて説明

「2025中期経営計画」の達成にも自信を示す

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOが合同インタビューに応じ、2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」の達成に自信をみせるとともに、2024年5月に発表した「BluStellar」に関して、オファリングモデルの準備が加速的に進んでいることを強調。また、グループ再編にはひとつの方向性を示せたとの考えも明らかにした。

 森田社長兼CEOは、「過去7年は、年初に掲げた事業計画を過達してきた。市場の信頼を得るには有言実行が大切である」としたほか、「グローバルのトップクラスの企業に並ぶような絵が描ける段階に来た。NECが何をしている会社なのかをひとことで語れる会社にする」などと述べた。

NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

上場3社の方向性を決めることができた

 NECは、「2025中期経営計画」において、2025年度の売上収益が3兆5000億円、調整後営業利益が3000億円、Non-GAAP営業利益が3000億円、Non-GAAP当期利益が1850億円、EBITDAが4250億円、ROICで6.5%といった目標を掲げている。

 NECの森田社長兼CEOは、「株式市場からは、2025中期経営計画は達成して当たり前との見方があり、その先に関する質問が多い。ある意味うれしいことである」と、計画達成に向けた周囲の評価を肯定しながら、「ジョブ型人事制度の導入やグループ再編などの構造的な改革は、2025年度までにすべて準備を整え、次の中期経営計画を描けるベースを作り上げていく」と述べた。

 グループ再編では、先ごろ、NECネッツエスアイに対する株式の公開買い付けによる完全子会社化を発表。すでにNECキャピタルソリューションの一部株式をSBI新生銀行に譲渡し、日本航空電子工業の非連結化を行ってきたことと合わせて、「上場3社の方向性を決めることができた。コア事業を進める会社は、100%の形でグループ内に取り込むことができた。『売った』、『買った』というような話は、これで方向性がついたと思っている。ジョブ型人事制度を今後、グループ会社へも展開し、NECグループ内での垣根をなくし、人の流動性を高めていく。これにより、NECグループとしての力を発揮できる絵が描ける」とコメントした。

 だが、これはM&Aを行わないという話ではない。

 「BluStellarは、グローバルを対象にしたビジネスとして必要なもの、デジタルガバメントやデジタルファイナンスの領域において市場とお客さまも含めて丸ごと買収するもの、セキュリティやAIなどでは、テクノロジー領域の買収などがある。だが、巨大な買収をするのではなく、テクノロジー領域であれば、ベンチャーなども含めて研究開発の一環としてM&Aを考えることになる。規模は大きくても数百億円規模になる。プライオリティが高くない場合には、まずはアライアンスを考える」と述べた。

約束したことを守ることで、株式市場との信頼感が生まれている

 その一方で、「世界のトップクラスの企業と比べた時に、利益率ではまだまだ届いていない。だが、2025中期経営計画で会社が終わるわけではなく、あくまでも中間地点の位置づけである。ITサービスと、それを支えるBluStellar、そして経済安全保障の領域を対象とした社会インフラといったように、事業ポートフォリオの大きな枠組みは整理できた。グローバルのトップクラスの企業に並ぶような絵が描ける段階にきたと思っている」との見方を示し、2026年度からスタートする次期中期経営計画については、「3カ年の計画になるか、今回のように5年間の計画になるかはわからない。だが、日本のテクノロジー会社として期待される姿になってきている。この形を強化していくことで、大きな絵が描ける」と、力強い成長戦略を推進する方向性を示した。

 かつてのNECでは、年間事業計画を打ち出しても、未達になるということが繰り返されていたが、「過去7年間は、年初に掲げた事業計画を過達している。有言実行は大切であり、約束したことを守ることで、株式市場との信頼感が生まれている」とし、「NECが、何をしている会社なのかをひとことで語れる会社になることも大事である。ITサービスと社会インフラ、それを支える基盤としてのBluStellarというシンプルな形になったことで、理解されやすくなっている」とも述べた。

 さらに、NECが2023年度から指名委員会等設置会社に移行した成果についても言及。「取締役会の議論がいままで以上に活発になり、活性化している。以前の監査役会設置会社の時は会社法の規定上、執行に関わる大型契約などの付議が多く、社外取締役は、なかなか理解しにくいことに関して責任を問われるため、当然ながら事前の勉強や質疑にかなりの時間が取られていた。指名委員会等設置会社に移行したことにより、その部分がなくなり、ポートフォリオのあり方や新規事業の考え方、会社のパーパスとポートフォリオの考え方といった本質的な議論にかなりの時間を費やすことができるようになった。社外取締役からも、建設的だが、かなり厳しい、忌憚(きたん)ない意見が出ている。移行当初は、執行側の一部には、取締役会にお伺いを立てるような感じもあったが、時間が経つと、互いの立場や責任について徐々に理解が進み、付加価値を出せる取締役会へとどんどん変化している」と、新たな仕組みへの手応えを示した。

新たにブランドをつけたことでうれしいサプライズが起きている

 2024年5月に発表した新たな価値創造モデルである「BluStellar」については、「もともとは、NEC Digital Platformという名前で取り組んできたが、新たにブランドをつけたことで、うれしいサプライズが起きている。顧客へのアピールというインパクトもあるが、社内に対する影響が大きく、ビジネスモデルに対する理解が深まった。オファリングモデルを充実させることが課題だが、これが加速している。オファリングの整備が、BluStellar事業を、計画以上に伸長させる鍵になる」と位置づけた。

 NECでは、BluStellarを中期経営計画達成に向けたキードライバーにとらえ、DX事業をさらに加速する姿勢を示している。BluStellar事業は、2025年度の売上収益で4935億円を目標に掲げている。

 生成AIの取り組みについては、「NECの強みは、生成AIをゼロから作っていることである」として、独自開発の生成AIである「cotomi」が差別化になっていることを強調。「3年前に、928基のGPUを搭載した研究開発用のAIスーパーコンピュータを整備し、これによって、競争優位性を持つことができた。どのように生成AIが作られ、どのように進化していくのかを深く理解し、それに基づいて事業展開をしている。巨大なLLMについては他社と協業していくが、NECでは、スマホ、サーバー、データセンター、クラウドなど、それぞれに搭載できるサイズの生成AIを独自に開発し、提供できる。データセット含めて、クローズに学習、チューンアップができるものを独自に提供し、進化させることができる。業務や業種に特化したさまざまなアプリケーションの領域にAIを使って提供していきたい。最終的には、その領域が最も大きな市場になると考えている」と語った。

 ここではデータセンターの電力消費の問題についても言及。「ベンチャー企業をはじめとして、AIに最適化したチップのアーキテクチャ開発が進んでおり、将来的には、消費電力が、現在の5分の1や10分の1になるものも出てくるだろう。だが、当面は、NVIDIAを中心としたGPUの普及が進み、電力は大きな問題になる。これまでのデータセンターの処理の頻度とは異なり、3倍や4倍の電力消費量に増加する」と予測し、「これは、国の競争力の差にもつながる。AIの領域における電力使用について、なんらかの政策や施策が実施されないと、国際競争という点で不利になる可能性がある。政府にはこの点をぜひ検討してもらいたい。日本が国際的な競争のなかで、きちんとプレゼンスを発揮していく上でも、AIの開発と、消費電力は、一緒に配慮しなければならない」と提言した。

自治体システム標準化や防衛事業への取り組み

 また、全国規模で進められている自治体システム標準化への移行では、SIerなどでの人材不足が指摘されているが、「NECが担当している自治体については、すべて期日通りに実行できる約束ができた。今後は、標準化に対して苦労している自治体に対して、力の許す限り、サポートすることを検討していく」とし、「自治体や、地方の中小企業を含めたDXはこれからが本番である。医療DXの標準化も進んでいくだろう。自治体DX、医療DXだけでなく、周辺のDXも活性化することを期待している。NECネッツエスアイおよびNECネクサソリューションズによる体制整備も、自治体DXや中小企業DXに向けたものになる」と語った。

 このほかNECでは、防衛事業の拡大も進んでいる。その背景には、日本政府の防衛予算が2027年度までに倍増するとともに、日本の防衛生産や技術基盤を維持および強化するための施策により、防衛産業の利益率が改善している動きが見逃せない。

 同社では、ANS(Aerospace and National Security)事業において、2023年度に約750人を増員したのに続き、2024年度には約250人を増員。2025年度までの累計で約1200人を増員する計画を明らかにしている。また、東京・府中の府中事業場内に新棟を建設。従来の計画から1万平方メートル増やし、2025年度までに約5万平方メートルの増床を図り、体制を強化することになる。

 「防衛事業を取り巻く環境が、この1~2年で次元が変わった。1200人の増員を目指しているが、すでにひっ迫感があり、府中事業所だけでなく、周辺施設でも増設を進めている。継続的に人材が必要になるだろう」とし、「地政学的な状況は変わらない。米中関係や、中東、ウクライナなどの状況も先が見通せず、短期には解決しない。日本が防衛力の強化をはじめとして、国を自ら守るための投資が必要になってくる。NECが保有しているサイバーセキュリティや宇宙、量子暗号および量子センサーなどの先進的な技術領域は、経済安全保障の領域における交渉力の観点からも重要な意味を持つ。世界の中でリードする技術を確保することは、自国を守る意味でも非常に重要であり、国際的な平和にも貢献できる。この領域は長期的に伸びていく領域であり、同時に伸ばしていく領域だと思っている」と語った。

マーケットに基づく報酬を実現しなければ、競争力がなくなってしまう

 人材戦略についても説明。「コンサルティングや外資系IT企業などとの人材の奪い合いがあり、報酬体系も非常にコンペティティブになっている。また、金融機関や製造業なども、デジタル人材を必要としており、異業種企業との人材の取り合いが生まれている。向上心があり、やる気のあるタレントに対して、魅力のある職場を提供し、キャリアを積むことができ、報酬面でも競争力があるものを提示することが必要である。マーケットに基づく報酬を実現しなければ、競争力がなくなってしまう。会社として一律ではなく、職種や業務内容に基づいて、アロケーションしていく必要もある。人材獲得競争はますます激しくなるなかで、ジョブ型人事制度のさらなる制度の充実を図る。また、他企業に対して競争力あり、より魅力的な賃上げを実現していく」とした。

 NECでは、2024年度に700人の新入社員を採用。グループ全体では1300人を採用しているが、NEC本体では、ほぼ同数の中途採用を行っており、人材の増強しているところだ。

 また、リエントリー制度を活用した「出戻り」の社員が想定以上に多いことにも触れ、「幹部も含めて。あらゆる領域で、元社員が戻ってきてくれている。AIやセキュリティの開発をしたくて戻ってくるエンジニアもいる。Corporate SVP 兼 CAOの松本康子氏も出戻りであり、社外で上場会社の役員を経験した後にNECに戻ってきた」と、カムバック採用が増えている事例を紹介した。

 さらに、「この2年間は、教育制度や教育投資にも力を入れており、リカレント教育も進めている。人の流動化を高めて、組織力を高めていきたいと考えている」と語った。人のスキルや価値が、事業に直結するようなSIサービス領域の教育/研修についても強化していくことになるという。