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NEC・森田隆之社長が語る、NEC Digital Platformを活用した“3つのDX”
年次イベント「NEC Visionary Week 2023」基調講演レポート
2023年9月21日 11:10
日本電気株式会社(以下、NEC)は、年次イベント「NEC Visionary Week(NVW)2023」を、9月20日~22日まで、オンラインで開催している。「DXプロフェッショナルとともにビジネスと社会の未来を描く」をテーマに、会期中に17セッションを配信。生成AIやDX、スマートシティ、脱炭素、ヘルスケアなどの観点から、経営課題の解決や、社会課題の解決に向けと取り組みを紹介する。会期終了後もオンデマンド配信で視聴できる。
開催初日の午前9時から行われた、森田隆之社長兼CEOによる基調講演は、「NEC Digital Platformで成し遂げるビジネスと社会の変革」と題し、NECのテクノロジーとナレッジを結集させたNEC Digital Platformを活用した「社内のDX」、「お客様のDX」、「社会のDX」を実現する取り組みを紹介した。中でも、NECが取り組んだDXについて、森田社長兼CEO自らが、多くの時間を割いて説明したことはこれまでになく、興味深い内容となった
最初に、NECのDX事業における体制について説明した。
NECでは、2019年にDX事業の中核を担うNEC Digital Platform(NDP)の提供を開始。2020年にはグループ会社であるアビームコンサルティングとの連携とともに、NEC社内に戦略コンサルティング部門を立ち上げ、上流機能の強化を実施。NEC自らをDXの実験場とするプロジェクトもスタートさせた。さらに、2021年には、AWSやマイクロソフト、オラクルといったハイパースケーラーとのグローバルレベルでのアライアンスを締結。その後、ServiceNowやCelonisなどをNDPに組み込むグローバルアライアンスCOEの活動にもつながっているという。
また、2025年までにNECグループで1万人、アビームを加えて2万人のDX人材集団の構築を目指している。加えて、マーケティングまでを一元的に責任を持つデジタルプラットフォームユニットを組織化。NDPは、技術提供だけでなく、戦略コンサルティングから実装まで、DXをエンドトゥエンドで実現できるプラットフォームに進化させていることを強調した。
社内のDX:NECの基幹システム刷新
講演では、「社内のDX」、「お客様のDX」、「社会のDX」の3つの視点から、NECが提供するDXについて説明した。
ひとつめの「社内のDX」では、NECの基幹システム刷新について紹介。基幹システムのモダナイゼーションから、データドリブン経営への取り組み、社内スマートワークの実現について触れた。
NECは、歴史的に事業部門がそれぞれが独立した組織体制となっており、プロセスもITも分断されていた。それを2000年代に入り、会計面におけるグローバルからの要請を背景に、オンプレミス環境において、同社初ともいえるDXに着手。ITシステムの統廃合により、約1400あったシステムを、750まで削減した。だが、異なる事業をまたがるプロセスの標準化までには至らず、バージョンの違いやアドオンのような非効率なシステムは残っていた。
現在、同社が進めているのが、業務プロセスやデータの標準化であり、これにより、データドリブン経営を実現するという。
森田社長兼CEOは、「業務プロセスやデータの標準化を効率的に進めるには業務システムのモダナイゼーションが必須である」と指摘。NECでは基幹システムのSAP S/4HANA化と、クラウド化を進め、いまは周辺システムのクラウド化と、次世代デジタル基盤のための基幹システムの刷新に取り組んでいるところだ。
次世代デジタル基盤においては、コアとサイドバイサイドがポイントになるととらえ、コア部分は、業務プロセスの標準化に対応できるようにSAP S/4HANAで標準化。NECの差別化領域はサイドバイサイド部分とし、コアから適度に独立させ、標準化と柔軟性を両立させている。
プロセスとデータの標準化では、全社戦略から営業活動、業務管理までの業務プロセスを標準化し、商品品目や公正価格といった重要項目を見直して、マスタを整備した。これにより、プロセスの上流から、横断的にデータを収集できるようになったという。標準化されたデータは全社共通のデータプラットフォームに蓄積はいおり、全社員がダッシュボード上でデータが見られるようになり、データ分析やデータ活用が常にできるようになった。
ダッシュボードは、各CxOがオーナーとなって、マーケティング、ファイナンス、サプライチェーンの各領域で用意。経営層と社員が同じデータを見ながら事業を遂行することができる環境が整っており、これがデータドリブン経営の実現には重要な要素になっているという。
また、「データドリブン経営の実現は、ITシステムや業務プロセス、データの標準化にとどまらず、組織や人、文化の変革でもある。企業活動のすべての領域にメスを入れ、To-Be目線で再構築するCorporate Transformation(企業変革)のとらえ方が必要である」と述べた。
組織、人、文化の変革では、2021年度に設置した社長直下の社内DX組織「Transformation Office」を通じて、企業変革を推進。各事業をデータドリブンで支援するためのビジネスパートナーの機能を各事業部門に設置することで、事業活動の変革を支援した。ダッシュボードを日々の活動に活用することを促進し、幹部に対しては意識改革セッションの実施、部門変革者への技術研修の開催、一般社員への基礎トレーニングなどを実施しているという。
現在、NECでは、社員が活用できるダッシュボードを67個公開し、月間利用回数は12万回に達している。例えば、商談管理プロセスのモニタリングでは、商談プロセスを標準化したあとに、プロセスマイニングを行い、現状を可視化して、オペレーションの改善を進めている。また、サイバーセキュリティダッシュボードでは、見えない脅威とリスクを可視化。経営層から新入社員まで16万件のアクセスがあり、社員のアウェアネス向上と、先手を取ったリスク対策を実現している。さらに、生成AIの活用では、常時2万人が安全に利用できる環境を2週間で整備し、圧倒的な生産性向上をつなげていくとした。
こうした取り組みを通じて、森田社長兼CEOは、「社内DXを推進する上での要諦は長期ビジョンを描くことと、Quick Winで継続することである。あるべき姿を経営トップが掲げ、これをコミットすることで、社員がゴールを見失わずに、希望を持って取り組むことができる。また、小さな確信を社員が感じ、それを続けていくと、効果が実感できるようになる。アジャイルな開発を意識して進めることで、Quick Winの継続は十分可能になる」とした。
お客様のDX:ビジネスモデル変革や新規ビジネス創造を生み出した事例
2つめの「お客様のDX」では、ビジネスモデル変革や新規ビジネス創造を生み出した事例に触れた。
NECのナレッジをもとに展開した「お客様のDX」の事例として、DXの強化や加速に向けてデータマネジメントを推進しているENEOS、サイロ化したグループ全体のITシステムの刷新に取り組んでいるヤマハ発動機、グループ54社のITガバナンス強化に向けて、IT資産の可視化とセキュリティアセスメントに取り組んでいる南海電気鉄道の例をあげた。
また、顧客の「ビジネスDX」の事例としては、カゴメとセブン銀行の事例を紹介した。
カゴメでは、加工用トマト生産者の栽培サポート強化において、AIを活用した効率化と自動化に取り組んでいる。加工用トマトの需要は増加しているが、生産者の減少、温暖化による干ばつの進行、農業資材の高騰といった課題がある。そこで、誰もが安定的に栽培し、供給できるようにするために、熟練農家の匠の技を形式知化し、これをデータとして蓄積。AIによって分析し、水やりや肥料の最適なタイミングなどを、営農アドバイスとして行えるようにした。また、世界各地の気候などに最適化した機能も追加しているという。
これを、AIを活用した営農ソリューション「CropScope」として提供。肥料を20%削減したり、水投入量を15%削減したりといった成果に加えて、収穫量の20%増加を実現した。現在11カ国で利用されており、今後は水や肥料の自動散布などの高度化につなげる考えだ。
セブン銀行では、ATMを進化させて、現金プラットフォームからサービスプラットフォームへの転換を図る方針を打ち出しており、来春に予定している新たなATMでは、キャッシュカードを使うことなく、顔認証だけで預金の入出金を可能にするという。
NECでは20年以上に渡り、セブン銀行のATMの開発に伴走しており、最新型のATM+では、コンセプトワークから参画し、デザインやユーザーインターフェイス、生体認証技術の実装までを支援している。
さらに、新規事業創出におけるDXについても言及した。NECの新規事業創出組織であるNEC Xでは、シリコンバレーを中心に5000人以上の外部起業家プールを持ち、NECの技術を活用した事業化やスタートアップ設立、資金調達などを行っている。すでに10件のカーブアウト実績を持つ。また、日本においては、新規事業創出のコンサルティングを行っているBIRD INITIATIVEにおいて、新規事業創出支援実績が63件、カーブアウト実績が2件あることを示した。
社会のDX:インドにおけるDX
3つめが「社会のDX」である。今回の講演では、インドにおけるDXについて紹介した。
インドは急速な経済発展を遂げるなか、社会インフラや行政サービスをはじめとした都市機能の整備が遅れており、交通渋滞や災害対策、治安などの課題を抱えている。NECは、10年以上に渡り、インドでのDXを支援しており、人口の90%が登録している国民IDにはNECの生体認証技術が採用されており、公共福祉サービスの実現に貢献している。
また、インド全域に渡る27の港を対象にした物流可視化システムの実装、バスやBRTの運用におけるトラフィックマネジメントシステムの実装などの支援を行ってきた経緯がある。
現在ではインド全体で16プロジェクトを支援。インド中西部の中核都市であるカリヤンドンビブリでは、センサーやドローンにより、街全体をセンシングし、AI解像技術や画像解析技術を活用して交通量を見える化し、最適ルートに誘導して渋滞を緩和したり、治安や防犯にも貢献したりといった成果があるという。また、雨量が多い地域であるため、天候や河川の水位モニタリングにより、迅速な避難を促すことも可能にしたという。これらは、NECのミッションクリティカルシステム運用の知見を生かしたコマンドコントロールセンターで運用している。
一方で、スマートシティの取り組みについても紹介。日本では41都市での実績があるほか、インドでは15都市で展開。スペイン、ポルトガル、アルゼンチンでもスマートシティ化に貢献しているという。また、統合型オペレーティングシステムの「NEC都市OS」を提供していることについても触れた。
富山市では、居住状況の把握およびデータ化に加えて、IoTによる街のセンシングを実施。NEC都市OSを活用してデータの集約や分析に活用しており、児童の登下校の見守りなどにも利用されている。また、富山市におけるアルミニウムの資源樹幹の仕組みづくりにも貢献。アルミニウムの精錬プロセスの最適化において、AIを活用しているという。
「都市問題を解決するには、ビジョンと実現の道筋がクリアに提示され、ステークホルダーに共感を得ることが必要である。また、社会受容性の高い社会実装が貢献につながる。そこで、NECが取り組んでいるのがThought Leadershipである。未来像を発信し、実現を目指す仲間づくりを行い、技術の実証や価値の検証に積極的に関わっていく。スマートシティプロジェクトでは、地域のステークホルダーを主体とした共創と、分野横断で活用できるオープンデータ利活用の基盤の整備が鍵になる」などと述べた。
最後に森田社長兼CEOは、「これらの3つのDXの中核を担うのがNDPである。NDPでは、上流コンサルティング、SI・デリバリー、保守・運用までのエンドトゥエンドのビジネスモデルでDXを支援することができる。これを支えるのが、NECが持つ世界トップクラスのAIや生体認証、セキュリティなどのテクノロジーと、7500人のコンサルタントを持つアビームと、NEC社内に1000人を育成する戦略コンサルなどによるDX人材・ナレッジである。また、NECがクライアントゼロとなって実証した社内DXでの経験やノウハウを、お客さまへのサービスとしてフィードバックしていくことができる」と述べた。
また、NDPの今年度の進化として、世界トップの大規模言語モデルと比較して13分の1のパラメータ数に抑えたNEC独自の日本語大規模言語モデルと、100人の生成AI専門家を通じた導入支援を行う「NEC Generative AI Service」、2023年4月から提供を開始し、実データを起点にリスクを可視化することで、全体最適のセキュリティマネジメントを行う「Data Driven Cyber Security」、プロセスマイニングを提供するCeronisとの戦略的協業をはじめとする「グローバルアライアンスによる提供価値の拡大」を挙げた。
そして、「NECは、DXのプロフェッショナルとして、ビジネスと社会の変革を支援していく。DXを支援する立場としては、お客さまや社会からの信頼がなによりも大切である。この思いを、Truly Open, Truly Trusted という言葉に込めている」と語り、講演を締めくくった。