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マイクロソフト、AI・IoTを活用したイノベーションの創出を目指す施設「AI Co-Innovation Lab」を公開
2023年12月28日 06:15
Microsoftは、世界6拠点目となるMicrosoft AI Co-Innovation Labを、2023年1月に神戸市内に開設した。日本およびアジアの企業や団体などを対象に、AIおよびIoTなどの技術を、ビジネスに適用することを支援する施設だ。
日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、2023年12月に、大阪・梅田のハービスホールで開催した年次テクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite Japan」で、Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeについて言及。わずか2カ月で来訪者数は58社、利用申し込みが19社に達したことを初めて公表。「これらの企業が、自社のシステムにAIを組み込む作業や検証を、マイクロソフトのエンジニアとともに推進している」と語った。このほど、同拠点を見学する機会を得た。約2カ月間の取り組みについて、Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeの平井健裕所長に話を聞いた。
Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeとは?
Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeは、JR三ノ宮駅から港に向かって徒歩で約10分の、神戸商工貿易センタービルの24階にある。
以前はレストランが入居していた場所であり、夜景が人気のスポットだったという。Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeの利用者にとっても、その眺望は隠れた楽しみのひとつだといえるだろう。
Microsoft AI Co-Innovation Labは、日本やアジアの企業や団体などを対象に、AIおよびIoTなどの最新技術を、ビジネスに適用することを支援する施設だ。川崎重工業や神戸市のほか、賛同企業や団体で構成する一般社団法人AI Co-Innovation Labs KOBE活用推進協議会が、運営法人として支援。大手企業や中堅中小企業、スタートアップ企業など、規模や業種を問わずに利用が可能になっている。
利用条件となっているのは、Microsoft Azureを使用している、あるいは使用したいと考えている企業や団体であり、具体的なユースケースがあったり、プロジェクトを推進していたりといった状況にあること、エンジニアが一定期間に渡って、Microsoft AI Co-Innovation Labでの作業に参加できることなどだ。利用料金は基本的には無料となっている。
平井所長は、「マイクロソフトでは、AIなどの新たなテクノロジーや製品を提供する際に、ラーニングサイトを用意し、独自に学習してもらう仕組みや、試用できるツールの提供などを行っているが、Microsoft AI Co-Innovation Labでは、そうしたサービスとは異なり、専任技術者と利用企業が1対1で対応し、ニーズを聞きながら、特定のプロジェクトに合わせて幅広いサービスと個別プログラムを提供。アイデアからマーケットインまでをショートカットするための伴走を行う。課題に直面している企業や、データの活用に具体的な課題を持っている企業が参加するプログラムになる」と説明する。専任技術者は全世界に20人以上が在籍しており、そのうち神戸のラボには4人が在籍している。
また、「マイクロソフトにとっても、Microsoft AI Co-Innovation Labを通じて、早い時点で市場の動きやトレンドを察知し、営業部門ではとらえ切れていないポイントをとらえるといった貢献ができる」とも述べた。
Microsoft AI Co-Innovation Labは、米Microsoftの本社がある米国レドモンドのほか、米国サンフランシスコ、独ミュンヘン、中国・上海、ウルグアイ・モンテビデオに設置。それぞれの地域の自治体や団体の支援をベースに、施設を招致するというスキームを採用しているのが特徴だ。すでに、800を超える企業や団体の「エンゲージメント」を支援してきたという。
例えば、中国・上海のMicrosoft AI Co-Innovation Labは、上海市が招致し、神戸の拠点に比べて約4倍の規模を持つ。上海市の大手企業からスタートアップ企業までが利用。ラボツアーで行われたデモンストレーションを通じて、新たなビジネスが創出されるといった循環が始まっているという。
Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeでも、開設から約2カ月間に、ラボツアーへの参加者数は58社224人となり、エンゲージメントへの利用申し込みが19社24件に達している。2023年11月の開設時の説明では、エンゲージメントへの参加企業は、1カ月で8件が最大としていただけに、すでにフル稼働の状態だ。
社名を公表可能な申込企業としては、川崎重工業やパイオニア、博報堂、ユーハイム、シスメックス、PKSHA Technologyなどがある。
パイオニアは、当初は上海のラボを利用していたが、Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeが稼働したことで移行。「Microsoft AI Co-Innovation Labのエンジニアの支援を得て、通信の遅延を解決したり、提供する情報の精度を高めたりといった改善を進めている。課題を見つけたり、最適な構成についてのアドバイスをもらっており、Open AIの活用ノウハウも得ている。開発している技術は、今後、製品に搭載できるようにブラッシュアップしていくことになる」(パイオニア)としている。
平井所長は、「ラボツアーは毎週のように行われており、スタートアップ企業も数多く訪れている。すでに、ラボツアーの予約は2月までは一杯になっており、うれしい悲鳴をあげているところだ。2024年2月には、ラボツアー参加企業数は100社を突破するだろう。さまざまな企業や団体から興味を持っていただいており、アジア地域からの問い合わせも増えている。日本では、パートナー企業とともに参加するケースが多いのが特徴であり、SIerなどのパートナー企業からの提案によって、ユーザー企業が利用申し込みを行うというケースもある。今後は、神戸という地域に寄り添った取り組みを増やしていきたい」という。
また、Microsoft Asia セールスイネーブルメント&オペレーションズ Asia Azure GTMチーム Data&AI GTMマネージャーの小田健太郎氏も、「アジアのスタートアップ企業からの問い合わせが多く、アジアから日本への進出に合わせて、神戸のラボを活用したいというケースもある。意図はしていなかった活用が増えている」としながら、「神戸には名だたる製造業があり、AIとモノを融合できる企業が多い。この領域は日本全体で強い領域でもあり、神戸のラボを設置した意味もそこにある。マイクロソフトの先進的なプロダクト開発チームやAIスペシャリストと連携しながら、最新技術を活用した開発が可能になり、その成果を、すでに本番運用へとつなげているケースもある。お客さまと一緒に作業を行うことで、お客さまのイノベーションを加速できる」と述べた。
Microsoft AI Co-Innovation Labを利用して開発を行う仕組み「エンゲージメント」
Microsoft AI Co-Innovation Labで行っている「エンゲージメント」とは、同施設を利用して、開発を行う仕組みそのものを指しており、ノミネーション、Tech Call、スプリントの3つの取り組みで構成する。
平井所長は、「Microsoft AI Co-Innovation Labの取り組みは、セールスプログラムではないため、マイクロソフト側からは、Microsoft Azureを利用するコミットメントは行わない。その一方で、ラボで生み出された成果物の市場投入のサポートは行わない。また、Code-forではなく、Code-withのプログラムではあるため、マイクロソフトがコードを書いて提供するといったことはしない。IPはお客さまのものであり、お客さまが作り、持ち帰ることができる。その成果をもとに特定の製品やソリューションを作ることに対しても縛りはない」と、エンゲージメントの基本姿勢を示す。
まずは、公式サイトで申し込むと、審査と承認を経て、秘密保持契約(NDA)を結び、マイクロソフトによる支援がスタートする。ここがノミネーションにあたる。
「最後のスプリントの作業では、お客さまのデータを直接使用することになるため、この時点でNDAを結ぶことになる。サンプルデータでは成果がぼやけてしまうために使用しない」という。
続いて、プロジェクトの推進に向けたTech Callと呼ばれるセッションを、約3週間かけて3~4回に向けて行い、成果のゴールや基本契約、マイクロソフトのAI倫理に合致していることなどを確認した上で、Lab Agreementを締結する。ここでは対面だけでなく、オンラインも多用するという。
その後にスプリントを開始する。スプリントは、5日間に渡って開発の実作業を行うものであり、基本的にはMicrosoft AI Co-Innovation Labに設置された部屋のなかで実施することになる。
スプリントの名称通り、短距離走のように、短期間に集中して開発作業を実施するのが特徴だ。「長距離での開発をスタートする前に、100メートルの短距離走のスタイルで、何度か開発を行い、それぞれの段階でレビューし、積み重ねる手法で開発する。ここでは、新たなテクノロジーに触れてみることを目的にするほか、プロトタイピングの場合、実際の製品まで作り込む場合もあり、企業によってさまざまな形態を用意している」という。
最後に、利用企業からアクセラレーションスコアを示してもらうことも独自の取り組みだ。これは、Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobeを利用したことで、マーケットインまでの期間をどれぐらい短縮できたかを数値として示してもらうものであり、効果を測定する手法のひとつに位置づけている。
スプリントによって完成した製品や技術は、企業が持ち帰ることができるほか、デモエリアで展示して、ラボツアーやセミナー、ハッカソンなどに参加した人たちに公開し、成果をもとに、協業につなげるといった取り組みも行われる。
このように約1カ月間のプロジェクトを通じて、スキルアップしながらテクノロジーを実装。ビジネスへの迅速な技術適用を行うことになる。
すでに、企画から製品定義、技術リサーチ、アーキテクチャ検討、開発、テスト、商品化という通常のビジネス変革プロセスを大幅に短縮する成果が出始めている。