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ヤマハが7年分の知見を生かした――、最新アクセスポイント「WLX212」に詰まった“コダワリ”【後編】

WLX212実機レビュー編

 ヤマハ株式会社は、企業向け無線LANアクセスポイントのエントリー製品「WLX212」を2020年7月に発売した。WLX212は、2015年に発表された「WLX202」の後継であり、中でも管理機能を強化しているのが特徴だ。

 後編となる本稿では、このWLX212を借りて、新しい管理機能を中心に、WLX212の新機能を実際に試してみる。

箱っぽくなった外見、黒のモデルも用意

 WLX212は、従来のヤマハ製無線LANアクセスポイントと比べると、箱っぽい外見になっている。従来の機種は壁など垂直に設置することを想定して薄さを重視していたのに対し、棚などに置いてもよいようにデザインしたものだという。そのため、平置きしたときの高さは高くなっているが、縦横は小さくなっていて、コンパクトな印象がある。

 ただし、電波の飛びを考えると、平置きはあまり望ましくない。そのため、スタンドが同梱されて、機体を斜めに立てられるようになっている。

 色も、従来の白のほか、新たに黒のモデルも用意された。これも、さまざまな設置環境に対応するためのものだ。白基調のオフィスとは違い、店舗などで黒基調の空間に合わせられるようになっている。

WLX212の外見
付属スタンドで立てたところ
白と黒のモデルが用意されている

 電源は従来どおり、PoE受電に対応している。そのため、PoE給電対応のスイッチやPoEインジェクターに、イーサネットケーブル1本で接続するだけで動作する。なお、ACアダプターも別売となっている。

 なお実際に接続してみたとき、最初にとまどったのがLED類だ。箱から出した状態でWLX212を見ても、動作状態を示すLED類が見当たらない。

 この疑問は、PoEスイッチに接続してみて氷解した。WLX212の平面部分のボディが透ける形で、LEDの点灯が確認できる。

裏面にLANポートやシリアルポート、CONFIGボタン、DC端子がある
平面部分のボディが透けてLEDが点灯する

クラスター機能と、YNOによる管理に対応

 実際に試す前に、WLX212の管理機能についておさらいしておさらいしておこう。WLX212では、エントリー製品ということもあり、より拠点への導入を簡単にすることや、ヤマハルータ以外の環境でも使いやすいよう、管理機構を一新している。

 従来のWLXシリーズでは、複数台のアクセスポイントがあるとき、1台をマスターとして設定し、ほかをメンバーとして設定することで、集中管理を実現していた。

 WLX212では、従来機種とは互換性のない新しい管理方式を採用した。WLX212の管理方式は、オンプレミスでの一括管理を簡単にする「クラスター機能」と、クラウドから管理する「Yamaha Network Organizer(YNO)による管理」の2種類がある。

 クラスター機能では、ネットワークに1台目のアクセスポイントを接続したときに、その中に「仮想コントローラー」というものを作る。仮想コントローラーは、サーバーにおける仮想マシンのようなもので、アクセスポイント自体とは別のIPアドレスを持つ。設定も、アクセスポイントではなく仮想コントローラーに対して行い、それをアクセスポイントに反映する形をとる。

 そして、同じネットワークセグメントに2台目のWLX212を接続すると、何もしないでもそのWLX212と仮想コントローラーが相互通信し、自動的に仮想コントローラーから設定が反映される。そのため、個別に固定IPアドレスを割り振るといった一部を除き、2台目のWLX212はほぼ自動で設定される。

 この仮想コントローラーは個別のアクセスポイントには固定されていない。例えば、仮想コントローラーが動いていた1台目のWLX212が故障したり取り外されたりしたときは、残りのWLX212が相互通信して、別のマシンに仮想コントローラーが移る。仮想コントローラーのIPアドレスも引き継がれる。

 このように、クラスター機能では、できるだけ設定を自動化できるようになっており、しかもヤマハのルータなどに依存しないようになっている。特にヤマハのネットワーク製品は、これまで店舗などの小規模拠点を含む拠点間接続でよく使われており、拠点側に無線LANを熟知している人がいなくても安心して管理できるものといえる。

クラスター機能の仮想コントローラーの動作

 もう1つのYNOによる管理は、クラウドでアクセスポイントを管理する方法だ。ヤマハではヤマハのネットワーク機器の監視・管理をインターネット経由のSaaSで管理するクラウド型ネットワーク統合管理サービスとしてYNOを提供している。このYNOに、新たにアクセスポイントの管理機能が付いた。現在のところ、対応しているのはWLX212のみ。

 これまでの機種でも、YNOからWLXシリーズの管理画面を表示することはできたが、それはYNOやルータが一種のプロキシのような形でWLXシリーズの管理画面を呼び出すだけだった。それに対してWLX212では、YNO側でWLX212の設定管理の画面を持って設定を各アクセスポイントに反映する形となる。ルータがヤマハ製でなくてもよい。

 YNOで管理する場合は、新しく設置するWLX212のシリアル番号などをYNOに登録するだけで、そのアクセスポイントがYNO管理下に入る(インターネット接続にプロキシが必要な場合なネットワークではその設定が必要)。YNOにアクセスポイントを登録するときには、グループ化して管理できる。このグループ単位でコンフィグを設定できるため、後から新しいアクセスポイントをグループに登録すると、そのアクセスポイントにコンフィグが自動的に反映される。グループへの登録は実際のネットワークセグメントを問わないため、例えば別の拠点にあるWLX212も同じ設定を自動的に反映することができる。

 企業向けのクラウド管理型無線LAN製品は、いくつかのネットワーク機器ベンダーから出されており、統合管理の容易さなどで人気が出ている。YNOによる管理も、こうした流れのうえにあるものといえる。特に、前述したようにヤマハネットワーク製品がよく使われる、複数ある小規模拠点のアクセスポイントをまとめて集中管理するときに力を発揮する機能といえる。

YNOによるアクセスポイント管理

クラスター機能を試す

 では、実際にクラスター機能を試してみよう。

 WLX212では、LANポートやシリアルポートと並んだところにあるCONFIGボタンを押しながら電源を入れる(この場合はPoE給電対応スイッチにイーサネットケーブルでつなぐ)と、設定が初期化される。

 クラスター機能にヤマハのルータやスイッチは必須ではないが、ここではRTX1210からLANマップでLANを見てみると、WLX212が認識されている。ここで「HTTPプロキー経由でGUIを開く」ボタンなどからWLX212のGUIにアクセスしても、情報表示のみで、設定はできない。WLX212のGUIで表示されている「仮想コントローラーのIPアドレス」(前述のとおりアクセスポイントとは異なるIPアドレスを持つ)を指定するか、「仮想コントローラー」をクリックすると、仮想コントローラーのGUIが表示される。

 初めて仮想コントローラーのGUIを開いたときには「クラウドから管理する」「オンプレミスで管理する」の2つからの選択を求められる。「クラウドから管理する」はYNOによる管理であり、ここではクラスター機能で管理するので「オンプレミスで管理する」を選ぶ。

LANマップからWLX212のGUIを開く
WLX212のGUI。設定はできない。ここから仮想コントローラーを開く
仮想コントローラーのGUI。最初に開いたときに管理方法を選ぶ

 仮想コントローラー自身の設定としてやっておくこととしては、「基本設定」-「管理パスワード」で管理パスワードを設定しておくことがある。また、必須ではないが、仮想コントローラーに直接アクセスするために、「基本設定」-「クラスター設定」で仮想コントローラーに固定IPアドレスを設定しておくといいだろう(デフォルトではDHCPによる割り当て)。

 なお、仮想コントローラーで値を設定すると、注意書きが表示され、設定送信を求められる。ここから設定送信を実行することで、アクセスポイントに反映されるわけだ。

仮想コントローラーの管理パスワードを設定
仮想コントローラーに固定IPアドレスを設定
仮想コントローラーで値を設定した後は設定送信を実行

 続いて仮想コントローラーからアクセスポイントを設定する。それには「無線設定」-「共通」-「SSID管理」でSSID一覧を表示し、「追加」をクリックしてアクセスポイントを追加する。追加したアクセスポイントには、最低限、「バインドする無線モジュール」で2.4GHzと5GHzの必要なほうを有効にし、「SSID」を入力し、「認証方式」を選び、「PSK」で接続パスワードを入力して、設定を実行する。ここで、WLX212は、WLX202に比べ、WPA3への対応が追加されていることがあらためてわかる。

 アクセスポイントを設定した後、「基本設定」-「クラスターAP管理」を見ると、アクセスポイントとしてWLX212が見える。ここで、WLX212の画面を見ても、無線が有効になっていることがわかる。

SSID一覧から追加
アクセスポイントの無線を設定
アクセスポイントが追加された

 続いて、同じネットワークセグメントに2台目のWLX212を接続してみる。ちなみにLANマップでは、WLX212の白モデルと黒モデルが色分けして表示されることがわかる。

 特に設定などをしていない状態で、2台目のWLX212の画面を見ると、同じ設定で無線が有効になっていることがわかる。仮想コントローラーの設定画面から「基本設定」-「クラスターAP管理」を見ても、2つめのアクセスポイントが登録されていることがわかる。

2台目のアクセスポイントが追加された

そのほかの新機能を見てみる

 ちなみにクラスター機能とは別ではあるが、WLX212で追加されたそのほかの機能も管理画面から見てみよう。

 まず、仮想コントローラーの「無線設定」-「共通」-「基本無線設定」を見ると、「電波の指向性」の設定項目がある。これは指向性アンテナか無指向性アンテナかを設定から切り替えられるものだ。

電波の指向性の設定

 また、「拡張機能」-「キャプティブポータル」では、キャプティブポータル(Web認証画面)が設定できる。これは、WLX313にはあったがWLX202にはなかった機能だ。

キャプティブポータルの設定

 電波状況を把握する「見える化ツール」も、WLX313やWLX402にはあったが、WLX202にはなかった機能。見える化ツールは、アクセスポイントのほうの画面から表示できる。

見える化ツールで電波状況を把握する

YNOによる管理を試す

 続いて、YNOによる管理を試してみよう。

 YNOによる管理には、当然ながらYNOのアカウントが必要だ。WLX212を購入すると、1年間(12か月)無料で使えるYNOのライセンスが付属するので、これを使う。

 まず、WLX212の裏側に張られた「シリアル番号」と「Device ID」をメモしておく。そしてYNOにログインし、「無線AP」-「AP登録/グループ管理」でアクセスポイント一覧を開く。初期状態では何も登録されていないので、ここで「APの登録」をクリックしてアクセスポイント登録に進む。

 アクセスポイント登録画面では、シリアル番号とDevice IDを「,」で区切って入力する。機体裏に張られたDevice IDは4文字ごとに「-」で区切られており、この「-」ごと入力する必要がある(筆者は最初に「-」なしで入力してエラーになった)。

 また、登録時にはグループを選べる。ここで「グループの新規作成」から新しいグループを作れるので、一括管理するのであればグループを作って参加させておくとよいだろう。

 YNOにアクセスポイントを登録したら、アクセスポイントを初期化してLANに接続する。そしてちょっと待つと、YNOに認識される。

「AP登録/グループ管理」からアクセスポイントの登録へ
アクセスポイントのシリアル番号とDevice IDを入力し、グループに参加させる
「AP登録/グループ管理」に登録された

 YNOの「無線AP」-「機器管理」の画面を開くと、グループ一覧に先ほど作ったグループが表示されるはずだ。そのグループの「アクション」列にある「> 」をクリックすると、グループ中のクラスター一覧が表示される。ここで「グループCONFIGの設定」をクリックすると、そのグループのアクセスポイントを設定できる。

 グループのアクセスポイントの設定は、基本的に、クラスター機能で仮想コントローラーから設定するときと同じだ。そこで同じように、「無線設定」-「共通」-「SSID管理」からアクセスポイントを追加し、「バインドする無線モジュール」「SSID」「認証方式」「PSK」などを設定する。

グループ一覧
グループのクラスター一覧。ここからグループCONFIGの設定に進む
グループCONFIGのSSID一覧から追加
グループCONFIGでアクセスポイントの無線を設定

 2台目のアクセスポイントを追加するときも、同様にシリアル番号とDevice IDをYNOに登録する。すると、YNOに認識され、グループで設定したコンフィグが自動的に設定される。「無線AP」-「機器管理」からドリルダウンしていくと、2台目が1台目と並んで表示されているところがわかる。

「機器管理」に2台目が追加された

ほかの機種への展開にも期待

 以上、WLX212の新機能を、新しい管理方式を中心に試してみた。クラスター機能もYNOによる管理も、アクセスポイントを設置する現場の負荷を最小限にし、ヤマハのアクセスポイント製品を導入しやすくするもので、特にエントリー製品に有効な機能だと感じた。

 ただし、現状のところ、両機能ともWLX212専用となっている。WLXシリーズの他機種をあわせて一括管理することはできない。

 例えば、従来機種のファームウェアアップデートや、今後の後継機種での対応、YNO側の機能追加などにより、ほかの機種とあわせて一括管理できるようになれば、より使い方が広がるのではないだろうか。

 11月13日に行われたオンラインイベント「Yamaha Network Innovation Forum 2020」では、Wi-Fi6対応アクセスポイントの“発売予告”などが行われているが、こうした後続製品に対して、WLX212で培われた知見がどう反映されていくのだろうか。今から楽しみに待ちたいと思う。