特別企画

AWS re:Invent 2018レポート、ジャシーCEOが発表した20の新サービスを一挙に解説

AWSクラウドは“ビルダー”をレガシーから解放し続ける――

Should I Stay or Should I Go - “オンプレミス or クラウド”でも同じエクスペリエンスを提供するハイブリッドクラウドサービス

 ジャシーCEOが最後に紹介したテーマは「ハイブリッドクラウド」、曲はクラッシュの「Should I Stay or Should I Go」――。

 クラウドに行くべきか、行かざるべきかというビルダーの悩みに対し、AWSが用意した答えが「VMware Cloud on AWS」である。2016年に最初のアナウンスが行われて以来、2017年8月にオレゴンで最初のローンチ、そしてさらに1年後の現在は東京を含むグローバルの主要リージョンでサービスが提供されているハイブリッドクラウドサービスだ。

 VMware Cloud on AWSは、AWSとVMwareというパブリッククラウドとオンプレミスのそれぞれのトップベンダによるシームレスな連携を実現しているという点において、クラウド業界でも特殊な位置付けにあるサービスだといえる。

 2016年のアナウンス以来、アップデートがひとつ発表されるたびに、両社の関係もより密なものへと変化しており、それがサービスの拡充に大きな影響を与えている。今回のキーノートにも、2016年、2017年につづいてVMwareのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEOがゲスト登壇し、ジャシーCEOとの親密ぶりをアピールしている。

3年連続でreInventのキーノートに登壇したVMwareのパット・ゲルシンガーCEO。そのことだけを見ても、VMwareとAWSの関係が特別であるとこがわかる。VMware Cloud on AWSがグローバルで多くのユーザーに採用されている事例をいくつか紹介しており、その中には日本のテプコシステムズのケースも含まれていた

 そしてゲルシンガーCEOとともにジャシーCEOが今回発表したVMware Cloud on AWS関連のアップデートが「AWS Outposts」である。

AWS Outposts

AWSインフラストラクチャをオンプレミス環境で実行できるAWS設計のハードウェア。VMware Cloud on AWSか、AWSネイティブ環境のいずれかを選択する。AWSネイティブに含まれるのは現時点でEC2とEBSで、数カ月後にはRDS、ECS、EKSD、SageMaker、EMRに対応予定。ハードウェアは1/4ラック、ハーフラック、およびフルラック単位で注文できる。2019年に提供開始予定

ジャシーCEOがゲルシンガーCEOとともに発表した、オンプレミスでAWSクラウドを体感できる「AWS Outposts」は4分の1ラック単位で増減可能。AWSだけでなくVMwareからも販売される予定

 “outpost”は日本語で「前線基地、前哨部隊、出先機関」といった意味を含む。ならばAWS Outpostsは”Stay or Go”に悩むビルダーに向けた、オンプレミスにおけるクラウドの前哨部隊といったところだろうか。

 ゲルシンガーCEOは「われわれは多くのVMware Cloud on AWSを選んだエンタープライズユーザーから“このサービスによって違うステージへと行くことができた”という声をもらった。このユーザーエクスペリエンスをさらに拡張し、向上させていきたい」と語っている。

 StayであってもGoであっても、あるいはStayからGoへの移行段階であってもクラウドを体感できるAWS Outpostsがラインアップに加わったことで、VMware Cloud on AWSはさらに強力なハイブリッドクラウドサービスへと進化しようとしている。

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 5万人を超える参加者を集め、過去最大規模の開催となった今回のre:Inventだが、最大のハイライトであるジャシーCEOのキーノートにおいて、個人的に印象に残った点――、例年とは異なるように感じた点が3つある。

 ひとつは、例年以上にアナウンスの数が多かったことだ。今回、ジャシーCEOは20ものサービスをキーノートで発表しているが、明らかにいままでのre:Inventよりも多い。

 ジャシーCEOは各テーマの紹介の最後で、新サービスの発表によりストレージやデータベース、マシンラーニングなどのオファリングがより拡充したことを強調するスライドを提示しており、キーノート中で何度も口にした「the right tool for the right job」――、どんなニーズにも適したツールを提供し続けていく姿勢を示している。

 あえて20ものサービスをキーノートで発表したのは、質/量ともにAWSのイノベーションがほかを寄せ付けないレベルでもって進化していく宣言をCEOが自らあらためて行ったとも受け取れる。

 2つ目は、ここ数年顕著だったマネージドサービスへのシフトがより進んでいることが挙げられる。ストレージ、データベース、セキュリティ、マシンラーニング、そしてハイブリッドクラウドに至るまで、より抽象化したレベルでのサービス提供にフォーカスし、クラウドが“easy-to-use”な存在であることを強く印象付けようとしているように感じられる。

 例えば、地味ではあるが、2つ目のテーマにひもづいて発表されたControl TowerやSecurity Hub、Lake Formationなどは、まさにその道のプロフェッショナルを喜ばせるサービスであり、運用や管理、設定に多大な時間とコストを要していた管理者たちの負荷を大幅に軽減させる。こうしたアプローチもAWSによる“レガシーからの解放”ととらえることができるだろう。

 最後のポイントは、今回、ジャシーCEOが“カスタマー”のかわりに“ビルダー(builder)”という単語を多用した点だ。re:Inventのもうひとりの主役であるヴァーナー・ボーガス(Werner Vogels)CTOは、キーノート中に“build”を多用することが多いが、それは開発者向けのツールの発表が中心だからであり、違和感はない。

 だが、AWSのすべてのビジネスを統括するジャシーCEOが顧客に向かって“ビルダー”と呼びかけるたびに、なんとなく場違いな感じを覚えたのはおそらく筆者だけではないはずだ。

 re:Inventの期間中、あるエグゼクティブとのインタビューで「なぜ、今回はビルダーという単語がハイライトされたのか」と質問をすると、「おそらくアンディ(ジャシーCEO)は、一般的な開発者(developer)だけでなく、すべてのAWSユーザーがAWSクラウドをツールとして使い、自分たちの環境を自分たち自身の手でビルドしてほしいという思いを込めている。そしてわれわれがカスタマーに向き合ってサービスを向上させてきたように、ビルダーとしてそれぞれのカスタマーに向き合い、カスタマーエクスペリエンスの向上にフォーカスしてほしい、とも思っているはずだ」という答えが返ってきた。

 実際、ジャシーCEOはキーノートの最後を「ビルダーたちは、AWSの豊富なラインアップからそれぞれに適したツールを選び、レガシーから解放されることで、よりカスタマーエクスペリエンスに集中できる - Here to help you build」というメッセージで締めくくっている。カスタマーからビルダーへ――、AWSクラウドが進化させようとしているものは、どうやらそのツールやサービスだけではないようだ。

ジャシーCEOがキーノートの最後に残したメッセージは「Here to help you build」 - ビルドやビルダーという単語をあえて使った点が興味深い