特別企画

AWS re:Invent 2018レポート、ジャシーCEOが発表した20の新サービスを一挙に解説

AWSクラウドは“ビルダー”をレガシーから解放し続ける――

A little more action - AWSの“より多くのアクション”を証明するマシンラーニングサービス

 4つ目のテーマは、ある意味、今回のre:Inventでもっとも力が入れられていたともいえる「マシンラーニング」だ。

 ハウスバンドが演奏した曲はエルビス・プレスリーの「A Little Conversation」で、ジャシーCEOは「A little less conversation, a little more action, please(ご託はもういい、もう少しアクションを)」という歌詞を引用しながら、ビルダーたちへの“a little more action”として、9つものマシンラーニング(機械学習)に関するアップデートを発表している。

Amazon Elastic Inference

利用中のEC2インスタンスに、GPUにもとづく推論(inference)アクセラレーションをエラスティックに追加できる低コストなサービス。追加できるサイズは8TFLOPS、16TFLOPS、32FLOPSの3種類。コンピュータビジョンや自然言語処理、音声認識などの推論モデルで効率的で、MXNet、TensorFlow、PyTorchをサポート。バージニア、オハイオ、オレゴン、アイルランド、ソウル、東京の6リージョンでGA

利用中のどのEC2インスタンスにもエラスティックにGPUベースの推論アクセラレーションを追加できる「Amazon Elastic Inference」は専用のGPUインスタンスを使い切れないユーザーであればコストを大幅に削減できる
AWS Inferentia

AWSカスタム設計の推論チップ。高スループット、低レイテンシ、数百TOPSの推論性能を実現。TensorFlow、MXNet、PyTorch、Caffe2などのフレームワークをサポート。2019年にEC2 、SageMaker、Elastic Inferenceと統合して提供予定

カスタム設計の推論チップ「AWS Inferentia」は2019年に提供予定。数百テラフロップスの推論性能を実現するといわれており、複数のチップを同時に使用することで何千ものスループットを向上させることも可能に
Amazon SageMaker Ground Truth

マシンラーニングを使用したトレーニングデータを蓄積するサービス。テキスト分類や画像分類、オブジェクト検出などの高精度なトレーニングデータセットを構築し、自動データラベリングで時間とコストを70%削減。すべてのリージョンでGA

SageMakerのアップデートも数多く発表されたが、そのひとつ「Amazon SageMaker Ground Truth」は高精度のトレーニングデータセットを構築し、自動ラベリング機能を提供する
AWS Marketplace for Machine Learning

マーケットプレイスでマシンラーニングのアルゴリズムやモデルを売買可能に。現時点で150以上のアルゴリズムやモデルをSageMakerに直接デプロイすることが可能。すべてのリージョンでGA

Amazon SageMaker RL

SageMakerに新たに追加された強化学習(Reinforcement Learning:RL)機能。フルマネージドでRLアルゴリズムを活用でき、フレームワークとしてTensorFlow、MXNet、Intel Coach、 Ray RLをサポート。Jupiterのノートブックも付属。すべてのリージョンでGA

Amazon DeepRacer

強化自律学習による1/18スケールの完全自動運転車。デュアルコアのIntel Atomプロセッサを搭載。昨年のre:Inventで発表された「DeepLense」と同様にHDビデオカメラを搭載し、前方の進路を確認する。バッテリーは2つで、ひとつはオンボード計算機に電力を供給、もうひとつはモーターを駆動。オールホイールドライブ、モンスタートラックシャーシ、サスペンション付き。Amazonで399ドルで販売予定だが、プレオーダー期間は249ドルで申し込み可能(ただし日本からは購入できない)

今年のハードウェアは小型の完全自動運転車「Amazon DeepRacer」。自律走行による強化学習を学ぶためのすべてが実装されている。来年には誰でも参加できるチャンピオンリーグも開催
Amazon Textract

スキャンされたドキュメントからテキストとデータを容易に抽出するサービス。テーブル構造を含む請求書や領収書、契約書、登録書類などあらゆる文書を正確に読み込む訓練が事前になされているため、データ抽出のためのコードを書く必要がない。ドキュメントワークフローを自動化できるので、何百万ものドキュメントページを数時間で処理可能。すべてのリージョンでGA

マシンラーニングの知識を必要としない「Amazon Textract」のデモ画面。単にテキストを認識するだけでなく、表の中の要素も認識して、要素として返すことが可能なので、あらゆるタイプの文書をサポート可能
Amazon Personalize

Amazon.comで使われているのと同じ技術をベースにした、パーソナライゼーションおよびレコメンデーションサービス。Textract同様に、マシンラーニングの知識を必要としない。高品質のレコメンド作成や顧客動線にもとづくパーソナライズが容易に行える。すべてのリージョンでGA

これもマシンラーニングの知識を必要としないパーソナライズ&レコメンデーションサービス「Amazon Personalize」はその時点で顧客に適切なオファーを特定することが可能に
Amazon Forecast

Amazon.comで使われているのと同じ技術をベースにした時系列予測サービス。マシンラーニングの知識を必要としない。売上や利益などのビジネス指標、Webサーバーのトラフィック、特定のニーズを満たすのに必要なリソースの量などを時系列のデータをもとに3クリックで予測を生成。Amazon Timestreamのほか、SAPなどのサプライチェーンシステムとの統合も可能。精度は約50%。すべてのリージョンでGA

3つ目のマシンラーニングを必要としないマネージドサービス「Amazon Forecast」はディープニューラルネットと伝統的な統計手法を用い、時系列データの予測を生成して推定を行う。予測ワークフロー全体の自動化もエンドツーエンドで実現

 マシンラーニングの新サービスは、推論や強化学習といったデータサイエンティスト向けの機能強化と、Textract、Personalize、Forecastのようにマシンラーニングの前提知識を必要としないサービスに大きく分けられる。

 中でもAWSらしさが目立つのは、最初に紹介したElastic Inferenceだろう。これはすでに提供されているP3インスタンスなどのGPUインスタンスとは別に、どのインスタンスにも従量課金でGPUアクセラレーションを利用できるようにするサービスで、既存のGPUインスタンスを“too much”に感じていた「少しだけ、いまだけGPUを使いたい」ユーザーには最適だろう。

 ジャシーCEOによれば、Elastic Inferenceを利用することで75%のコスト削減効果を得られるという。ただしGPUにどのメーカーのチップを使っているかは明らかにされていない。

 また、SageMakerの機能拡張が多く発表されている点にも注目したい。キーノートにはゲストとして、Formula 1のマネージングディレクター、ロス・ブラウン(Ross Brawn)氏が登壇し、SageMakerによってF1の観戦スタイルが大きく変わり、ファンのエクスペリエンス向上に貢献したと強調していた。

Formula 1のロス・ブラウン氏は、SageMakerによりドライバのパフォーマンスや観客のF1の楽しみ方が大きく変わったことを強調する

 昨年のre:Invent 2017でデビューしたSageMakerが、わずか1年で1万を超えるユーザーを獲得するまでに成長し、マシンラーニングのプラットフォームとして急速に普及した事実をあらためて実感する。

アップデートされたAWSのマシンラーニングのオファリングメニュー。リリースからわずか1年しか経っていないSageMakerの成長が著しい。マシンラーニングでは後発といわれていたAWSだが、すでにその評判は過去のものになりつつある

 もうひとつ、DeepRacerについても触れておく。昨年発表されたDeepLenseのコンセプトを引き継いだデバイスであるDeepRacerだが、このキーノートの終了後に早速ビルダーを対象に「AWS DeepRacer League 2018 Season」レースコンペティションを開催、翌日にトップ3のビルダーによる公開レースを実施している。来年は誰でも参加できるバーチャルトーナメント形式の年間リーグ「AWS DeepRacer League」を各地のAWS Summitで開催し、チャンピオンの座をre:Invent 2019で決定するという。

 このように、新サービスのアナウンス直後にビルダーたちを巻き込んで大きなモメンタムを形成していく強力なコミュニティパワーも、AWSを象徴する特徴のひとつだ。