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AWSとVMwareがハイブリッドクラウドで戦略的提携を発表、「VMware Cloud on AWS」を提供へ

 米Amazon Web Services(以下、AWS)と米VMwareは13日(米国時間)、米サンフランシスコにおいて共同会見を開催、AWS上でvSphereベースのプライベートクラウド環境をネイティブに利用できる「VMware Cloud on AWS」の提供など、ハイブリッドクラウドでの両社による戦略的提携を強化していく方針を発表した。

 会見にはAWSのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏、VMwareのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏の両CEOがそろって登壇、パブリッククラウドとプライベートクラウドのトップによる提携のインパクトの強さをあらためて印象づけている。

AWSのアンディ・ジャシーCEOとVMwareのパット・ゲルシンガーCEO

 VMware Cloud on AWSは、AWSのベアメタルインフラ上に構築されたvSphereベースのプライベートクラウド環境をVMwareユーザーが利用できるようになるサービスで、VMwareによってのみ提供/サポートが行われる。したがってVMwareユーザーは既存のレガシーアプリケーションをAWSクラウド用に書き換える必要がなく、VMware環境で使っている同じツールでAWSクラウドにアクセスできるようになる。

 またvSphereと同様にVMwareのSDDC(Software-Defined Datacenter)スタックである「VMware Virtual SAN(仮想ストレージ)」「VMware NSX(仮想ネットワーク)」も、将来的にAWS上で利用できるようになるほか、Amazon S3やAmazon Redshiftといった70を超えるAWSのクラウドサービスにシームレスにアクセスできるようになるという。

 なお、VMware Cloud on AWSの正式な提供開始時期は「2017年の半ば」(VMware)の予定だが、価格については現時点では発表されていない。

VMware Cloud on AWSはAWSのベアメタルインフラ上にVMwareの仮想環境が構築される。レガシーのvSphereアプリだけでなく、NSXやVSANなども利用可能に
将来的にはVMware Cloud on AWSを通して、オンプレミスからでもAWSクラウドのあらゆるサービスが利用可能になるという

 「VMware Cloud on AWSはVMwareの顧客にとってベストな世界を提供する。顧客は既存のアプリケーションやプロセスにかかるコストを減らし、なおかつ、AWSクラウドの魅力であるグローバルフットプリント、最先端のケイパビリティ、スケールメリットを享受できるようになるだろう」(VMwareのゲルシンガー氏)。

 「AWSのエンタープライズユーザーはAWSクラウド以外の場所にあるデータやアプリケーションをもっと楽に扱えるようになりたいと望んでいた。そしてそのユーザーの多くはVMwareの仮想環境をすでに構築済みだ。ならばVMwareとAWSをシームレスに統合すれば、ユーザーは新たなハードウェア投資をすることもなく、アプリケーションの書き換えも行うこともなく、またオペレーティングの手法を変える必要もなく、容易にハイブリッドなクラウド環境を手にすることができるだろうと考えた。この提携の勝利者は我々ではなく、両社の顧客だ」(ジャシー氏)。

VMwareはAWSのもつ圧倒的なスケールメリットをvCloud Airで享受できるようになる。グローバルに存在するAWSリージョンも選択可能に
ハイブリッドクラウドにユーザーが望むことは場所をとわないワークロードの稼働、オンプレミスとクラウドのタイトなインテグレーション、そしてハードウェアへの投資をかけないこと。VMware Cloud on AWSがこれを実現するとしている

 会見にはアーリーアダプタとしてWestern DigitalとSyscoのエグゼクティブが登壇、ハイブリッドクラウド環境としてVMware Cloud on AWSを利用することで、ディザスタリカバリやバックアップなどのオペレーション効率が大きく向上したことを強調している。

 「Syscoは2年前から基幹システムのクラウド移行を進めており、いくつかのTier 1アプリケーションをAWSクラウドに移行したが、この新しいハイブリッドクラウドサービスを使ってみて感じたのはスケールオンデマンドのすばらしさだ。AWSクラウドに移行しきれなかったvSphereアプリも、AWS上で柔軟にスケールすることができるようになった」(Sysco バイスプレジデント フランク・メリル氏)。

 両社は今後、ハイブリッドクラウド分野での提携をさらに強化していく予定で、「AWSはVMwareのパブリッククラウドパートナーに、VMwareはAWSのプライベートクラウドパートナーに、それぞれプライマリパートナーとして協調していく」(両社)と明言している。

オンプレミスのデータセンターからvMotion経由でデータを移行するデモ。ツールもインターフェイスもVMwareネイティブでAWS上に構築されたサービスとは思えない

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 今回の提携の最大のポイントは、Amazon EC2上ではなく、vSphereの仮想環境をAWSのベアメタルインフラ上で構築することにより、VMwareネイティブな環境がAWS上で利用できるようになった点だ。

 パブリッククラウドのAWS、プライベートクラウドのVMware、どちらもそれぞれの市場で圧倒的シェアをもっており、これまではお互いに敵視することも近づくこともなく、微妙な距離を取りながらそれぞれの市場を様子見していた節がある。

 ただし共通するのは、どちらもベアメタルサービスをクラウドサービスとして認めてこなかった点だ。両社ともクラウドの基盤は仮想化にあるという点では一致しており、しかし両社が提携するとすれば、仮想化のベースをどちらにするかが焦点となる。

 今回の提携ではAWSがもつ膨大なハードウェアリソースを、世界でもっともインストールベースの多いvSphereで抽象化するという選択をしたことで、AWSはVMwareからどうしても移行できないエンタープライズユーザーを、VMwareはvCloud AirではかなわなかったAWSのスケールメリットを、それぞれ手にすることになる。2大ベンダーの戦略的提携がクラウド市場にもたらすインパクトは、これから徐々にその大きさを実感することになるはずだ。