特別企画
ラージエンタープライズのニーズをクラウドネイティブに統合――、ローンチから1年後の「VMware Cloud on AWS」を振り返る
2018年10月2日 06:00
「われわれとAWSのパートナーシップはIT業界の中でもほかに類を見ない、非常にユニークな関係だ。これほど密で濃いプロジェクトにかかわれたことを幸運に思う」――。
8月下旬、米国ラスベガスで開催されたVMworldのプライベート年次カンファレンス「VMworld 2018」の期間中、筆者が取材したあるVMware関係者はこんなコメントを残している。
今回のVMworldでは、例年よりも多くの新サービスやテックプレビューが発表され、久々に技術色の濃いカンファレンスとなった感があるが、それでもやはり世間からもっとも注目されたのは、「Amazon RDS on VMware」をはじめとするVMware Cloud on AWS関連のアップデートであった。2016年10月にVMwareとAWSが最初の提携発表を行って以来、この2社の関係は常にクラウド業界における話題の中心にあり、その影響力が小さくなることはない。
もっとも、1年前の2017年8月に「VMworld 2017」でローンチが発表された「VMware Cloud on AWS」は、“Initial Availability”という、リージョンも顧客も提供されるサービスの内容も非常に限られたものであり、エンタープライズのニーズにひろく適したサービスとはお世辞にも言い難かった。
製品の完成度を可能な限り高めてからリリースしてきた、VMwareのこれまでの開発スタイルから見れば、Initial Availabilityと銘打っているとはいえ、あまりにも“未熟”な状態でローンチしたVMware Cloud on AWSに、驚きと不安を覚えた関係者も少なくない。
やや特殊なかたちのローンチから1年が経過した現在、VMware Cloud on AWSはクラウドサービスとしてどう成長してきたのか、そしてAWSとの“密で濃い”パートナーシップは、VMwareという企業に何をもたらしたのか。
現地での取材をもとに、この2社の関係性をあらためて評価してみたい。
大きな反響を呼んだクラウドデータベース「Amazon RDS on VMware」
オンプレミスのVMware環境からシームレスに利用できるクラウドデータベースとして発表された「Amazon RDS on VMware」は、今回のVMworld 2018で発表されたアップデートの中でも、とりわけ大きな反響があったサービスである。
現段階ではまだプレビューの扱いだが、VMware Cloud on AWSのユーザーであればアーリーアクセスを申し込むことが可能となっている。
利用できるデータベースサービスは、Amazon RDSのメニューとして用意されているうちのMicrosoft SQL Server、Oracle、PostgreSQL、MySQL、MariaDBの5種類だ。
現時点で利用可能なリージョンは、バージニア、オレゴン、東京、フランクフルトの4カ所で、今後も随時追加されていく予定。
プロジェクトとしてのVMware Cloud on AWSが最初に発表された2016年10月時点から、AWSのマネージドサービスをVMware環境から利用可能にする計画は、すでに明らかにされていたが、その最初のメニューとしてAmazon RDSが選ばれたのは、同サービスが9年以上にわたって非常に多くのAWSユーザーに提供されてきた実績と、VMwareのエンタープライズユーザー、特にラージエンタープライズからの強い要望、そしてAWS側からの申し出があったことが主な理由とされている。
VMwareで、クラウドプラットフォームビジネスユニットのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャを務めるマーク・ローマイヤー(Mark Lohmeyer)氏は、「多くの顧客から“vSphere上から直接、データベースを触りたい”というリクエストを受けていた。また、AWS側からもRDSの提供をぜひ行わせてほしいという声が強かった」と、日本報道陣とのインタビューにおいてコメントしている。
ラージエンタープライズからの要望に加え、オンプレミス環境にデータを置いたまま、フルマネージドのクラウドデータベースサービスをローカルにデプロイするという、いままでにない取り組みにAWS側がより意欲的に臨んだという点も興味深い。
VMwareユーザーは、Amazon RDS on VMwareというフルマネージドのデータベースを利用することで、プロビジョニングやパッチ当て、バックアップ、リストア、スケーリング、モニタリング、フェイルオーバーなどをすべて自動化されたサービスとして享受できる。
ユーザーはオンプレミス環境にいながらにして、数クリックでデータベースインスタンスを作成でき、シンプルなオペレーションや柔軟なスケールなど、クラウドネイティブなデータベースのメリットをそのまま受け取ることができるのだ。
さらに、ディザスタリカバリ(DR)やリードレプリカのバースト先として利用することも可能だ。「AWS Greengrass」などすでにvSphere環境での提供が開始されているサービスと連携した活用も期待できる。
「Amazon RDS on VMwareに関しては、日本の顧客からも多くのリクエストをもらっていた。特にディザスタリカバリとしてRDSを使いたいというニーズが大きい。Amazon RDSをVMwareから使えるようになることで、新たなイノベーションがデータセンターにもたらされると信じている」(ローマイヤー氏)。
エンタープライズからのフィードバックを反映しアップデート
Amazon RDS on VMwareに限らず、VMware Cloud on AWSはラージエンタープライズをメインターゲットとしており、今回発表されたアップデートも、日本企業を含むエンタープライズからのフィードバックが多く反映されている。
8月27日のオープニングキーノートで、VMwareのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEOは、VMware Cloud on AWSの大規模事例として、マサチューセッツ工科大学における3000VM/500TBの仮想マシン環境をダウンタイムなしで移行したケースを紹介していたが、このように単なる大規模移行にとどまらず、クラウドとオンプレミスの境界を感じさせない、ノン・ディスラプティブでシームレスな連携を求められるフェーズに、VMware Cloud on AWSは入ったといえる。
「VMware Cloud on AWSはこの1年、顧客からの大きな3つのニーズを受けて成長を遂げてきた。1つめはクラウドへの大規模な移行をより速く、ローコストで実現すること。そして2つめはディザスタリカバリ、最後の3つめはデータセンターエクステンション、つまり既存のVMware環境を拡張した先にクラウドのリソースを使うというものだ。特にスピーディな移行は、顧客にとって非常に重要な評価ポイントとなる。移行のスピードが速ければ速いほど、コストと時間が大幅に削減されるからだ」(ローマイヤー氏)。
ここで、VMworld 2018において発表されたVMware Cloud on AWS関連の主なアップデート項目を挙げておく(*は一般提供が開始済みのサービス、それ以外はプレビューでの提供)。
これらのひとつひとつが、ラージエンタープライズの意向を強くくんでいることがうかがえる。
・利用可能なSDDC(vSphere/vSAN/NSX)の最小構成を新たに設定し、エントリレベルの価格を50%値下げ
・OracleおよびMicrosoft製品のライセンス最適化(CPUコアのカウント手法をアップデート)
・NSX Hybrid Connection経由で数千単位の仮想マシン(VM)をゼロダウンタイムでクラウドにライブマイグレーション
・コンピュートおよびリソースの拡張先クラスタとしてIntel Skylake-SPプロセッサ搭載のベアメタルインスタンス「Amazon EC2 R5.metal」、およびその上で稼働する「Amazon EBS(Elastic Block Storage)」を利用可能に
・NSX-Tのサポートにより、マイクロサービス機能をVMware Cloud on AWS上で稼働するワークロードに適用、East/West間のトラフィックを細かく制御
・NSXとDirect Connectの統合によりオンプレミスとVMware Cloud on AWS間のワークロードをセキュアに連携し、移行をスムーズに
・Elastic DRSによるクラスタの自動スケーリング(*)
・追加費用なしでリアルタイムなログ管理を提供する「VMware Log Intelligence」(*)
・シドニーリージョンでの提供開始(*)
この中で特に注目したいのが、AWSが2018年7月に発表したばかりのベアメタルインスタンス「R5.metal」が、VMwareリソースの拡張先として利用可能になったことだ。
R5.metalはほかのEC2インスタンスとはやや性質を異にしており、CPUに2.5GHz/最大28コアで、データセンター最適化を図るためキャッシュ構造を大幅に変更(38.5MBのノンインクルーシブLLC)した、Intel Skylake-SPを搭載している。
VMware Cloud on AWSは、AWSにとって最初のベアメタルリソースの提供先だが、その拡張先として、よりパワーアップしたベアメタルインスタンスが追加で用意されたことになる。
もうひとつ、今回のアップデートの大きなポイントとして、NSXとDirect Connectの連携が着実に進んでいることを挙げておきたい。1年前のInitial Availabilityでは、Direct Connectが使える状態にはなく、エンタープライズレディなハイブリッドクラウドサービスとしては決して十分なネットワークセキュリティを担保していたとはいえなかった。
だが今回のアップデートでは、ネットワーク関連のマイクロセグメンテーション機能を含むNSXのセキュリティポリシーを、AWS上のワークロードに適用できるようになったほか、インターネットに出ることなくVMware環境からAWSクラウドに接続できる“NSX on Direct Connect”がサポートされたことで、ユーザーは重要なデータをクラウド上に展開しやすくなる。
VMware Cloud on AWSの大きな課題だったDirect Connectとの統合を、1年かけて“使える”レベルにもってきた印象だ。
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2017年8月のInitial Availabilityとしてのローンチ以来、VMware Cloud on AWSは「1クオーター(四半期)ごとに1つのメイン機能と1つのリージョンを追加するペース」(ローマイヤー氏)でアップデートが進んできた。
だが、ここ最近はアップデートのペースが急速に上がっており、VMwareとAWSが“チーム”としてうまく機能していることをうかがわせる。
「アップデートのペースが上がっているのは、顧客からのリクエストが多いことによる。AWSはイノベーションのスピードもフィードバックへの対応も本当に早い。AWSの“はじめに顧客ありき”のアプローチは、“はじめにプロダクトありき”でプロジェクトをスタートしがちだったVMwareの文化を変えつつある。パートナーエコシステムのあり方も、これまでとは大きく異なりはじめている」(ローマイヤー氏)。
AWSの開発スピード、そして小売業に端を発する徹底した顧客主義は、インフラベンダーとしてビジネスを展開してきたVMwareに大きな変化をもたらした。この1年のVMware Cloud on AWSの進化を見れば、その変化が良いかたちで反映されるといっていいだろう。
間もなく東京リージョンでもVMware Cloud on AWSの提供が開始する。保守的なエンタープライズユーザーの多い日本市場でのローンチは、今後のVMware Cloud on AWSにとっても重要なマイルストーンとなるはずだ。
米国や欧州とはやや異なる日本企業のニーズを、VMware Cloud on AWSはクラウドネイティブな実装として取り込むことができるのか、引き続き注目していきたい。