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VMware Cloud on AWSが示すクラウドの新たな可能性~VMworld 2017レポート

 8月28日(米国時間)、米国ラスベガスにて開催されたVMwareの年次カンファレンス「VMworld 2017」の初日キーノートで、VMwareのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEOにより発表された「VMware Cloud on AWS」のオレゴンリージョン(Amazon Web Services:AWS)での提供開始は、今回のVMworldにおいてもっとも注目度が高いアナウンスでもあった。

 2016年10月にVMwareとAWSが共同で発表したハイブリッドクラウドにおける提携は、クラウド市場に大きなインパクトを与えたが、約1年弱の時間をかけ、ようやく1つのマイルストーンをVMware側から提示することができたといえる。

 だが、それはまだ両者にとってほんの始まりにしか過ぎない。ゲルシンガーCEOとともにキーノートに登壇したAWSのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOは「We are just scratching the surface.(われわれはまだ表面を少しスクラッチしただけだ)」と発言しており、クリアすべき課題が数多く残っていることを示している。ようやくスタートしたVMware Cloud on AWSは両社に、そしてクラウドの世界にどんな変化をもたらすのだろうか。現地での取材をもとに、その可能性を検証してみたい。

VMware Cloud on AWSの提供開始を発表するVMwareのパット・ゲルシンガーCEO(左)と、AWSのアンディ・ジャシーCEO

あくまでもVMwareの顧客を対象としたVMware Cloud on AWS

 最初に、VMware Cloud on AWSとはどういうサービスなのか、簡単に触れておこう。このサービスは販売も運用もサポートもVMwareが一貫して行うものであり、あくまでもVMwareの顧客を対象としたサービスである。

 AWSはVMwareにベアメタルインフラを提供し、VMwareはそのリソースを使ってvSphereで仮想化レイヤを構築する。VMwareの顧客はvSphereベースのプライベートクラウド環境をそのままAWSリソースを使って展開することが可能となる。アプリケーションの書き換えやツールの変更といった作業は一切必要ない。vSphereだけでなく、仮想ストレージのvSANや仮想ネットワークのNSXも同様にAWSリソース上で利用できる。

 また、VMware Cloud on AWSではAmazon RedshiftなどAWSが提供する各種サービスもネイティブにサポートしており、VMwareユーザーは既存の環境を維持しながら、AWSの先進的なクラウドサービスを利用することが可能になる。

VMworld 2017でもっとも注目されたVMware Cloud on AWSのサービス概要。vSphereやNSXなどVMwareのSDDC製品をAWSリソース上で使えるだけでなく、AWSのクラウドサービスがネイティブにサポートされる

 VMware Cloud on AWSのユーザーはホスト単位でサービスを利用することになる。1つのホストには2個のCPUが36コア(ハイパースレッディング72コア)構成で実装され、メモリ512GB、そして10.7TB(キャッシュ3.6TB)のローカルフラッシュストレージが含まれる。最小クラスタは4ホストからで、追加する場合は1ホスト単位で可能だ。

 提供される仮想マシン(VM)の基本スペックは、2つのvCPU、8GBのRAM、150GBのストレージ(SSD)となっている。

 提供価格は以下のとおり。

・オンデマンド(1時間単位) … 1ホストあたり8.3681ドル(月額で約6109ドル)
・1年契約(1 year reserved) … 1ホストあたり5万1987ドル(月額で約4332ドル)
・3年契約(3 year reserved) … 1ホストあたり10万9336ドル(月額で約3038ドル)

当初は限定的な提供に

 今回、VMware Cloud on AWSは"Initial Availability"という形態での提供となる。一般提供を意味する"General Availability(GA)"ではないことに注意したい。Initial Availabilityとした理由について、VMwareのCOOであるラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏は、「今回はオレゴンリージョン1カ所のみからの提供となるため、GAと呼ぶには時期尚早であると判断し、Initial Availability(最初の提供)とした」とインタビューで語っている。

VMwareのラグー・ラグラムCOO

 つまり現段階では、VMware Cloud on AWSは限られたリージョンで、限られたユーザーのみを対象にしたサービスにすぎない。私見だが、今回のローンチはやや厳しい見方をすれば、アーリーアダプタの枠を若干拡大した"PoCのエンハンス"と取れなくもない。

 オレゴンリージョンは、AWSの数あるリージョンの中でももっとも先進的な取り組みをいち早く行う拠点として知られている。AWSのエキスパートも多く在籍し、ハードウェアリソースも用意しやすい。そしてオレゴンリージョンを利用するユーザーもまた、積極的に新技術を取り入れる傾向にある。

 VMware Cloud on AWSはVMwareにとってはもちろんのこと、AWSにとっても初めてのベアメタルインフラの提供であり、リソースの量や求められる機能など、予測できない部分が多すぎるサービスでもある。チャレンジが受け入れられやすいオレゴンリージョンで"Initial Availability"として提供し、顧客からフィードバックを受けた後、2018年中に東京リージョンを含むマルチリージョン展開から一般提供(GA)開始とする予定のようだ。

 だが、最初のアナウンスから1年近くかけてのローンチであるはずなのに、なぜVMware Cloud on AWSはGAにこぎつけることができなかったのだろうか。AWSのサービスをネイティブサポートすると前述したが、現在のVMware Cloud on AWSでは、AWSのエンタープライズユーザーには必須といえるDirect Connectが使えない。またvMotionもDRも今は使うことはできない。

 複数のVMware関係者に話を聞いたところ、Direct Connectのサポートは最優先で進めているとのことだが、Direct Connectのないオープンな環境でのハイブリッドクラウド利用は、エンタープライズにとってはやはりリスクが高すぎるといえるだろう。

 VMware Cloud on AWSへの関心は日本企業の間でも非常に強いが、これらの課題が解決されないうちは東京リージョンでの提供は考えにくい。VMwareとAWSという、グローバルでもトップクラスのIT企業のエキスパートが1年かけて共同で作業しても、技術的に解決することが難しい部分が数多くあったということになる。

 一方で、ローンチと同時にすでに多くのパートナー企業がVMware Cloud on AWSへのエンドースメントを発表しており、今後も速いペースでのエコシステム拡大が期待される。提供開始と同時にエコシステムを確立させた状態にしている点は、AWSのカルチャーがVMwareにも強く影響しつつあると見ていいだろう。

すでに多くのエコシステムパートナーが認定されており、サポートされるアプリケーションの数は4500以上に上る

 Initial Availabilityという今までのVMwareには見られない形態で提供を開始したことも、顧客からのフィードバックを実際に得ながらサービスをアップグレードさせていくというカスタマードリブンなAWSのアプローチをほうふつとさせる。

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 「AWSはパブリッククラウド市場における圧倒的なリーダー。VMwareは多くのクラウドベンダと提携しているが、AWSとの関係は今後もさらに強くなる」――。

 ゲルシンガーCEOはキーノート後のプレスカンファレンスで、再びジャシー氏とともにあらわれ、AWSとのパートナーシップの強さをあらためて強調していた。Microsoft AzureやGoogle Cloud Platformを対象に、VMware Cloud on AWSと同様のハイブリッド環境を提供する可能性も強いが、まずはAWS全リージョンでの一般提供開始が次の大きなゴールであることは間違いない。

共同で記者会見に臨むゲルシンガーCEOとジャシー氏。2016年のAWS re:InventにはゲルシンガーCEOがゲストとして登壇しており、ここ最近は両名が一緒に登壇する機会が増えている

 vCloud Airという自前のパブリッククラウドサービスを、スケーラビリティの限界からある意味"あきらめた"格好のVMwareと、どうしてもエンタープライズの"ラストワンマイル"を取り切れないAWS、その両者の提携はパブリッククラウドとプライベートクラウドを本当の意味でつなげ、従来のハイブリッドクラウドの定義を超えた、新しいクラウドのニーズを生み出す可能性をもっている。

 一方で、パブリッククラウドの巨人とプライベートクラウドの巨人のパートナーシップ強化を「二重のロックインを生むのでは」と懸念する声もある。だがジャシー氏の言うとおり、現在のVMware Cloud on AWSは"scratcing the surface"、両者がやろうとしていることの表面をほんの少し引っかいただけだ。そのつめ跡とこれからの軌跡がどう描かれるにせよ、間違いなくクラウドの世界のかたちを大きく変えていく。