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パナソニック コネクトの樋口泰行CEOがBlue Yonderの事業戦略を説明、「SaaS ARRなどのトップライン成長をしっかり見ていく」

 パナソニック コネクト株式会社は、6月6日に開催した「Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2024」において、Blue Yonderの事業戦略について説明した。

 Blue Yonderの業績は、売上成長を示すSaaS ARRでは、2023年度第4四半期に6億7000万ドルとなり、買収直後の2021年度第2四半期の4億4000万ドルと比較すると、約1.5倍へと拡大したほか、SaaS前受収益は、2021年度第2四半期の1億7000万ドルから2023年度第4四半期は3億1000万ドルへと、約1.8倍に拡大。追加戦略投資やシナジー投資を除いた実力値ベースのスタンドアローン調整後営業利益では、2021年度の4000万ドルから、2023年度は約2倍となる8200億ドルに達している。

Blue Yonder買収後の業績推移

 SaaS ARRの成長には、アップセルやクロスセルが貢献。2027年度までは2桁成長を維持する計画だ。また、SaaS前受収益については、Blue YonderのSaaSビジネスにおいては、販売計上より先に1年分の代金を回収する事業特性があり、SaaS前受収益の伸長は、販売成長を前倒しでキャッシュ化し、財務的な安定を意味することになると説明。事業で稼いだキャッシュを戦略投資にまわして、事業をスケールさせる仕組みが整いつつあるとした。

 Blue Yonderは、現在、投資フェーズおよび投資回収フェーズにあると位置づけ、2026年度以降に利益フェーズに入ると位置づけている。

 「ソフトウェアビジネスは個々の経済性の競争であり、SaaSはいかにスケールする仕組みを構築し、早期に支配的立場を獲得するためのスピードが重視される。また、リカーリング型ビジネスであり、売り上げの積み上げを加速度的に行える一方で、投資や固定費が先行するため、一定規模の売上を達成するまでには、単年度の収益性を抑えてでも、投資することが重要である。そのため、この期間のKPIとしては、SaaS ARRなどのトップライン成長をしっかり見ていくことが必要である。この期間にどれだけアクセルを踏んで、投資を実行できるかが大切になる。短期の収益性よりも、中長期的な戦略に沿って事業経営ができるかが、将来の成長と事業価値の最大化の肝になる」と語る。

 Blue Yonderでは、サプライチェーンソフトウェアの世界で豊富な経験と知見、成功実績があるダンカン・アンゴーヴ氏を、2022年10月にCEOに招聘。同氏を中心に見直したプランによって、2023年度第3四半期から2026年度第3四半期までの3年間を追加戦略投資期間と位置づけ、総額2億ドルの積極的な投資を行っているところだ。社内では「ダンカン改革」とも呼ばれている。

SaaSビジネスの成長モデル

 2023年度においては、「スケール化への基盤構築」の1年とし、ダウンタイムの極小化や、CXの改善などによるクラウド環境の整備、マイクロサービスとマルチテナント化を実践。2023年12月には、44商品における過去最大の製品アップデートによる第1弾リリースを実施し、Snowflakeとの協業によるデータ統合も図った。2024年3月には、One Networkの買収も発表しており、2024年度中に完了させる計画だ。同社では、初年度における進捗状況は30%程度に達したと自己評価している。

2023年度で変革への準備が整い、レベル4実現に向けた実行フェーズへ

 パナソニックコネクトの樋口泰行CEOは、「Blue Yonderでは営業担当者を増員しており、人員数は半年間で40%増となっている。これはBlue Yonderのトップラインを伸ばすための投資であり、今後の成長につなげることができる」と自信をみせた。

パナソニックコネクトの樋口泰行CEO

 また、2024年度と2025年度に向けては、エンドトゥエンドの相互運用性において、成熟度レベル3およびレベル4を目指すことを掲げた。レベル3は、計画系ソリューションと実行系ソリューションの調整実行による企業内最適化を挙げ、レベル4ではOne Networkによるネットワーク接続による複数企業間の最適化を指している。

 同社では、2025年度において、半年ごとの製品リリースを予定。One Networkのネットワーク連携へのインテグレーションを進める予定だ。

 一方、Blue Yonderにおける重点投資領域としては、「スケーラブルなSaaSプラットフォーム構築」、「AIの高度化」、「エンドトゥエンドの相互運用性」の3点を挙げた。

 「スケーラブルなSaaSプラットフォーム構築」では、ソフトウェアの拡大や顧客数の増加、ビジネスモデルの変化に対応できるプラットフォーム構築が必要だとし、「現時点では、レガシーなソリューションが多いため、マイクロサービス化、マルチテナント化、統合データクラウド、UXの簡素化、共通基盤機能の強化といった取り組みにより、クラウドネイティブ化を促進するなど、モダンなプラットフォームのための投資を進めていくことになる」と説明した。

 2つめの「AIの高度化」では、現在、Blue Yonderにおいて、1日に生成される予測件数が100億件に達してことに触れながら、ここにAIや機械学習を適用することで、予測精度が飛躍的に高まると想定。高度化されたAIをあらゆる領域に組み込み、計算系と実行系を問わずに、高速および高品質の意思決定を促進することを目指すという。

 3つめの「エンドトゥエンドの相互運用性」においては、システム間やワークフローの相互運用性に加えて、計画系および実行系ソリューションの相互運用性の強化、One Networkのネットワーク接続による複数企業間をまたがる相互運用性の実現を目指しており、そのための戦略的投資を進めるという。

目指す姿の実現に向けた追加戦略投資

 One Networkとのシナジー戦略としては、短期で実現可能な領域として、「サプライチェーンネットワーク」と「One Networkのソリューション」を挙げた。

 One Networkのネットワークに参加している15万社のサプライヤーや輸送業者に、Blue Yonderの3000社の既存顧客が接続し、参加企業を拡大することで、ネットワークフィーの増大が見込めるほか、Blue Yonderの最適化エンジンを活用し、マルチティアの最適化が実現できるという。また、One Networkが保有するソリューションを、Blue Yonderの主要顧客に販売する考えも示した。

 また、中期で実現可能なシナジーとして、「小中規模顧客向けWMS/TMS」を挙げた。One Networkが保有する小中規模顧客向けのWMSおよびTMSのソリューションを、Blue Yonderが小中規模顧客の新規市場を開拓することになる。これらの取り組みにより、Blue Yonderの顧客基盤や営業リソースを活用して、One Network商材を拡販する販売シナジーの早期実現を目指すという。

 「作る、運ぶ、売るに加えて、サプライチェーンネットワークを持つことができた点は、大きな意味がある。今後は、これらの商品を強化していくことになる」(パナソニックコネクトの原田秀昭CSO)とした。

 今回の説明会では、Blue YonderによるOne Networkの買収は、パナソニックコネクトによる買収前から、Blue Yonder自身が検討していたことも明らかにされた。

Blue Yonder × One Network シナジー戦略

 Blue Yonderでは、バリューチェーンの川上から川下までのエンドトゥエンドで、AIを活用したソフトウェアの力によって、サプライチェーンが自律的に最適化する姿を目指していることをあらためて強調。さらに、顧客のオペレーションが効率化され、キャッシュフローが改善し、廃棄ロスや輸送などに関わるCO2排出量の削減といった環境負荷の低減を実現できることを訴えた。

 樋口CEOは、「日本やアジアは、お客さまのパワーが強いこともあり、カスタム中心のソフトウェア利用となっており、パッケージソフトウェアが生まれる素地がもともと少ない。欧米ではソフトウェアのスタンダートが形成されており、買収によって、それらを統合していくという戦略を取っている」としたほか、「ハードウェアからソフトウェア、クラウドへと付加価値が移行するなかで、SaaSを推進しているBlue Yonderから、パナソニックグループが学ぶことは、カルチャー面、戦略面、経営面、技術面でも多い。また、現場系のSaaSを展開する企業と、パナソニックグループとのシナジーも大きいといえる。システム、ソリューション、ソフトウェアやSaaSビジネスを、ポートフォリオのなかに入れていくことは、大きな意味があり、それがシナジーでも効果を生む。現在、パナソニックコネクトで行っているR&D投資は、Blue Yonderとつながる可能性があるところに集中させている」と述べた。

 パナソニック コネクト全体では、中期計画の最終年度となる2024年度の見通しとして、売上高が1兆2400億円、EBITDAが1450億円、EBITDA率が11.7%とした。EBITDAは、当初計画では1500億円としていたが、イメージング事業をパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションに移管したことで数値を見直した。売上高に変更はない。

中期計画の見通し(売上高・EBITDA)

 また、営業キャッシュフローは3カ年累計で2550億円の目標達成が視野に入っているほか、ROICは2024年度に4.6%の計画を2.6%に下方修正した。Blue YonderがSaaS事業をスケールするための追加戦略投資にかじを切ったために目標値を修正したという。だが、Blue Yonderを除くと、当初計画の11.6%に対して、11.7%となり、ここでは中期計画の達成を目指す。さらに、2024年度は、全事業部門におけるEBITDA率10%以上が射程距離に入っているとも述べた。

中期計画の見通し(営業CF(3ヵ年累計)・ROIC)

 このほか、2027年度にEBITDAで2000億円の達成を目指す方針をあらためて強調。アビオニクスおよびBlue Yonderでは、成長機会をとらえた戦略シフトに取り組むことで、合計EBITDAが1000億円、EBITDA率では20%超を計画しているほか、専鋭化と筋肉質化で収益拡大に取り組むプロセスオートメーション、メディアエンターテインメント、モバイルソリューションズ、現場ソリューションカンパニーの4つの事業では合計1000億円、EBITDA率10%超を目指す。

新中期で目指す姿

 2023年度の実績は、アビオニクスや現場ソリューションカンパニー、Blue Yonderの牽引によって、EBITDAは当初計画に対して39億円増の1159億円を達成。今後は、アビオニクス事業では、市場ニーズの変化をとらえた次世代製品ポートフォリオに刷新し、中長期成長を牽引。プロセスオートメーションは溶接機やロボットの新製品投入と、新溶接工法を軸にしたシステム提案で案件を獲得。メディアエンターテインメントは高輝度プロジェクターで空間演出の需要を創出して、シェアNo.1を維持する。一部報道にあったプロジェクター事業の売却については、「当社が発表したものではない」としてコメントを控えた。

アビオニクス 中長期戦略

 モバイルソリューションズでは、レッツノートにおいて、頑丈、軽量、長時間に加えて、サポート力でシェアを拡大するほか、タフブックは特定業務特化した商品の専鋭化と最新CPUの導入でトップを堅持するという。「レッツノートとタフブックの設計思想を共有化し、最新アーキテクチャーのPCを、最短で提供できるように、根本的な対策を行った。インテルの最新CPUを搭載したPCをタイムリーに市場に投入し、シェア向上、利益向上を目指す」(原田CSO)とした。

 現場ソリューションカンパニーでは、SCMやセンシング、アウトソーシングを集中領域とし、事業構造を変革する計画だ。2023年度から大型案件が増加しており、受注残は過去最高になっているという。

各事業体の中長期戦略サマリー

 なお、パナソニックグループでは、すべての事業において、WACC+3%を超えるROIC水準を目指しているが、投資フェーズにあるBlue Yonderを除くと、プロセスオートメーションがその水準を下回っている。だが、2024年度以降は、売上高、利益ともに回復し、ハードルレートを超えていく見込みだという。

 一方、パナソニックコネクトが取り組んできた「事業立地改革」、「専鋭化オペレーション改革」、「カルチャー変革」の3つの改革の進捗状況についても説明した。

 「事業立地改革」では、7年間に渡って、3つの事業売却、8つの事業終息、4拠点の工場閉鎖を行う一方、Blue Yonderを買収したとし、2024年度にはOne Networkの買収を完了させるという。Blue Yonderを除く従業員数は、2017年度末の2万8637人から、24%減となる2万1680人となった。

 「専鋭化オペレーション改革」については、プロセスオートメーション、メディアエンターテインメント、アビオニクス、モバイルソリューションズ、現場ソリューションカンパニー、Blue Yonderの6事業に集中する体制を整備。いずれも競争優位性の高いポジションを獲得しており、業界トップクラスの製品、サービスを数多く有しているほか、各事業で本業回帰を徹底して、プロジェクトの見直しも大胆に行うことで、本業を専鋭化1した。ハードウェアや、そこに立脚したしたソフトウェアに経営資源を集中し、リカーリングモデルへの変革にも挑戦していると述べた。

 「カルチャー変革」においては、2023年度にジョブ型制度の導入や週3日出社、グローバル人材育成、チャレンジホリデーの実施、次年度からの5%賃上げを決定。カルチャーが、事業競争力の原動力になると位置づけ、今後もカルチャー改革を推進する考えを示した。

 これらの取り組みを通じて、「パナソニックコネクトは、進化し続ける高収益事業体として、パナソニックグループ全体の企業価値向上に貢献していく」との姿勢をあらためて示した。

3つの改革でコネクトの企業価値向上を実現

 なお、今回の説明会では、冒頭の15分強の事業戦略については、従来であれば、樋口CEO自らが行ってきたが、「タイムマネジメントの観点もかんがみて」(樋口CEO)という理由で、男性の声色によるAI音声で説明した。「聞き苦しい点があったかもしれないが、これがワークするのではあれば、今後も採用したい」と述べた。