ニュース
パナソニック コネクトがR&D部門の取り組みを解説、「サプライチェーン全体の最適化提案を進める」
2025年3月11日 12:10
パナソニック コネクト株式会社は10日、同社R&D部門における取り組みについて説明。パナソニック コネクト シニア・ヴァイス・プレジデント CTOの榊原彰氏は、「パナソニック コネクトは、ソフトウェアへの研究開発投資を強め、サプライチェーンマネジメント(SCM)分野にフォーカスしていく。市場成長をキャッチアップするために積極的な研究開発投資を進めていくことになる。SCMの計画系に強みを持つBlue Yonderと、実行系で実績を持つパナソニック コネクトの技術を組み合わせて、サプライチェーンの全体最適の提案を進める」とした。
パナソニック コネクトは2021年に、SCM分野のSaaSベンダーであるBlue Yonderを買収。その後Blue Yonderでは、返品管理のDoddle、生産管理のFlexis、サプライチェーンネットワークのOne Network Enterpriseをそれぞれ買収している。また、パナソニック コネクトが2017年に買収したサプライチェーン最適化ソリューションのZetesでは、AMR(自律走行搬送ロボット)などを展開するRobotizeを買収しており、SCM領域での事業拡張を図っている。
パナソニック コネクト傘下のBlue Yonderは、2024年度通期(2024年1月~12月)の売上高が13億6000万ドル、SaaSの年間経常収支は7億6800万ドル。グローバルの顧客数はフォーチュン500社をはじめとして、欧米を中心に3000社以上となり、2024年のSaaSによる新規顧客契約数は132社に達し、SaaSの顧客維持率は97%と高い水準にある。
「SCMおよび機械学習に関して、400件以上の特許を持っている点が強みである。また、サプライチェーンの各フェーズにおける最適計画を行う『計画系(SC Planning)』と、着実な実行と管理を行う『実行系(SC Execution)』のどちらのソリューションも持っている。基盤となるエッセンシャルサービスには、可視化をするためのコントロールタワーのほか、IoTやAI、機械学習、データ管理、ワークフロー管理、アナリティクスなどの機能を持つ。クラウド基盤にはMicrosoft Azureを活用し、データレイヤーのクラウド基盤にはSnowflakeを活用して、SCMソリューションをエンドトゥエンドで提供している」と語る。
その上で、R&Dにおける取り組みについては、「過去7年間に渡って、パナソニック コネクト全体の事業立地を改革してきたのと同様に、R&Dにおいても研究立地の見直しを図っている。従来の技術研究開発本部では、多数のプロジェクトを推進してきたが、これを整理し、プロジェクト数を大幅に減らし、必要なプロジェクトに対しては大胆な研究投資を行うといったように、メリハリをつけるようにした。研究立地改革により、ひとつの方向に向かうことができ、そこで結果を出し、さらに学際的な研究との組み合わせにより、より良い結果を得ることを狙っている」と語る。
パナソニック コネクトでは、研究開発体制として、東京・浜離宮の本社部門のほかに、R&D部門の本社機能となる横浜・佐江戸の拠点に多くの研究者が勤務。さらに、大阪・京橋、福岡・美野島にも、研究開発拠点を持ち、国内全体では400人規模のR&D体制を敷いている。
また、海外には4拠点のR&Dセンターを持つ。中でもドイツ研は、AI先進領域の研究拠点となっており、「オリジナルBlue Yonder」の流れをくむ拠点となっている。もともとBlue Yonderは、米国に本社を持つJDAが母体となっているが、ドイツに本拠を持つスタートアップ企業のBlue Yonderを買収。それを社名にした経緯がある。パナソニック コネクト社内では、これを「オリジナルBlue Yonder」と呼称している。
「オリジナルBlueYonderは、カールスルーエ工科大学の教授が創業したスタートアップ企業であり、素粒子物理学における解析アルゴリズムが需要予測に使えると判断し、英国モリソンズに納入。発注も半自動化し、多くの利益を生み出し、リテールAIの到来として話題となった。この流れを持つドイツ研には、アルゴリズムや機械学習に関する多くの知見が蓄積されている」という。
オリジナルBlueYonderの創業者のひとりであり、同社を退社後、パナソニック コネクトに入社したフェリックス・ウィック氏が、現在、ドイツ研の所長を務めており、日本からも3人の研究者が在籍している。
一方、パナソニック コネクトヨーロッパR&Dは、リアルでの拠点はなく、フランス、英国、ポルトガル、スペインなどに研究者が住み、顧客との豊富なタッチポイントを生かして、研究開発成果を顧客に適用する「研究開発型PoC」を実施する役割を担っている。
また、米国ではBlue Yonderの拠点を活用して、BlueYonder Jointソリューションの開発を進めている。これは、約20社の北米の顧客を対象にサーベイし、そこから60以上のユースケースを抽出。プライオリティが高い「Intelligent Store」(店舗)、「Digital Warehouse」(倉庫)、「Connected Logistics」(物流)に分類し、パナソニック コネクトが持つ技術と組み合わせて、顧客とともにソリューション開発に取り組んでいるところだ。例えば、倉庫向けのDYNAMIC SLOTTINGでは、荷物の効率的な棚配置を行うもので、パナソニック コネクトがハードウェア製品の開発などに活用していたシミュレーション技術を採用することで実現したという。また、広大な倉庫を管理するYARD MANAGEMENTソリューションは、北米市場において、すでに2社に導入済みだという。
さらに、シンガポール研では、AIやロボット、ナレッジグラフなどの研究を行っており、シンガポール科学技術研究庁との連携や、大学などとの共同研究も行っているという。
ベトナム研は、パナソニック ホールディングスが管轄し、パナソニックグループ全体で活用しているオフショア開発の拠点だが、パナソニック コネクトでは、ベトナム研と共同でアジャイル開発を推進しているのが特徴だという。
「パナソニック コネクトに在籍しているAI技術者の数は、パナソニックグループの事業会社のなかでは最も多い。Blue Yonderでは、各モジュールに生成AIを組み込む作業を開始している。間もなく市場に届けることができるものも出てくるだろう」と述べた。
一方、パナソニック コネクトでは、Technology Product Line(TPL)による事業探索を推進している。クラウドエンジニアリングセンターで開発したプラットフォームの上に、クラウドアプリケーションを展開。最先端コア技術の研究およびプロダクトのエンビジョニングを行う技術研究開発本部と、SaaSプロダクトの事業開発および推進を行うSaaSビジネスユニットとの連携によって、新たな事業探索を行うことになるという。
「従来の技術研究開発本部では、溶接事業やアビオニクス、モバイルシステムなどの事業にも貢献することが主眼であったが、技術研究開発本部とクラウドエンジニアリングセンター、SaaSビジネスユニットを連携させることで、パナソニック コネクトの10~20年先の柱になる新規事業を探索する役割を担うことを目指している。ハードウェアベースではなく、ソフトウェアベースあるいはAIベース、クラウドベースで事業探索を行う点も特徴である」と語る。
特に、2024年4月にスタートしたSaaSビジネスユニットは、プロフィットセンターと位置づけ、SaaSプロダクトにフォーカスした取り組みを進めている。具体的には、インダストリアルエンジニアリング(IE)の知見を生かし、標準化されたタスク情報をもとに、各タスクの振り分けを行うことができる「タスク最適化エンジン」、物流倉庫でピッキングタスクを行う際に、多様なロボットシステムを一元制御できる「ロボット制御プラットフォーム」を独自に開発し、自動倉庫システムに応用することを目指しているほか、顔認証ソリューションや動画解析サービスなどの事業も担当している。
「SaaSビジネスユニットは、現時点では赤字ではあるが、営業努力が実り、当初の事業計画よりは黒字方向に行っている。早い段階での黒字化を目指す」とした。
技術研究開発本部が掲げているのが、「Think Big, Act First and Fail Fast」、「Repeat above till success」の方針(ポリシー)だ。
「研究者の心理的安全性を確保するために、失敗をしてもいい環境を構築した。大胆に考えて、まずは手を動かすこと。その結果、失敗したとしても、速く教訓を得ることが大切である。また、成功するまで繰り返すことも徹底している」という。
さらに技術研究開発本部では、失敗を「奨励」するための仕組みとして、アワードプログラム「リスクテイクアワード」を設置。「技術的に難しいが、あえて挑戦して失敗した人を表彰し、賞金も出すようにした。毎回多数の応募があり、こんなに失敗しているのかと思うぐらいである」と苦笑しながらも、「そこから、いい研究成果が生まれてきている。失敗を繰り返すことが結果につながっている」と手応えを示した。
技術研究開発本部のアワードプログラムでは、崖に腕一本でぶら下がっている様子の「クリフハンガー」と、虎の穴に入ってしまったが、偶然にも虎が満腹だったために食べられずに済んだことを指す「タイガースデン(虎の穴)」の2つのアワードを用意しているという。
なお、BlueYonderが目指している世界が、オートノマスSCMである。具体的な完成の姿や、実現時期を明確化しているわけではないが、同社の大きな方向性として打ち出しているコンセプトだという。
「自律的に動くサプライチェーンを構築することを目指しているが、現時点では2割程度の水準である」としながら、「これを実現するには、クラウド上で正しいデータを活用することが大切である。パナソニック コネクトでは、センシング技術を持ち、それを解釈する技術やデジタルツインのなかでシミュレーションを行う技術も有している。BlueYonderのソリューションと組み合わせることで、リアルタイムで問題を予見し、解決し、自律的に全体最適化ができるようになる」とする。
一方で、SCMの課題についても言及。「SCMの実現においては、デジタル化され、ソフトウェア化され、データが消失しないというソリューションが必要になる。サプライヤーやメーカー、倉庫事業者、物流事業者、卸・小売事業者といったさまざまな企業が絡み合うことになるが、それぞれが自分の最適化だけを考えて、企業間や部署間でデータが共有できないという壁があったり、業界全体でデジタル化が遅れ、クラウドにデータが蓄積できなかったりといった課題がある。また、欧米の大手企業では、チーフSCMオフィサーが置かれており、サプライチェーン全体の決定権を持っているが、日本の企業ではそうした役職がなく、全体最適が進まない。部分最適は、サプライチェーンの観点から見た場合、結果として最も効率が悪いところにあわせることになり、サプライチェーン全体の効率化にはつながらない」と指摘した。
一方で、日本市場におけるBlue Yonderビジネスについては、「正直、苦戦をしている」とし、「Blue Yonderは、実行系の領域を例にとると、米国の大規模な倉庫などを対象にしたソリューションであり、日本の市場においては、軽自動車が欲しいのに高級車を提案するような状況にある。これは、20年以上前に、日本に海外製ERPが導入され始めたときと似た状況ともいえる。Blue Yonderはポイントソリューションではなく、サプライチェーンの全体最適を提供するソリューションであるが、日本の企業に対しては、まずはポイントソリューションを導入してもらい、クロスセルにより、最適化を進める提案を行っている。また、パナソニックコネクトでは、日本市場でも導入がしやすいように、ラピュタロボティクスとの提携による自動倉庫の提案などを進めている」と語った。
- 最終段落ですが、パナソニック コネクトよりコメントの修正がありましたので、初出時より内容を一部変更いたしました。