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パナソニック コネクト傘下のBlue Yonderが米One Network Enterprisesを買収、サプライチェーン分野を強化

 パナソニック コネクト株式会社の100%子会社であるBlue Yonderは3月29日、米One Network Enterprises(以下One Network)を買収すると発表した。同社株式を100%取得する。買収金額は約8億3900万ドル(約1270億円)で、今後、各国における独占禁止法手続やCFIUS審査など、株式取得のために必要な審査を経た上で、2024年度第2四半期(2024年7月~9月)をめどに買収を完了する予定だ。

 パナソニック コネクトの樋口泰行プレジデント・CEOは、「今回の買収は、Blue Yonderにとって圧倒的なゲームチェンジャーになる。提供価値、技術的な強み、顧客基盤のいずれにおいてもOne Networkとの強固なシナジーが生み出せる」とし、「One Networkは、グローバルでもトップレベルの規模を持ち、15万社以上の企業がネットワークに接続している。これらの企業にBlue Yonderの最適化ソリューションを適用することで大きな付加価値を提供できる。さらに、Blue Yonderの3000社以上のエンタープライズ企業の取引顧客が、One Networkのプラットフォームを活用し、プラグ&プレイで簡単にネットワークに参加できるようになる。多階層ネットワークを視野に入れたコントロールタワーを活用することで、参加企業数は指数関数的に増え、サプライチェーンを可視化できる範囲が大きく広がる」と述べた。

Blue YonderがOne Networkと生み出すシナジー

 また、「取得できるデータ量が増加することで、Blue YonderのソリューションのコアであるAIの計算精度も飛躍的に高まる。Blue Yonderは企業間のネットワークとAIによるエンドトゥエンドの最適化ソリューションをワンストップで提供することになり、次の成長ステップに移行し、さらなる企業価値の拡大に進むことができる」と、Blue Yonderの進化にも意欲をみせた。

パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント・CEOの樋口泰行氏

 続けて、Blue Yonderのダンカン・アンゴーヴCEOは、「複数企業にまたがるすべてのサプライチェーンパートナーが、ひとつのネットワークで連携し、パートナー間のシームレスなコミュニケーションが実現でき、多層化した複雑な状況を管理しやすくなる。Blue Yonderのソリューションに、高度な可視性とリアルタイムネットワークを追加でき、不確実性の時代に重要な価値をもたらせる。また、サプライヤーや輸送業者のコラボレーションを加速し、解決できる課題を増やすことができる。中小規模のサプライヤーに対してもBlue Yonderのソリューションを提供でき、新規顧客の獲得や対象市場の拡大が可能になる。エンタープライズ企業の要求を理解した上で、物流をコーディネイトすることも可能になる」と、今回の買収の意味合いを説明。

 さらに、「One Networkの年平均成長率は16%であり、Blue Yonderは17%である。高成長の企業同士が組み合わされることにより、この数字をさらに超える成長ができるだろう。両社ともアーキテチクャーが明確に定義されたテクノロジーを有しているため、製品の統合は難しくない」と述べた。

Blue Yonder CEOのダンカン・アンゴーヴ(Duncan Angove)氏

 One Networkは、米国テキサス州ダラスに本社を置き、企業間のデジタルサプライチェーンネットワークを提供。複数の企業が同一のプラットフォーム上で、需要、供給、売買、物流、在庫といったデータをリアルタイムで共有、可視化、活用できる仕組みを実現している。300以上のサプライチェーンアプリケーションを保有し、すべてのアプリケーションが、買収によらない自社開発製品という特徴を持つ。サプライチェーン製品において、14件の特許を持つ。

 One Networkのソリューションスイートでは、可視性を持ったコントロールタワーや、フルフィルメントと輸送にかかるコストを削減しながら、サービスレベルを劇的に向上するオーダーフルフィルメントの提供、AIの活用によって実行と計画を継続的に調整し、ビジネスを軌道に乗せるプランニング機能のほかに、AIを活用して輸送プロセスを自律的に計画・実行したり、調達から支払いまでのサプライチェーン全体の計画と実行をサポートしたりといった機能を提供している。サプライヤーとキャリアサービスに対して、サービスレベルの向上や業務効率の改善、コスト削減などに貢献しているという。

 40社弱の大手エンタープライズ企業を顧客としているが、その取引先やパートナーは15万社に達し、2万社以上の輸送業者が利用し、取引額に換算すると年間1兆ドル規模、1日560万件の処理件数に達するサプライチェーンネットワークを支えているという。

One Network

 また、これまでは限られた顧客にフォーカスしているため、営業およびマーケティング体制が弱かったが、今後、Blue Yonderによって営業活動が強化され、欧州やアジアでも事業を展開することになる。現在は、米国での事業規模が最も大きく、ペプシコ、クローガー、ロイヤル・ダッチ・シェルなどを顧客に持ち、54カ国で事業を展開している。

 特に、食品分野においては共通の顧客が多いことにも触れ、「共通の顧客がどんな統合を求めているのかを理解できている。今回の統合を望んで企業も多く、正しい判断であることもわかった」(アンゴーヴCEO)などとした。One Networkは、製薬や政府、人道支援組織などでも実績を持ち、この分野に対しても、Blue Yonderは新たなアプローチを開始する。

 One Networkの本社があるダラスには、Blue Yonderの拠点もあり、Blue Yonder出身者がOne Networkで勤務しているケースが多く、同社CTOもBlue Yonder出身だという。

 「技術面ではお互いによくわかっており、製品同士を結びつける作業はそれほど難しくはない。また、Blue Yonderが持つ最適化エンジンをOne Networkのプラットフォームに適用することで、エンドトゥエンドの最適化ができる」(樋口プレジデント・CEO)としている。

 パナソニックコネクトでは、2021年9月にBlue Yonderを買収。事業成長に向けて、2023年~2025年の3年間で2億ドルの投資を行うことを発表しており、英国のDoddleや、ドイツのFlexisをボルトオン買収。Snowflakeとの連携やRapyuta Roboticsとの協業、パナソニックグループとのシナジー創出などに取り組んでいる。

 「(Blue Yonderの)買収後には、SaaS ARR(Annual Recurring Revenue)が1.5倍の6億6000万ドルに拡大しており、引き続き、事業成長に向けた打ち手を実行している。だが、今回の投資は、いままでとは異なる。そこにゲームチェンジャーという意味がある」(樋口プレジデント・CEO)と位置づけた。

Blue Yonder買収後の事業成長

 今回のOne Networkの買収により、2023年度第3四半期以来のM&A投資は、約10億ドルを超えることになる。

 樋口プレジデント・CEOは、「SaaS分野は速く走ることが大切であり、必要なものを速く取り入れ、高い参入障壁を築き、ポジションを固める必要がある。今回の買収では、SaaSベンダーとしての規模の追求というよりも、企業間を超えた最適化という新たな分野を手に入れたことが大きい。これは他社にはまねができないものであり、SCMソフトウェア領域において、高い参入障壁を築ける可能性が高くなったといえる。買収案件が発生するのを待つのではなく、プロアクティブに評価、検討している。オポチュニティドリブンよりも、テーマドリブンで買収を進めている」と語った。

 Blue Yonderが提供するSCMソリューションは、予測や供給計画、倉庫管理、輸送管理、店舗の品ぞろえ、発注管理、eコマース、返品処理など、サプライチェーンに関わるあらゆるノートやポイントに対応するエンドトゥエンドマネジメントを、ひとつのプラットフォームで実現。さらに、AIの活用によって、毎日100億件の予測を行い、川上から川下までのサプライチェーン全体が自律的に最適化され、オペレーションを効率化することで、企業のキャッシュフローを改善するほか、廃棄ロスやCO2排出量の削減といった環境負荷低減も実現することを目指している。

エンドトゥエンドに組み込まれたAI機能

 Blue YonderのアンゴーヴCEOは、「自動車を1台作り上げるのに3万個の部品が使われており、自動車メーカーは数百のサプライヤーを通じて調達。そのサプライヤーの下にあるサプライヤーや、さらにその下にもサプライヤーが存在する複雑な産業構造となっている。昨年公開された報告書では、企業がサプライチェーンの停止を知るまでに平均4.5日かかっていることがわかり、その解決に2週間かかっていた。だが、Blue YonderとOne Networkの組み合わせによって、在庫がないことが瞬時にわかり、リアルタイムで代替サプライヤーを探すことができる。輸送業者の手配もリアルタイムで行うことができる。Blue Yonderの枠を超えたサービスができ、企業が導入したいと思える魅力的なソリューションが提供できる。共通プラットフォームによるエンドトゥエンドソリューションはますます重要になる」と述べた。

 また、パナソニック コネクトの樋口プレジデント・CEOは、「Blue Yonderは、最適化ソフトウェアをクラウド上で活用することで、自社のサプライチェーンの効率化を行う提案を行ってきたが、サプライチェーンは自社だけで完結することはない。取引先やパートナーなどの複数の企業がさまざまなプロセスに関わる。これが複雑さを増すことと、最適化の難しさの要素になっているが、One Networkの買収によって、この課題も解決できる」と述べた。

 またこれにより、幅広い顧客に対するBlue Yonderブランドの浸透も進むことになる。