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キンドリル、メインフレームモダナイゼーションの現状と今後を説明

カギとなる技術とアクションは「DevSecOps」「AI活用」「人材育成」

 米Kyndrylの日本法人であるキンドリルジャパン株式会社(以下、キンドリル)は15日、同社から見たメインフレームの現状や、メインフレームからの移行の状況について説明するプレス向け勉強会「メインフレームを巡る現状を知り、今後を考える」を、オンラインで開催した。

 Kyndrylは、2021年にIBMのグローバルテクノロジーサービス(GTS)事業 マネージドインフラストラクチャーサービス部門が分社化して設立された会社だ。

 冒頭で、キンドリルでメインフレームサービス事業を統括する斎藤竜之氏(プラクティス事業本部 メインフレーム・サービス事業部 事業部長)は、「前身のIBMの時代から、メインフレームの100社以上のお客さまにサービスを展開してきた。そこで得た知見と現状をふまえて本日は進めたい」と語った。

キンドリルジャパン株式会社 プラクティス事業本部 メインフレーム・サービス事業部 事業部長 斎藤竜之氏

全体的な再構築による脱メインフレームはほとんどない

 まずは、メインフレームのモダナイゼーションの現状について。これについて斎藤氏は、「さまざまな調査機関や会社が調査した結果では、脱メインフレームのプロジェクトの成功率は20~30%としているところが多い」という数字を紹介した。

 背景として、数年前から、コスト、人材、国産メインフレームベンダーの撤退といった理由から脱メインフレームが検討がされはじめたという。しかし、要件の充足や移行の複雑性により、「全面的な再構築によるメインフレーム脱出を進めている会社はほとんどないのが現状」と斎藤氏は言う。

 実際に問題になった点として斎藤氏が挙げるのは、まず、作りこまれたシステムの複雑さをふまえた移行計画を立てられなかったこと。もう1つは、バッチ処理のように大量の処理を並行して時間内に終了させるというメインフレームの得意とする処理について、アーキテクチャの違いを前提とした品質や運用の設定がなされなかったことだ。この2つにより多くの課題に直面し、期間やコストを大幅に超過したのだという。

 これをふまえてメインフレームのモダナイゼーションは、全面的な再構築から、どのワークロードを残して何を移行させるべきかの適正配置にシフトしている、と斎藤氏は語った。

 そのために今後行うべきこととして、斎藤氏は3点を挙げた。まずは、メインフレームを生かす部分を見極めて、メインフレームの部分とクラウドの部分など、システムポートフォリオのロードマップを作成する。

 2つめは、既存システムの最適化をしつつ、クラウドなどとの連携を図る。

 そして3つめは、メインフレームとクラウドなどとを最適に組み合わせるために、組織横断でシステムポートフォリオを把握するCoEを立ち上げ、メインフレームとクラウドの両方がわかる人材を育成することだという。

メインフレームのモダナイゼーションの現状

メインフレーム最適化、クラウド連携、移行のハイブリッドアプローチで

 そして、これからのモダナイゼーションについては、3つのパターンを組み合わせるハイブリッドアプローチが主流となるだろう、と斎藤氏は語った。メインフレームのシステムを最新化や最適化する「Modernize on」、APIやデータレプリケーションによりクラウドにデータを置いて連携する「Integrate with」、そしてアプリケーションをメインフレームから移行する「Move off」の3つだ。

 斎藤氏は、そのアプローチとしても3つを挙げた。まず、現時点のシステムの最適化や見える化を進めて整備し、脱メインフレームを含めた中期的なプランを策定する。次に、メインフレーム上で扱われているデータの配置と連携を整理して最適解を検討し、新しい技術が登場したときにすばやくPoCを実施できるよう体制を検討する。そして、最新技術動向の把握のために、エンジニアを育成し、パートナーを活用する。

これからのモダナイゼーション

メインフレームとクラウドなどのスキルをあわせ持つエンジニアを

 続いて、モダナイゼーションのカギとなる技術とアクションとして、「DevSecOps」「AI活用」「人材育成」の3点を、キンドリルの山下文彦氏(プラクティス事業本部 メインフレーム・サービス事業部 プリンシパル・テクニカル・スペシャリスト)が解説した。

キンドリルジャパン株式会社 プラクティス事業本部 メインフレーム・サービス事業部 プリンシパル・テクニカル・スペシャリスト 山下文彦氏

 まず、DevOpsにセキュリティを加えたDevSecOpsについて。特に、これまでメインフレームはインターネットに面しない運用だったが、クラウドに移行するとインターネットにつながることから、セキュリティを重視する必要があるという。

 そして、クラウドなどに移行するリファクタリングの過程の中でセキュリティを強化するのが今後の主流になると山下氏は述べた。

 さらに、メインフレームアプリケーションのCOBOLからJavaへの自動変換は、従来は難しかったが、ここ数年で変換品質が劇的に改善され、十分に可能になったという。具体的には、Blue AgeとTmaxSoftの名前を山下氏は挙げた。また、その変換においてコードをリファクタリングし、保守性を高めるために最適化することが重要だと語った。

モダナイゼーションのカギ:DevSecOps

 続いてAI活用だ。メインフレーム上で、50~60年など蓄積された膨大なデータをAIに活用することが期待されるという。

 また、移行で時間のかかるシステムのテストにAIを活用したり、ブラックボックス化されたシステムをAIによって継承したりするという可能性も山下氏は述べた。

 そのほか、クラウドとの連携やデータのクラウドへの展開をしていくようなプラットフォームも重要になると山下氏は語った。

モダナイゼーションのカギ:AI活用

 3つめは人材育成で、特にメインフレーム技術の継承について多くの顧客から相談を受けるという。そこには、ネット上などの学習リソースや学習機会が不足していること、それによりメインフレームモチベーションがなかなか上がらないという課題がある。

 ただし、メインフレーム技術者が定年退職していく中で、OJTだけでは難しいため、企業間のコミュニティなどを積極的に運営していくことが必要になると山下氏は語った。

 また、これからはメインフレームの技術に加え、クラウドやAIなどの最新技術もあわせて身につけたエンジニアが必要になると山下氏。そして、技術分野を移行するリスキルではなく、広げるアップスキルを図ることにより、技術者のモチベーションを維持できるのではないかと述べた。

 最後に、メインフレームエンジニアの再評価。従来型の運用だけでは評価が上がらないが、モダナイゼーションが熱い領域になっていて、ITのコア人材として評価されることが重要なポイントになると山下氏は説明した。

モダナイゼーションのカギ:人材育成