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キンドリルが2025年度の事業戦略を説明、「ITモダナイゼーション」など3つの重点項目を掲げる

 キンドリルジャパン株式会社は12日、同社2025年度(2024年4月~2025年3月)の事業戦略について説明。2024年4月に代表取締役社長に就任したジョナサン・イングラム氏は、「ITモダナイゼーション」、「インドを活用したマネージドサービス」、「社会成長の生命線を掲げる企業としての社会への貢献」の3点を、日本市場における重点項目に掲げた。

日本ITインフラの課題解決に向けた、キンドリル2025年度の重点項目

 ひとつめの「ITモダナイゼーション」では、Kyndryl Bridgeを通じて、AIの活用や自動化を推進し、運用を効率化。さらに、メインフレームモダナイゼーションにおいては、国内最大となるAWS Blu Age資格保有者数の強みを生かし、専門知識を有する人材が伴走。Skytapの買収により、AIXワークロードのモダナイゼーションを支援する体制が整ったことも強調した。さらに、AWSをはじめとしたハイパースケーラーとの協業を推進し、クラウドマイグレーションを提案する体制を整えているという。

 日本では、富士通がメインフレームの販売を2030年度に終了することを発表しているが、「富士通のメインフレームからの移行支援を行っている事例がすでにある。今後数年に渡って、キンドリルのサービスを活用して移行支援を行うことになる。富士通との関係も良好であり、ハイパースケーラーとの連携も活用し、移行支援の仕組みをエコシステムとして確立していく」と語った。

 また、NVIDIAとの提携についても触れた。これにより、Kyndryl BridgeにNVIDIA NIMを組み込むことで、AIOpsをNVIDIA Tensor コア GPU上で最適化。ネットワークやITインフラの障害を大幅に削減する包括的なインサイトを提供しながら、障害予測と分析を迅速に処理できるようになるという。

 「Kyndryl Bridgeを活用し、実用的なインサイトを提供することで、最高品質のサービスを長期間に渡って維持し、問題が発生する前にそれを防げるようになる。また、Kyndryl Bridgeは、企業システムの自動化に向けた出発点としても機能する。三菱自動車がKyndryl Bridgeを採用しており、今後、日本企業への利用促進を図る」としたほか、「日本独自の取り組みとして、AWSに関するリソースの設計、構築、運用するサポートする新たなサービスを近く正式発表する」と述べた。

キンドリルジャパン 代表取締役社長のジョナサン・イングラム氏

 今回の説明会では、ここで触れたAWSとの日本独自にサービスについて、キンドリルジャパン 執行役員 クラウド事業本部長の橋本寛人氏が説明した。

 「PCI DSSやGDPR、HIPAAなどの業界標準の法規制に対応したクラウド環境を迅速に提供するとともに、アプリケーションの事前定義済みパイプラインを含むCI/CD環境を構築することで、ビジネスアプリケーションの開発を効率化できる。また、各企業の方針に沿ったテンプレートを定義することで、アーキテクチャーや設計を標準化でき、クラウド利用の社内統制や標準化を促進することができる。AWSの環境を活用してビジネスアジリティを加速させ、セキュリティ統制を実現するソリューションになる」と位置づけた。

キンドリルジャパン 執行役員 クラウド事業本部長の橋本寛人氏
AWS環境の設計、構築、運用を包括的に支援

 ポータルからテンプレートを選択し、環境の自動構築が可能であり、金融リファレンスアーキテクチャーに準拠したコンテナ環境やAPI管理環境など、順次ラインアップを拡充するという。また、AWSのアップデートや、セキュリティアップデートの最新化などはキンドリルで対応するほか、本番環境を顧客側で運用したり、運用監視でキンドリルのサービスを利用したりといった柔軟性もあるという。

 「30年以上に渡って、国内のミッションクリティカルシステムの運用を支援してきた実績をもとに、国内シェアード体制により、安心、安全、高品質な運用を、低コストに提供できる。監査において要望にあわせた支援が可能であり、クラウドの最適化運用や、エンタープライズグレードでの運用を可能にする。ここでは、Kyndryl Bridgeの機能も活用する」と特徴を示した。

 同社では、インフラ担当者、運用オペレータに加えて、新たにアプリケーション開発者へのアプローチが可能になるとしている。

 2つめの「インドを活用したマネージドサービス」では、インド・デリー近郊の都市であるグルグラムに、デリバリー拠点を開設。グローバルなデリバリーネットワークを活用して、サービスの提供とコスト基盤の最適化を実現するという。

 イングラム社長は、「日本は人口減少に伴い、IT人材が不足している。キンドリルジャパンでは、新卒採用プログラムを通じて、若い人材のITスキル取得を支援しているほか、Kyndryl Bridgeによる自動化の提案、スキルを持つ人材を保有するインドへの業務移管も進める。インドはITプロフェッショナルの宝庫であり、すでに日本の企業へのサービスも提供している。インドからのサービスを拡張し、マネージドサービスの一部を段階的にインドに移行する」という。なお、キンドリルジャパンでは毎年100人以上の人材を採用していることも明らかにした。

 3つめに掲げた「社会成長の生命線を掲げる企業としての社会への貢献」においては、キンドリル財団が、日本の2つのNPO団体を選定し、サイバーセキュリティに対応できる人材の育成や、NPO団体のレジリエンス向上を目的としたプログラムを助成していることを紹介した。

 また、「キンドリルは形がある製品を持たないため、人が価値になる。社員一人ひとりを尊重し、ウェルビーイングを重視している」と述べ、ID&Eイニシアティブを引き続き社内外で推進。2024年4月に発足したID&E and Engagement Boardの委員長に、イングラム社長自らが就任し、社員全員がパフォーマンスを発揮できる環境づくりに貢献していることを示した。

 イングラム社長は、3つの方針を打ち出しながら、「社長に就任してから、約30社の顧客と話をした結果、共通の課題があることがわかった」とし、「日本の顧客は、より安定性と高品質のサービスを求めていることに加えて、サイバーセキュリティへの対応、労働力の減少とITスキル不足に対する懸念、ビジネスにおいてAIをどう活用するのかといった点をあげている。こうした課題を解決するために、キンドリルでは、6つのプラクティスとサービスを用意している」と述べた。

 一方、同社2024年度(2023年4月~2024年3月)のグローバルの業績を振り返り、売上高が前年比6%減の161億ドル、調整後EBITDAは同14.7%増の24億ドルとなったことを示しながら、「キンドリルは、変革から成長へと移行するフェーズに入っており、2024年度は、加速を達成した1年であった」と総括。Kyndryl consultの売上高が前年比15%増となったほか、Kyndryl bridgeは2024年3月時点で1200社が利用し、約20億ドルの生産性メリットを提供。「キンドリルは、ミッションクリティカルITサービスにおいて、リーダーとしての地位をより強化にしたい」と述べた。

2024年度の振り返り

 日本市場における売上高は約23億ドルとなり、世界で2番目の事業規模だという。「グローバルの業績に対する日本の貢献は強力である。今後も日本の顧客に対して、質の高いサービスを提供していく」と述べた。

 イングラム氏は、社長就任後、今回が初めての記者会見だったこともあり、自らの経歴について触れた。イングラム社長は、英オックスフォード大学でエンジニアリングを学んだ「根っからのエンジニア」と称した。

 1965年5月、英国出身で、1986年10月に、英ロンドンにあるメインフレーム開発のマークス&スペンサーに入社。メインフレームのプログラマーとしてキャリアをスタートした。1990年には、プライスウォーターハウスに入社した後、1998年にPwCコンサルティングを経て、2002年にIBMに入社し、ネーションワイド・ビルディング・ソサエティ・リード・クライアント・パートナーに就任した。

 2018年には、IBMオランダで、ABNアムロ・マネージング・ディレクター、2021年にはキンドリル オランダで同職を継続。欧州大手金融機関のマネージングパートナーとしてインフラストラクチャーサービスを提供するグローバルチームを統括。DevOpsによるサービスの柔軟性向上やモダナイゼーションに貢献したという。2023年7月、キンドリルジャパンの副社長執行役員に就任。2024年1月に取締役副社長執行役員を経て、2024年4月にキンドリルジャパンの代表取締役社長に就任した。

 Kyndryl Bridgeについては、キンドリルジャパン 執行役員 最高技術責任者兼最高情報セキュリティ責任者の澤橋松王氏が説明。「リリース当初は、運用最適化にフォーカスしたサービスであり、監視システムやITサービスマネジメントツールなどを活用したITオペレーションを、AIによって高度化することを提案し、自動化によるアクションもセットで提供している点が特徴であった」としながら、「データを活用して、データレイクに蓄積し、AIで分析し、洞察によるオブザーバビリティを提供する機能と、自動化を支援する機能がコアになる。現在では、AIを活用したコストの最適化、CO2排出量の最適化までをカバーしている。さらに2024年5月には、セキュリティ体制強化の支援も発表している」と述べ、サービスのリリースから2年間で、AI駆動のオープンな統合プラットフォームへと進化していることを示した。

サービスにより顧客への価値を統合し届ける
キンドリルジャパン 執行役員 最高技術責任者兼最高情報セキュリティ責任者の澤橋松王氏

 また、Kyndryl Bridgeでは、コンソールとマーケットプレースを共有。コンソールでは、すべてのサービスを単一のコンソールで「360度ビュー」により表示。マーケットプレースを経由して、キンドリルの6つの技術領域における各種サービスも利用できるようにしている。

 「キンドリルのあらゆるサービスをポータルで確認し、コンサルティングサービスも購入することができる。また、コンソールを通じて、可用性やセキュリティ、コスト、電力消費量も一元的に確認できる。Kyndryl BridgeのIDを使って、デジタル化した環境のなかで利用できるようにしており、AWSなどのハイパースケーラーのサービスと同様の仕組みになっている。これをすべてのユーザーに展開したいと考えている」と述べた。

Kyndryl Bridge全体イメージ
コンソールと他のxOpsやマーケットプレースとの関連

 一方で、キンドリルによる値上げが、日本をはじめとして、グローバルで行われていることについて、イングラム社長は、「日本においては、人件費の高騰、電力価格の高騰、サービスプロバイダーの値上げ、インフレによって経済環境が変化している点が影響している。IT環境に関わるすべてのコストが上昇しているが、持続可能なサービスを提供するためには、経済環境に対応していくことが大切である。キンドリルは、よりよい方向で顧客に提案していきたい」と述べた。

 また、ブロードコム傘下で戦略が大きく変化しているVMwareへの対応については、同社とのパートナーシップを維持しながらも、顧客の環境に最適な提案を、アドバイザリーサービスを通じて提供し、環境への移行や運用を含めた対応を行っていく考えを示した。