ニュース
10年目を迎えたBox Japanが事業戦略を説明、Box AIによる生産性向上のメリットもアピール
2023年5月19日 11:30
株式会社Box Japanは、日本での事業戦略に関する記者説明会を5月18日に開催した。なお、Box Japanは2013年に日本オフィスを開設し、今年で10周年を迎える。
記者説明会には、米Boxの共同創業者兼 CEOのアーロン・レヴィ氏がオンラインで登場し、Boxのビジョンや重点分野について語り、中でも今月発表したBox AIについて説明した。
また、Box Japanの代表取締役社長の古市克典氏が、日本での2023年度(2022年2月~2023年1月)の振り返りと2024年度(2023年2月~2024年1月)の計画を語った。さらに、Box Japanの専務執行役員の佐藤範之氏が、日本での顧客事例を紹介した。
データの統合プラットフォームにAIの力を
レヴィ氏はまず、世界で11万5000社の企業が顧客であると報告した。ちなみに1年前の戦略説明会では11万社と氏は報告しており、およそ5000社増えたことになる。
コンテンツクラウドでデータライフサイクルのさまざまなソリューションを集約
氏は、あらゆる企業がデジタル化に注力しており、その中でも最も重要なのが企業内のコンテンツ、つまり財務データや契約書、製品の技術情報などのデータだとする。
そこで問題になるのが、そうしたコンテンツがSharePointやファイルサーバー、各種クラウドサービスなどに散在してサイロ化されていることだ。それによる起きる問題として、セキュリティとコンプライアンスのリスクが増大すること、いろいろなツールを使わなくてはならないため生産性やワークフローが悪化すること、コストや複雑性が増加して似たような作業をいろいろな場所でしなくてはならなくなることの3つをレヴィ氏は挙げた。
これを解決するものとしてBoxがここ何年か打ち出しているのが、「コンテンツクラウド」だ。データのライフサイクルとなる、取り込みから保護、自動化、署名、公開、分析、拡張までのさまざまなソリューションをBoxに集約できるというものだ。
コンテンツクラウドにより、コンテンツを保護し、生産性を向上させ、ITをシンプルにする、とレヴィ氏は説明した。
Box AIで先端のAIテクノロジーを顧客のコンテンツと組み合わせる
「これらは始まりにすぎない」として、より進んだ新しい機能として、5月に発表された「Box AI」をレヴィ氏は紹介した。
Box AIは、生成AIのChatGPTのAPIをBoxに組み込んで、Box上のコンテンツを扱えるようにするものだ。「先端のAIテクノロジーを、顧客のコンテンツと、安全でセキュリティの高い形で組み合わせる」とレヴィ氏は説明する。
レヴィ氏は、Box上に保存された文書についてBox AIに質問するところをデモした。日銀発表の日本語文書「経済・物価情勢の展望」を題材に、英語で「Please summarize this document(この文書を要約してください)」や「What are the BOJ's views on inflation(インフレについての日銀の見解を教えてください)」と質問し、それぞれにBox AIが英語で答えた。「AIを使うことで、企業内のデータについて、瞬時に答えてくれる。これはブレークスルーになる」とレヴィ氏はその可能性をアピールした。
レヴィ氏はBox AIで可能になることとして、ビジネスマンが最高のマーケターや弁護士、エンジニア、総務と話してサポートしてもらえることだと説明した。
これには、個人の生産性の向上と、組織の生産性向上の2つのインパクトがあるとレヴィ氏。個人の生産性としては、eメールや文書を書き、プレゼンテーションを作成し、文書をレビューし、専門的な分析をするといったことを助ける。
「そして、より大きなインパクトは組織の生産性だ」として、製品化を迅速化し、カスタマーサポートやサプライチェーンを加速するなどの効果を挙げた。それをふまえて、「AIモデルと企業のコンテンツを安全に信頼性の高い方法でつなぐことでブレークスルーをもたらすと考えている」と語った。
Box AIの使い方は2とおり。1つ目は、チャット形式のプロンプトで質問したり、文書の要約を依頼したりするものだ。
2つ目は、ドキュメント作成ツールのBox Notesにおいて、プロンプトによって自動的にコンテンツを生成するというものだ。
レヴィ氏は、もっとユースケースが出てくるだろうとして、インサイトを得たり、タスクを自動化したりといった可能性を語った。
そして冒頭で説明した、コンテンツクラウドに集約されるデータライフサイクルの各ソリューションについて、すべてのプラットフォームでBox AIを利用できるようにすると発言した。
日本での9年連続成長と、これからの重点施策を語る
続いて株式会社Box Japan 代表取締役社長の古市克典氏が、日本における、昨年度(2023年度、2022年2月~2023年1月)の振り返りと、今年度(2024年度、2023年2月~2024年1月)の計画を語った。
昨年度:追加購入案件と全機能包括案件が売上成長を牽引
まずは昨年度(2023年度)の振り返りだ。
「一昨年は日本郵政やキヤノンという伝統的な企業が採用したことで、キャズムを超え(一般市場に普及し)はじめたのではないかと感じた」と古市氏。「そこに昨年は、三菱重工やスズキ、アイシンなどの大量受注を受け、いよいよキャズムを超え始めたと感じる」と氏は語った。
ARRは(Annual Recurring Revenue:新規年間受注高+アップセル年間受注高)は、日本法人創業以来9年連続成長し、その中でも数年ごとに大幅に増加している。その要因として古市氏は1つ目として、社内で別の部門に導入が波及したり、1つの機能からほかの機能も導入したりという「追加購入」が3年連続で6割超となって売上を牽引していることを挙げた。
2つ目としては全機能包括の「Box Enterprise Plus」が圧倒的に売れており、受注金額の6割超を占めていることを古市氏は挙げた。なお、グローバルではBox Enterprise Plusが約8割を占めており、日本でもさらに増えると考えているという。
そのほか、Boxの使い方についてのBoxコンサルティングが伸び続けていることや、Boxの継続率が高く97%が年間契約を継続していることを古市氏は説明した。
日本の顧客数は1万5000社以上で、日経225企業の69%が利用しているという。さらに、グローバルの売上のうち日本の比率が、円安で圧縮されていても19%を占めており、「ずばぬけて日本市場が重要なことがわかる」と古市氏は語った。
今年度:官公庁、自治体、病院、銀行での採用を目指す
続いて、今年度(2024年度)の計画で、「大きくは変わらないが、一部進化している」と古市氏は説明した。
1つ目は、企業のDX実現のはじめの一歩として、すべてのコンテンツをデジタル化して一元管理し、セキュリティと使い勝手を両立すること。これには、企業全体のデータのうち80%を占めるという文書などの非構造化データを活用するのにBoxが最有力だと古市氏は語った。
Boxではエンタープライズファイル同期に始まり、Box AIなどまでさまざまな機能を提供している。その中でも古市氏は、「特に最近インパクトが大きかった」として電子署名の「Box Sign」を紹介した。
Box SignはBox上のコンテンツに電子署名できる機能で、追加料金なしで容量無制限で使える。「コロナがはやり始めたころに、ハンコを押すためだけに出社するというのを見て、容量無制限で電子サインできるサービスをということで本社にかけあって始めた」と古市氏は語った。Box Signは2021年2月の買収によって始まった機能で、この買収には日本からの要望が強く反映されたと言われている。
古市氏はもう1つ、複数人で共同作業できる仮想ホワイトボード「Box Canvas」も紹介した。
2つ目は、最近の動向である、PPAP(パスワード付きZIPと別便でパスワードを送付)対策とランサムウェア対策、AIの活用だ。
「PPAPはウイルスチェックがきかないのでランサムウェアの温床になっている」と古市氏は言い、代わりにBoxでのデータ受け渡しをあらためて強調。また、Boxの自動バージョン管理機能によるランサムウェア対策などにも触れた。
AIの活用は、レヴィ氏も紹介したBox AIだ。企業でAIサービスを利用するとデータセキュリティなどが心配となるが、「データのセキュリティ、コンプライアンス、プライバシーはBoxが解消する」と古市氏は主張した。
なおBox AIでは現在OpenAIとの連携を進めているが、GoogleなどほかのAIサービスについても対応し、用途に応じて使い分けられるようにしたいと古市氏は語った。
そして3つ目は、官公庁、自治体、病院、銀行などでの採用を目指す。「アメリカでは、官公庁、自治体、金融、病院は最も売れているセグメントだが、日本ではまだ浸透しきれていない。日本ではこうした業界がクラウド利用に慎重なためだと思われるため、パートナーが頼りになる」と古市氏は語った。
国内事例:スズキ株式会社、みずほフィナンシャルグループ、埼玉県庁
最後に日本の顧客事例を、株式会社Box Japan 専務執行役員の佐藤範之氏が紹介した。
まず、スズキ株式会社は、数百テラを超える容量のファイルサーバーの移行をBoxで実現したという。自動車業界の100年に一度の変革期を、ステークホルダーとともに進めるために、Boxが採用されたと佐藤氏は説明した。
みずほフィナンシャルグループは、新型コロナによるリモートワークにあたり、ビデオ会議とともに、ファイル共有入でBoxを導入した。1万人を超えるコラボレーション基盤になっているという。さらに、中小企業のDX推進のためのDX推進ソリューション「みずほデジタルコネクト」で、Boxが認定された。
埼玉県庁では、DX基盤として導入。ドキュメントを電子化することで、コピー用紙を90%削減し、書類のために登庁する必要をなくした。
そのほか、Boxを製造業で全社基盤で導入するユースケースについて佐藤氏は解説した。
社内ではさまざまなシステムがそれぞれサイロ化しがちだ。例えば、発注で社外の契約担当とコミュニケーションするのに、紙やFAXを使ったり、サプライヤーポータルに書類をアップロードしたり、それを別途文書管理システムにアップロードしたりする。
それにより、いろいろなコンテンツが散在し、社員はどこに何があるかわからなくなってくる。さらに情シスがデータを守りきれなかったり、コスト高になったりにもつながる。
それに対してBoxでは、1500のアプリケーションや、カスタムアプリケーションともつながるためすっきりさせられると佐藤氏。さらにここに今後AIが加わると、よりイノベーティブになると語った。