インタビュー
CEO/CTO/日本法人代表の3トップに聞く、Boxの現在地と未来
3つの無制限からAIによるコンテンツ利活用、将来はエージェンティックAIに
2024年11月19日 06:15
米Boxは12日(現地時間)、米国サンフランシスコ市で同社の年次イベント「BoxWorks 2024」を開催。同社のAI基盤「Box AI」を利用した新サービスなどが発表された。
本リポートでは、そうしたBoxWorks 2024やその翌日などに、同社幹部などに取材して見えてきた、Boxの今と未来に関して説明していきたい。筆者の取材に応じたのはBox CEO アーロン・レヴィ氏、Box CTO ベン・クス氏、Box日本法人トップの株式会社Box Japan 代表取締役 古市克典氏の3名で、そこからBoxの現在地点、そして将来の姿などが見えてきた。
来年で20周年を迎えるBox、成長の鍵は「迅速な経営判断とその迅速な実行」とCEO
Boxは2005年に創業したスタートアップで、2025年には20周年を迎えるが、その共同創業者であり、CEOでもあるアーロン・レヴィ氏が一貫してリードしてきた会社だ。20歳の時にBoxを創業したレヴィ氏だが、今や同氏も39歳となり、経営者としても、そして会社としても円熟期を迎えつつある。
Boxが創業して以来、20年にわたってBoxは成長し続けているが、それはなぜかとレヴィ氏にぶつけてみると「迅速な行動だ。言い換えれば、迅速な意思決定であり、その決定をすぐに実行することだ。それがイノベーションを推進することにつながっている」と述べる。だらだらと会議をやって決めるまでに時間をかけたりすることがなく、また顧客にとって必要であるとわかれば、直ちに決断して開発に投資を行うなどしていくことが重要だと強調した。それができていることが、Boxにとって成長が続いていることの証しだという。
Boxが2024年3月に公開した、2025年度(会計年度、以下同)の証券アナリスト向けイベントの資料によれば、同社の売り上げは、2021年度は8億7900万ドル、2022年度が10億7100万ドル、2023年度が12億4500万ドル、2024年度が13億0500万ドルと年々成長している。特に大企業向けが成長しており、2021年度から2024年度への伸び率は年平均成長率13%で成長を続けているという。要するに大企業向けが伸びているため、引き続き成長しているということだ。
SaaSのデータストレージ、特にビジネスパーソンの生産性を上げるためのツールとしてのクラウドストレージ事業を行っている事業者は、Boxだけではなく、OneDrive for BusinessやSharePointを持つMicrosoft、Google Driveを持つGoogle、どちらかと言えば一般消費者向けで知られるが、近年は法人向けも力を入れているDropboxなど、少々考えただけでも競合は少なくない。
しかし、同社が公開した資料によれば、調査会社の直近の調査によれば、Boxは金額ベースで市場シェアが首位に立っているという。
Boxが支持されているのは3つの無制限、容量、署名、AIが無制限に利用できるとBox Japan 古市代表取締役
そうした中で、Boxが支持を集めている理由に関して、日本法人代表である古市克典氏は「Boxが顧客に支持されている理由を、われわれは3つの無制限と呼んでいる。1つは容量が無制限であり、もう1つが署名機能の利用が無制限、そして最後にAIの活用も無制限だ」と述べる。
ほかの事業者ではある程度の制限の中で行われているサービスの提供が無制限であることが、大きな強みになっていると強調している。また、Boxが近年重視してきた、細かなアクセス権限の付与、ウオーターマークシステムの導入などに代表とされる大企業が必要としているコンテンツ管理の仕組みを持っていることが評価されていることも大きいという。
古市氏によれば、Boxの料金モデルは、従業員数×ライセンス料(ライセンス料はどのプランを選ぶのかによって異なっている)となっており、大企業のような企業では一括導入をしやすい、シンプルな料金モデルだと言える。
また、Microsoft 365やGoogle Workspaceといった基幹系のSaaS、Adobe Creative Cloudなどのクリエイター向けのSaaS、SalesforceなどのCRM、そしてSlackやZoomのようなコミュニケーションツールなど、外部のSaaSとの接続にも熱心に取り組んでおり、コネクターの機能を利用して相互に接続し、データのやりとりを行うことが可能だ。例えば、メールはMicrosoft 365のOutlookを使い、クラウドストレージはBoxを活用して、外部とのよりセキュアなデータのやりとりを行うことが可能になっている。
今回のBoxWorks 2024でも、そうしたBoxのパートナーであるSlack CEO デニス・ドレッサー氏、Zoom CEO エリック・ユェン氏の2人が呼ばれ、ステージ上でレヴィCEOとの対談を行っていたのは、そうした全方位外交的なBoxの方針を象徴するものだと言える。
Box AI Studio、Box AI for Metadata、Box Appsと重要な機能拡張が発表されたBoxWorks 2024
そうしたBoxだが、今回のBoxWorks 2024では生成AI機能の拡張に加えて、Box自身が提供しているアプリケーション(Box SignやBox Relay)とBoxが提供するAPI(Box Platform)の間を埋めるノーコード開発ツール「Box Apps」を発表した。
Box AIは、Box上で提供される生成AIアプリケーションとして2023年5月に発表された。BoxのAIは、クラウドサービスプロバイダー(CSP)3社であるAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureの上で動作しており、その物理的な基盤の上に、生成AIを実行する基盤としてBox AI platformが構築され、Boxのアプリケーションや顧客が構築するカスタムアプリケーションは、その基盤の上で動作する。
今回発表されたBox AIの拡張の中で注目されるのは、Box AI StudioとAIメタデータの付与機能の2つだ。Box AI Studioは、AIエージェントと呼ばれるカスタム化されたAIボットや自動化ツールなどを、ノーコードで作成できるツールだ。どのようなツールを利用するのか、どの生成AIのモデルを利用するのかなどを選んでいくだけで、自社のビジネスワークフローに適合したAIエージェントを作成し、テスト実行してから従業員に公開できる。
AIメタデータの付与(Box AI for Metadata)は、同社が「企業が持つデータのうち90%を占める非構造化データ」と呼んでいる、文章データ(Word/Excel/PowerPoint/PDFなど)や画像データなどに、自動でメタデータを付与する機能だ。
大企業などがBoxのクラウドストレージにアップロードしている文章には、メタデータが最小限しか用意されていない。このため、ユーザーが文章を探す時には、年や月といった日時、あるいは内容でフォルダーに階層化して入れておかないと、目的の文章を容易に発見できないという。そこで新機能では、AIが文章を解析して必要なデータを抽出し、それをメタデータに付与することで、AIや検索で見つかりやすいようにする。Boxではこの取り組みを「非構造化データの構造化」と呼んでおり、メタデータ解析機能の導入はその第一歩になる。
そしてBox Appsは、そうしたBoxが提供するアプリケーション(今回のBoxWorks 2024ではBox Forms、Box Doc Genという新しいアプリが追加されている)と、Boxが企業内の開発者向けに提供するAPI(Box Platform)との中間を埋めるツールになる。Boxのユーザー企業は、Boxが提供しているBox Sign、Box Relayなどのアプリ、あるいは今回発表されたBox AI Studioで作成したAIアプリなどを、Webやモバイルアプリ経由で利用できるが、同時にAPI経由でBoxに接続してさまざまな処理を行うカスタムアプリケーションをプログラマーが構築できる。
よりBoxを有効に利用したい場合には、Box PlatformのAPIを利用したアプリケーションを作るのが最上なのだが、すべての会社がそうしたプログラムの開発リソースを持っている訳ではない。その一方、Box標準のアプリケーションも十分な機能は用意されているとはいえ、自社のワークフローにあわせるにはもう少しカスタマイズしたい――、そうした企業のニーズを埋めるためのツールがノーコード開発ツール「Box Apps」という訳だ。これにより、プログラミングができなくても、Box Platformで作ったのと同じようなカスタムアプリを構築可能になる。
日本市場での次の鍵は中小企業への浸透、“すでに仕込みは終わっている”
Box AI Studio、Box AI for Metadata、Box Appsといった新しい発表を行ったBoxだが、そうしたソリューションの充実により、企業が持つコンテンツ(文書データ、画像データなど)の活用を促進することで、SaaSとしての魅力を引き上げていく、それがグローバルでのBoxの企業戦略ということになる。
では日本市場ではどうなのかとCEOのレヴィ氏に問うと「日本市場ではこれからは中小企業への浸透を目指していきたい」と述べ、日本市場向けには中小企業向けの市場拡充をターゲットにしたいと説明した。
日本法人代表の古市氏は「日本市場には2013年に法人を設立して11年になる。その中でこれまでは、Boxの強みである大企業向けへの営業に注力してきた。現時点では具体的にどのようなことを計画しているかはお話しできないが、これからは積極的に中堅中小への取り組みを行うと仕込みを行っている段階だ」と述べ、今後はより社員数が少ない中小企業などもターゲットにした施策を検討していることを明らかにした。
なお、古市氏によれば、Boxにとって日本市場は実に21%と、20%を超える米国に次ぐ巨大市場になっているため、Boxの幹部も日本市場の動向には注意を払っており、日本市場のニーズに対して非常に敏感だという。実際、BoxWorks 2024に合わせて日本の顧客向けのユーザーイベントが行われたが、そこにはレヴィ氏をはじめとした同社幹部が駆けつけ、熱心に顧客と話し込んでいたのが印象的だった。
Box AIはAIエージェントからエージェンティックAIへと進化していく
そうしたBoxの未来を、Box自身はどう考えているのだろうか?
Box CTO ベン・クス氏は「今後AIはAIエージェントになり、その先にはエージェンティックAIへと進化していく。エージェンティックAIとは、AIエージェントがもっと自動で何かを実行できるようになって、より複雑な課題にも対処することが可能になり、さらにほかのエージェントとなどと一緒に働けるものだ」と話し、AIエージェントが今後さらに進化して、エージェンティックAIと呼ばれる、より進化したAIエージェントになっていくと考えていることを明らかにした。
AIエージェントは、現在多くのクラウドサービスプロバイダーやSaaS事業者が競って導入しているもので、LLMを利用したAIアシスタントがより進化してカスタマイズできる範囲が増え、より多くの機能が実装されていく。それもこれも、AIモデルであるLLMなどが進化していく過程で、できることが増えてきており、より高度な機能やカスタマイズ性を備えたAIエージェントの実装を各社ともに急いでいるからだ。
今回Boxが導入したBox AI Studioも、そうしたAIエージェントをノーコードで作るツールであることを考えると、Boxの将来のロードマップにはAIエージェントをさらに進化した、エージェンティックAIを実現するツールなどの導入があると考えられる。
さらに、クス氏は将来のエージェンティックAIは、エージェントとエージェント同士がやりとりをすることが可能になり、例えばBoxのAIと、パートナーのAIが協調して動く、そうしたことが可能になる未来が実現していくと説明した。
そして、「今後AIを使っていない会社とAIを使っている会社の差は大きくなり、競争上大きな差ができるだろう」と述べ、生成AIを自社のシステムに導入しない企業は競争に負けるだろうと強調。競争に生き残りたい企業はAIの導入を急ぐべきだと指摘した。