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弥生、業務デジタル化を支援する事業戦略を説明 業務支援・事業支援の両サービス群の整備で事業コンシェルジュへの進化を図る

 弥生株式会社は1日、弥生の現況と業務デジタル化に向けた取り組みの説明会を開催した。

 説明会の冒頭、代表取締役 社長執行役員の岡本浩一郎氏は、「例年はデスクトップアプリケーションの新製品を販売するタイミングで時間をとっていただくことが多いが、私どもの活動内容の幅が大きく広がっている。そこで新製品発表というより、事業の現況に加え、今後われわれが何を目指そうとしているのか、きちんとお伝えする場としたい」と切り出した。あえて、10月21日に発売した「弥生23シリーズ」の製品紹介ではなく、事業戦略説明会にしたという。

弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員の岡本浩一郎氏

 従来製品の機能強化に加え、新たに、2023年に開始するインボイス制度と電子帳簿保存法の両方に対応するサービス「スマート証憑管理」を年内にリリース。給与・労務業務に関わる作業を一気通貫で行えるようにするために、「やよいの給与明細オンライン」を刷新し、11月上旬にリリースする。事業者内、ステークホルダー間、すべての業務プロセスをデジタルでつなぐ一気通貫を目指し、その前提としてすべての取引・証憑のデジタルデータ化を推進する。

 「弥生は、業務支援サービスとして事業者、会計事務所の実務に寄り添った業務効率化を今後も推進していく。さらに、足元の法令改正への対応だけを見るのではなく、未来に向けた業務のデジタル化もしっかり推進する。一方で、事業支援サービスとして、事業立ち上げと発展、最後に他者にバトンを渡すところまで、事業者が直面するさまざまな事業課題の解決をお手伝いしていく。業務支援サービス、事業支援サービスの2領域ともにしっかり行うことが、われわれが目指す、事業者のあらゆる局面を支える事業コンシェルジュだ」(岡本社長)。

業務支援サービスと事業支援サービスの両領域で製品を拡充

 弥生の2022年9月期の売上高は212.1億円。登録ユーザー数は284.2万人で、「デスクトップ、オンラインともにトップシェア」(岡本社長)という。2022年3月に株主がオリックスから投資会社のKKRに変更になり、KKRから2人の取締役が就任。さらに、日本マイクロソフトの元社長である平野拓也氏が社外取締役に就任するなど、取締役会の強化も行っている。

過去最高の売上を達成
弥生シリーズの登録ユーザー数は引き続き順調に成長しているという

 事業については2つの領域に分類する。1つは「弥生シリーズ」をはじめとした製品や記帳代行支援サービスなど、事業者/会計事務所の実務に寄り添った業務効率化を推進する「業務支援サービス」。

 そしてもう1つが、起業・開業ナビ、税理士紹介ナビ、資金調達ナビ、事業承継ナビなど、事業の立ち上げと発展の過程で生まれるさまざまな事業課題の解決を支援する「事業支援サービス」である。

弥生の2つの取り組み領域

 事業支援サービスでは、2022年8月に「弥生のあんしんM&A」をスタートした。これは、従来M&Aの対象となっていなかった小さな事業所の第三者継承を支援するもので、スモールビジネスに特化したM&Aプラットフォームの提供と、M&Aのエキスパートとして弥生製品を扱う会計事務所を組織化した「弥生PAP会員」が支援業務を行うことが特徴となっている。

 「例えば、町のパン屋さんのような、長年やってきた、町で愛されているお店までも、店主の方が高齢でそろそろ店じまいといったケースが増えている。これまでの事業継承サービスではカバーできない状況を、変えていきたいと思っている。実際にパン屋をそろそろ廃業しようかなという方もいれば、逆に新しくパン屋を開業したいという方もいる。開業も、私どもが応援したい領域。現段階のわれわれのサービスは、そこまで至っていないが、実現したいと思っているのは、廃業する方から新しく起業されたい方にバトンが渡っていくようなサービスだ。さらに、その中で、新しく開業する方が資金調達もできるエコシステムの実現を目指していく。そこに向け、今の段階では、1つずつサービスを立ち上げている」(岡本社長)。

2022年8月、「弥生のあんしんM&A」リリース

 2021年3月に「起業・開業ナビ」をスタート以来、その年の10月に「資金調達ナビ」、12月に事業者をマッチングする「税理士紹介ナビ」、そして2022年8月に「弥生あんしんM&A」をスタートするなど、事業支援サービスを立ち上げてきた。それぞれのサービス内容の拡充も進め、今後もこれを継続していく。

事業支援サービスを継続的に強化

 業務支援サービス領域に属し、事業のメインである弥生シリーズは、法令改正への対応と、業務効率化を推進する機能強化を行った。会計業務は、スマート取引取込の強化と改善による自動化の推進、確定申告e-Taxオンラインへの対応など令和4年分所得税確定申告への対応、インボイス制度への対応などを行った。給与・労務業務では、令和4年分年末調整への対応、年調・法定調書の達人の連動項目拡張などを実現している。商取引としては、インボイス制度への対応を行う。

「弥生シリーズ」の主な強化ポイント

 また、デスクトップ製品の有料サポート「あんしん保守サポート」と「弥生オンライン」は、製品・サービスの品質維持、提供価値の向上から価格を改定する。「弥生会計スタンダード/弥生販売スタンダード」のサポートセルフプランの場合、現行の2万7200円が3万600円へ、やよいの青色申告オンラインは、セルフプランを8000円から8800円へ、それぞれ変更となる。

「あんしん保守サポート」「弥生オンライン」価格改定

スマート証憑管理の提供で狙うことは?

 2022年年内に新たにリリース予定なのが、「スマート証憑管理」。仕入れ先からの納品書や請求書、領収書やレシート、デジタルインボイスをはじめ、取引先とやり取りする納品書・請求書、領収書・レシート、デジタルインボイスなど、あらゆる証憑をデジタルデータとして管理する。

 対象となるのは、デジタルインボイスのようなデジタルデータをはじめ、紙で受け取ったレシートや領収書などもスキャナーで読み取り、デジタルデータとして保存することができる。さらに、保存したデータは、会計システムに取り込むことや入金データの消し込みなど、業務効率向上を実現する。

 「1年前に発表会を実施したが、その時には、2022年1月からスタートする電子帳簿保存法に短い時間で対応できるわけがないと、かなり強く話をさせていただいた。財務省にも働きかけを行った。その結果、私どもだけの力ではないが、2年間の宥恕措置が設けられ、2年後の2024年1月ということになった。2024年1月には対応しなければならないし、その前に2023年10月からインボイス制度への対応も行わなければならない。弥生は欲張りなので、両方実現していきたいということで、2つの法令改正に対応するのがスマート証憑管理となる」(岡本社長)。

スマート証憑管理でインボイス制度と電帳法双方に対応
スマート証憑管理の画面イメージ

 スマート証憑管理は、紙で受領した適格請求書から主要な情報の抽出とチェックを行う。そこから仕訳としてデータを登録することで、会計業務負荷が大幅に軽減する。ただし、「AI-OCRは従来よりも精度が高いものの、100%の精度ではない。目指すは紙をOCRで読み込むことではなく、最初からデジタルデータをやり取りする世界」(岡本社長)と述べ、デジタルデータでのやり取りこそ目指す方向だとアピールする。

 岡本社長は、競合メーカーとともに業務デジタル化を推進する「デジタルインボイス推進協議会(EIPA)」を設立するなど、デジタル化されたデータのやり取りを実現する取り組みを進めている。デジタル庁が、Peppolネットワークでやり取りされるデジタルインボイスの日本の標準仕様「JP PINT」など、Peppolをベースとした日本のデジタルインボイスの標準仕様の策定を進めてきたが、EIPAは民間の立場から、デジタル庁による策定作業の支援を行ってきた。

 「標準仕様が公表され、アクセスポイントの認定も進んだことにより、ベンダー各社が正式サービスを提供することが可能になった。弥生でも2023年春にPeppol対応を予定する」(岡本社長)。

 その際にもスマート証憑管理でデジタルインボイスの送受信対応を予定する。今後、支払処理、入金消込業務の効率化についても対応を進める計画だ。

日本におけるPeppolはいよいよ実用化の段階に
弥生のデジタルインボイスへの対応

 こうして商取引、会計業務がデジタル化で進展するとともに、給与・労務業務についてもデジタル化する必要があることから、2022年11月中旬に行う予定の「やよいの給与明細 オンライン」のリニューアルでは、大幅な刷新を行う。

 「今日は詳細を説明できないが、やよいの給与明細 オンラインは、全く新しいプラットフォーム、全く新しい技術でリニューアルする。これまでと同様に給与、計算給与明細が作成できるだけではなく、重要なのは従業員との間のやり取りをデジタル化すること。事業者とその間をつなぐすべてのやり取り、給与・労務業務についてもすべてをデジタル化し、一気通貫していく」(岡本社長)。

やよいの給与明細 オンラインを大幅リニューアル

 こうした業務支援サービス、事業支援サービスの拡充によって、「業務効率化とともに、事業支援サービスの開発・提供を強化し、事業者のあらゆるステップを支える、事業コンシェルジュとなることを目指す」(岡本社長)と説明している。

弥生は事業コンシェルジュへ

 なお、2023年10月からインボイス制度が始まるが、事業者が適格請求書発行事業者になるためには、納税地を所轄する税務署長に対して登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者になる必要がある。

 事業者となった後では、「2023年2月から3月の確定申告にはインボイス制度の影響はないが、2024年2月から3月の確定申告と消費税の確定申告は、インボイス制度を踏まえた申告が必要となる。インボイス対応は、弥生シリーズさえ使っていれば大変な準備をしなくても自然と対応ができている状態にはしたい。多くの事業者の方に弥生会計/やよいの青色申告 オンラインをご利用いただいているが、今後提供するスマート証憑管理で、インボイスを受け取り、そこから仕訳、決算の流れはできるようになる」と話す。

 さらに、「一方でインボイス発行には、請求書作成サービスMisocaをご利用いただくのが良いのではないかと思う。在庫等を持った販売管理が必要であれば、弥生販売が必要となるが、単純に法令への対応であればMISOCAで十分だと考える。改正電帳法、インボイス制度についてもっと勉強したい場合には、二大改正あんしんガイドを提供しているので、そちらを参照してもらえれば」(岡本社長)と説明している。