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出荷台数は前年比3割増――、パナソニック CNS社の樋口泰行社長がレッツノート事業などを説明

 パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長(パナソニック 代表取締役専務執行役員)は25日、同社の事業戦略について説明。2017年度の出荷台数が前年比30%増と大幅に成長したレッツノート(Let's NOTE)事業について言及した。

 「働き方改革に関連して需要が増加している。年度末には供給面で問題を起こしたが、顧客が納期を待ってくれるのはAppleとレッツノートだけと言われた」などと発言。2018年度も、前年比30%増の成長を見込んでいることを明らかにした。

 また、「CNS社がフォーカスすべきエリア」と位置づけた現場プロセスイノベーションについては、「CNS社のすべての事業を包含する取り組みになる。現場のソリューションをどれだけ厚くするかという点に力を注ぎたい」などと述べた。

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

“コダワリ”を強みとして成長するレッツノート

 今回の説明会は、5月30日に開催したアナリスト向けイベント「Panasonic IR Day 2018」の内容を補足することが目的。

 そのなかで、CNS社の樋口泰行社長は、レッツノート事業について言及。「PCがコモディティ化するなかで、よくぞコモディティ化せずに、ビジネスモバイルというカテゴリーを築き上げたといえる。もし、売り上げだけを追求していたらこうはならなかっただろう。決して安い商品ではないが、多くの人に認めてもらっているのが強みだ」とする。

 また、「基板から国内で一貫生産する徹底したこだわりと信頼性がある。ここまでのこだわりがなかったら、他社と同じようになっていただろう。レッドオーシャンになると見られる市場での好例として、こうした領域を築けるのであれば、ほかの製品でも築きたい」と、レッツノートならではの“コダワリ”が強みになっていることを強調。

 レッツノートが、2017年度実績で前年比30%増という成長を遂げていることについては、「ビジネス向けPCは全体が伸びているが、そのなかでもわれわれは大きく伸びている。特に、働き方改革が推進されるなかで、軽くて、薄くて、バッテリーの持ちがよくて、信頼性が高い点が受けている」とした。

 2017年度末には品不足となり、供給に遅れが生じたほどの需要があったことにも触れ、「注文をもらっているにも関わらず、納期通りに納められないという問題が起きた。だが、そのときにもほとんどの顧客が納品を待ってくれた。納期を待ってもらえるのは、アップルとレッツノートだけだと言われ、それだけ強い支持を得ていることをあらためて実感した」などとした。

 今後の需要については、「Windows 7の延長サポート終了に向けた買い換えが始まっていることを感じている。さらに、消費増税が重なるため、大きな需要の山が来ると思っている。2018年度の計画は、前年度の成長が大きかったため、それを超えるのは難しいが、それでも同等の成長を見込んでいる」とした。

 とはいえ、全体的な業界の流れとして、「ハードウェアだけでは付加価値を提供することが難しくなっている」点を指摘。「最近では働き方改革支援ツールなどのソフトウェアと組み合わせて、ソリューション化やリカーリング(継続的な利益を生み出す)ビジネスによる展開を始めている」と述べ、単なる“モノ売り”では終わらせないとしている。

ハードウェア単体からソリューションビジネスへシフト

B2BにフォーカスしたCNS社のビジネス

 一方、「現場プロセスイノベーション」についても説明した。

 現場プロセスイノベーションとは、パナソニックが製造業として培ったノウハウやロボティクスのノウハウなどをテコに、顧客の「作る」「運ぶ」「売る」のプロセスを革新。これを製造業だけでなく、物流、流通、小売りなど、あらゆる業種に適用し、現場やサプライチェーンのイノベーションを通じて、現場業務の生産性向上と継続的な価値創出を実現することにより、顧客の事業成長に貢献できるようにする、というコンセプトだ。

 樋口社長は、「100年間の歴史を持ち、1400人の生産技術のエンジニアを擁することで実現している製造プロセスノウハウと、ロボティクスや画像解析といった差別化した技術を生かすとともに、現場から得られた情報をクラウドに蓄積して、AIで分析。これを次の現場につなげて、生かすことができる仕組みを提供する」と、この分野での取り組みを説明。

 さらに、「ここでは、すり合わせの技術が重視されるため、他社に模倣されにくいという特徴もある。ソリューションの厚みや付帯ビジネスの継続性もあり、現場に寄り添ってきたパナソニックだからこそ実現できるものだ。顧客とのラストワンマイルまで寄り添ってお役立ちをし、ベタなところまで一緒になってやり、決して逃げないのが、パナソニックのDNAである」と、自社の強みを強調した。

 また、「パナソニックは、暮らし空間、車載、B2Bにフォーカスしているが、B2Bはあまりにも広くて、なにをやるのかがわからないのが実態であった。昨年パナソニックに入社して、津賀(一宏社長)から、もっとはっきりとビジョンを作ってほしいと言われたB2Bは、暮らし空間事業を行うES社にもあるし、車載事業をやるAIS社にもある。ではなにが違うのか。よく見ると、ES社やAIS社は、B2B2BやB2B2Cの形が多い。これとは違って、B2BをやるのがCNS社が行うビジネスである」と、自らのカンパニーの役割に触れる。

 その上で、「現場プロセスイノベーションは、あらゆる顧客、あらゆる業界の現場をイノベートするものであり、特定の一部分のプロセスだったり、サプライチェーン全体だったり、あるいは、サプライチェーンで表現できないような現場をイノベートするものになる。製造や流通、小売りだけでなく、アビオニクスやメディアエンターテインメントなどの現場も含んでいる。つまり、CNSがやっているすべての事業を包含するものになる。それらの現場のソリューションをどれだけ厚くできるかが今後の鍵になる」と話した。

 このほか、現場という言葉が、「カイゼン」や「カンバン」と同じように海外で使用されはじめていることに触れ、「『ゲンバ』という言葉が海外のアカデミックの世界で使われはじめている。現場プロセスイノベーションは、そのまま海外でも使うことを前提にしたものである」とも述べている。

現場プロセスイノベーション

 具体的な取り組みとしては、顔認証技術を活用した入出国手続きソリューションを羽田空港に導入したことや、高輝度プロジェクターを活用したプロジェクションマッピングを用いる大型イベント向け空間演出ソリューション、北米の警察向けに納入した証拠映像をクラウドで管理する警察向け映像管理ソリューション、電子棚札などを活用して商品陳列や価格変更作業を効率化する小売り向け電子棚札ソリューション、といった導入実績を説明。これらの現場でのソリューションをベースに、プロセス全体やサプライチェーン全体へとイノベーション提案を拡張することを考えているとする。

新たなソリューションで価値創出を支援

 また、ソリューションビジネスの体制強化についても言及。「B2Bソリューションを推進するには、お客さまに近いところを強くしなくてはいけない。そのために、パナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)が培った知見や経験を軸にしなくてはならないと考えているおり、CNS社の本社機能を、PSSJが入居しているビルに移した。PSSJの声が通りやすいようにしている」と、取り組みを説明した。

 「日本において、パナソニックが得意とし、特徴を生かせるユーザー事例を増やし、さらに、差別化できるハードウェアも増やしていく。これをもとに海外にもソリューション展開をしていく。海外は地域主導でやっていたが、うまくいっていない。そこで、PSSJのなかに海外ソリューション推進室を作り、横展開していくことにした。米州や欧州では、人材を含めて、ようやくソリューションビジネスができるようになってきた。日本の導入事例を生かしながら、4~5年をかけて海外でのソリューション事業を強化していく」とした。

 先に触れたように、レッツノートでは、働き方改革支援サービスを組み合わせることで、差別化できるハードウェアをソリューション化。同様にタフブックでは、堅牢ハンドヘルドに流通/物流向け決済アプリを連動したり、車載ソリューションを組み合わせたりといった提案も行っている。

 「ハードウェアは一番後ろに構える形態がいいが、まだハードウェアの売上高が大きい。モノとモノ、ハードウェアとソフトウェア、ソリューションとリカーリングの組み合わせで、きっちりとマネタイズが可能なソリューションにフォーカスすることで、事業を拡大させていく」と述べた。

 さらに、「海外では非連続的な成長も必要であると考えている」として、M&Aを視野に入れていることも強調した。

 すでに欧州では、ベルギーZetes Industries SAを買収し、同社が持つSCM領域でのビジネスを拡大する姿勢をみせている。工場でのラベリングや倉庫での音声ピッキング、商品の配達確認、店舗での在庫管理など、クラウドサービスによって、全工程を可視化。今後、欧州での実績をもとに、日本や米国でも展開することになるという。

成果をパナソニック全体に広げていくことが次のチャレンジ

 一方で、社内の風土改革の成果についても触れた。

 樋口社長は、「昨年、25年ぶりにパナソニックに戻り、正しいことを正しくやるということに注力してきた。その一環として、CNS社の本社機能を東京に移し、同時に組織の活性化を図ってきた。顧客接点の最大化や、カルチャーおよびマインドの健全化、風土改革を並行して行ってきた」と振り返る。

 その成果としては、「2017年10月に本社機能を大阪から東京に移して以降、顧客の訪問数は2.7倍に増加した。顧客の90%以上は東京にあるため、1日に何件も会うことができ、大阪からリモートでやるのに比べて効率が高い。また、部門を超えたフリーアドレスの採用や、ビジネスチャットの活用を積極化したことで、社内のコミュニケーションが活性化した」とした。

 樋口社長は、社内で立ち話が増えたり、電子的な立ち話ともいえるビジネスチャットを利用して、会議をする前に物事が決まってしまったり、調整に3日間かかっていたものが、1日で終わってしまうといったスピード感での成果を示す。

 また、レポートに記された数字の裏にあるストーリーが伝わらなかったものが、緊密なコミュニケーションによって伝わりやすくなったことで、仕事の質にも変化が生まれたという。

 「社員からは、まるで別の会社になってみたいだという声があがっている。いままでは変わろうと思っても、無理だと思っていたという声もあった。東京に本社を移転したことで、すぐに前線に出て、動きや変化を肌で感じることができるようになった。さらにオープンでフェアに意見を戦わせて、化学反応が起きている。こうしたことを行っていかないと、クロスバリューができない」とする。

風土改革を実施

 中でも、樋口社長は、Skypeの活用についてのエピソードを披露する。

 「最初は、月に1回だけSkypeを使えばいい、というかなり緩いところから始まったが、それでも20%台の利用にとどまっていた。だが、部門ごとの利用率を発表するようにしたら、3カ月で98%にまで一気に拡大した。いまでは、なにもいわなくても利用しており、その利便性を社員が実感している。その利便性の高さから、ほかのカンパニーがSkypeを使っていないことにストレスがたまる、という声が出ているほどだ」とする。

 樋口社長は、「会社が大きくなり、歴史を重ねると内向き仕事が増えていく。内向き仕事に使っていた時間を、顧客満足の最大化、利益の最大化、ビジネスの結果に直結することを最優先する」としながら、「これは当たり前のことだが、それができていない。CNS社の本社がある浜離宮には、ほかのカンパニーからも多くの人が見学にきており、これが、目指すスピード感と姿であるという理解が深まっている。だが、ほかのカンパニーにはまだ波及していない。これをパナソニック全体に広げていくことが、次のチャレンジである」とした。

 さらに、「電機業界を取り巻く環境は激しく、事業の柱が次々と変わってきた。だが、製造業としてどんな戦略があるのかといったことを考えた場合、過去の経験が当てはまらない。しかも、どう変わらなくてはいけないかというデザインができにくい。一方で、仮にそれがデザインができたとしても、そのプロセスにおいて、社員の納得性を醸成する力が必要である。どう変わるかというデザインと、変わるためにどんなステップを踏むかが大切である」とも述べた。

CNS社での成果をパナソニック全体に広げていくことが次のチャレンジだと話す樋口社長

 また、CNS社が開始しているB2Bマーケティングの成果についても触れた。同社では、「あした、現場で会いましょう」をキーワード手に、関東圏を中心にテレビCMなどを展開。「パナソニックでは、マーケティングというとB2Cマーケティングのことを指しており、B2Bは地上戦が多かった。だが、宣伝広告、PR、ショールーム、イベントなどを、一貫性を持ったメッセージとして、顧客目線で発することを狙った。効果はまだ推し量っていないが、パナソニックはこんなこともやっていたのか、ということをしってもらえる機会になり、問い合わせが増えている。手応えを感じている」とした。

B2Bマーケティングにも積極的に取り組んだという