ニュース
日立が研究開発の取り組みを解説、2018年度はオープンイノベーションの加速を図る
2018年7月6日 06:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は6月28日、東京都国分寺市の中央研究所において、研究開発インフォメーションミーティングを開催。同社の研究開発の取り組みについて説明した。
日立 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長の鈴木教洋氏は、「2018年度の研究開発の基本方針は、グローバルソリューション協創の強化、世界ナンバーワン技術の創生と集中、社会課題解決型基礎研究の推進の3点とし、これにより、グローバル企業への進化に向けて、グローバルイノベーションリーダーを目指す」としたほか、「人財育成に力を注ぎ、2021年度までに、データサイエンティストを3000人にまで拡大する計画」を明らかにした。
また、「Lumadaユースケースの登録件数は、2017年度には500件を超えたが、そのうち、研究開発グループによる登録件数は98件。EXPERIENCE適用件数は502件となった。これを2018年度には、それぞれ150件、1000件に増やす」との目標を示した。
研究開発グループにおいては、2015年度は「顧客協創」をテーマとし、グローバルCSI(社会イノベーション協創センタ)の設立のほか、NEXPERENCEによる顧客協創方法論の体系化や顧客協創活動を展開。2016年度および2017年度には「デジタルイノベーション」を切り口に、Lumadaを活用した協創に注力。NEXPERIENCEの活用や、ユースケース/ソリューションコアの拡充、AI/IoTツール群の開発に取り組んだという。
こうした実績をもとに、2018年度は「グローバルにスケール」することを目指し、オープンイノベーションを加速。顧客協創スペースの拡大、産官学エコシステムの構築を進めるとした。
2017年12月には、北京に新オフィスおよび協創拠点を開設したほか、同時に広州にOpen Automation Labを開設。グローバル展開の足がかりを強化している。
また、2018年度の研究開発投資は約3500億円規模とみられ、売上収益研究開発比率は約3.7%。そのうち、33%が先端・基盤研究、19%が先行研究。残りの48%が依頼研究となる。
「先端・基盤研究のうち、デジタルソリューション投資は、2016年度から2018年度までの3年間で約470億円。2018年度のオープンイノベーション投資は、2015年度比で63%増となる。今後、この領域の投資をさらに増やしていくことになる」とする。
2018年度の3つの基本方針
2018年度の3つの基本方針のうち、「グローバルソリューション協創の強化」では、2017年度までに、ダイキンやダイセルなどの画像解析ソリューションや、東急電鉄などへの人流可視化ソリューションといった実績が上がっていることを示す。
第一生命でも、生活習慣病の評価モデルから将来の入院リスクを適正に見積もり、引き受け範囲を拡大するといった、金融とヘルスケアを組み合わせたコネクティッドインダストリーの先行事例などに言及。
さらにコペンハーゲンでは、旅客の移動需要に応じて、鉄道の運行本数を最適化するDynamic Headway Solutionの実証実験の事例や、中国において、病院の医療データ、養老施設の介護データ、在宅での生活データを組み合わせて、脳や身体機能を把握し、将来予測を組み合わせたデジタルケアマネジメントの実証実験に取り組んでいることを示した。
2つ目の「世界ナンバーワン技術の創生と集中」では、生産/物流現場のスマート化において、日立グループの社内事例の蓄積や展開をベースに展開し、オークマでは生産性2倍、リードタイム半減を目指す取り組みを行っていることや、ナンバーワン技術と位置づけるロボットの自律協調技術を活用したロボットの群制御、AGV・ピッキングロボットの自律協調の実現のほか、電化/非電化区間に対応したバイモード高速鉄道車両の車両開発や試験・認証において、これもナンバーワン技術とする解析主導設計を採用している例などを紹介した。
サイバーセキュリティ対策においても、日立グループが持つナンバーワン技術のひとつである分散型セキュリティ運用技術を採用。ITとOTの知見を活用した再現分析による攻撃シミュレーションを活用することで、90%以上の攻撃防止を実現しているという。
さらに、オープンイノベーションを活用したLumadaの進化にも積極的に取り組む姿勢をみせたほか、MATLABやMicrosoft Dynamicsとの連携、傘下のSullair(サルエアー)の技術とAIを活用した、メンテナンスおよびリペアサービスといった故障予兆ソリューションのグローバル展開についても言及した。
3つ目の「社会課題解決型基礎研究の推進」では、2017年度おいて、世界最高磁場分解能0.67nmを実現した超電顕(電子顕微鏡)や、乳がんの画像化に成功した超音波CTがん検査などの成果を上げたほか、世界最大の10万ビット処理をFPGAで実現するCMOSアニーリングマシン、被験者の負荷が少ないがん検査を実現する簡易がん検査などに取り組んでいることを示した。
進化の原動力として「オープンイノベーション」を重視
一方で、日立 テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長の矢川雄一氏は、Lumadaについて説明した。
これまで同社では、協創手法やツールを用いた「課題解決力」、ソリューションコアによる「OT×ITの実績」、日立独自の中核技術による「高い技術力」を、Lumadaの特徴と位置づけてきた。2018年度以降はさらに、進化の原動力として「オープンイノベーション」を重視する姿勢を明らかにした。
矢川副統括本部長は、「これまでは使う立場だったが、今後は提供する側としても積極的に関与していく」と方針転換したことを強調。「Node-REDの事業利用に必要な機能を開発し、コミュニティで公開していくことになる。すでに、Node-REDのトップ10のコントリビュータのうち、6人が日立のコントリビュータであり、GUI testing framework、Node Generator、Message sequence nodes、Introductory bookで貢献をしている。特に、Node Generatorは、既存のプログラムをNode-RED上で簡単に利用できることができるものであり、高い評価を得ている。今後、グローバルパートナーとのオープンイノベーションを通じて、Lumadaを強化していく」と述べた。
グローバルパートナーとの連携としては、MathWorksのMATLAB上で、OTの知識を生かした予兆検知モデル、余寿命診断モデル、故障要因診断モデルを稼働。またMicrosoft Dynamicsでは、業務管理、顧客管理、資産管理の各種ITサービスを提供している。これについては、「OTとITの連携による生産性向上を実現する。今後、連携するソフトウェアは順次拡充していくことになる」とした。
さらに、今後のLumadaの進化として、「オープンイノベーションの拡大」「データサイエンティストの強化」を挙げた。
「オープンイノベーションの拡大」では、「これまでは、OT、IT、プロダクトがそれぞれ個別にオープンイノベーションを進めてきたが、これをつないだ形でオープンイノベーションに取り組み、価値提供を迅速化していくことになる」とし、Node-REDコミュニティへの技術開発での貢献のほか、Plug and Playとの連携で金融イノベーションラボを通じた金融サービスの開発、北海道大学や京都大学との連携、ファナックおよびPreferred Networksとの協業により、インテリジェント・エッジ・システムを設立する例などを紹介。国内では33件のオープンイノベーション連携事例があるという。
また「データサイエンティストの強化」では、2021年度までに、トップクラス研究者を含むデータサイエンティスト3000人の育成計画を公表。「国内外の日立グループ各社にデータサイエンティストを育成し、グローバルにおけるソリューションデリバリー力を向上させたい。また、AI・データ分析専門家や、OTドメイン・データ活用専門家などの博士号を持ったトップクラス研究者を持つことがフォーメーション上、重要になる。これによって中核技術をさらに進化させることができる」などとした。
同社では、R&Dクラウドを通じてAI技術プラットフォームを活用。さらに、北海道大学と共同で開発している、世界最大となる100kbit CMOSアニーリングマシンを活用した大規模最適化問題を高速に求解する取り組みを開始。8月にはこれをクラウドサービスとして、顧客やパートナーにも提供することになるという。
矢川副統括本部長は、「社会課題解決を通じてつながった社内外のナンバーワン技術や人財を束ね、世界中の社会イノベーション事業で活用ができるよう、Lumadaによるデジタル化を推進する」と語った。