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ソラコム、新サービス「SORACOM Krypton」「SORACOM Lagoon」を発表 AWSと連携したボタンデバイスも登場

 ソラコムは4日、都内で開催された同社の年次カンファレンス「SORACOM “Discovery” 2018」において、セキュアプロビジョニングサービス「SORACOM Krypton」、ダッシュボード作成/共有サービス「SORACOM Lagoon」、AWS IoTと連携したLTE-M通信内蔵ボタンデバイス「SORACOM LTE-M Button powered by AWS」など、多くの新発表を行った。

 ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は「ソラコムはこれまで、無線の種類を問わない“Wireless Agnostic”、クラウドベンダーやネットワークの形態を問わない“Cloud Agnostic”を掲げ、あらゆる無線とクラウドをセキュアにつなぐことを目指してきたが、今回の新サービス/新製品の発表を通して、あらゆるアクセス回線を通じてクラウドへセキュアにつなぐ“Connectivity Agnostic”な世界を実現していきたい」と語り、IoTのあらゆるあらゆるレイヤにおけるさらなるサービス拡充を図る姿勢を見せている。

ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏
「Cloud Agnostic」「Wireless Agnostic」を超えてソラコムが目指すのはヒトとモノを無限につなぐ「Connectivity Agnostic」

4つの大きなニュースを発表

 今回、ソラコムが発表した主要アナウンスの概要は以下の通り。

SORACOM Krypton

 「SORACOM SIMがあれば、アクセス回線の種類によらず、どんなクラウドサービスにもデバイスをセキュアに接続できるのでは、といったコンセプトのもとに誕生した」(ソラコム 最高技術責任者(CTO) 安川健太氏)という、セキュアプロビジョニング支援のための新サービス。

 7月4日から提供開始。ユーザーはSORACOM SIMを差し込んだIoTデバイスにKryptonクライアントをインストール/設定するだけで、デバイスの製造段階で暗号鍵などを埋め込む必要なく、外部のクラウドサービスにセキュアに接続できる。

SORACOM SIMをデバイスに設定し、Kryptonと連携するだけで、セキュアなプロビジョニングが実現
ソラコム CTOの安川健太氏

 現時点でサポートするクラウドサービスは「SORACOM Inventory」「AWS IoT」「Amazon Cognito」の3種類で、順次増やしていく予定。バックエンドのSIM認証基盤には機能拡張した「SORACOM Endorse」を採用、セルラー回線だけでなく、Wi-FiやEthernetといった環境においてもSIM認証が可能にしている。

 価格はSIMあたりで設定されており、日本向けAir SIMは初回180円/月、2回目以降は40円/月、グローバル向けAir SIMは初回1.8ドル/月、2回目以降は0.4ドル/月で、2回目以降の料金は利用月のみの課金となる。

 「デバイスにあらかじめ暗号鍵を埋め込む手間やコストをなくし、(通信量が)ライトでもヘビーでもセキュアな接続環境を提供する。”Krypton”という名前は、暗号を意味する”crypto”と元素(希ガス)のクリプトンから取った。クリプトンはアルゴンよりも存在量が少なく、なかなか発見に至らなかった希ガスだが、貴重な宝箱がたったひとつの暗号鍵によって開くイメージ」(安川氏)。

SORACOM Lagoon

 SORACOM Lagoonは、SORACOM Harvestで収集/蓄積した通信データをデータソースとして、目的に応じたグラフや地図を組み合わせたダッシュボードを作成/共有するサービス。7月4日から提供開始。

 「通信データを入り江(lagoon)に集約し、可視化するイメージ」(ソラコム 執行役員 プリンシパルソフトウェアエンジニア 片山暁雄氏)のサービスで、「プロジェクトごとにダッシュボードを作成したい」「特定のグラフを特定の顧客に見るだけの権限を与えて共有したい」といった、Harvestのユーザーからのフィードバックによって誕生したという。

 セルラーやLoRaWANなど、異なる無線通信から収集したデータにもまとめて対応できる。Lagoonはオープンソースのダッシュボード作成ツール「Grafana」をベースに開発されており、グラフや地図、テーブルなど複数のパネルを組み合わせたダッシュボードをブラウザ上の操作で簡単に作成できるほか、アラートを設定してメール送信やLINE通知などのアクションが可能。さらに「ユーザーからの要望が特に多かった」(片山氏)という共有機能がLagoonの大きな特徴となっている。

 料金体系は「Makerプラン」と「Proプラン」が用意されており、Makerプランは日本向けカバレッジ980円/月から、グローバル向けカバレッジ980円/月から、Proプランは要問い合わせ。

SORACOM Harvestに蓄積されたIoTデータをソースにダッシュボードを作成するSORACOM Lagoon。作成したダッシュボードは特定のユーザーと共有することも可能。デザインもインタラクティブに変更できる

SORACOM LTE-M Button powered by AWS

 1クリックで、Wi-Fi経由でAWS IoTに接続できる「AWS IoT 1-Click」サービスに、日本で初めて対応したエンタープライズ向けボタン型デバイス。ソラコムが開発したLTE-Mのセルラー通信「SORACOM Air for セルラー plan-KM1」(後述)を内蔵、単4乾電池2本で動作する。

 デバイス登録するだけですぐに使用でき、AWS Lambdaとの連携により、事前定義済みのLambda関数のほか、JavaやPythonで記述したビジネスロジックの実行も可能だ。

国内では初、世界でも2番めとなるAWS IoT 1-Click専用のダッシュボタン「SORACOM LTE-M Button powered by AWS」は、交換可能な乾電池2本で動く。IoT通信に最適化された「SORACOM Air for セルラー plan-KM1」が内蔵されている

 パートナーであるAWSジャパン IoT/AIソリューションビルダー部長 ソリューションアーキテクト 榎並利晃氏は「SORACOM LTE-M Button powered by AWSのユースケースとして考えられるのは、ボタンを押すとすぐに駆けつけてくれるテクニカルサービスや、コールバックの要請など。ユーザーは裏側で動いているAWS IoT Coreを気にする必要がなく、さまざまな形態でIoTとクラウドを結びつけることができ、プロトタイプ開発にも向いている。コンシューマ向けのAmazonダッシュボタンと違って、乾電池が交換できる点も大きな特徴」と語っている。

 発売時期は2018年度下期が予定されており、価格(1500クリックのデータ通信料金を含む)は1個8000円前後になる予定だが、初回提供分に限り特別キャンペーンとして3980円で購入できる(申し込みは7/4から)。

「SORACOM LTE-M Button」の提供開始は2018年下期が予定されている。価格は8000円前後だが、初回生産分のみ予約限定で3980円で提供するとのこと
AWSジャパン IoT/AIソリューションビルダー部長 ソリューションアーキテクト 榎並利晃氏

SORACOM Air for セルラー plan-KM1

 ソラコムがKDDIグループ入りして約1年が経過したが、そのシナジーの成果を示すかのように、同社は今回の“Discovery” 2018にあわせてKDDIとの協業をいくつか発表している。

 その中でも最も注目されるのが、KDDIのLTE-M回線(LTE Cat.M1)に特化した「SORACOM Air for セルラー plan-KM1」だ。

 LTE-MはIoTに適した通信方式「LPWA(Low Power Wide Area)」の規格のひとつで、総務省から免許を交付された通信事業者のみが提供することができる。そのため、既存のLTE回線よりも広いエリアをカバーしながら高速で安定した接続環境を実現できるので、SORACOM AirやほかのSORACOMサービスと組み合わせることでガスや水道などのスマートメーター、物流、ウェアラブルなど幅広い分野でのIoT活用が期待される。

 提供開始予定は2018年9月から、plan-KM専用SIMの価格は1枚1500円、基本利用料は100円/月、データ通信量は0.5円/KBとなっている。

より広域で安定した高速接続環境を提供できるLTE-M回線に対応した「SORACOM Air for セルラー plan-KM1」は、すでに提供されている4G LTE回線をベースにした「SORACOM Air for セルラー plan-k」とも統合的に管理することが可能

 このほかの発表としては

・「SORACOM Funnel」による「Amazon Kinesis Video Streams」のサポート(リミテッドプレビュー)
・KDDIの「IoT世界基盤」にソラコムが参画
・KDDIの海外現地法人と連携し、グローバルでIoTビジネスを推進
・「SORACOM Funnel」のPartner Hosted Adapterが「Teradata Analytics Platform」に連携開始
・SPS認定パートナーに新規に5社追加
・KDDIとNTTドコモのLTEネットワークに対応したGREEN HOUSE製LTE USBドングル「GH-UDG-MCLTEC」のリリース
・ソラコムユーザーを対象にしたIoTデバイス補償サービスを簡単に設計構築できる「AOSORA」を東京海上日動が提供
・エンタープライズ企業を対象にしたソラコムユーザーグループ「ESIM」のローンチ

などが挙げられる。

動画のリアルタイム分析をサポートする「Amazon Kinesis Video Streams」と「SORACOM Funnel」が連携可能に
東京海上日動がソラコムを活用した事業者向けに提供する「AOSORA」は、IoTデバイスの保証サービスの設計構築を支援する
ソラコムのエンタプライズユーザーに限定したユーザーグループ「eSIM」がローンチ。AWSのエンタープライズユーザーグループ「E-JAWS」をほうふつとさせる

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 3回目となった“Discovery” 2018には約3000名の参加登録があり、基調講演はもちろんのこと、午後に行われたセッションのほとんどが満席となるほどの活況を呈しており、個人ユーザーから大企業に至るまで、この3年間でソラコムがいかに多くのユーザーの心をつかんできたかが伝わってくる。

 「KDDIグループに入ったとしてもスタートアップの精神は失わない」という玉川社長の言葉通り、いまも2週間に1回の頻度でサービスの機能拡張を行い、本稿で紹介した以外にも細かなアップデートを各サービスで続けている。

 また、本カンファレンスは「すべてのセッションは事前予約なしで参加可能(満席の場合は立ち見)、スライドや登壇者などの写真撮影も基本自由、参加者によるソーシャルでの情報発信を推奨、基調講演やセッション終了直後にスライド資料を一般に公開(一部を除く)」など、一般的なITカンファレンスとは明らかに異なる空気が流れていたが、こうしたところにも、日本の典型的な大企業ともベンチャーとも異なるソラコムらしさ、情報の“Democratization”を訴え続けている同社の姿勢がうかがえる。

 今回、“Discovery” 2018にゲスト登壇したAWSジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏は「ソラコムとAWSは“顧客のイノベーションを支えていく”という同じコンセプトをもっている。これからもソラコムによってつながる世界は数え切れなくなるだろう」とコメントしている。

AWSジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏。ソラコムの玉川社長にとっては前職の上司にあたる。「2015年にAWSを卒業するときは長崎さんが本当に気持ちよく送り出してくれたことに感謝したい」(玉川社長)

 3年前の創業時に比べ、企業として大きく変化と成長を遂げたソラコムだが、玉川社長が創業時から掲げる「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」という理念はいまも変わらない。ヒトとモノの“Digitalization”を追い求めながら、ソラコム自身もまだ見えていない、次なる“Discovery”に向け、同社の2018年度下期がこれからスタートする。

玉川社長のキーノートの最後には、同社の理念「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」が必ず表示される