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ソラコム、モノの通信に特化したIoTプラットフォーム「SORACOM」をリリース、API指向の関連サービスも同時に提供開始

 株式会社ソラコムは30日、IoT(Internet of Things)デバイスの通信に特化したクラウドプラットフォーム「SORACOM」を発表。同時にSORACOM上で動作するモバイル通信サービス「SORACOM Air」およびデータ転送支援サービス「SORACOM Beam」の提供を開始した。いずれのサービスも同日から利用可能になっている。

 ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は「モノの通信に特化した汎用的なIoTプラットフォームはこれまで存在しなかった。SORACOMはモバイルデータ通信とクラウドを一体化することで、大量のIoTデバイスを安全かつ安価に接続できるプラットフォーム。この基盤の上でユーザーは自由なIoTサービスを作り上げてほしい」と語っており、IoTプラットフォーマーとしての存在感を強めていく姿勢を見せている。

ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

 SORACOMは、NTTドコモとのMVNO(仮想移動体通信事業者)契約にもとづきドコモの基地局と専用線で接続、さらにAmazon Web Services(AWS)のクラウド上にパケット交換や帯域制御などのモバイル通信のコアネットワークと顧客管理や課金システムなどのサポートシステムを実装している。

 つまり専用線接続されたドコモの基地局に、AWSクラウドで作り込んだデータセンター機能を実装、これをドコモのモバイルネットワーク(LTE/3G)と接続することで外部のインターネット環境に通信データがさらされることのない、セキュアなIoTプラットフォームを実現している。また、データセンター機能をクラウド上で構築しているので、大量のIoTデバイスが接続されてもスケーラビリティと可用性を担保することが可能だ。

SORACOMはドコモの基地局上にAWSで構築したデータセンター機能を実装して作り上げたIoTプラットフォーム。安全性、信頼性、拡張性を担保しつつ安価なコストでのモノのインターネットを実現する

SORACOM Air――完全従量課金制のIoT通信サービス

 このSORACOMプラットフォームの上に構築された従量課金制のデータ通信サービスが「SORACOM Air」だ。SORACOM Airのユーザーはソラコムが提供するデータ通信SIMを購入し、そのSIMをIoTデバイスに挿すことでSORACOMプラットフォームに接続できる。SIMの種類としてナノ/マイクロ/標準SIMの3タイプが用意されており、それぞれデータ通信のみとSMS機能ありの2種類から選択できる。1枚でも1000枚以上でも即調達が可能だ(ソラコム直販またはAmazon.co.jpから)。

SORACOM Airの概要
SORACOM Airで提供されるSIMは全部で6種類。Amazonから1枚単位で調達することも可能
SIMを手にしてIoTプラットフォーマーとしての意気込みを示す玉川氏。左はソラコム共同創業者 兼 CTOの安川健太氏

 SORACOM Airの最大の特徴は「いつでも、必要なときだけIoT通信を実現する」(玉川氏)ためのベースとなる、リーズナブルで透明性の高い従量課金システムにある。初期投資として必要なのは契約事務手数料の580円/回線(SIM)とSIMの送料のみ、1回線ごとの基本料金は使用開始前は5円/日、使用開始後は10円/日となっており、接続したままの状態でも1回線あたり月額300円程度で済む。

 データ通信料金は利用した総量に応じて支払う従量課金制となっており、1MBあたり0.2円から(通信速度に応じて変わる)。SMS機能付きのSIMの場合、1枚ごとに5円/日、1通ごとに3円が付加される。なお、これらの料金体系はあくまでソラコムが提供する価格であり、パートナー企業やユーザー企業は自由に値付けしたサービスを展開することが可能だ。

 接続されたIoTデバイスの管理はWebコンソール上から行うが、その管理をAPIで自動化することもできるようになっており、例えば「通信量が2GBを超えたらアラートを出す/通信制限をする」「夜間のある時間帯だけ通信速度を変更する」「1万個のSIMを一斉に使用開始/停止する」といったルールも自由に設定できる。

 玉川氏は「例えば学校で大量に導入したタブレットに挿したSIMを授業中だけONにするといった操作も可能。APIから複数SIMを一括管理できることで、パートナー企業は自由な付加価値を考案できるはず」と説明するが、このAPIプログラマブルという特徴は、今後、外部の開発者を取り込み“SORACOMエコシステム”を構築していく上での大きなアドバンテージになるはずだ。

SORACOM AirのWebコンソール画面。使いやすいインターフェイスでIoTデバイスを一括管理できる

 SORACOM Airはすでにリクルートライフスタイル、東急ハンズ、キヤノン、フォトシンスなど複数のユーザー企業によるプライベートベータプログラム試用事例が出ている。リクルートライフスタイルのケースでは、今夏に行われた「テレビ朝日・六本木ヒルズ サマーステーション」のイベント会場で同社の無料POSレジ「Airレジ」のサービス基盤にSORACOM Airを活用し、何の問題もなく稼働した実績を残している。また東急ハンズではネットワークのバックアップ回線をSORACOM Airに切り替えたことで緊急時だけ稼働させることのできるバックアップを実現、通信固定費の大幅なコスト削減を見込めるとしている。

SORACOM Beam――IoTデバイスの負荷をクラウドが肩代わりする転送サービス

 SORACOM Airと同時にパブリックベータとして発表されたのが「クラウドにデバイスの負荷を肩代わりさせる」(玉川氏)ためのデータ転送支援サービスである「SORACOM Beam」だ。SORACOM Airのプライベートベータサービス展開中にユーザー企業からのフィードバックを得て開発したというこのサービスは、クラウド上の潤沢なリソースを使い、IoTデバイスから発信されたデータに対して認証や暗号化、プロトコル変換、ルーティングなどの処理を実施した後にデータ転送を行う。いわば限られた通信量で大きな安全を担保するサービスだといえる。

 IoTデバイスはPCやサーバー機器とは異なり、利用できるコンピュータリソースが非常に限られる。そのため、データの暗号化や認証情報の事前設定、ルーティング経路の設定といった負荷の高い処理をデバイス上で行うことは、コストや消費電力量の点から見ても難易度が高い。この難易度の高さはIoTシステムの普及を妨げる大きな要因となっていた。

 SORACOM Beamはこれらの処理をクラウド側で実施し、安全で自由度の高いデータ転送を実現する。ユーザーはSORACOM Beamを使ってデータをSORACOMプラットフォーム上に送るだけでよく、暗号化やプロトコル変換、ルーティングなどはクラウド上で行われる。例えばIoTデバイスからHTTPで送信されたデータをクラウド上でHTTPSに変換してから、インターネット経由で別のサーバーに転送するといったことが可能になる。

 「ユーザーが困っていたのは、SORACOMにアップロード後のIoTデータの安全性だった。IoTデバイスからSORACOM(基地局)までは安全な通信が保証されているが、その後、別の場所にデータを送りたいときはインターネットを経由しなければならず、初期設定のままでは困るといった声を多く聞いた。それならクラウド側で暗号化やルーティングを肩代わりすることでユーザーの負荷を軽減し、安全なIoT通信を実現できるはず」と玉川氏はサービス開発の動機を語っている。

クラウド側に暗号化やルーティング設定などの負荷の高い処理を肩代わりさせるSORACOM Beam。限られたリソースしか使えないIoTデバイスでも安全なデータ転送が可能に

 SORACOM BeamもSORACOM Airと同様に、APIプログラマブルである点が注目される。ユーザーはIoTデバイス側の設定を変更することなく、Webコンソール上からAPIをたたくだけで暗号化処理や転送先の変更が可能だ。またSORACOMはAWSクラウドと直結しているため、SORACOM Beamを使うことでIoTデバイスから「Amazon Kinesis」や「AWS Lambda」といったHTTPSしか使えないサービスを直接利用できる。

 「もし北海道の牧場のような遠隔地のユーザーに大量にIoTデバイスを納品した後、データの転送先を変更したい、違うサービスを使いたいなどの要望があっても、デバイスではなくSORACOM Beam側の設定を変更するだけで解決できる。わざわざ遠隔地に再度行く必要はなくなるはず」(玉川氏)。

SORACOM BeamもAPIプログラマブルである点が特徴。開発者へのアプローチに有効だといえる

 SORACOM Beamもすでに複数のユーザー企業がプライベートベータプログラムに参加済みで、例えばGlobal Mobility Serviceは同社が展開するIoTサービスにSORACOM Beamを活用、IoTデバイスからHTTPやMQTTで取得したデータをHTTPSやMQTTSに変換している。暗号化をデバイスではなくクラウド側で行えるので通信コストの大幅な削減が実現できているとしている。

クラウドネイティブなビジネスモデルへのこだわり

 ソラコムはこれらのIoTサービスにあわせ、パートナープログラムとして「SORACOMパートナースペース(SPS)」の事前登録も発表している。SPSには以下の3つのカテゴリが用意されている。

・SPSデバイスパートナー:SORACOM Air/Beamに対応したセンシングデバイス、ゲートウェイ、LTE/3G対応モジュールなどのIoTデバイスを扱う企業(アットマークテクノ、ぷらっとホーム、三井物産エレクトロニクスなどが参加済み)
・SPSソリューションパートナー:SORACOMプラットフォームを活用したクラウドサービスやミドルウェアサービスを提供する企業(アプレッソ、ウルシステムズ、セゾン情報システムズなどが参加済み)
・SPSインテグレーションパートナー:SORACOMプラットフォームを活用したシステムやサービスのインテグレーション、コンサルティングを行う企業(日立製作所、サーバーワークス、クラスメソッド、ハンズラボなどが参加済み)

 また、開発者向けにSORACOMプラットフォームのAPI利用環境や関連情報を提供するサイト(https://dev.soracom.io/)も同時にオープンしている。

 9月30日に発表した時点で、すべてのサービスを即日利用可能な状態で提供し、豊富なアーリーアダプタ事例とパートナープログラムまで用意しているところに、AWS出身の玉川氏らしいこだわりが見えてくる。薄利多売を徹底的に追求する従量課金制、APIプログラマブルでオープンなプラットフォームとサービス、ユーザーからのフィードバックの細かな反映、幅広いレンジのパートナーとの協力体制、etc. SORACOMのビジネスモデルはまさにAWSが取ってきたスタイルであり、ソラコムがIoTにおけるクラウドネイティブなエコシステムの構築と拡大を目指しているのは明らかだ。

 AWSクラウドの国内展開に大きく貢献し、グローバルでも著名なAWSエバンジェリストであった玉川氏が同社を去ったのは今年3月のこと。その後すぐにソラコムを起業したものの、同氏がIoTビジネスを手がけている以上の情報はこれまで明かされていなかった。それだけにSORACOMプラットフォームとSORACOM Air/Beamの登場は、玉川氏とソラコムがプラットフォーマーとして新たな道を歩き始めたとして、新鮮な驚きと期待をもってIT業界に迎えられたといえる。

 会見の最後、玉川氏は「ソラコムは“世界中のモノと人をつなげ共鳴する社会へ”を理念として掲げている。ロゴにあしらっている星はデバイスを意味しており、開発者やパートナー企業の皆さんはこの星をいくつもつなげてソラコムという宇宙(space)に自分自身の星座を描いてほしい」と語っている。目指すはグローバルで通用する日本発のIoTプラットフォーム――、世界で戦えるポテンシャルを十分に秘めたベンチャー企業の誕生に、業界の内外からの注目度は高い。

IoTプラットフォーマーとしてのデビューを果たしたソラコムの経営理念

五味 明子