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Still Day One――、ソラコム玉川社長がKDDIグループ入りを説明
2017年8月10日 08:00
「ExitというよりはEntrance、第2の創業を迎えたと思っている」――。
8月8日、都内で開催されたKDDIとソラコムの共同会見に登壇したソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は、ソラコムがKDDIグループの傘下に入ることについて、こうコメントした。
既報の通り、日本発のIoTプラットフォーマーとして2015年9月のサービスローンチ以来、順調にビジネスを展開してきたソラコムは、8月末をもって正式にKDDIの子会社となる。
会見ではKDDIおよびソラコムの双方が、今回のM&Aにおける意義を説明、国内外におけるIoTの発展に対して、ともに力を尽くす姿勢をあらためて示している。
両者の強みを生かしたハイブリッドな展開が可能に
KDDIは2016年10月、ソラコムから技術提供を受けたIoT向け回線サービス「KDDI IoTコネクト Air」のリリースを発表しているが、それ以前からM2M/IoTビジネスを幅広く展開しており、今回のソラコム買収によって「IoTにおける多種多様な顧客のニーズに対応するケーパビリティが整うことになり、両者の強みを生かしたハイブリッドな展開が可能になる」(KDDI バリュー事業本部 バリュー事業企画本部長 新居眞吾氏)というメリットが生まれるとしている。
新居氏は続けて、KDDIとソラコムの両者が生み出すシナジーとして
・新たなIoTビジネスの創出:両者の顧客基盤や知見、導入実績をもとにしたユースケースの蓄積
・IoTプラットフォーム:両者の技術的基盤を生かし、グローバルにも通用する日本発のIoTプラットフォームの構築
・グローバル展開:600社以上に上るKDDIの海外事業パートナーを通じたソラコムのグローバル展開の支援
・次世代ネットワーク開発検討:KDDIの通信基盤、ソラコムのクラウドネイティブな技術力を生かしたLPWA/5Gといった次世代ネットワークへの対応
の4点を挙げており、アイレットやARISE Analytics、SupershipといったKDDIの他のグループ企業との協業も視野に入れながら、IoTにおけるイノベーションの創出をはかるとしている。
“巨人の肩”に乗り続けることの限界
国内有数のIoTプラットフォーマーであり、グローバルでも通用する技術力をもった数少ない日本発のスタートアップとして、2年前のサービスローンチから常に注目され続けてきたソラコムがKDDIの傘下に入る――。
このニュースはIT業界のみならず、多くの市場関係者に大きな衝撃を与えた。スタートアップとして資金を調達してきた以上、ソラコムが常にイグジット(Exit、投資家による資金回収)のタイミングを見はからっていたことは間違いない。だが、ローンチから2年弱という比較的短い期間で、しかもKDDIという国内有数の通信キャリアによるM&Aというかたちでのイグジットを予想していた関係者は多くはない。
「ソラコムなら遠くない将来のIPO(上場)も十分に狙えたはず」という声も、スタートアップ界隈を中心に聞こえてくる。なぜソラコムはイグジットの手段としてKDDIグループ入りという道を選んだのだろうか。
玉川氏は会見の席上、KDDIによる買収を受け入れた背景として「MVNOとしての限界」、つまり、キャリアの都合でビジネスの範囲やタイミングが左右されてしまうことの障壁が大きくなってきたことを挙げている。ローンチ当初、「NTTドコモとAWSという巨人の肩に乗ってビジネスを拡大する」としていたソラコムだが、顧客の数が7000を超え、350社以上のパートナープログラムを構築して北米や欧州など海外にも進出を始め、自分自身のサイズが大きくなってきた以上、“巨人の肩”に乗り続けることを前提にしたビジネスでは、限界が見えてきたのは想像に難くない。
玉川氏は続けて、ソラコムが現在抱えている課題として、
・セルラーLPWA/5Gのサービスを開始するタイミング
・クラウド上のコア通信ネットワーク「SORACOM vConnec Core」で実現できる範囲の拡大
・グローバルでの交渉力と営業力
・さらなる資金調達とリソース調達
を挙げているが、特に大きなポイントは、LPWAや5Gといった次世代ネットワークへの対応とグローバル展開だったといえる。
例えば、2020年に国内でも正式にサービス提供が予定されている5Gにいちはやく対応することは、IoTプラットフォーマーであるソラコムにとってもっともプライオリティが高い。しかし、MVNOの立場のままでは主導権をもったサービス開発を滞りなく進めることは難しくなる。
次世代ネットワークを対象にしたサービス開発の共同パートナーとして大手通信キャリアのKDDIを選ぶメリットは、ソラコムにとってかなり大きい。また、創業時からグローバル展開を視野に入れ、北米や欧州でもサービスを開始したソラコムだが、やはり日本と同様のスピード感をもって拡大するのは現状の規模では無理がある。海外事業拠点を100カ所以上もち、600社を超えるグローバルパートナーを抱えるKDDIは、ソラコムが望むスピーディな海外展開を強力に支援する存在となりうるだろう。
既存サービスに影響する変更は“何もなし”
なお、「SORACOM Air」「SORACOM Beam」など、ソラコムが現在提供している10種類のIoTサービスはこれまで通り、NTTドコモの基地局とAWSクラウドをベースに提供が続けられる。
KDDI側も、「すでに実績のあるソラコムのサービス基盤をKDDIが巻き取るようなまねは、顧客にとって迷惑なだけ。そうしたことは一切やるつもりはない」(新居氏)と明言しており、ソラコムの組織体制を含め、既存サービスに影響する変更は何もない点を強調している。
KDDIもまた、ソラコムの既存ラインアップよりも、同社の技術力やリソースを取り入れながら、KDDIとして「時代のニーズに応じた、より多様な新サービス」(KDDI ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 副本部長 藤井彰人氏)の開発に注力するとしており、今回の買収が“次世代”にフォーカスした案件であることを印象づけている。
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「ビジネスのフェーズがこれまでとは異なる次元に入ると思っている。イグジットのタイミングとしてはちょうどいい。KDDIの支援をもらいながら、ソラコム自身も成長を続けていきたい」――。
会見の席上で、玉川氏は今回のM&Aをこう総括している。イグジットはひとつの終わりを示す言葉でもあるが、玉川氏は「単なるイグジットではなく、第2の創業となるエントランス」と位置づけているという。
ソラコムは創業以来、「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」という理念を掲げ続けてきたが、今回の買収で「その理念がゆらぐことはなく、日本発のIoTプラットフォームを作り上げるという目標は変わらない」と玉川氏は言い切る。
巨人の肩に乗る存在から巨人と肩を並べる存在へ――。玉川氏がAWSで培った"Still Day One(毎日が最初の1日)"の精神のもと、ソラコムは第2章へと進み始める。