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上場はゴールではなくスタート――、ソラコム、“スイングバイIPO”でグロース市場に新規上場
2024年4月1日 06:00
株式会社ソラコムは3月26日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。同社 代表取締役社長 玉川憲氏は、上場記念セレモニー後に行われた報道関係者向けの説明会で「2014年の創業、2017年のKDDIグループ入りに続いて、今回の上場は企業として迎える第3章のスタート。創業時からのビジョンである“世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ”の実現に向けて、日本発のグローバルIoTプラットフォーマーとしてさらなる成長を遂げていきたい」と語り、引き続きイノベーションの継続と事業の成長にコミットしていく姿勢を見せている。
AWSジャパン出身の玉川氏ら3名が2014年11月に設立したソラコムは、2015年9月にクラウドネイティブなIoTプラットフォーム「SORACOM」および最初のサービスである「SORACOM Air」をリリース、その後、提供するサービスの増加とともに顧客やパートナー企業を順調に増やし、創業から2年で100万契約回線を達成した。2017年8月、買収によりKDDIの連結子会社となり、KDDIグループの傘下でグローバル化や大規模事例などを積極的に展開、2024年3月時点で顧客数はグローバルで2万を超え、契約回線数は600万回線となっている。
KDDIグループ企業として大きく成長してきたソラコムだが、「2020年ごろからKDDIと話し合いながら“スイングバイIPO”の準備を重ねてきた」と玉川氏は振り返る。今回の上場のキーワードとなっている“スイングバイIPO”とは、水星探査機などの宇宙探査機が惑星(地球)の重力を利用して周回軌道に投入される技術「スイングバイ(swing-by)」にちなんだもので、ソラコムとKDDIはスタートアップが大企業のサポートを得て成長し、上場を目指すことをこう呼んでいる。
「ソラコムはKDDIグループのもとで思った以上に成長させてもらったが、IPOをきっかけにアクセルを踏めばさらに成長できると考え、高橋さん(KDDI 代表取締役社長 高橋誠氏)に相談した。高橋さんからは“基本的にOKだが、ソラコムがKDDIとけんかして出ていったと思われないように、ポジティブなコンセプトを考えて”といわれ、あるエンジニアが話していた“スイングバイ”という言葉が今回のIPOのイメージ(スタートアップが大企業のサポートを得て、グローバルにはばたく)にぴったりだったので、この表現を採用した」(玉川氏)。
両社は2022年11月に東京証券取引所に株式上場申請を行ったが、3カ月後の2023年2月には「株式市場の動向などを総合的に勘案し」(ソラコム)、いったん上場申請を取り下げている。当時は「もう上場は無理かとあきらめかけた」という玉川氏だが、2023年11月に再び東京証券取引所に上場申請を行い、今回の“スイングバイIPO”に至っている。
会見にゲスト登壇したWilの伊佐山元CEOは「ソラコムのように事業が明確な企業は、夢を語るだけでは売れず、グローバルで着実に売っていかなければならない。M&A後のIPOという画期的な発想のIPOでありながら、技術の会社として王道を行く――、これはスタートアップ業界にとっても良いケーススタディとなる」とスイングバイIPOというアプローチを高く評価している。
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ソラコムが今回、KDDIグループから独立して上場を果たした最大の理由は、さらなるグローバル化の加速にある。創業以来、グローバルで使われるIoTプラットフォームを目指してきたソラコムだが、すでに同社のIoTサービスが利用できる国/地域は180、連携する通信キャリアは392に上る。海外企業の導入事例も着実に増えており、玉川氏はこれらの実績について「通信キャリア大手のKDDIのもとにいたからこそ、人的ネットワークなどを含め、グローバルでインフラビジネスを展開する下地を作ることができた。また、大企業の子会社だったことで我々のプラットフォームに“お墨付き”をもらうことができた。スタートアップとして資金調達を繰り返すという道もあったが、グローバルの成功はお金だけでは得られない」とKDDIグループ傘下にいたメリットを振り返る。
一方でKDDIというブランドに守られているだけでは、「IoTプラットフォーマーとしてのグローバル化に不可欠な優秀なエンジニアの獲得が難しくなる」と玉川氏は語る。「優秀なエンジニアは上場している企業でなければ囲い込むことができない。株式報酬のインセンティブプロブラムなど、優秀なタレントを引き付ける仕組みはIPOしていることが前提」(玉川氏)。
なお、上場時点でKDDIが保有するソラコムの株式保有率は40%ほどで、KDDIは今後も、持ち分適用会社であるソラコムを支援していくとしている。会見にゲスト登壇したKDDIの高橋社長は「KDDIがソラコムを買収した理由は大きく3つある。IoTというこれから広がっていく世界にフォーカスしていたこと、海外売上の比率が30%と非常に高かったこと、そしてキーインベスターがしっかりソラコムを支えていたこと。KDDIが支援する企業のモデルとして非常にわかりやすく、グローバルにインパクトを与えられる日本企業だと感じた。インパクトのある上場を応援できてよかった」と語り、上場後もソラコムを支援していく姿勢を表明している。
「上場できた現在は、数多くのステークホルダーの方々に対して感謝の気持ちしかない。今回の上場はソラコムとしての新しいスタートであり、決して上場ゴールではない。社会の公器として新しい責任感のもと、これまでできなかったことをできるようにしていきたい」と上場にあたってコメントした玉川氏。日本発のグローバルなIoTプラットフォーマーが実現した“スイングバイIPO”がこれからどのような軌跡を描くのか、引き続き注目していきたい。