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今年も最先端のネットワーク技術がてんこ盛り――、Interop Tokyo 2024の「ShowNet」レポート

Interop Tokyo 2024会場レポート

 最先端ネットワーク技術・製品のイベント「Interop Tokyo 2024」の展示と講演が、幕張メッセ(千葉県千葉市)で6月12日から14日まで開催された。

 Interop Tokyoは展示会であると同時に、各社が最新のネットワーク機器を持ち込んで相互接続性や新技術をテストしデモする場でもある。そうした実験とともに会場に提供する実運用でもある会場ネットワークが「ShowNet」だ。

 初日となる6月12日には、Interop Tokyo 2024と、会場のネットワーク「ShowNet」について、記者向けのブリーフィングが開催。設備の見学ツアーも実施された。

今回のテーマは「AI社会とインターネット」

 Interop Tokyo 2023の今年のポイントについては、Interop Tokyo 2024 総合プロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長の大嶋康彰氏が説明した。

Interop Tokyo 2024 総合プロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長の大嶋康彰氏

 31回目となる今回のInterop Tokyoのテーマは「AI社会とインターネット」。生成AIなどのAIが社会的に普及が始まっており、「AIもインターネットありきで動いており、インターネットとしてはどういう役割か、どういうネットワークを作っていくか、どういうリスクがあるかなどを考えていく」(大嶋氏)という狙いだという。

 パンデミック期を経て出展者数は拡大の傾向が顕著になっている。2022年は394社1101小間、2023年は475社1344小間、そして今回は542社1664小間となった。ホール数も1ホール増えた。

今回のテーマは「AI社会とインターネット」
出展者数の拡大傾向

 今回も前回と同じく、デジタルサイネージジャパン(DSJ)、アプリジャパン(APPS JAPAN)、画像認識AI EXPO(Vision AI Expo)との4展同時開催となった。

 さらにその中で、Interop Tokyoの特別企画として、宇宙に関する「Internet x Space Summit」と放送・映像業界のIP化の「Internet x Media Summit」が開かれた。また、アプリジャパンの特別企画として「生成AIゾーン」が、デジタルサイネージジャパンとアプリジャパンの特別企画として「Digital Human Expo 2024」も開催されている。

4展同時開催
Internet x Space Summit
Internet x Media Summit
生成AIゾーン
Digital Human Expo 2024

最新の技術や機器が実運用で動いているところを見られるShowNet

 今年のShowNetについては、ShowNet NOCチームメンバー ジェネラリスト/国立天文台/北陸先端科学技術大学院大学の遠峰隆史氏が解説した。

ShowNet NOCチームメンバー ジェネラリスト/国立天文台/北陸先端科学技術大学院大学の遠峰隆史氏

ネットワーク規模も電力消費も増加、対外接続は2Tbpsに

 ShowNetとは、最新のネットワーク技術やネットワーク機器などを相互に接続する場であり、それが実運用で動いている様子を見られるのが特徴だ。最初は出展社が利用するものだったが、ここ10年ほどはWi-Fiで来場者も利用するようになっている。それにより、「5年後や10年後のネットワークを、いままの最新のネットワークで体感いただく」(遠峰氏)という。

 今年のShowNetのテーマは「Inter * Network」。この「*」にはさまざまなものが入り、さまざまなものをつなぐネットワークという意味を表す。さまざまな企業の間をつないだり、さまざまな生産活動の間をつないだり、ゆくゆくは星の間をつないだりというわけだ。

 ネットワークの規模は年々増えており、今年はコントリビューション機器/製品/サービスの数は約2300となった。動員数は653名で、内訳はNOCチーム31名、STM34名、コントリビューター581名。このメンバーが、2週間前から会場にネットワークを設置したという。

 UTPの総延長は約24.5kmで、光ファイバーの総延長は約8.0kmとなり、光での通信が増えているという。総電気容量は100Vが約71.0kW、200Vが約93.0kWで、ラックが増えていることや機器の高性能化で消費電力が増えているとのことだった。

ShowNetとは
今年のネットワークの規模。なお、動員数はスライドの数から更新されているとのこと

 ShowNetでは毎年、世界初展示や日本初展示の製品も投入される。今回は、東陽テクニカのパケットキャプチャ製品であるSYNESIS 100/200G対応ラックマウントモデルが世界初展示となった。日本初展示としては、ルーター、スイッチ、光伝送製品、ネットワークテスターなどの製品のほか、Ubiquityの小規模企業向け製品もあった。

世界初展示
日本初展示

 対外接続は今回はトータル2Tbpsとなった。内訳は、KDDIとソフトバンクが各100Gbpsで計200Gbps。それに加えて2023年に続いてIOWNのOpen APNの回線が、1対のファイバーに光多重で100G~400Gを複数束ねて6波1.8Tbpsとなっている。

 ShowNetのトポロジー図は公式サイトでも公開されている。図の上部がインナーネット側、図の下部が出展社や来場者のアクセスネットワークとなっている。下部にはそのほか、放送・映像業界のIP化のMedia over IPのネットワークや、ローカル5Gのネットワークも含まれている。

 トポロジー図で縦中央を貫いて描かれているバックボーン部分は、従来は梯子型に冗長構成が組まれていたが、今年は三角形にして副系を有効できるようにしたとの説明だった。

対外接続
ShowNetのトポロジー図

分野ごとのテーマや特徴

 続いて遠峰氏は、分科会ごとに今年のテーマや特徴を解説した。

 ファシリティ(設備)でのテーマは「革新と伝統を融合したファシリティ」で、基本は変わらない中でどう進化させるかに取り組んでいるという。具体的には、ここ数年はラック間の配線を集約化に取り組んでおり、今年はコンパクトな次世代コネクタでさらなる高密度化に挑戦した。また、気温や湿度などの環境を監視して、可視化や確認ができるようにした。

 トランスポート(伝送)でのテーマは「マルチ*で広がる光伝送の未来」。マルチバンドの光波長多重によって1本に複数の回線を入れて広帯域伝送や1対多の接続を実現。さらにマルチパスにより伝送網の冗長性を確保する。さらに、伝送網にもマルチベンダーの相互接続の動きが来て、相互接続を実現しているという。

ファシリティ(設備)
トランスポート(伝送)

 L2/L3でのテーマは「多様化するネットワーク環境を柔軟に統合するルーティングテクノロジー」で、さまざまなルーティングを組み合わせて構築している。バックボーンネットワークは2023年同様にIPv6のリンクローカルアドレスのみで構築し、その上のオーバレイネットワークで通信を流している。そのSRv6においては、今回、通り道を単一の宛先アドレスに圧縮するCompressed SIDを採用した。出展社はEthernet VPN(EVPN)のタイプ5で収容している。そのほか、SRv6を使った衛星回線と地上ネットワークのシームレスな統合にも取り組んだ。

 Wi-Fiでのテーマは「持続可能な次世代Wi-Fi運用に向けて」。Wi-Fi 6EやWi-Fi7を使ったマルチバンドWi-Fiにより、有線に匹敵する速度を確認したという。そのほか、無線の見える化とサーベイや、マルチバンドでサービスを提供できるWi-Fiにも取り組んだ。

L2/L3
Wi-Fi

 データセンター/クラウドでのテーマは「コンピューティング資源を統合した分散コンテナ基盤の進化」。コンテナによってネットワークに仮想アプライアンスやサービスを提供。そのためにマルチコンテナ基盤やマルチクラウド連携を行った。

 セキュリティでのテーマは「3DアプローチでShowNetを守るセキュリティ」。2023年に引き続きリモートからネットワークの構築や運用ができるようテレワークからのゼロトラスト接続を用意。EASMによる攻撃対象領域管理や、セキュリティ統合監視も行った。

データセンター/クラウド
セキュリティ

 モニタリング(監視)でのテーマは、「AI技術とUXX監視の応用でShowNetの基盤を支えるモニタリングシステム」。機器からデータを集めるだけでなくそれを運用に使うための分析基盤を構築し、AI技術と監視システムの融合により運用のしやすさや問題の見つけやすさをはかった。

 テスターでのテーマは「ネットワークテストの最適化と利便性の追求」。ShowNetでは大きなトラフィックが発生するが、本当に負荷がかかるのは会期が始まってからのため、毎回事前にテスターを使って耐えられるかどうかをテストしている。これまではテスターを動かしている間はエンジニアがはりついていたが、今年はシナリオを流しこんで実行するなど、さまざまな自動化に取り組んだという。

モニタリング(監視)
テスター

 5Gでのテーマは「高信頼で安定したローカル5Gによるサービス提供」。ShowNetでは2022年からローカル5Gに取り組んでおり、2023年までは実験局として稼働していたが、今年は実用局の免許をとってデモンストレーションを実施した。

 Media over IPでのテーマは「放送局とShowNetが共創する、未来の放送システム」。この分野については、これまでの放送と通信の融合から、中継現場など制作の現場のIP化に広がっているという。具体的には今回、Interop会場から放送局に映像を送ったり、それを編集した映像をInterop会場に送ったりといった相互接続を実施した。

5G
Media over IP

 STMは(ShowNet Team Member)は、こうしたShowNetを支えるボランティア集団で、テーマは「次世代エンジニアが躍動! ShowNetを支えるボランティア」。毎回、若手エンジニアの力を借りてShowNetを構築することによって、若手エンジニアにも体験を積んでもらい人的ネットワークも広げてもらうという。

STM(ShowNet Team Member)

ShowNetブースで動く機器を紹介

 ShowNetブースでは、ネットワーク本体のN-1~N-14ラック(ローカル5Gを含む)と、サービスを提供するデータセンターのD-1~D-4ラックが設置されていた。

 ブースの入り口にはネットワークトポロジー図が展示され、分野ごとに説明が付けられていた。また、その前の床には、対外接続図と、ガラス張りで床下の対外接続回線が見られる場所も用意されていた。

ShowNetブース
ShowNetブース床の対外接続図
ShowNetブースの床下に見える対外接続回線
ShowNetブース入り口に展示されたコメントつきのネットワークトポロジー図

ネットワーク本体の14個のラック

 ラックN-1はコアネットワーク。トポロジー図で中央を縦に貫くバックボーンだ。前述のとおり、IPv6のリンクローカルアドレスのみで構成して、その上のオーバレイネットワクで通信を流している。

 ラックN-2はネットワーク品質検査だ。パッチ配線を切り替えてさまざまなテストを行う。そのために物理的にパッチ配線を切り替えるロボットも導入されていた。また、日本初展示となる東陽テクニカの800Gテスターも使われていた。

ラックN-1:コアネットワーク
ラックN-2:ネットワーク品質検査
パッチ配線を切り替えるロボット
東陽テクニカの800Gテスターも

 ラックN-3は対外接続ルーター/伝送、ラックN-4は対外接続回線/対外接続ルーターだ。これまでは対外接続はN-1に置かれていたが、今回は都合によりここになったという。

 これらのラックでトータル2Tbpsの対外回線を収容する。ラックN-33のJuniperのMX204でKDDIの回線に、ファーウェイのNE800-M4でソフトバンクの回線に接続していた。また、ラックN-4の機器でIOWN Open APNに接続していた。

 変わったところでは、ラックN-3には、惑星間の通信遅延を想定したDTN(Delay Tolerant Network)のデモンストレーション機材も置かれていた。

ラックN-3:対外接続ルーター/伝送
ラックN-4:対外接続回線/対外接続ルーター
IOWN Open APNの機器
惑星間の通信遅延を想定したDTN(Delay Tolerant Network)のデモンストレーション機材

 N-5は高密度パッチパネル/光伝送網。この上半分にすべてのラックのすべての光回線を集約してパッチパネルで切り替えられるようになっている。前述のとおり、コンパクトなSNコネクタにより、さらなる高密度化に取り組んだ。

 下半分は光伝送で、今回は3系統からなる。特にホール3とホール4の間は建物が分かれており幕張メッセのケーブルのみ使えるため、多重化することで帯域を確保したという。

ラックN-5:高密度パッチパネル/光伝送網
SNコネクタによりさらなる高密度化
光伝送。左のホワイトボードには、ホール3とホール4の間についての説明も

 ラックN-6は、Wi-Fi/オペレータ用ネットワークだ。Wi-Fiコントローラとしてアプライアンス型もクラウド型も利用しており、このラックに集約されている。また、L2ローミングのためにヤマハRTX3510でVPNを構成していた。

 また、共通アカウントでWi-Fiを利用できるOpenRoamingに対応しており、大学共通でWi-Fiを使えるeduroamを利用している大学生であればInterop会場のWi-Fiに自動的に接続するとのことだった。

 ラックN-7は、ユーザー収容ネットワークだ。ここで、SRv6のバックボーンとEVPNの出展社ネットワークを接続する。

ラックN-6:Wi-Fi/オペレータ用ネットワーク
ラックN-7:ユーザー収容ネットワーク

 ラックN-8は出展社向けセキュリティサービスだ。ファイアウォールなどのネットワークセキュリティ機能を、ルーティングを曲げてサービスチェイニングで提供する。NICTのCURE、Nirvana改、Nicterもこのラックに入っている。

 ラックN-9は脅威検出/ネットワークフォレンジックだ。光TAPで集めたものをネットワークパケットブローカーで前処理して監視する。

ラックN-8:出展社向けセキュリティサービス
ラックN-9は脅威検出/ネットワークフォレンジック

 ラックN-10はフロー監視/UX品質分析、ラックN-11は統合監視/パケット解析だ。統合監視ではZabbixなどが動いている。また、気温やラックの電子錠などのファシリティ監視も行っている。

ラックN-10:フロー監視/UX品質分析
ラックN-11:統合監視/パケット解析

 ラックN-12は、5G/Media over IP 時刻供給ネットワークだ。NTPより高精度な時刻同期プロトコルであるPTPによる時刻を、ローカル5GとMedia over IPの機器に供給する。ローカル5GとMedia over IPはプロファイルが異なるため、これまではPTP機器を共用できなかったが、今回は1つの機器から複数のインターフェイスで時刻を供給できるようにすることで1箇所に集約した。

 ラックN-13とN-14は、ローカル5Gだ。今回は3系統のローカル5Gシステムを構築し、Sub 6の周波数帯を3つに分けて運用した。

ラックN-12:5G/Media over IP 時刻供給ネットワーク
ラックN-13:ローカル5G
ラックN-14:ローカル5G
3系統のローカル5Gシステムを構築

データセンターの4個のラック

 ラックD-1~D-4は、各種サービスを提供するデータセンターを模したラックだ。

 そのうちラックD-1は後回しにして、ラックD-2はセキュアリモートアクセスサービスだ。ShowNetの構築や運用のオペレーションをリモートからできるようにする設備が収められている。

 ラックD-3はコンテナ基盤/RoCEネットワーク、ラックD-4はマルチクラスタコンテナ基盤だ。複数のコンテナ基盤や仮想化基盤、クラウドを相互接続して利用しているという。さらに、AIを想定してリモートDMA転送のRoCE(RDMA over Converg4ed Ethernet)の複数ベンダー間接続なども試験していた。

 なお、Seagateの2PBストレージ(20TB HDD×106個)もここに設置されていた。

 ちなみに、ここ数年と同様に、データセンターラックの背後はガラス張りとなり、ラックの背面のきれいにケーブリングされた様子が示されていた。

ラックD-2:セキュアリモートアクセスサービス
ラックD-3:コンテナ基盤/RoCEネットワーク
ラックD-4:マルチクラスタコンテナ基盤
Seagateの2PBストレージ
ラックの背面
展示されたオペレーション機器

映像を放送局の間で往復させて制作する実験

 ラックD-14は、Media over IP回線設備だ。ここを介して、実験に参加した各放送局と接続している。NHKと日本テレビとはNUROで、テレビ北海道とはHOTnetでの接続となる。従来は専用線が常識なところを、ShowNetなのであえてインターネット回線とVPNでの接続を試したとのことだった。

ラックD-14:Media over IP回線設備

 ShowNetブース内には、ShowNetのNOC(Network Operation Center)と同様に、Media over IPのMOC(Media Operation Center)も設けられた。

 MOCの前には、ShowNetブースの映像を各放送局に送り、各局で合成などの処理を加えてまたShowNetに戻した、無圧縮と圧縮の映像が流されていた。

MOC(Media Operation Center)
Media over IPの実験の紹介
ShowNetと各放送局との相互接続の映像

NOCが監視し運用

 こうしたネットワークはNOC(Network Operation Center)で常に監視し運用していた。また、NOC横には「ASK NOC」として手書きでNOCに質問できるデジタルホワイトボードも設けられていた。

 なお、ハードウェア機器だけでなく、ソフトウェアについても名前が展示されていた。

NOC(Network Operation Center)
Ask NOCのデジタルホワイトボード
ソフトウェアの名前の展示