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Red Hat Summit 2023開幕、製品やサービスなどの新プロダクトを相次いで発表
CentOS 7からRHELへの移行施策、コンテナ管理ツールPodman Desktop 1.0のリリースも
2023年5月25日 06:45
米Red Hatの年次イベント「Red Hat Summit 2023」が、5月23日(米国時間)に開幕した。今回は、米国ボストンでのリアルイベントと、オンラインのバーチャルイベントの併催形式での開催となった。
初日の基調講演では、製品やサービスなどの新プロダクトが相次いで発表された。
- 組織内の複数のプロジェクトをまとめる開発者ポータル「Red Hat Developer Hub」
- Red Hat OpenShift上でAI開発のMLOpsを実現する「Red Hat OpenShift AI」
- AnsibleのYAML形式のプレイブックを生成AIを使って作成できる「Ansible Lightspeed」
- Red Hat Ansibleをモニタリングツールなどと組み合わせてプレイブックを実行する「Event-Driven Ansible」
- 複数のサービスやAPIを接続する「Red Hat Service Interconnect」
- ナレッジベースによりシステムの問題を発見する「Red Hat Insights」の強化
- OSSサプライチェーンセキュリティの「Red Hat Trusted Software Supply Chain」
- コンテナ向けセキュリティ製品のクラウド版「Red Hat Advanced Cluster Security Cloud Service」
また、それと同時に、CentOS 7からRHELへの移行施策や、コンテナ管理ツールPodman Desktop 1.0のリリースもアナウンスされた。
以下、発表された内容を紹介する。
開発者ポータル「Red Hat Developer Hub」
「Red Hat Developer Hub」は、オープンソースの開発者ポータル「Backstage」をベースにした商用版。その開発版は「Janus」として公開されている。組織内に多数のプロジェクトがあるときに、ほかのプロジェクトで開発しているサービスやAPIの情報をサービスカタログで見つけられるようにする。なお、BackstageはSpotify社によって開発された。
また、Red Hat Developer HubやBackstageに機能を追加するための6つのプラグインをまとめた「Red Hat Plug-ins for Backstage」も発表した。Kubernetesのトポロジー表示、Open Cluster Manager(OCM)によるマルチクラスタービュー、コンテナイメージレジストリQueyに登録されたイメージの表示、CI/CDツールTektonのパイプラインの表示、IAMのKeycloakによる認証と認可、CDツールのArgo CDの表示が含まれる。
提供予定は、今年後半に、Red Hat Plug-ins for BackstageがGA(一般提供開始)に、Red Hat Developer Hubがデバロッパープレビューとなる予定。
OpenShift上でMLOpsを実現する「Red Hat OpenShift AI」
基調講演では「Red Hat OpenShift AI」が、Red Hat Developer Hubといっしょにデモされていた。
Red Hat OpenShift AIは、製品というより、AIの開発やデプロイを扱うためのOpenShiftの機能追加といえる。機械学習(ML)を本番アプリケーションにするためには、データを収集し、モデルを作成し、チューニングし、再学習し、デプロイし、メトリクスを確認するといった運用が必要になる。そうしたことを、開発者にとってのDevOpsのように、データサイエンティストが作業できるようにするMLOpsと呼ばれるプラットフォームの機能を提供する。
Red Hat OpenShift AIでは、デプロイメントパイプラインや、モデルをデプロイするモデルサービング、パフォーマンスやメトリクスをとるモデルモニタリングの機能が含まれる。今後さらに機能を追加していく。
Red Hat OpenShift AIについて、Red HatのCTOのChris Wright氏は、AIモデル開発とアプリケーション開発が同じプラットフォームで行われることが、AIを使ったアプリケーションを開発する上で特徴となると説明した。
生成AIでAnsibleプレイブックを生成する「Ansible Lightspeed」
AIを利用した技術としては、インフラ構築自動化ツールAnsibleのプレイブックを、生成AIを使って作成できる「Ansible Lightspeed with IBM Watson Code Assistant」が発表された。
GitHub Copilotが自然言語のコメントや関数名などからプログラミング言語のコードを生成して補完するのと同様に、YAML形式で書くAnsibleのプレイブック(設定)を書くときに、自然言語のコメントから実際の記述内容を補完するというものだ。以前からIBMで研究段階のものとして公表されていた「Project Wisdom」が元になっており、まずはVisual Studio Codeから使える。
CTOのChris Wright氏はAnsible Lightspeedについて、「domain-specificな(特定分野に特価した)生成AI」であることを強調した。氏は、ChatGPTのような汎用の生成AIはとてもすばらしいが、汎用であるがために特定分野で使うには精度が問題になると説明。それに対してAnsible Lightspeedの生成AIは、AnsibleプレイブックのYAMLに特化して学習しているため、エンタープライズの運用に使える精度で記述を生成できると主張した。また、同様の技術をOpenShift(Kubernetes)のYAMLに応用する可能性についても触れた。
提供予定としては、今年後半にテクノロジープレビューが提供される予定。
異常発生時などにAnsibleを自動実行する「Event-Driven Ansible」
Ansibleについては「Event-Driven Ansible」のGAも発表された。
Event-Driven Ansibleは、モニタリングやオブザーバビリティのツールと連携し、例えばモニタリングツールで異常が検知されると、あらかじめ設定したルールによってAnsibleにイベントを送り、Ansibleが自動的に対応する。
イベントソースとしては、いくつかのモニタリングやオブザーバビリティのツールのほか、現在使っているツールにカスタムで対応することも対応。また、Red Hat OpenShift、Red Hat Insights、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、ServiceNowに対応する補足コンテンツをRed Hatが用意している。
提供予定としては、2023年6月にリリース予定のAnsible Automation Platform 2.4の顧客が利用できるようになる予定。
クラスター間でサービスを接続する「Red Hat Service Interconnect」
Kubernetesクラスターやクラウドなどの間でサービスを接続する「Red Hat Service Interconnect」も発表された。オープンソースの「Skupper.io」がベースになっている。
Red Hat Service Interconnect は、Kubernetesクラスター、仮想マシン、物理マシンの上のアプリケーション間で、信頼できる接続を実現する。
すでにGAとなっている。
「Red Hat Insights」がconsole.redhat.comに統合
ナレッジベースによりシステムの問題を発見する「Red Hat Insights」も強化された。
Red Hat Insightsが、クラウドやオンプレミスのリソースを統合管理するクラウド上のコンソール「console.redhat.com」から利用できるようになった。また、Red Hat Insightsイメージビルダーのサービスにより、組織特有のセキュリティやコンプライアンスの要件にあったOSイメージを作成できる。
すでにGAとなっている。
ソフトウェアサプライチェーンセキュリティのソリューション「Red Hat Trusted Software Supply Chain」
「Red Hat Trusted Software Supply Chain」は、ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティの問題に対するソリューションだ。
現代のソフトウェア開発では何らかの形でオープンソースのライブラリやイメージなどを利用していることが多く、それがまた別のライブラリなどを利用していたりする。そのため、依存(利用)先のライブラリにマルウェアなどが紛れこむと、ソフトウェアが影響を受けてしまう。こうしたソフトウェアサプライチェーンの問題に対応するのがRed Hat Trusted Software Supply Chainのソリューションだ。
その一環としてまず、「Red Hat Trusted Application Pipeline」と、「Red Hat Trusted Content」の2つのサービスが、QueyやAdvanced Cluster Security(ACS)で利用できるようになる。Red Hat Trusted Application Pipelineは、CI/CD中でコード署名を実現するツールで、SBOM(ソフトウェア部品表)の自動生成もサポートしている。また、Red Hat Trusted Contentは、OSSの既知の脆弱性などの情報をリアルタイムに提供する。
Red Hat Trusted Application Pipelineはすでにサービスプレビューとして利用できる。Red Hat Trusted Contentは、数週間以内にサービスプレビューとして利用できるようになる。
Red Hat ACSのクラウド版「Red Hat Advanced Cluster Security as a Service」
そのほか、コンテナセキュリティ製品Red Hat Advanced Cluster Security(ACS)をクラウド上のマネージドサービスとして提供する「Red Hat Advanced Cluster Security as a Service」も発表された。
現在、Amazon Marketplaceで限定的に提供されている。
CentOS 7からRHELへの移行施策や、Podman Desktop 1.0のリリースも
基調講演では紹介されなかったが、2024年にサポート終了を迎えるCentOS 7からRHELに移行する施策についてもアナウンスがなされた。
「Red Hat Enterprise Linux for Third Party Linux Migration」として、RHELのライセンスを“競争力のある価格”で提供する。CentOS 7で動いているインスタンスをそのままRHEL 7に変換するためのツールやベストプラクティスも含まれる。
通常の購入ルートのほか、AWS、Azure、Google Cloudなどのマーケットプレイスから購入できるようにする。
コンテナ管理ツール「Podman Desktop 1.0 community edition」もリリースされた。PodmanはDockerを代替するコンテナエンジンで、Podman DesktopはDockerのDocker Desktopにあたる。