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Red HatのCTOが来日会見、オープン・ハイブリッドクラウドやAIプラットフォームの進展などを説明

 米Red Hat Inc.の日本法人のレッドハット株式会社は、Red Hatのシニアバイスプレジデント兼CTOであるクリス・ライト(Chris Wright)氏による記者説明会を10月16日に開催した。

 Wright氏が翌17日に開催される「Red Hat Summit: Connect | Japan」のために来日したのに合わせて開催されたもの。またWright氏は、前週に台湾で開催されたIOWNグローバル・フォーラムの年次会合にも出席したという。

 記者会見では、Red Hatの最近の取り組みとして、オープンハイブリッドクラウドや、AIプラットフォーム、OpenShift、仮想化、IOWNなどについて説明がなされた。

左から、Red Hat シニアバイスプレジデント兼CTO Chris Wright氏、レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦美穂氏

RHEL AIとOpenShift AIが、オープン・ハイブリッドクラウドでのAIプラットフォーム

 Red Hatではここ何年か「オープン・ハイブリッドクラウド」に事業の焦点を当てている。そして、この1年ほどは、そのポートフォリオにAIを組み込んでいるとWright氏は説明した。

 その分野としては、まずAnsible Automation Platformによる自動化がある。それも、単体のタスクの自動化だけではなく、企業の業務を、自動化を中心に構築するミッションクリティカルな自動化へと強化させたと氏は語る。

 次に、このプラットフォームでアプリケーションを開発する開発者の生産性を向上させることがある。そこには、法規制や社内規制などのポリシーを適用することによる生産性向上も含まれる。

 そして、このプラットフォームは、データセンターやパブリッドクラウドだけでなく、エッジにまで拡張され、通信、小売、製造業、自動車などの分野に提供されるように進化してきた、とWright氏は語った。

オープン・ハイブリッドクラウドのプラットフォーム

 Red HatのAIへの取り組みは、複数の分野からなる。

 まずは「AIモデル」だ。「私のビジョンでは、現在のエンタープライズはアプリケーションとビジネスロジックからなり、これからのエンタープライズはアプリケーションとビジネスロジックに機械学習モデルを組み合わせたものになる」とWright氏。そして、アプリケーションがその企業のビジネスに合わせてカスタマイズされるように、AIモデルも企業のユースケースに合わせてカスタマイズされる、と述べた。

 続いて、それを実現するための「AIプラットフォーム」だ。モデルを運用環境で稼働させ、モデルのライフサイクルを管理し、カスタマイズのワークフローを実現する。

 Red Hatの製品にAIを取り入れた「AI対応ポートフォリオ」もある。自動化ツールAnsibleのプレイブックの作成を生成AIで支援するコーディングアシスタント「Ansible Lightspeed」をはじめ、Lightspeedブランドで「Red Hat Enterprise Linux(RHEL) Lightspeed」と「OpenShift Lightspeed」も開発している。

 同様に、開発者の生産性向上を支援するツールにも投資している、とWright氏。こうしたツールの多くでは、パブリッククラウドを使うようになっているため、自社の資産をパブリッククラウドに送信することに懸念を抱く企業も多いという。そのため、同様の機能をオンプレミスで構築する方法が重要だ、と氏は述べた。

Red HatのAIポートフォリオ

 具体的な製品としては、まず、Red Hat Enterprise Linux AI(RHEL AI)がある。LinuxディストリビューションのRHELに、AIワークロードをサポートする機能を統合した製品だ。

 統合したものとしては、IBM Researchが開発してApacheライセンスで公開しているLLMのAIモデル「Granite」がある。これは、同じく統合されたInstructLabツールなどを使って、企業ごとにモデルをチューニングすることを想定したものだという。

 RHEL AIは、DellやLenovo、Supermicroなどパートナー企業のGPUサーバーにバンドルされた形でも提供されている。通常のRHELと同様にデータセンターからパブリッククラウドまでで利用できるため、データに関するセキュリティやプライバシー上の懸念から、自社でデータを100%コントロールできる自社データセンターのGPUサーバーを必要としている企業が多い、とWright氏は述べた。

RHEL AI

 より大規模なAIプラットフォームとしてはOpenShiftをベースとした「Red Hat OpenShift AI」がある。モデルとアプリケーションを、OpenShiftの機能により、DevOpsとMLOpsの反復的なプロセスによって運用環境にデプロイできるものだという。RHEL AIと同様に、データセンターからパブリッククラウドまで導入場所を選べることもWright氏は挙げた。

Red Hat OpenShift AI

OpenStackも仮想マシンもコントロールをOpenShiftに統合

 続いて、既存ワークロードに関する、OpenStack関連の取り組みをWright氏は紹介した。

 まず、プライベートクラウドプラットフォーム「Red Hat OpenStack」において、将来のバージョンでは、コントロールプレーン(管理部分)がOpenStackで動くようになる、とWright氏は説明した。ワークロードが動作するワーカーノードは、OpenShiftとは独立して、従来通り動作する。

 これにより、通信事業者や金融機関などでOpenStackにより大規模なプライベートクラウドを構築している企業が、従来のインフラを維持しながら、コントロールをOpenShiftに統合できるという。

Red Hat OpenStack Services on OpenShift

 もう一つ、OpenShift上で仮想マシンを動かす「Red Hat OpenShift Virtualization」についてもWright氏は紹介した。

 顧客の声として、エンタープライズで使われている仮想化プラットフォームについて、企業が技術的ではなく“商業的現実”による課題に直面していると氏は言う(VMware製品のことを指していると思われる)。

 これに対し、長く広くで使われ安定した仮想化ハイパーバイザー「KVM」と、オープンソースのKubeVirtを元に、OpenShiftで仮想マシンを動かすというわけだ。

 さらに、OpenShiftで仮想マシンを動かすことにより、クラウドネイティブなアプリケーションから、AIワークロード、従来のワークロードまで、単一のプラットフォームに統合でき、運用コストを削減できる、とWright氏は述べた。

企業の仮想化プラットフォームの課題

IOWNグローバル・フォーラムで次世代ネットワークのアーキテクチャを実現

 Wright氏は、Red Hatが参画しているIOWNグローバル・フォーラムについても語った。

 IOWNは、信号を光のまま電気に変換することなく伝送するオールフォトニクスネットワークによって、低遅延広帯域な通信を実現する技術だ。これによりシステムの消費電力を1/100に削減し、125倍以上の容量を実現する。日本で始まり、IOWNグローバル・フォーラムによってグローバルで取り組みがなされている。

 「IOWNグローバル・フォーラムにおける私たちの焦点は、フォトニクスネットワーク上に構築される、革新的な次世代ネットワークのアーキテクチャを実現すること」(Wright氏)。

IOWNグローバル・フォーラムの取り組み

 Wright氏は、IOWNグローバル・フォーラムでは技術だけでなくユースケースにも焦点を当てていると説明。ロボットや、産業オートメーション、スマート農業、スマートシティ、自動運転車、遠隔医療、エンターテイメントなど、さまざまな業種の多くのユースケースを検討していると語った。

 その一つとして、Red HatがNTT、NVIDIA、富士通と実施したPoCもWright氏は説明した。AI分析において、IOWNでつないだリモートのデータセンターのGPUやGPU、ストレージなどのリソースをプールし、動的に割り当てる実験だという。結果として、消費電力を60%削減できたと氏は紹介した。

 そして、IOWNグローバル・フォーラムでは2030年のビジョンに向けて、よりよいインフラを作るイノベーションであり、とてもエキサイティングだ、とWright氏は語った。

IOWNグローバル・フォーラムのユースケース