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AWSとパートナーの連携は“Unlimited Together”――、日本企業の人材育成やDXを支えるAWSパートナーたち

AWS Partner Summit Japan 2023

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は3月16日~17日の2日間に渡って、国内パートナー企業を対象にしたる2023年度キックオフイベント「AWS Partner Summit Japan 2023」を開催した。

 2011年3月に東京リージョンがローンチしてからすでに12年が経過したが、この間、日本市場におけるAWSビジネスは常にパートナー企業とともに成長/拡大してきたといっても過言ではない。特に近年、日本でもDXの重要性がフォーカスされるようになり、DXの技術的基盤ともいえるクラウドのエキスパートを数多く抱えるAWSパートナー企業には、高い注目が集まっている。

 日本ではエンジニアの76%がIT企業に所属しているという調査結果もあるが、これはユーザー企業に多くのエンジニアが在籍するほかの先進諸国の傾向とは大きく異なっている。つまり、日本企業が世界と同じレベルでDXを推進しようとするなら、パートナーの支援なしで進めていくことはかなり難しいといえるだろう。

日本と米国におけるエンジニアの在籍比率の違い。日本はエンジニアの76%がSIerやITベンダーなどのIT企業に在籍しており、ユーザー企業に在籍するエンジニアは3割以下。米国の場合、この比率がほぼ逆になる

 日本のAWSパートナーの評価は、グローバルでも非常に高い。例えば、2022年11月に米国ラスベガスで開催された年次カンファレンス「AWS re:Invent 2022」では、クラスメソッド(SI Partner of the Year - GLOBAL)、トレノケート(Training Partner of the Year - GLOBAL)、アイレット(SI Partner of the Year - APJ)、ダイワボウ情報システム(Rising Distributor Partner of the Year - APJ)、サイバーセキュリティクラウド(Marketplace Partner of the Year - APJ)の5社がAWSパートナーアワードを受賞し、日本のパートナー企業の実力と存在感を世界に示すことになった。

 特にクラスメソッドのSI Partner of the Year - GLOBALの受賞は、同社がAWSの構築/導入支援(SIビジネス)において世界でもっともすぐれた技術パートナーとして評価されたことを意味しており、その意義は、日本のAWSパートナー企業にとっても顧客企業にとっても非常に大きい。

2022年11月に米国ラスベガスで開催された「AWS re:Invent 2022」で表彰された日本のパートナー5社。中でも、クラスメソッドが「SI Partner of the Year - Global」を受賞したのは大きなニュースとなった

 「日本の社会に存在する課題、顧客企業の課題を解決していくためには、パートナー企業の力が不可欠。われわれはAWSパートナーと“Together Unlimited”――、限界のない協力体制でもって日本企業のDXを支援していく」――。

 本サミットの基調講演でホストを務めたAWSジャパン 執行役員 パートナーアライアンス統括本部長 渡邉宗行氏は、あらためて日本市場におけるAWSパートナーとの連携強化にコミットしている。では彼らは、具体的にどのようなスキルとアプローチでもって顧客のDX推進に貢献しようとしているのか。

 本稿では基調講演に登壇したパートナー企業の中から、NTTデータとヘプタゴンのケースを紹介し、AWSパートナーが国内企業のDX実現で果たす役割について見ていきたい。

今回のAWS Partner Summitのテーマとなったのは「Together Unlimited」――パートナーとの連携をどこまでも拡大していくというAWSの意志が込められている
AWSジャパン 執行役員 パートナーアライアンス統括本部長 渡邉宗行氏

NTTデータ - 質/量ともに圧倒的なプレミアティアならではの若手人材育成プログラム

2012年にAPN(AWSパートナーネットワーク)に参画し、2017年には実績/専門知識ともにグローバルでも最上位のパートナー企業のみが認定されるAWSプレミアティア サービスパートナーとなったNTTデータは、年々、AWSとの関係性を深めており、2022年1月からは国内において「クラウドを活用したデジタルビジネス推進を目的とした戦略的協業」をAWSと開始、顧客のクラウド導入とDXを推進するビジネスをひろく展開中だ。

NTTデータにおけるAWSビジネスの歩み。2012年にAPN加入後、2017年には最上位クライテリアのプレミアティアパートナーに認定、また2021年からはAWSとの間で戦略的協業を開始し、年を追うごとに密接な関係を築いている

 ゲストスピーカーとして登壇したNTTデータ ソリューション事業本部 データセンタ&クラウドサービス事業部 サービスインテグレーション統括部 統括部長 海野孝幸氏は、NTTデータがAWSとの戦略的協業によって強化できる領域として以下の3つを挙げている。

・ビジネス … デジタルビジネス創出/戦略案件における競争力強化/ミッションクリティカル体制強化
・オファリング … デジタルオファリング強化/グローバルへの展開
・テクノロジー&人財 … メソドロジーおよびフレームワーク開発/クラウド人財の育成と確保

NTTデータ ソリューション事業本部 データセンタ&クラウドサービス事業部 サービスインテグレーション統括部 統括部長 海野孝幸氏

 この中でも特に海野氏が強調していたのが、「クラウド人財の育成と確保」である。あえて“人財”という文字を当てていることからもわかるように、同社はAWS認定技術者をクラウドビジネスにおけるもっとも重要なリソースとして位置づけており、AWSとの戦略的協業においても認定技術者数を増やし、またその質を高めることに注力している。2022年時点で同社のAWS認定技術者数は合計で3600名、うち、APNに参加する国内パートナー企業の所属エンジニアを対象にした表彰プログラムの最上位クライテリア「AWS Ambassador」が2名、その下の「AWS Top Engineers」は12名が在籍する。

 また、2025年には社内のAWS認定技術者を5000名にする目標も掲げており、「質/量の両面からクラウド人材を育成し、エンジニアのイネーブルメントを高めていく」(海野氏)としている。クラウドビジネスのニーズが高まっている現在、NTTデータにとっても在籍するエンジニアにとっても機会損失となることがないように、人財育成を進めていく姿勢だ。

NTTデータには2022年時点ですでに3600名のAWS認定技術者が在籍するが、2025年までにはこれを5000名にする目標を掲げている。また技術者の質の向上にも力を入れており、AWS Partner AmbassadorやAPN Tom Engineersなどに選出されるメンバーも在籍する

 NTTデータのクラウド人財育成における最大の特徴は、若手技術者のトレーニングと実践に力を入れている点だ。トレーニングプログラムはニーズやレベル(初級/中級/上級または専門技術)に応じて網羅的に提供されており、新入社員や若手社員が基礎知識としてのクラウドを学びやすい環境が整っている。また、トップ技術者育成においては、2021年度のAWS Ambassadorである川畑光平氏が塾長となって、クラウドネイティブなアーキテクチャを実装するためのスキルと知識を直接指導する。

 さらに「AWS認定技術者という資格が宝の持ち腐れにならないよう、エンジニアが早いタイミングで、現場で活躍できるようにするための独自研修」(海野氏)として、クラウドのテクニカルスキルとビジネススキル、加えてNTTデータ社員としての役割や事業方針を踏まえた実践型研修を、CCoE(Center of Cloud Excellence)と技術部隊が連携して実施している。この研修には3段階のプログラムが用意されており、初級では「顧客からのQAに1時間以内で回答を作成して発表する」、実践編では「1カ月で仮想のWebサイトの開発を体験する」、クラウドコンサル(上級編)では「提案書目次/WBS作成トレーニング」などを通して、若手のうちから現場で使える知識とスキルを身につけることができる。

NTTデータのクラウド人財育成プログラムはニーズやレベルに合わせて網羅的に構成されている。特に若いエンジニアにとって機会損失がないように、トップ技術者育成のための技術本塾を開催するなど、自由に学べる環境を多数提供している点が特徴
学んだテクニカルスキル/ビジネススキルをすぐに現場で実践できるよう、CCoEと技術部隊が連携した独自血研修も実施

 若手エンジニアの育成にあたってはグローバルでの活躍も考慮されており、例えばグローバルのNTTデータグループのAWS技術者が集結する「AWS Gameday Globa Jam 2022」の開催や、世界中のAWS技術者が競うコンペティション「AWS DeepRacer League」への参加の推奨など、「若手のエンジニアが世界で自主的に活躍できる文化を醸成する」(海野氏)環境も整っている。こうした充実した環境のもとで育ったエンジニアには、やがて次世代のトップクラウド人財として顧客のビジネスに貢献していくパスが拓かれる。世界でも数少ないAWSプレミアティアサービスパートナーならではの、質/量ともに圧倒的なボリュームで展開される人財育成アプローチといえるだろう。

ヘプタゴン - AWSのテクノロジーとカルチャーで地方DXの促進を図る地産地消型のパートナー

 「AWSは“選択と集中”という言葉は使わない。業界や企業規模、都心か地方にかかわらず、われわれはすべての日本のお客さまのDXを支援する」――。渡邉氏の言葉にあるように、AWSは中小企業や地方の企業のDXに対してもパートナー企業とともに支援していく姿勢を示している。本サミットではそうしたパートナー企業の代表として、東北ではじめてAPNアドバンストコンサルティングパートナーに認定されたヘプタゴンの代表取締役社長 立花拓也氏が登壇、AWSのテクノロジーで地方のビジネスイノベーションに挑む姿が紹介された。

ヘプタゴンの代表取締役社長 立花拓也氏

 青森県に本拠を置くヘプタゴンは、9割以上の顧客が東北の企業であり、これまで100社/300を超える大小さまざまなAWSプロジェクトを扱ってきた。中でも有名なのがAmazonのテレビCMとしても放映された青森県三沢市の米穀卸 KAWACHO RICEの事例である。同社は専門資格を有した検査員(銘柄鑑定士)の目視で行われてきた米の銘柄検査に対し、検査員の負担を減らすことを目的にヘプタゴンとともに米粒の画像から銘柄を判定するAIモデルを「Amazon SageMaker」上で構築、スマートフォンで米粒を撮影するだけで米の銘柄判定を行えるアプリ「RiceTag」を開発した。開発には約1年半をかけてモデルの精度向上を実施、「AWS Lambda」「Amazon DynamoDB」「AWS AppSync」などサーバーレスなマネージドサービスをSageMakerと組み合わせ、運用コストの最小化にも成功している。

AmazonのテレビCMにも登場したKAWACHO RICEの事例。これまで目視で米の銘柄を判定していた検査員の負荷を軽減するため、スマホで撮影した米粒の写真でAIに学習させ銘柄を判定するシステム「RiceTag」を、AWSの機械学習プラットフォーム「Amazon SageMaker」上で構築した
RiceTagでは、スマホで撮影した画像1枚ごとに米粒の輪郭画像をAWS Lambdaで作成し、SageMakerで推論処理を行っている。輪郭画像はNoSQLデータベースのAmazon DynamoDBに渡され、モデル管理やジョブ管理、判定結果の管理が蓄積され、常にLambdaとの間でデータの更新がなされている。過去の輪郭画像はストレージサービスのS3上に保存。サーバーレスのマネージドサービスを多数採用したことで、運用コストも大幅に削減できた

 米の銘柄鑑定は間違った判定をしてしまうと不正行為とみなされ、農家や産地が多大なダメージを被るため、銘柄鑑定士の負担と責任は非常に重い。だがRiceTagは青森県および秋田県の主要銘柄に対し、銘柄鑑定士と同等の正解率をAIで実現することに成功、検査員の目視の負担を大幅に軽減させることにつながっている。現在はKAWACHO RICEでの社内業務だけでなく、全国の検査機関への普及を目指したサービス展開を準備しているという。

 「地方の企業にはIT部門がないことも多い。だから企業から相談を受けると、われわれはすぐに現場に入っていくことができる。レガシーがない環境に、最先端の技術でもって解決策を提示することできる、それが地方の醍醐味(だいごみ)」(立花氏)。

 もっとも、地方のクラウド活用の実際はKAWACHO RICEのようなスマートな事例ばかりではなく、デジタル化そのものに後れをとっているのが現状だ。そうした状況を打破すべく、ヘプタゴンがAWSの協力を得て“東北をクラウドネイティブにするプロジェクト”として推進しているのが「re:Light TOHOKU」である。このプロジェクトでは地域をひとつの組織に見立て、その地域に拠点を置くシステム開発会社が“地域のCCoE(Center of Cloud Excellence)”となり、地域全体のDXを推進していく。

 立花氏はこれを「クラウドによるビジネスの地産地消」と呼んでおり、「数社がタッグを組んで地域全体のDXに取り組むことで、その地域/地方なりのクラウド化を進めていける」と語る。ヘプタゴンはCCoE候補の開発企業のCCoE、メンター的存在として開発企業のクラウド内製化やクラウドネイティブへの変革を支援していく構えだ。また、地方発の課題解決/イノベーションのアプローチとして、東北以外の地方にもre:Lightの動きを広げていきたいとしている。

ヘプタゴンがAWSとともに推進中の「re:Light TOHOKU」プロジェクトは、ヘプタゴンが蓄積してきたAWSパートナーとしてのスキルや実績を地域の開発会社に伝え、“地域のCCoE”を増やしていくことで東北全体のDX活用を図る

 「大好きなAWSのテクノロジーで、大好きな地域の発展に貢献していく、これがわれわれのミッション」とプレゼンテーションを締めくくった立花氏。AWSやAPNのカルチャーを地方に普及させていくパートナー企業として、地方発の課題解決とイノベーションにこれからも挑み続ける。

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 基調講演の終盤、渡邉氏はAWSカルチャーのひとつである「Our Leadership Principles」について紹介している。これはAmazon/AWSが世界共通で掲げるリーダーシップに関する信条で、全部で16の項目から構成されているが、その第一条には「Customer Obsession - リーダーはまずお客さまを起点に考え、お客さまのニーズに基づき行動します。お客さまから信頼を得て、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合にも注意は払いますが、何よりもお客さまを中心に考えることにこだわります」という顧客視点の重要性が挙げられている。

 そしてこの顧客視点を徹底する姿勢は、当然ながらAWSのパートナー企業にも求められている。AWSとパートナーが顧客視点に立って課題解決に臨む“Together Unlimited”な連携こそが顧客のビジネスの成功を後押しし、ひいてはAWSとパートナーの成功にもつながっていく――。これはAWSのパートナービジネスにおける不変の信条だ。AWSと同じ目線、同じリーダーシップをもつパートナー、NTTデータやヘプタゴンのようなAWSと共通のミッションを描けるパートナーをさらに増やし、そのネットワークを拡大することが、これまで以上にAWSには求められている。