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macOSがクラウドで利用可能に――、AWSがMac Miniベースの「Amazon EC2 Mac Instances」を一般提供開始
2020年12月2日 00:00
米Amazon Web Services(AWS)は11月30日(米国時間)、初のオンライン開催となった同社の年次カンファレンス「AWS re:Invent 2020」において、新たなEC2インスタンスである「Amazon EC2 Mac Instances」の一般提供(GA)を発表した。
macOSのクラウドでのネイティブサポートは世界で初となる。発表を行ったAWS EC2担当バイスプレジデント デイビッド・ブラウン(David Brown)氏は「EC2でのmacOSの提供はわれわれのカスタマがずっと望んでいたことであり、これを実現できたことをとてもうれしく思う。Mac開発者の開発環境をシンプル化し、パフォーマンスや生産性の大幅な改善が望めるインスタンス」と語る。
今回発表されたEC2 Macインスタンスは、iPhoneやiPad、Mac、AppleTV、Apple WatchなどのAppleプラットフォームでアプリケーション開発を行う開発者を対象にしたベアメタルインスタンスだ。
ベースとなるのは第8世代のIntel Core i7を搭載したMac Miniで、各リージョン内に構築されたMac Miniベースの専有ホスト(最低24時間)が起動する。通常のEC2インスタンスと同様に、ユーザーはオンデマンドかつ従量課金でMacインスタンスを利用可能、リモートデスクトップからも利用できる。なお最大72%の割引が適用される長期利用プラン「Savings Plans(1年または3年)」を購入することも可能だ。
現時点で提供されるmacOSのイメージ(AMI)は
・macOS Mojave 10.14
・macOS 10.15 Catalina
の2種類で、近日中に「macOS Big Sur 11.0」もサポート予定。また、現時点での対応リージョンは米国(バージニア/オハイオ/オレゴン)、アイルランド、シンガポールとなっており、こちらも順次拡大される予定だ。
現時点で提供されるEC2 Macインスタンスタイプ「mac1.metal」のスペックは以下の通り。EC2インスタンスらしく、ストレージ(EBS)が最初から使える点が特徴となっている。
・vCPU … 12(物理コア×6、論理コア×12)
・メモリ … 32Gバイト
・インスタンスストレージ … EBSのみ
・ネットワーク帯域幅 … 10Gbps
・EBS帯域幅 … 8Gbps
・EBS IOPS … 8000
・クロック周波数 … 3.2GHz(4.6GHzターボ)
これに加えてEC2 Macインスタンスのもうひとつの大きな特徴として、最新世代のEC2インスタンスの基盤プラットフォームである「AWS Nitro System」をベースにしていることが挙げられる。
2017年のre:Inventで発表されたNitro Systemは、EC2インスタンスをホストするための基盤として開発され、ストレージの暗号化やネットワーク通信のオフロード処理基盤とセキュリティコンポーネントを含み、専用のハイパーバイザが使われている。
Nitro Systemsにより、AWSはEC2インスタンスのベアメタル提供を実現したが、EC2 MacインスタンスもNitro Systemsを基盤にしたことで、大量のMac Miniで構成されたベアメタル環境上でEBSやVPCへのセキュアなアクセスが可能になっている。
Appleのプロダクトが閉じた環境から抜け出した
世界最大のIT企業でありながら、AWSやGoogleなどのハイパースケーラーとは一線を画し続けてきたAppleのプロダクトが、Appleプラットフォームに閉じた環境から抜け出し、AWSというメガクラウドから初めて利用できるようになったインパクトは開発者にとって非常に大きい。
報道関係者向けのブリーフィングに登壇したブラウン氏は「EC2 MacインスタンスはAWSの顧客から長い間、強く要望されてきた。われわれは1年ほど前からAppleとディスカッションを重ね、Mac Miniをコンピュートエンジンにしたベアメタルインスタンスというユニークな手段を取ることで、業界最大の開発者エコシステムに新たな選択肢を提供するに至った」と語っている。
Mac Miniをベースにすることで、ユーザーの利便性はもちろんのこと、Appleとの交渉もスムーズに運んだといえる。なお、11月に発表されたApple M1チップを搭載したMac Miniをサポートするインスタンスも現在開発中であり、ブラウン氏によれば2021年中に一般提供できる見込みだという。
EC2 Macインスタンスのアーリーアダプタには、モバイルカメラアプリ「FilMic Pro」で有名なFilMicや金融クラウドサービスを提供するIntuitなどが名を連ねており、いずれもiPhoneやiPadなどのAppleプラットフォームをターゲットにしたアプリケーション開発をコア事業にしている。
re:Inventにゲスト登壇したIntuit 製品開発担当バイスプレジデント プラティーク・ワドハー(Pratik Wadher)氏は「EC2 Macインスタンスは使い慣れたEC2のインターフェイスやAPIとともに利用できる点が非常に魅力的だ。このインスタンスによりわれわれは既存のビルド/テストのパイプラインをAWSと連携することができ、開発効率の大幅な改善、具体的に言えば開発パフォーマンスが30%も向上した。現在は開発ワークロードの80%をEC2 Macインスタンスに移行しているところだ」と語っており、既存のApple開発環境がAWSクラウドと連携したインパクトの大きさを強調している。
「スケーリングやキャパシティなどのインフラを気にすることなく、アプリ開発に集中することができる。これは世界中のAppleプラットフォーム開発者が望んでいたことだろう。スケーラブルでフレキシブルなEC2インスタンスの魅力をより多くのAppleプラットフォーム開発者に届けたい」(ブラウン氏)。
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「われわれがEC2インスタンスで顧客に提供するのはコストパフォーマンスの改善だけではない。新しいユースケースを作り出すこと、それがEC2インスタンスの役割だ」――。
新型コロナウイルスの感染拡大により、9回目の開催にして初のフルバーチャルカンファレンスとなったAWS re:Invent 2020の初日、最初のキーノート「AWS Late Night Week 1」をホストしたAWSのAI部門担当バイスプレジデントであるマット・ウッド(Matt Wood)博士はこう語り、ブラウン氏によるEC2 Macインスタンスの発表につなげている。
誰もが予想し得なかったクラウドサービスを次々と発表してきたAWS re:Inventだが、いつもとはまったく異なるシチュエーションとなった今回も、最初から世界中を驚かせる発表で始まった。EC2インスタンスに限らず、今回のre:Inventではどんな新しいユースケースが生まれるのか、興味と期待は尽きない。
なおAWS re Invent 2020は、11月30日~12月18日、2021年1月12日~14日にかけて行われる。