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DXを加速する組織は成功への道をたどっている――、Dell Technologies Forum 2020基調講演レポート

 デル・テクノロジーズは11月27日、年次イベント「Dell Technologies Forum 2020」をオンラインで開催した。

 最初のあいさつに登場した米Dell Technologies 会長兼CEOのマイケル・デル氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、生活は根本的に変わってしまった。人命の損失、事業の倒産、失業の増加など胸の痛むニュースがある一方、グローバル経済の回復力や人々の折れない心など希望を抱かせる要素もある。デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する組織は成功への道をたどっており、デル・テクノロジーズは信頼されるパートナーとして、データ時代の基幹インフラを構築し、自動化されたインテリジェントな統合ソリューションでDXを推進する」と述べた。

Dell Technologies 会長兼CEO マイケル・デル氏

新型コロナウイルス感染症による社会の変化

 Dell Technologies プレジデント兼最高技術責任者(CTO) プロダクト&オペレーション ジョン・ローズ氏は冒頭、「2020年はこれまでにない学習曲線と新たな視点を示している。私たちのチームが見見たのは、お客さまとコミュニティの驚異的な忍耐力。特に働き方、学び方、つながり方、生き方までも永遠に変える適応力、克服力、即時対応力だ。そして、予想だにしていなかったことだが、移動時間がなくなったことでお客さまとのつながりが強まり、生産性が向上し、より深い関係を築くことができた。私たちはパンデミック前の状態に戻ることは決してない」と述べた。

Dell Technologies プレジデント兼最高技術責任者(CTO) プロダクト&オペレーション ジョン・ローズ氏

 今後もDell Technologiesの社員の60%は、テレワークあるいは週に1日か2日出勤するハイブリッドな勤務を継続していくという。これは同社に限ったことではない。ローズ氏は「ある調査では、業種/業態や規模に寄らず在宅での勤務が20ポイント増加する可能性があるというが、これは控えめな表現だ。現時点で、世界中の幼稚園児から高校生までの50%がCOVID-19による施設の閉鎖の影響を受けており、遠隔教育で学んでいる。調査対象の3000の高等教育機関のうち44%が完全なオンライン授業、27%が対面授業、21%がハイブリッドな授業を行っている」と述べた。

今後もDell Technologiesの社員の60%は、テレワークあるいはハイブリッドな勤務を継続していく。また、業種/業態や規模に寄らず在宅での勤務が20ポイント増加する可能性がある
現時点で、世界中の幼稚園児から高校生までの50%が遠隔教育で学んでおり、調査対象の高等教育機関の44%が完全なオンライン授業、27%が対面授業、21%がハイブリッドな授業を行っている

 このように働き方や学び方が変化した結果、米国の第2四半期における小売業のオンライン売上高は前年比44%増の2000億ドル強となっている。Dell Technologiesのコンシューマオンラインビジネスはさらに好調で、受注件数は前年比79%増であった。

 ローズ氏は「これらは大きな変化。テクノロジーは最前線にあり、DXはあらゆる場所で加速している」と述べる。Dell Technologiesの調査であるDigital Transformation Index 2020によると、調査対象企業の10社に8社がDXプログラムを加速しており、デジタルリーダーの96%がデータの収集能力、分析能力および、それに基づいて行動する能力が向上したと回答しており、データを有効活用することで変化に適応しやすくなっていると回答しているという。

Dell Technologiesの調査では、10社に8社がDXプログラムを加速しており、デジタルリーダーの96%がデータの収集能力、分析能力および、それに基づいて行動する能力が向上したと回答

時代の変化は予測よりも早い

 時代の変化は予測よりも早くなっており、昨年2030年について予測していたことは2025年に、2025年に予測していたことは2023年へと前倒しになっているという。ローズ氏は「第四次産業革命は予定よりも早く到来し、今後の3年間で5G接続、データ主体の知見、自律型マシン、オートメーション、埋め込み知能が普及していく。また、今後4年間でエッジに配置されるアプリケーションが800%増加し、世界のデータの75%はデータセンターやクラウド以外のエッジで生成・処理されると予測されている。世界のGDPの52%は2023年までにデジタル化し、大量のデータが高速で移動するようになり、イノベーションと知見は加速する」と述べた。

今後4年間でエッジに配置されるアプリケーションが800%増加し、世界のデータの75%はデータセンターやクラウド以外のエッジで生成・処理され、世界のGDPの52%は2023年までにデジタル化すると予測されている

 ローズ氏は、より高い接続性と自動化を実現し、データ集約型およびデータ分散型の未来を可能にするITイノベーションには、パブリック、プライベート、エッジの環境にまたって分散型のワークロードを実現する「ハイブリッドクラウド」、モダンITアーキテクチャに最適化された「エッジ」によるリアルタイムデータワークロードの管理・分析、未来のワイヤレスとモビリティである「5G」、データの高速処理と高度に自動化されたインテリジェンスの「AI/ML」、マルチクラウド環境間を相互接続した一貫性のある「データ管理」、ビジネスの中心となるインテリジェントなデータを保護するための「セキュリティ」という6つの戦略的テクノロジーが求められるという。

 「完全に統合されたシステムとして、これらの戦略的テクノロジーが連携すれば、最適で強力なものとなる。高度に自動化されたインテリジェンスと回復性に優れた未来のITインフラをお客さまに提供するのは、Dell Technologiesのエコシステムの規模と影響力。私たちのソリューションとともにその未来が始まる」(ローズ氏)。

Dell Technologiesの6つの戦略的テクノロジー

 世界中のリモートワーカーのため、Dell TechnologiesはデスクトップPCおよびノートPCのラインアップを完全に刷新しており、その中には同社初の5G対応Latitudeも含まれている。また、未来のAIとMLワークロードに必要となるインフラ製品のポートフォリオも強化している。

 また、クラウドソリューション「Dell Technologies Cloud」によるas-a-Serviceや従量課金モデルへの需要は今度も高まっていく。ローズ氏は「導入や管理はより容易なものとなり、組織がビジネスの実行に集中できるようになる。これはDXへと進むべき今後の方向性であり、その効果は驚異的なものとなる」と説明した。

新たなインフラが実現する未来像

 新たなインフラによって実現するであろう未来像についてローズ氏は、最初に教育現場を例に挙げ、「現在ビデオシステムによる遠隔教育はwithコロナにおいて教育を継続するために重要なものとなっているが、未来はMR(複合現実)の世界でつながるようになる。おそらくその世界では一部の学生や教師が教室にいて、ほかの参加者はリモートからVR(仮想現実)で授業を受けるようになるだろう。パーソナライゼーションの観点では、学生は独自の学習スタイルと課題を持ち、各自が最適化されたエクスペリエンスを得ることができる」と述べた。

MRの世界でつながる未来の教室
独自の学習スタイルと最適化されたエクスペリエンス

 また、AR(拡張現実)やVRによって物理的に立ち会うことなく実験を行う、AIによるノート作成やリアルタイム翻訳によって言語による障壁をなくす、聴覚障害のある学生のための音声テキスト変換、視覚障害の学生のためのテキスト音声変換、色覚障害の学生のための色の再レンダリングといった活用が可能となる。これによって、学生は豊かな探求を実践し、学びの機会を得ることができるようになる。

AR(拡張現実)やVRによる実験

 また、ヘルスケア領域の未来像としては、遠隔医療を挙げている。現状の遠隔医療はZoomミーティングなどを通じて主治医の診察を受ける基本的な機能しか実現していない。未来のデータ時代では、世界中にいる適切な専門家を見つけることができるようになる。ヘルスケアは世界中で平等にアクセスできるものでなければならない。社会的ステータス、言語、文化は関係ない。また、医療状況は人によって異なるため、ウェアラブルデバイスなどで収集したデータを活用し、治療を自分のためにカスタマイズすることができるようになる。デジタルテクノロジーを活用する医師は、患者の健康状態をより完全に把握し、より優れた意思決定を行ったり、健康に大いなる影響を与えたりすることで、より多くの患者を助けることができる。

 その他の社会インフラについても、COVID-19の影響で物理的なエコシステムは大きな打撃を受けた。その一方で、自動運転などこれまでリスキーだと思われていたテクノロジーには寛容になっており、スマートモビリティが実現しやすくなっている。そのほかにも、地方自治体の行政サービス、医療インフラなど人として利用するサービスのあらゆる側面を動かせるようになっていく。データは、こうした自律型の接続システムを実現する鍵となっている。ローズ氏は「こうした未来型のエクスペリエンスを支えているのは、モダンなエンドツーエンドのITシステムであり、前述した6つの戦略的テクノロジーだ」と述べる。

 もちろん、こうした未来の仕組みは、ITスタッフが構築して運用していかなければならない。ローズ氏は「誰もが同じペースでこの道のりを歩み始めるわけではない。DXは企業や業界に合わせて高度にパーソナライズされていることもわかっている。そこで、Dell Technologies Serviceでは、世界170か国に6万人のプロフェッショナルが、顧客の最適な方向性とアプローチの特定を支援し、限られた予算の中でDXの取り組みを加速する」と述べた。

 「業界に関係なく、ビジネスのあらゆるシーンでITを活用できるようになる。パブリッククラウド、プライベートクラウド、エッジを1つのプラットフォームに統合し、未来のデジタル世界を変えることがDell Technologiesのミッションであり、顧客がビジョンを構築するための支援にコミットしている」(ローズ氏)。

徹底的にシンプルなas-a-Serviceを提供する「Project APEX」

 次いで登壇した米Dell Technologies インターナショナルマーケット プレジデントのアンガス・ヘガティー氏は、「COVID-19によってDXは加速している。組織の再構築と再生においては、テクノロジーがさらに重要な役割を果たす。また、パンデミックなど将来のリスクに対応するにはアジャイルテクノロジーが必要」と述べた。

米Dell Technologies インターナショナルマーケット プレジデント アンガス・ヘガティー氏

 ヘガティー氏は、現在の業務を効率化してDXの目標を本年度に達成できるのは、わずか41%にすぎないという調査結果を示し、「顧客はシンプルなITエクスペリエンスを求めている。現在のIT運用はあまりにも複雑で、組織で使用されているツールの多くが相互に連携できていない。そのためテクノロジーの展開が遅く、ビジネスのニーズに合わせて拡張することができない。また、インフラに投資すると、現金を保持して流動資産を確保する必要があっても、多額の資本コストを一度に支払う必要がある」といった課題を指摘した。

 これらの課題を解決し、シンプルなエクスペリエンスを実現するインフラストラクチャには、「オンプレミスとクラウドで一貫した運用」「インフラストラクチャ全体でシンプルなインターフェース」「絶えず変化するニーズに応じて拡張できる」「セルフサービスプロビジョニング」「OPEXの柔軟性」が求められる。

顧客はシンプルなITエクスペリエンスを求めている

 IDCの調査では2024年までにエッジのインフラの75%以上、データセンターインフラの半分以上がサービスとして使用されると予測している。また、Digital Transformation Index 2020でも、企業の1/3が自社のサービスと消費モデルを変革し、デジタルエクスペリエンスの提供方法を変えつつあることを示しているという。

 現在Dell Technologiesでは、顧客に一貫性、選択肢、シンプルさを提供するため、「Everything-as-a-Service」へとシフトしており、新戦略「Project APEX」を展開している。APEXでは、Dell Technologiesのビジネス全体の能力と機能が1つのソリューションに統合される。「Dell Technologies Cloud Console」上でインフラ全体を管理可能で、ワークロードの導入、マルチクラウド環境の管理、リアルタイムでのコスト監視もすべて数クリックでできる。また、拡張する際にも数回のクリックでマーケットプレイスからクラウド製品、サービス、ソリューションを購入できるという。

APEXでは、シンプルなas-a-Serviceとクラウドエクスペリエンスを提供する

 APEXで提供される多くのソリューションの第一弾となるのが、2021年上期にリリースが予定されている「Storage as-a-service」だ。オンプレミスに導入するストレージをDell Technologiesが導入・所有・管理し、ユーザー企業は使った分だけ課金する仕組みとなっている。なお、今後もDell Technologiesの豊富なポートフォリオ全体の機能が順次提供される予定であるという。

 「APEXでインフラの使用と管理がシンプルになり、組織はITではなくビジネスに注力できるようになる。また、運用がコア、エッジ、クラウド全体で統一されるため、複数のクラウドでメリットを享受できる」(ヘガティー氏)。

APEXソリューションの第一弾「Storage as-a-service」は、2021年上期リリース予定

New Normal時代を勝ち抜くデジタル変革とは

 日本のデル・テクノロジーズを代表して登壇した代表取締役社長の大塚俊彦氏は、ローズ、ヘガディ両氏が登壇中にも何度か紹介した「Digital Transformation Index 2020」の概要を紹介した。

 本調査はDell Technologiesが2年ごとに実施しているDXに関する調査で、2016年、2018年に続いて3回目の調査結果であるという。2020年7~8月に企業の経営層・マネジメント層を対象に、世界18か国、12の業種で実施され、4300人が回答している。

デル・テクノロジーズ 代表取締役社長 大塚俊彦氏

 DXの進捗具合を自己評価で5段階に分けると、グローバルでは約8割の企業が「デジタル評価企業」「デジタル導入企業」というフェーズに突入しており、前回の調査結果から飛躍的に伸びていることが明らかとなった。しかし、日本企業だけに限ってみると、「デジタル評価企業」がもっとも多く全体の約33%という結果にとどまっている。

DXの進捗具合をグローバルと比較すると、日本の進捗はやや遅れている

 COVID-19の影響が大きい2020年におけるDXの加速については、「現在DXを加速している」「ビジネスモデルを見直している」との回答がグローバルでも日本でも多くなっている。しかし、「十分なスピードで変革できていない、と不安を感じている」日本企業の割合は、グローバル平均よりも多い69%となっている。また、「DXへの投資は成熟段階である」と回答した日本企業は19%となっており、グローバル平均よりも大きく下回っていることから、これから投資をしていく予定となっている企業が多いことがうかがえる。

 なお、グローバルでも日本でも「現在、変革への困難な障壁に直面している」という回答が9割を超えており、DXは加速したものの、困難な障壁に直面している企業が多いという結果となった。

2020年におけるDXの加速

 加速したDXの領域については、若干順位に違いはあるものの、グローバルでも日本でも「サイバーセキュリティの強化」「リモートワークの拡大」「デジタル体験の刷新」が上位を占める結果となっている。

DXの加速領域

 DXの阻害要因についてもグローバルと日本に大きな差はなく、「データプライバシーおよびサイバーセキュリティに関する不安」「予算およびリソース不足」「スキルおよびノウハウの不足」が上位を占めている。そのほか、日本では「デジタル文化が未成熟」「脆弱なデジタルガバナンス/構造」も上位に挙げられている。

DXの阻害要因

 今後1~3年における投資対象エリアについては、グローバルでも日本でも「サイバーセキュリティ」「マルチクラウド」「5G関連」「データ管理」が共通して上位を占めているが、日本においては「AI」と「商業/産業用ロボット」が1位と2位を占める結果となっている。

今後1~3年における投資対象エリア

 これらの調査結果を踏まえ、大塚氏はデル・テクノロジーズが企業のIT変革を支援する4本柱としてモダナイゼーションを加速によるTCOの低減と俊敏性の向上を目指す「ITの競争力強化」、Work From Homeのみならずリモートワークを高度化する「xFHの実現」、新たなアプリケーションや人材育成によって新しい収益性を確立する「デジタル競争力の確立」、持続可能なデジタル社会を目指す「社会インフラの変革」を掲げている。

企業のIT変革を支援する4本柱

 最後に大塚氏は2030年までの社会貢献の目標として、「サステナビリティ(持続可能性)促進」「インクルージョン(多様性)醸成」「テクノロジーでライフシーンを変革」「倫理とプライバシーの維持」を挙げた。

2030年までの社会貢献目標