大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

富士通がクラウドサービスをFUJITSU Cloud Serviceへ刷新した理由

7つの強みで“業務が止まらないクラウド”を実現

 では、富士通のクラウドサービスの強みとは具体的に何だろうか。

 富士通の大石卓哉シニアディレクターは、「富士通のクラウドビジネスには7つの強みがある」とする。

 それらを1つずつ見ていこう。

オープン技術の採用

 IaaSの基盤を担うOpenStackや、PaaSの基盤を支えるCloud FoundryといったOSに加え、PostgreSQL、Tomcatなどのミドルウェア、RedmineやJenkins、Git/GitHubなどのツール、JavaやRuby、Pythonといった言語に対応。「オープン技術の活用より、最先端技術をいち早く提供し、特定ベンダーによるロックインを回避できる提案が行える」とする。

 富士通は、OcataやPikeといったOpenStackリリースでのコミュニティへの貢献度では世界トップ10以内であり、その点でもオープンソースにコミットしていることがわかる。

基幹システムに対する高信頼性基盤の構築

 SLAで99.99%の高可用性のサービスを提供。専門チーム「富士通CERT」による24時間監視体制の実現のほか、クラウド基盤の保守中も業務継続を可能にすることで、システム停止対策のための二重構成を不要にしたり、セキュリティグループの活用により、フラットでスケーラビリティの高い構成と複数階層に分割したファイヤウォール構成の両方に対応したり、といったセキュリティ対策でも差別化している。

 「富士通のパブリッククラウドサービスは、後発だった分、SLAでも高い数値を実現することにこだわった。ただ、SLAのとらえ方は各社によって違う。また、数値には見えないSLAもある。例えば、富士通にはお客さまと一緒にビジネスを行い、それをケアするための営業部門、SE部門がある。そこに富士通の強みである。お客さまの事情を熟知した上で、応えることができるのは他社との大きな差別化になっている」とする。

多様なIaaSの利用形態を提供

 物理サーバーの専有利用をはじめ、セキュリティポリシーや性能など、要件に応じたICT環境の選択が可能であり、高性能、高セキュリティ環境での運用を選ぶこともできる。

 「AWS、GCP、Azureといったメガクラウドプロバイダーに対して、富士通のクラウドサービスがどう勝負できるのか。IaaSはコモディティ化が進んでおり、基本的な部分では差はなくなっている。そのなかで、価格や利便性といった部分で、きちんと対応していくことで、メガクラウドプロバイダーとも互していけると考えている」とする。

PaaSによる業務開発のサポート

 FUJITSU Cloud Serviceでは、富士通が持つノウハウとオープン技術の組み合わせによって、業務アプリケーションを早く、確実に実現できるPaaSを提供。各PaaSの組み合わせによって、多様なアプリケーションを提供できる。

 また、FUJITSU Cloud Serviceでは、Symfoware Serverだけでなく、Oracle Database、PostgreSQL、SQL Serverといったデータベースを提供。幅広い選択肢を提供している点も特徴であり、「さまざまなシステムをクラウドに乗せることができる基盤になっている」とする。

VMwareベースのパブリッククラウドを提供

 ニフティの法人向けクラウドサービスである「ニフティクラウド(ニフクラ)」をK5に統合し、「K5 NC」として提供してきたが、新たなFUJITSU Cloud Service では、VMwareベースのパブリッククラウドサービス「FUJITSU Cloud Service for VMware NC」として、継続的に提供する。

 「これは、オンプレミスでVMwareを利用しているユーザーが、簡単にクラウド移行できる環境として用意しているもの。ここでは、クラウド移行時にオンプレミスから移動する大容量のデータを、インターネットを介することなく、安全に、高速に転送するデータ移行オプションも用意した。さらに、ディザスタリカバリ環境も簡単に構築できる」とし、「FUJITSU Cloud Service for VMware NCは、日本国内だけを対象にしたVMwareを基盤としたサービス。クラウド環境の運用から解放できるのが特徴」だとする。

 これまでのニフクラの実績や認知度を生かしながら、クラウドサービスそのものは享受したい。あるいは、できるだけ簡単にクラウドに移行したいといった顧客のシステムを、クラウドに単純移行する際の受け皿として活用していくことになるという。

 さらに、VMwareベースのプライベートクラウドサービスとして、「FUJITSU Cloud Service for VMware LCP」も提供する。VMwareベースで構築された仮想インフラを、富士通のデータセンターから提供するクラウドサービスで、専用線での接続を行うことにより、より機密性の高いクラウド環境を利用することができる。

 「自社システムは保有したくないが機密性は維持したい、あるいは、基幹システムで利用したい、ビジネスの成長にあわせてスモールスタートで利用したいといったニーズに応えることができる」とする。

Oracle Databaseの提供

 富士通はOracleとの提携により、オプションサービスとしてDB powered by Oracle Cloudを提供しているほか、FUJITSU Cloud Service for OSSでもOracle Databaseを提供している。

 また、Oracle Databaseを利用する既存アプリケーションを、FUJITSU Cloud Service環境へと移行できるように支援しており、国内で唯一、Oracle RACなどのミッションクリティカルに必要な機能をクラウドで提供しているという。これにより、ユーザーは、FUJITSU Cloud Serviceポータルからデータベースの生成、起動、停止が可能になっている。

 「Oracleとは、データベースサービスに関して強いアライアンスを組みたいと考えている。基幹システムの受け皿という観点でも連携をしていく」としたほか、「人事などのようにオラクルが強い領域だったり、富士通が持っていない領域では協業をしていく」と述べた。

セキュアなネットワーク接続を実現

 FUJITSU Cloud Serviceとホスティング、オンプレミス環境などを閉域接続したり、K5環境と直接接続できるポートを提供。あらかじめ準備した標準化された閉域ネットワークにより、短期にハイブリッド環境の容易な導入が可能になる。

 こうした7つの強みを生かして富士通が目指しているのは、「業務が止まらないクラウド」の実現だ。

 富士通の大石シニアディレクターは、「富士通は、お客さまのシステムをずっと面倒を見てきた経験がある。そして、これらを一緒に作り上げてきたという自負もある。クラウドサービスにおいても、基幹システムを動かすことができるプラットフォームを作り、お客さまのシステムを永続的に支えたいと考えている」とする。

 実際、FUJITSU Cloud Serviceにかかわる富士通の人材は多岐にわたるが、ざっくりというと、3分の1はSE出身者だという。残りは、アウトソーシングや運用などを担当してきた人材であり、いわば、顧客の要望を知っている人材ばかりだといえる。

 「業務の部分とインフラの部分のすき間をSEがカバーし、業務をきっちりと継続していくことができる。そして、インフラの効率的な使い方を提案していくこともできる。これは、SIの会社である富士通の特性であり、それをきちんと提供することを、社員全員が強く意識している。業務課題や社会課題の解決、ビジネスの種になるものを提供してきた経験は、新興ベンダーとは異なる。より業務や社会に踏み込んだクラウド基盤、クラウドサービスを提供することができる」とする。

 クラウドサービスの提供において、「顧客」という観点だけでなく、「社会」というスケールで言及し、世の中の動きを見据えながら、クラウドサービスを提供し、クラウドサービスを進化させるのが、富士通の特徴というわけだ。

 今回のFUJITSU Cloud Serviceへの進化も、そうしたことを意識したものになっている。