大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

富士通がクラウドサービスをFUJITSU Cloud Serviceへ刷新した理由

自らクラウド移行を推進するがゆえの強み

 富士通のクラウドサービスを語るときに、見逃せない特徴が、さらに3つある。

 ひとつは、国内にデータセンターを持っていることの強みだ。「クラウド基盤を置いているデータセンターと、同じデータセンター内にあるお客さまの基幹システムをつないで、ハイブリッドクラウドとして提供することも可能なほか、東西のデータセンターを活用した災害対策により、お客さまのシステムをしっかりと支えた運用ができる。現時点で、100%クラウドでの運用が難しいお客さまが多い。この点でも、堅牢なデータセンターを持つ点は大きな強みになるだろう」とする。

 2つめが、独自のAIであるZinraiを提供し、これを、FUJITSU Cloud Service の上でサービスとして動かすことができる点だ。Zinraiでは、2017年度中に基本APIと目的別APIの合計で30のAPIを提供した。これによって、Zinraiの利用範囲は広がりをみせている。

Zinrai(富士通の発表会資料より)

 そして最後が、富士通自らがオンプレミスシステムをクラウドに移行しており、それをベースにした提案が可能であるという点だ。

 富士通では2015年2月に、グループで稼働する国内外の全システムを、5年間でクラウド基盤へ移行する計画を発表した。対象システムは約640にのぼり、このなかには、基幹システムやレガシーシステムも含まれている。すでに、約450システムが移行に着手しており、当初の目標に対して、すでに3年間で3分の2にまで到達しているともいえる。

社内システムのクラウド移行計画(富士通の発表会資料より)

 だが実は、クラウド移行の対象となるシステムは当初の1.5倍となる900超の規模にまで拡大している。クラウド移行による成果を社内システム部門がリファレンスとして公表することを進めており、これを見た関係会社のシステムや、当初は対象ではなかった周辺システムなども新たな対象になっているのが、その理由だ。

 「実績や成果は、クラウド・デザイン・パターン(CDP)として、社内システムのリファレンスをもとにしたり、事例という形で公開している」という。

 当然、成功事例だけではない。実際にやってみたが駄目だったというものもある。こうした体験も、顧客のクラウド導入や活用の提案に生かされている。

マルチクラウドサービスの拡充が新たな目玉

 新たに発表したFUJITSU Cloud Serviceでは、マルチクラウドサービスの拡充が目玉のひとつだ。

 同社では、「これまで培ってきたSIのノウハウや、最新のクラウドサービスに関する知見を生かし、ハイブリッドITやマルチクラウド環境を活用したインテグレーションおよび運用サービスを強化する」との方針を表明。

 マルチクラウドでのインフラ構築の自動化や、マルチクラウド環境の一元管理技術を活用することによって、ハイブリッドITやマルチクラウドといった多様化した環境に対しても迅速な構築と高品質な運用を実現するサービスを、10月1日から提供するという。

 「管理ツールは、これまで十分な環境が提供できていなかったという反省がある。特に、今までオンブレミスで行っていた管理環境と同じ形でFUJITSU Cloud Serviceでもやりたい、というお客さまが多く、その点を富士通に期待したいという声があがっている。すでに、IaaSの運用を可視化するモニタリングサービスを内部ツールとして開発しており、これを提供することも考えている。異常の予兆を知らせたり、メンテナンスや保守などの影響を最小限に抑えることにも取り組む。お客さまのシステムを継続的に動作させ、業務を止めないための運用、管理の強化を行っていく」とする。

 そして、「責任を持てる自社のクラウドを提供しながら、他社のクラウドとハイブリッドでシステムを構成していくこともきちっとやっていく」との方針を示した。

 ここでは、パートナーとのエコシステムの強化も見逃せない。

 FUJITSU Cloud Serviceでは、主要なクラウドベンダーをはじめとした国内外のパートナーと協業を強化することを示している。

 米Microsoftとは、「SAP on Azure」をはじめ、Microsoft Azureをベースに富士通のシステムエンジニアの知見を組み合わせた高付加価値サービスの開発・提供に取り組み、業務要件に合わせたクラウド移行を実現するという。

 「これまでにも、Microsoftとは緊密にやってきた経緯がある。Azureで提供するPaaSの強みやOffice 365などの強みがあり、これを考えれば、積極的に連携していくことになる」とする。

 そして米VMwareとの協業では、「VMware Cloud Foundation」や「Hybrid Cloud Extension」をはじめ、プライベートクラウドとパブリッククラウドをベースとしたサービスの開発および提供を行っており、今後は「VMware NSX SD-WAN by VeloCloud」など、ネットワーク仮想化技術を活用したソリューションの拡大を目指すという。

 「VMwareにおいてはベアメタルを先行で提供開始する。ベアメタルの上でNSXを提供することになる」としたほか、「富士通クラウドエクスチェンジによるネットワークサービスも下期以降に提供することになる」という。

 一方で、距離感を置いているAWSとの関係だが、「お客さまがAWSを利用したいといったときに提供する体制を構築する。トータルで富士通を選択してもらう、といった場合に、必要であれば活用する」との姿勢をみせる。

 ちなみに、富士通のグループ会社である富士通システムズアプリケーション&サポート(FJAS)が、2016年度からAWSのパートナーに名を連ねている。

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 FUJITSU Cloud Serviceによって、2018年度の富士通のクラウドビジネスはどうなるのだろうか。

 富士通の大石卓哉シニアディレクターは、「2018年度の富士通のクラウドビジネスは、日本国内において、本格的な足固めと飛躍の年になるだろう」と位置づける。

 「グローバルでは、SoEの市場成長に注目が集まっているが、日本では、基幹系システムや既存システムのクラウド化が動き始めており、大手企業でもその動きが出てきた。来年度以降、この動きは成熟化する方向に向かうだろう。こうした需要をしっかりと巻き取りたいと考えており、それに向けた足固めを行いたい」とする。

 ここでは、VMwareとの連携強化や、ネットワークの接続性強化が重要な鍵になると見ている。

 サービスはそろってきた。最後の足固めをしっかりと行い、それを飛躍につなげたい――。FUJITSU Cloud Serviceへの進化は、そうした意味でも、富士通のクラウドビジネスが新たなステップに踏み出すことを示すものになるといえよう。