大河原克行のキーマンウォッチ

Google Cloudなら“経営に役立つクラウド”を実現できる――、平手智行代表

 「2023年は日本において大躍進の1年になった。2024年はこの勢いをさらに加速する」――。

 グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏は、日本における事業の拡大に手応えを示す。「経営に役立つクラウド」として、Google Cloudを採用する企業が増加。さら、生成AIでも、データ活用の強みを背景にGoogle Cloudならではの提案を進めており、新たなAI基盤モデル「Gemini」による新たな活用提案も加速させようとしているところだ。そして、ここ数年の重点戦略のひとつであった日本におけるパートナー戦略でも地盤づくりができたとの見解を示す。

 勢いを増すグーグル・クラウド・ジャパンの平手代表に、2024年の日本における事業戦略を聞いた。インタビューには、グーグル・クラウド・ジャパン 上級執行役員 パートナー事業本部の石積尚幸氏も同席した。

グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏

2023年は“経営に役立つクラウド”の提案で躍進の1年に

――2023年は、グーグル・クラウド・ジャパンにとって、どんな1年になりましたか。

平手: ひとことでいえば、大躍進の1年になったといえます。その理由のひとつに、日本のそうそうたる企業に、Google Cloudを採用していただいたことが挙げられます。では、なぜ、Google Cloudが採用されたのか。それは、「経営に役立つクラウド」を提案できたからです。かつてはコスト削減などが注目を集めたクラウドですが、いま、経営者の最大の関心事は、“そのクラウドは役に立つのかどうか”という点にあります。オンプレミスをクラウドにLiftしたが、アプリケーションは変わっていないという状況のままでは、データ活用にも限界があり、経営に役立つクラウドにはなりえません。Google Cloudは、そこに踏み込んだ提案ができたと思っています。

 経営に役立つクラウドにするためには、データの利活用が重要ですが、日本の多くの企業はデータのほとんどが利用できていないのが実態です。画像や音声を含む非構造化データはもちろんのこと、構造化データでさえも使い切れていません。クラウドにLiftしただけの状態ですと、適用業務ごとにサイロになった状態ですから、結果として、データが分散されており、生成AIでデータを使いたくても、すぐには使えず、それを使える状態するところから手を加えなくてはなりません。つまり、生成AIの時代が訪れ、AIドリブンのイノベーションに取り組みたいのにも関わらず、そのベースとなるデータが活用できる状況にない企業が日本は多いのです。

 実際、2023年は、生成AIのPoCに取り組んだ企業が数多くありましたが、そこから先に進めない企業も多いといえます。その背景にあるのはハルシネーションです。もともと、生成AIはインターネットの情報をもとに答えるわけですから、情報が古かったり、正しくなかったりして、企業が本当に求める情報が得られるわけがありません。それをしっかりと理解せずに、ハルシネーションがあるから生成AIの使用を禁止するといったことをしていては、また日本が周回遅れになってしまいます。

 一方でGoogle Cloudは、企業のデータをしっかりと活用できる環境を提案し、長年検索で培った技術と経験から、グラウンディングの技術を提供することで、企業が生成AIを活用した実用的なアプリケーションを開発できる環境を提案できます。そこに、Google Cloudが大躍進できた要因があります。2023年11月に日本で開催したGoogle Cloud Next Tokyo '23では、1万5000人が事前登録したほか、会期中のエグゼクティブセッションには150人の経営層の方々が参加し、クラウドを経営にどう生かすかということを討議しました。ここからも経営に使えるクラウドとして、Google Cloudへの関心が高まっていることがわかるのでないでしょうか。Google Cloudのアプローチが、日本の社会や企業の変革に最も適していることが裏づけられたといえます。

Google Cloud Next Tokyo '23

――Google Cloudが「経営に役立つクラウド」といえる理由はどこにありますか。

平手: かつての経営変革の提案は、ERPパッケージに業務をあわせてくださいというものでした。しかし、クラウドでは柔軟にさまざまなことが実現できますから、経営戦略をAからA’、あるいはBへと変える際に、なにを目指すのかという討議から進め、それを実行する手段へと落としていくことができます。今年は“昭和99年”にあたりますが、昭和の時代から続いてきた情報システムのやり方では限界があることは多くの経営者は気がついています。しかし、経営に役立つクラウドにはなかなかたどり着いていません。これを解決する提案ができるのがGoogle Cloudの強みです。

 例えば北國銀行では、新たな勘定系システムをマルチクラウド化しましたが、ここでは、Google Cloudが、メジャークラウドのなかで年間の障害時間が最も短いことを評価してもらっただけでなく、独自のGoogle Cross-Cloud Interconnectにより、異なるクラウドでもデータベースの同期を取ることができるため、システム障害が発生しても30分程度で復旧できると判断したことが見逃せません。その結果、個別のクラウドベンダーに依存せずに、自らがコントロールできる環境を実現することができています。経営中心のクラウド活用を実現しているのです。

 また三重県では、BigQueryとLooker Studioを用いたデータ活用基盤を構築し、データドリブンな政策立案と、行政サービスを実現しています。観光部が保有している観光客データと、移住促進課が保有しているポータルサイトへの訪問者データを活用することで、定着や移住につながる要素を分析し、プロモーション活動の立案、実行などに生かしています。

 カプコンでは、Cloud SpannerやGKEを用いて、人気ゲームソフト「ストリートファイター6」のためのクロスプレイプラットフォームを構築し、最大12万人が同時に接続しても安定して稼働する環境を、コストを削減しながら実現しています。ストリートファイターは遅延が許されないゲームの代表格ですが、Google Cloudの技術を活用することで、地球規模で遅延なく動かすことができています。

 Google Cloudには、テクノロジーそのものの強みもありますが、データを活用するための基盤を提供し、データの威力を経営に発揮できる環境を実現している点にも強みがあります。それが「経営に役立つクラウド」を実現することにつながっています。

Google Cloudの生成AIへの取り組み

――Google Cloudの生成AIへの取り組みにも注目が集まっています。どんな点に力を注いでいますか。

平手: Googleは、2016年にAIファーストを打ち出して、2017年に「Transformer」を発表し、AIの世界をリードしてきました。Googleは、AIを経済的可能性の最大化に活用すること、責任ある活用と悪用リスクの軽減に取り組むこと、セキュリティを強化し、悪意がある攻撃者によるテクノロジーの悪用を防止することを、AIの基本方針に掲げています。

大胆かつ責任あるAIへの取り組み

 いまお客さまでは、生成AIはPoCの段階から、アプリケーションを開発する段階へと入ってきました。しかし、アプリケーションを作りはじめると、セキュリティの課題、責任あるAIの課題に直面することになります。

 Google Cloudでは、責任あるAIの基本理念をまとめ、「社会にとって有益である」、「不公平なバイアスの発生、助長を防ぐ」、「安全性確保を念頭においた開発と試験」、「人々への説明責任」、「プライバシー・デザイン原則の適用」、「科学的卓越性の探求」、「これらの基本理念に沿った利用への技術提供」の7つを打ち出しています。この理念がお客さまから評価を得ています。生成AIが使われる前には、基本理念に対する理解がなかなか進まなかったのですが、PoCに取り組んだり、実際に生成AIを活用したアプリケーションを開発したりすると、この理念の重要性が認識され、「Google CloudのAIは安心して利用できる」という評価につながっています。

責任あるAIの基本理念

 生成AIは、なんでも答えてくれます。しかし、病院で利用されるAIが、責任あるAIとしての条件をカバーしていない場合、患者の質問に答えるなかで、「自殺したいので、その方法を教えてほしい」といえば、その方法を教えてしまう可能性があります。これでは、病院で使用するAIとして、安全性を確保したものとはいえません。そうした生成AIを使っていた病院が責任に問われる可能性があります。信用が求められる業種や、ブランディングが重要な企業にとっては死活問題につながる話です。Google Cloudでは、質問の段階で、倫理の観点からも内容を認識し、その質問には答えられないことや、ほかの人への相談を促すなど、適切な回答ができるようになっています。

 また、企業が必要とする正しい情報を引き出すには、AIの力だけでなく、検索の精度が重要な意味を持ちます。ここはGoogle Cloudが得意とする部分であり、生成AIと検索技術の組み合わせがあるからこそ、責任あるAIとして答えを出すことができます。しかも、文字だけでなく、映像や画像、音声などについても責任を持って、答えを提供できます。特に、セマンテック検索はGoogleの検索サービスで提供している一丁目一番地ともいえる技術がベースであり、長年に渡る技術蓄積があります。この検索能力と、人との会話を理解する生成AIが組み合わさることで、AIドリブンイノベーションを実現できます。

 このように、Google Cloudは、エンタープライズで利用するAIの提案にこだわってきましたから、その点でも、企業の方々に安心してGoogle Cloudの生成AIを利用していただいています。

 私は、生成AIによって、いよいよ非構造データを本気で利用する時代がやってきましたと思っています。日本の企業の現場には、数多くの非構造データが蓄積されています。その点ではほかの国よりもデータ量は多いといえます。しかし、利用では圧倒的な遅れがあります。経営に役立つデータを、いかに利用するか。そして、責任あるAIの活用につなげるか。そこにGoogle Cloudが強みを発揮できる部分があります。

「For builders」「for Users」という2つの切り口で構成

企業向けGoogle Cloudの生成AIポートフォリオ

――Google Cloudが打ち出す「エンタープライズで利用できるAI」は、どんな要素で構成していますか。

平手: Google Cloudは、企業向け生成AIポートフォリオを、「For builders」、「for Users」という2つの切り口で構成しています。ひとつめの「For builders」においては、Vertex AIが重要な役割を果たします。PaLM2やImagen、GeminiといったGoogleのAI基盤モデルのほか、OSSやパートナーモデルも利用し、マルチモデルの活用を推進する「Model Garden」、顧客が保有するデータを活用し、グラウンディングができ、サービングやチューニングを行う「AI Platform」、検索して必要なデータを抽出する「Search」、対話型アプリケーションを素早く開発する「Conversation」、一部の業務や業種に対しては、顧客のデータを活用するだけですぐに活用できる状態を実現する「AIソリューション」で構成しています。さらに「Google Cloud Infrastructure」として、GPUおよび独自開発のTPUを採用し、生成AIの経済性を実現しています。

Google Cloudの生成AI

 Google Cloudのこだわりのひとつは、用途に適切なモデルを選択できる環境を用意しているという点です。もはや、企業がLLMを作る時代ではなく、企業は数多くのLLMのなかから適切なものを選択し、それをAI Platformで活用する時代になっています。また、SearchやConversationの機能も利用でき、その上でソリューションを活用してもらえる環境を実現していることも大切な要素です。足りない部分があれば、それを差分として作り、独自の生成AIによるエージェントを構築したり、Duet AIによって、セキュリティとプライバシーを保護し、ソフトウェアの開発とデリバリーのスピードを高めたりすることができます。Google Cloudの生成AIであれば、短期間に、最小限のコストで、リスクが少ない環境が整い、エンタープライズが安心して利用できる生成AIが提供できるというわけです。そうした点が企業に評価されており、Vertex AIによるアクティブプロジェクトの数は、毎月7倍以上に増加しています。

――もうひとつの「for Users」では、どんな特徴がありますか。

平手: ここではDuet AIがあげられます。Duet AIは、Google Cloudのベストプラクティス上でトレーニングされたモデルであり、それを活用することで、専門知識がない人でも、自然言語でやりとりするだけで、簡単にコーディングができるようになります。また、Duet AIをGoogle Workspaceで利用した場合には、ユーザーが何をしたいのかといったことをコンテキストから理解し、能動的に的確なサポートを提供します。まさに、コラボレーションパートナーとしての役割を果たすことができます。

 文書やメールを作成する際には、誰を対象にしたものであり、どんな内容にするのか、用途はなにかといったことを示すと、それにあわせた初稿を作ってくれますし、それをもとにブラッシュアップを繰り返すことが可能です。プレゼン資料の作成では、画像が必要な場合には、最適なものを探し出して挿入してくれますし、スプレッドシートでのデータ整理も支援してくれます。データはすべてクラウドに蓄積されていますから、それらの膨大なデータが活用でき、全国2万2000店舗のPOSデータから、いまなにが売れているのかをリアルタイムで分析したいといった使い方も可能です。

 生成AIによる自然言語の指示で、ユーザー部門自らが、必要なデータを活用し、分析することができますから、Duet AIを通じて、データの民主化や、データ利用の即時化を促進ができるというわけです。

 さらにウェブ会議では、会話している内容を、話者分離機能を活用して議事録としてまとめ、その内容を要約するだけでなく、深く知りたい部分については、自然言語で質問すれば、詳細を知ることができます。また、英語でしゃべっている内容を、リアルタイムで日本語に翻訳することも可能です。加えて、Duet AI in App Sheetでは、自然言語によるプロンプトで、対話しながらアプリを開発し、アイデアの具現化を支援します。

 現在、Google Workspaceは、1000万人以上のユーザーがいますが、そのうち、100万人以上がDuet AIを利用しています。

 また、Google Cloudは、医療分野に特化したMed-PaLM2や、セキュリティに特化したSec-PaLM2といったように、最適化した生成AIがあります。企業においてはセキュリティの専門知識が不可欠ですが、セキュリティ人材が不足するという課題を抱えるなかで、利用現場でのセキュリティ強化を支援することが可能になります。

 ただし、生成AIは魔法のつえではありません。特に、蓄積したデータを活用しないと目的の分析できなかったり、正しい答えを導き出せなかったりといった課題があります。AzureだとデスクトップPCにデータが分散されていますが、Google Workspaceであれば、クラウド上に蓄積されており、それをBigQueryで分析ができ、Vertex AIによる知見も利用できます。生成AIの時代が訪れたいまこそ、蓄積したデータを解き放つことが必要であり、それを可能にする環境がGoogle Cloudには整っています。生成AIが注目を集めるのに従って、Google Cloudを使っていてよかったという声を聞くことが増えています。

日本企業での生成AIの活用

――Google Cloudの生成AIは、日本では、どんな使い方がされていますか。

平手: 例えば、中外製薬では、Google Cloudの医療機関向け生成AI「Med-PaLM2」を活用して、創薬プロセスを大幅に改善しました。1日に1000個以上のたんぱく質構造を推論することができ、効率的に多くの薬の候補を創出することを目指しています。また、ZOZOでは、コーディネートアプリ「WEAR」において、Vertex AIを採用し、PaLM2の文書生成機能を活用しています。ユーザーが投稿したコーディネート画像をもとに、それを説明する文書の作成時間を3分の1に短縮しています。ZOZOでは、今後、マルチモーダル領域での利用拡大を進めることになるということです。

 2024年に日本の企業がやらなくてはならないことは、しっかりと、グラウンディングを行い、企業で生成AIを使える環境を整えること、企業に蓄積された非構造化データと構造化データを活用し、ここにセマンテック検索を組み合わせることで、より高度な生成AIの活用へとつなげることです。これらの取り組みが、日本の企業が、大胆なAI、責任あるAIを活用するための必須条件になります。Google Cloudでは、「大胆かつ責任あるAI」という言い方をしていますが、これまでの生成AIではできなかったような使い方や、利用者の行動様式の変化に柔軟に対応していくこと、半歩先をいく利用方法を、責任ある環境で実現していくことを目指しています。テクノロジーによる差別化だけでなく、期待値を超えたAIのユースケースを提案できるところに、Google Cloudの強みがあります。

――生成AIの進化は想像を上回る速度で進化しています。日本の企業は、その進化に追いつけているのでしょうか。

平手: 日本の国民性と、生成AIの親和性は高いと思っています。子供のころから、対話をするロボットにはアニメを通じて触れてきましたし(笑)、新たな技術が登場するたびに、「日本は数年遅れだ」と言われていたようなことは、生成AIでは起きなかったと思っています。ただ、PoCに対しては抵抗がなく、先行的に取り組んだものの、ハルシネーションなどが課題となったり、データを生かし切れていないという課題があったりして、その先に進んでいないという状況にあります。

 世界中の企業は、グラウンディングに関する討議を活発化させています。日本の企業もその討議を始めつつありますが、これがもっと進めば、日本の企業の生成AIの活用は一気に進むと考えています。データを活用できるかどうかが、日本の企業が「AIドリブンイノベーション」を実現できるかどうかにつながります。これが、2024年の大きなテーマだと思っています。

――動画や音声、画像、テキスト、コードといったマルチモーダルに対応した「Gemini」がいよいよ提供開始となりました。日本の企業にはどんなインパクトをもたらしますか。

平手: これまでは、マルチモーダルの多くが、それぞれが異なる仕組みの上で開発され、それらをつなぎ合わせて提供していました。Google Cloudでも、PaLM2やImagen、Codeyを組み合わせた提案をしていたわけです。しかしGeminiでは、ひとつのモデルでマルチモーダルを実現することになります。これは新たな価値を生むことになります。

 例えば映画のワンシーンがあるとします。緊迫したシーンでは、俳優がセリフをしゃべり、日本語字幕が表示され、背景には自動車が走り、銃声が轟(とどろ)き、オレンジの光が投影され、それを盛り上げる音楽が流れる。映画を見ている人は、これらのすべてを同時に理解しているわけです。私たちは、映画を見た後に、「あの音楽の後になにが起きたっけ?」といった会話をしたりしますが、これまでの生成AIでは、そうした検索は困難でした。しかし、マルチモーダルによって、検索の振る舞いが変わり、より人の会話に近い質問にも答えられるようになります。また、道頓堀と通天閣の2枚の画像をもとに、2日間の旅行プランを作ってほしいと要望すると、画像から大阪という地域であることを理解して、名物や観光スポット、それらの移動時間などを考慮したプランを生成することができます。これまでの生成AIにはできなかったユースケースが生まれることになります。

Geminiを発表したGoogleのスンダー・ピチャイCEO

――PaLM2とGeminiはどう棲み分けていきますか。

平手: PaLM2は、言語モデルのひとつとして継続的に残ります。そして、Geminiはマルチモーダルとの特長を生かしながら、新たな生成AIの活用を提案していくことになります。これは、どちらがいいというものではなく、ユースケースにあわせて選択してもらうことになります。なかには、最初のPaLMでいいという場合もありますからね。また、PaLM2にはGecko、Otter、Bison、Unicornという4つのサイズがあり、GeminiにはUltra、Pro、Nanoが用意しており、用途や経済性を考えて、選択してもらうことができます。さらに、Google Cloudでは、これ以外の言語モデルも利用できる環境を整えます。ひとつのモデルにロックインされない環境を作ることを、Google Cloudでは目指しています。

 Geminiは進化を遂げている段階であり、ネイティブマルチモーダルのAI基盤モデルとして、さらにできることが増えていきます。最上位のGemini Ultraは、限定したお客さまを対象にしたプライベートプレビューの段階ですが、このなかには日本のお客さまも含まれています。

国内のパートナー戦略

――ここ数年、日本におけるパートナー戦略に力を入れてきました。どんな成果があがっていますか。

石積: 振り返ると、約3年前までのGoogle Cloudのお客さまは、クラウドネイティブあるいはデジタルネイティブの有効性を理解している企業が中心であり、Google Cloudのメリットを理解し、使いこなせるお客さまばかりでした。また、また、パートナー企業も、Google Cloud専業のクラウドネイティブパートナーばかりであり、トラディショナルなパートナー企業はゼロという状況でした。しかし、その状況が大きく変化しています。例えば、2023年末時点で、Google Cloud認定技術者が最も多いのは大手コンサルティングファームであり、国内大手SIerなどがそれに続いています。

 Google Cloudは、2023年に二刀流キャンペーンを実施しました。いまお客さまが求めているのはAWSのスペシャリストではなく、クラウドのスペシャリストです。クラウドを理解し、マルチクラウドを提案することができるエンジニアこそが必要とされています。AWSの認定資格を取得している技術者に対して、Google Cloudの認定資格を取得することを提案し、それが多くのパートナーに理解されています。AWS専業パートナー企業が、Google Cloudの認定資格の取得に積極的に取り組む動きがあり、Google Cloudの専業企業を設立する例もあります。さらに、AWSユーザーを対象に、Google Cloudの活用提案を行うパートナーもあります。「A+G(AWS + Google Cloud)」の提案が、2023年は一気に増加しています。

グーグル・クラウド・ジャパン 上級執行役員 パートナー事業本部の石積尚幸氏

――想定以上の成果になっているようですね。

石積: いや、私の目標が高いことに加えて、平手の目標はさらに高いので(笑)、まだまだこれからだと思っています。とはいえ、2023年は、パートナー戦略として設定した目標はすべてクリアし、高く設定した認定技術者数の目標値もクリアしています。

――パートナーがGoogle Cloudを担ぎ始めた動きの背景にあるのはなんですか。

石積: クラウドを活用しているお客さまの多くが、クラウドの本来の使い方にはなっていない、あるいはクラウドの良さを生かし切れていないということに気がつき始めたといえます。例えば、イノベーションに直結するデータマネジメントやデータアナリティクスでの活用が十分にできていないという課題に気がついたとき、Google Cloudであればもっと活用ができるのではないかと考えるお客さまが増え、AWSを扱っていたパートナーにおいても、同様の動きが始まっているのです。また、3年前にはほとんどなかったミッションクリティカル分野で、Google Cloudを利用するお客さまが徐々に増加しています。ここにもトラディショナルなパートナー企業がGoogle Cloudの提案を増やしているという動きが成果につながっています。

――パートナーに対しては、どんな支援体制を構築しているのですか。

石積: 認定技術者を育成するするために支援プログラムを用意しているほか、二刀流キャンペーンでは、AWSの認定資格を持っている技術者を対象に速成講座を提供したり、インセンティブを用意したりといったことを行いました。また、パートナートップエンジニア制度を開始しており、複数のライセンスを取得したり、事例の紹介やブログによる発信などの指標をクリアしたエンジニアの認定も行っています。パートナートップエンジニアの認定者は、2022年は50人でしたが、2023年には105人に倍増しています。指標のハードルは同じですから、その指標をクリアするトップエンジニアが、この1年で倍増したということになります。

 パートナーのなかで認定資格者が増加すると、3カ月後には、そのパートナーにおけるGoogle Cloudの案件が明らかに増加します。その3カ月後には受注につながり、さらに3カ月後には売り上げが増加するという動きが見られます。認定技術者の増加と、案件提案、受注、売り上げの増加という相関関係が明確であり、2023年に認定技術者が増加した分、2024年度は、さらに受注や売り上げが増加すると見ています。

平手: Google Cloudはテクノロジーの会社ですから、これを業務ドリブンの価値に変えていくにはパートナー企業の知見やノウハウが不可欠です。Google Cloudとパートナー企業が組むことでその価値を最大化できると考えています。パートナー企業との連携強化は、日本における最重点テーマのひとつです。

――2024年のパートナー戦略はどう考えていますか。

石積: この3年間で、国内パートナー体制の地盤が完成したといえます。2024年は、これをベースに、パートナー支援をより積極化していきます。グローバルでパートナープログラムの仕組みを大きく変更する予定であり、それにより、パートナーにおける教育投資などが行いやすい形となります。パートナーを通じて、お客さまの変革を推進するための体制を、より強化できます。さらに、ディストリビュータとの関係強化や地域SIerとの連携強化などにより、日本全国をカバーするための仕掛けも行っていく考えです。

――グーグル・クラウド・ジャパンは、2024年にはどんなことに取り組みますか。

平手: 日本のお客さまが、真のデータ活用に取り組み、圧倒的な競争力を発揮するためのトラステッドパートナーになりたいと考えています。経営に役立つクラウドを提供することにも、引き続き、力を注いでいきます。2024年も、グーグル・クラウド・ジャパンが大躍進の1年であったと言えるように努力をしていきます。