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Google Cloud、AI時代のパートナー事業戦略を発表 インダストリー特化にフォーカス
2025年4月24日 06:15
Google Cloudは22日、ユーザーのAI活用が増加していることを踏まえ、新たなパートナー事業戦略を発表した。上級執行役員 パートナー事業本部の上野由美氏は、「4年かけ、パートナーの社数を増やしてきた。これからはより深く、関連ソリューションを一緒に作り上げていくといったところに重きを置いて、各インダストリーのソリューションを拡充していくことが戦略となる」と説明。
今年1月1日付けで、日本法人の独自組織「インダストリーソリューション開発部」を新設し、パートナーと共に各インダストリーに特化したソリューション開発を進めるとした。
パートナーとの協業の際にポイントとなるのはAIだ。PoCではなく、実ビジネスにAIを導入し成果を上げている企業が増加していることから、AIを実務に活用することで、ROI向上、年間収益成長、価値実現までの時間短縮につながるAI活用をパートナーとともに進めていく考えを示している。
昨年中盤以降は生成AIを実業務に取り込む企業が増えた
説明会の冒頭、日本代表の平手智行氏が登壇し、グローバルな市場動向と重点戦略について説明した。「急速にAIエージェントがお客さまに実装される中、Google Cloudのミッションステートメントも、『GoogleのAIで進化したクラウドが変革をさらに加速する』へと変更された。生成AIについても、昨年前半はPoCばかりだったが、中盤以降は実業務に取り込む企業が増え、後半になるとコア業務に組み込んで利用する段階へと移行した。社内の生産性を上げられる、効率化に生成AIを使って取り組む企業が増えていった」という。
生成AIを導入し成功した企業の事例を集めた小冊子を発行。「これを読んで、見て刺激を受けたお客さま、パートナーが触発され、さらに新しい事例がどんどん作られ始めるというサイクルを作っていくことができるよう、引き続き取り組みを進めたい」(平手代表)とさらに多くの事例を作り、公表していくことを強調した。
事例の中で代表的なものがTBSテレビとカインズの事例だ。TBSテレビでは、従来人力で行っていた過去映像へのメタデータ付与作業にAIを導入し、スキル差による人的バラツキの是正を実現し、質向上とともに、作業にかかる時間を90%削減することに成功した。カインズは商品点数が多いことからECサイト、アプリの検索機能をVertex AI Searchを使って強化し、その結果、再検索率を5%下げることに成功したという。
さらに、2025年はエンタープライズ領域におけるAIエージェント元年と位置づける。
「先ごろ、米ラスベガスで開催したGoogle Cloud Next2025でもAIエージェントで持ちきりとなった。日本でも同様にエンタープライズ領域におけるAIエージェント元年が2025年だと考えている」と平手代表はアピールした。
Google Cloudのパートナービジネス
続けて、パートナーエンジニアリング技術本部 統括技術本部長の坂井俊介氏が、パートナーの現状について紹介した。
「グローバルな観点から振り返ると、2024年の場合、Google Cloud全体の成長の80%に、パートナーに貢献いただいた。顧客満足度を測定するネットプロモータースコアについては、パートナーが関与しない場合と比較し、パートナーが関与した場合が17ポイント向上している。さらに、パートナーがデリバリーに関わっている案件の金額規模は、2023年上半期から2024年上半期にかけて2倍以上に増加している」。
パートナー経由のビジネスが成長しているのは日本でも同様で、「2024年末時点で、日本のパートナーの総数は過去4年間で2.1倍に増加。同時に、パートナーによるGoogle Cloudの売り上げは4.3倍にまで成長した」という。
その要因となっているのがパートナーの技術力向上だ。この4年間でパートナーの認定資格者数は8.7倍に拡大し、Partner Top Engineerは11.3倍に拡大している。
生成AIに関しては、グローバルな資格として「Generative AIスペーシャライゼーション」を新設。「日本においても、生成AIエンジニア育成に注力しており、認定されたパートナーによる生成AIのクラスルームトレーニング、ワークショップの提供、オンラインでセルフラーニングができる環境を整えている。その結果、昨年は数百人単位で生成AIのエキスパートレベルのトレーニングを受講完了者がいる。今後もトレーニングを多数用意し、パートナー向けに提供していく計画となっている」(坂井統括技術本部長)。
上級執行役員の上野氏は、生成AIのビジネスへの貢献について次のように言及した。
「Google Cloudと調査会社が実施したグローバルなエンタープライズ企業のシニアリーダーを対象とした調査結果で、生成AIがビジネスにどれだけ貢献をしているかを図るために、ROI、年間収益の成長、価値実現までの時間という3点に着目した。その結果、驚くべきことに調査対象となった企業の74%、4社中3社がすでにAI投資で利益を得ているという結果となった」。
「ここで重要なのは、生成AIという技術がものすごいスピードで進化し、企業はこの進化の波に乗ってAIへ投資を行うことです。しっかり利益を出すために、アジャイルな手法を取り入れる、効果の高いユースケースに絞って投資をする、また地域のトレンドを把握するといった戦略が重要になってくる」
もう一つのポイントであるAIエージェントについては、Googleは50社以上のパートナーと共同で、AIエージェント同士がやり取りするためのプロトコル「Agent2Agentプロトコル」を発表した。
「先日グローバルで発表されたこの取り組みは、BOX、Salesforce、SAPなど50以上のテクノロジーパートナー、アクセンチュアやデロイトといった主要なサービスパートナーに参加いただいている。日本市場でも、テクノロジーならびにプラットフォームパートナーの参画をこれから促していく」(上野氏)。
さらにパートナーとの関係については、「エンタープライズ領域でAIエージェントが浸透する元年となることを踏まえ、日本企業に、日本国内においてもAIを活用したビジネスチャンスが倍増していると認識をしている。このような背景を踏まえ、Google Cloudは、パートナーとの連携を一層強化し、ともにこの変革の波に乗るための戦略を推進していく」と上野氏はアピールした。
2025年をトランスフォーメーションの初年度「Transformation1.0」として、基盤作りとしてAI時代のパートナーエコシステムの基盤作りと、初期成果創出を進める。インダストリー専門性の高いパートナーとの連携、インダストリー特化型の拡張可能なソリューションを開発、初期の顧客獲得を目指す。
それに続き2026年はTransformation2.0となる事業拡大、2027年はTransformation3.0となる持続的成長の年とする。
1月1日付けで新設したインダストリーソリューション開発部では、日本独自組織で、日本企業にとってメリットがあるインダストリーに特化したソリューションを、パートナーとともに開発していく。
「パートナー戦略としては、インダストリーファーストとして、インダストリーソリューション開発、パートナーの収益性の追求、イネーブルメント、パートナーマーケティング、販売推進という5つの重要要素を含んだ共同ビジネスプランを策定し、パートナーと推進していく。お客さまの課題に着目し、年間を通じて共同ビジネスプランの策定、合意、実行することで結果を出していきたい。私たちは、AIエージェントが日本のイノベーションさらに加速すると確信をしている。私たちの描くAIエージェントによる変革に賛同いただき、この革新的なエージェントスペースをともに広げていただける心強いパートナーとして多数の企業が名を連ねている。Google Cloudは、この変革の時代を、志を同じくするパートナーとともに新しい未来を創造していく」と上野氏は強調した。
なお会見には、すでにGoogle Cloudの技術を使ってソリューションを開発したパートナーとして、富士通、SCSKの2社が登壇した。
富士通は、独自開発したAIプロダクトサービスKozuchiとGoogle CloudのVertex AIを組み合わせることで、アプリ開発の高速化などを実現した。
富士通のAI戦略・ビジネス開発本部長 岡田英人氏は、「私たちは、Kozuchiを単独で世の中に出すではなく、Vertex AIと組み合わせることによって、よりいろんな機能が、より早く提供できると思っている。Google Cloudとは、世界観を一緒に共有しながら前に進んでいくことに加え、お客さまへの共同アプローチ、また、お客さまの課題をきちんと理解し、技術を使って解決するといったことをしたい。それも最速スピードで解決していく。富士通とGoogle Cloudでしかできない領域にフォーカスしたいと思っている」と説明した。
SCSKは、独自開発したERP「PROACTIVEシリーズ」にGoogle Cloudが提供するAI機能を付加した。SCSK 執行役員 PROACTIVE事業本部長の菊地真之氏は、「約1年前から、私どもはPROACTIVEにどういったAIを搭載したらいいかを考えてきた。GeminiをはじめさまざまなAIを比較したが、その時はまだまだこなれていないという印象だった。それが2024年の10月、11月ぐらいから、Geminiの進化が加速度的に進み、特に自然言語解析、経営に関する分析などの機能が加わっていったことから、採用を決定した。こうした機能の進化と共にグローバルなサポートが非常に魅力的で、グローバル展開をしているPROACTIVEにとしては積極的に活用していきたいと考えている」と、採用を決定した理由を説明した。