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Google Cloudが2023年の事業戦略を説明、重点領域は「データ利活用」「リスキリング&コラボレーション」「内製支援」

 Google Cloudは2月28日、事業戦略に関する記者説明会を開催。日本企業のDXに向けたトランスフォーメーションクラウドの取り組みや注力領域、パートナー戦略の変更点などを説明した。

2023年の重点領域は「データ利活用」「リスキリング&コラボレーション」「内製支援」

 まず、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表の平手智行氏が、日本市場における取り組みや注力領域の概要を説明した。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表 平手智行氏

企業のデータドリブン経営がますます重要に

 平手氏は2022年の振り返りとして、社会のあらゆる分野でデータ活用が拡大したことを挙げて、「Google Cloudのデータ基盤を多くのお客さまに導入いただき、飛躍の一年だった」と述べた

 そして2023年は、より不確実性が高まる中で、データドリブン経営がますます重要になり、データの分析や可視化が非常に重要になるだろうと語った。さらに、スピードも重要になるとして、変革の活動にスピードが掛け算になると主張。変革が競合他社より遅ければ掛け算がマイナスになり、スピードが0なら変革の活動も0になると論じた。

 これを受け、2023年の重点領域として「データ利活用」「リスキリング&コラボレーション」「内製支援」の3つを掲げた。

 「データ利活用」としては、「お客さまのデータ利活用を促進するのはもとより、ビジネス変革を加速することにご一緒に取り組む」という。そしてそのためにも、「諸外国と比べてデジタルスキルの不足が弱点と言われる中で、トレーニングや認定資格制度などを引き続き提供していく」と「リスキリング&コラボレーション」への取り組みを説明。さらにそこから、「企業のシステム内製化により変革の社内理解と拡大が期待でき、トータルのDXの質と量、スピードが格段に向上する」として、「企業の内製化にも一緒に取り組みたい」と語った。

2023年の重点領域

動画配信や製造業、自治体などの顧客事例を紹介

 Google Cloudの顧客事例も平手氏は紹介した。

 まずライブ動画配信のABEMAは、「FIFA World Cup 2022」の生中継による過去最大のトラフィックを、Google Kubernetes Engine(GKE)や、BigQuery、Pub/Subなどを利用して処理。さらにGoogle Cloudのプロフェッショナルサービス部門が設計から一緒に取り組んだ。

 イオンリテールは、「イオンお買い物アプリ」とデータ分析基盤をApp EngineやBigQueryを採用して構築。急激な量の変動にも安定し、アプリから出るデータとPOSデータを結びつけて膨大なデータを分析して顧客満足度や広告などに生かしている。

ABEMAの事例
イオンリテールの事例

 日立製作所の大みか事業所では、制御盤の電線の端子圧着作業の検査に、Visual Inspection AIによる外観検査システムを構築。不具合判別率100%を実現したほか、すくないサンプル作業で素早くモデルが作れることなどに高評価だという。

 SOMPOシステムではSOMPOグループのDXのために、パブリッククラウドの利用を、IaaSから、サーバーレスやマネージドサービスにシフト。IaaSでふくらんだ管理工数を下げて開発運用体制を見直した。

日立製作所の事例
SOMPOシステムズの事例

 日本特殊陶業(NGK)は、インフラ基盤としてGoogle Cloudを採用するとともに、ビジネスツールとしてGoogle Workspaceを全面採用して、オンプレミスから短期間で移行し、運用コストを大幅に削減。現在SAPも移行中だ。さらに、BigQueryとAIによる製造プロセスの自動化や、低炭素化対応とグローバル対応、工場作業のリモート化、外観検査の判定率の向上、取引企業とのマッチングの自動化などにも取り組んでいるという。

 鹿児島県の肝付町は、自治体ネットワークで使われる三層分離の構成に課題があったことから、日本の自治体としては初めて、ユーザー単位でアクセス制御を行うゼロトラストの「Beyond Corp」を採用。リモートワークでも安全に業務やアクセスができるようになり、「地域に出ていく町民窓口」を試みている。

 ニトリホールディングは、オンプレミスのデータ分析基盤をBigQueryを軸としたデータウェアハウスに移行。実店舗とEコマースなどさまざまな購買データを集め、リアルタイムの分析や販売予測に活用している。

日本特殊陶業(NGK)の事例
肝付町の事例
ニトリの事例

重点3領域のGoogle Cloudサービスを説明

 次に、そうした企業のDXを支援するトランスフォーメーションクラウドのサービスについて、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 カスタマー エンジニアリング担当の小池裕幸氏が説明した。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 カスタマー エンジニアリング担当 小池裕幸氏

「LLMでは、有益性や安全性などの基本方針を重視」

 小池氏はまず、GoogleのAI/MLの取り組みについて説明した。

 Google Cloudでは大規模言語モデル(LLM)のLaMDAを元に、コンシューマー向けの対話型AIのサービスをリリースしていこうとしている。小池氏は、LaMDAを含めたLLMにおけるGoogleテクノロジーを紹介し、「準備をしてずっとやってきている」と語った。

 そのうえで、重要なのは、継続的にブラッシュアップできることだと小池氏は述べる。さらに、AIにおける基本方針として、社会にとって有益である、不公平なバイアスの発生、助長を防ぐ、安全性確保を念頭においた開発と試験、人々への説明責任、プライバシーデザイン原則の適用、科学的卓越性の探求、これらの基本理念に沿った利用への技術提供という7項目を紹介し、「LaMDAはそれでいま実装を迎えている段階にある」と語った。

 LLMについては最近ChatGPTやBingなどの対話型AIが世間の注目を浴びている。小池氏がここでLLMへのスタンスを取り上げたのは、それを受けてのものと思われる。

Googleの大規模言語モデル(LLM)研究の歴史
AI利用における基本方針

データ利活用:BigQueryはマーケティング部門だけでも活用可能

 さて、小池氏はあらためて、平手氏が挙げた重点領域の3つを、「データ利活用」を中心として、ビジネス部門向けの「リスキリング&コラボレーション」と、IT部門向けの「内製支援」として掲げた。

データ利活用を中心として、ビジネス部門向けと、IT部門向けの重点分野

 まずデータ利活用全般の分野では、BigQueryがマーケティング部門だけでも運用し活用できることを強調した。自分のPCからGUIでデータをアップロードし、蓄積していくと、運用不要で検索でき、ワンクリックで可視化や共有などができる。

 BigQuery関連では、9月にリリースした「Datastream for BigQuery」を小池氏は紹介した(プレビュー)。データがOracle DataBaseやMySQL、PostgreSQLにリアルタイムで入ってくる企業において、BigQueryにリアルタイムにレプリケートして分析できるようにするものだ。

BigQueryはマーケティング部門だけでも活用できる
Datastream for BigQuery

ビジネス部門向け:小売業向けAIやノーコード開発ツールを紹介

 続いてビジネス部門向けでは、小売業向けの「Discovery AI」を小池氏は紹介した。商品検索や、レコメンデーション、画像検索を、小売業の企業にGoogle品質で提供することで、「ECサイトで検索したときに、関係ないものが出てくることがあるが、Google品質なら高い確率でニーズに応えられる」と氏は言う。

 また、リテールテックの国際展示会「NRF 2003」で発表された「Shelf Checking AI」も小池氏は紹介した。カメラ映像によるリアルタイムの棚卸しで、固定カメラでどんな商品が売れたかを把握したり、閉店後にロボットが店内を回って棚や値札をチェックしたりできる。

小売業向けの「Discovery AI」
商品検索を「Google品質」で
Shelf Checking AI
カメラ映像によりリアルタイムで棚卸し

 ビジネス部門が触れることの多いGoogle Workspaceについては、2022年に追加された「スマートキャンバス」機能を小池氏は紹介した。議事録を作るときに、カレンダーから会議参加者の情報を参照したり、参加者で共同したりといったことを例に、「コミュニケーションのツールではなくコラボレーションのツール」と氏は説明した。

 また、ビデオ会議のGoogle Meetにおいては、字幕の翻訳機能が12月に日本語に対応した。

Google Workspaceのスマートキャンバス機能
Google Meetで字幕の翻訳機能が日本語に対応

 ビジネス部門向けで最後に小池氏が紹介したのは、ノーコード開発ツールの「AppSheet」だ。氏は、LIXILでのAppSheet利用事例を取り上げた。いままではデジタル部門に相談して時間がかかったり優先度が低く後回しになったりしていたところを、現場で素早くツールをプロトタイプ開発してデジタル部門がリメイクするようになり、現場の課題を素早く解決できるようになったという。

ノーコード開発ツール「AppSheet」
LIXILのAppSheet事例

内製化・IT部門向け:内製化支援プログラムの事例を紹介、AlloyDBは大阪リージョンでも開始

 次は、システム内製化や、IT部門向けだ。小池氏は、Googleのサービスを支えるインフラのスケーラブルでリソースコンシャス(リソースを無駄にしない)な構成であること、そしてその同じインフラをGoogle Cloudの顧客に提供していることを強調した。

 小池氏はまず、内製化支援プログラムのTech Acceleration Program(TAP)を紹介した。企業課題を持ってきてもらって、3日間でプロトタイプを作るところまでやってしまうというワークショップだ。

 TAPの事例としては、まずジェイアール東海情報システムが紹介された。現場の設備の異常検知と通知のシステムを、Cloud Run上に3日間でプロトタイプ作成までしたという。

 また、デジタルネイティブ企業のMoney Forwardの事例も紹介。インボイス制度にともなう新サービス開発において、TAPによって、Cloud RunやFirestore、Pub/Subなどのサービスがコストや開発生産性に優れていることがわかったという。

内製化支援プログラム「TAP」
TAP活用企業
ジェイアール東海情報システムのTAP活用事例
Money ForwardのTAP活用事例

 続いてデータクラウドの分野。小池氏は、Google Cloudでは、BigQueryなどのアナリティクスだけでなく、Cloud Spannerなどのデータベースもやっていることをあらためて説明した。

 この分野のサービスの1つに、PostgreSQL互換の「AlloyDB」がある。このAlloyDBについて、記者説明会の開催された2月28日に、日本の大阪リージョンでの提供が開始されたことを小池氏はアナウンスした。

AlloyDBが大阪リージョンで提供開始

 最後はセキュリティ分野。小池氏は、国防レベルのセキュリティソリューションを提供する子会社「Mandiant」と、Google Cloud上での設定ミスなどのセキュリティリスクを検知する「Security Command Center」を紹介した。Security Command Centerについて氏は、「Google Cloudを使うときに、きちんとシートベルトしましょう、というもの」という比喩で説明した。

国防レベルのセキュリティの「Mandiant」
Google Cloud上でのセキュリティリスクを検知する「Security Command Center」

パートナー戦略のアップデート

 パートナー戦略のアップデートについては、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 パートナー事業本部の石積尚幸氏が説明した。

 全体としては、Partner Advantage(パートナープログラム)の刷新を、2023年1月に発表して、準備段階を経て、7月に実装する。その内容は、パートナーのデリバリースキル強化、顧客がより適切なパートナーを選択できる仕組み、Googleからのフィードバックとインセンティブからなる。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 パートナー事業本部 石積尚幸氏
Partner Advantage(パートナープログラム)の刷新 (※Confidentialとありますが掲載許可済みです、以下同じ)

 最初の刷新は、Partner Advantageプログラムを商品別に、Google Cloud・Looker・Apigeeといったインフラ系と、Google Workspaceとで2つに分けることだ。

Partner Advantageプログラムを製品別に分割

 パートナー認証は、「認定資格【個人】」、「エキスパティーズ【組織】」、「スペシャライゼーション【組織】」の3つの段階で用意している。

 このパートナー企業を顧客が選ぶために、Partner Directoryを用意。パートナーがどんなスペシャライゼーションを持っているかを簡単に検索できるようなサービスを展開する。

 そのスペシャライゼーションも、日々新しいサービスが展開されるのにともなって、項目をアップデートしていると石積氏は紹介した。

パートナー認証の3段階
パートナー企業を検索できるPartner Directory

 ISVのサービスを販売するGoogle Cloud Marketplaceにおいても、去年の暮れから、パートナー経由の商流に対応した。これによって、パートナーがISVソリューションを自社のソリューションと合わせてお客さまに提案できる。パートナーが直接そのISVと契約していなくても扱えるようになるのがメリットだという。

Google Cloud Marketplaceがパートナー経由の商流に対応

 パートナー専任エンジニアは継続的に人数を増やしている。それにともないテーマを決めて実施して、うまくいった事例を石積氏は紹介した。

 1つ目は、「クラウド二刀流」だ。これは、他社パブリッククラウドの認証を持っている人にGoogleの認証をとってもらって、クラウド全般のスペシャリストになってもらおうというものだ。これを去年開始して好循環が生まれ、「昨年後半はAWSのトップパートナーで認定資格者が増加した。今年もこの勢いを伝える」と石積氏は語った。

 もう1つはエンタープライズ分野の公式ユーザー会「Jagu'e'r」だ。参加者2000人を超える中で、半分ほどパートナーが参加し、エンドユーザーとディスカッションしているのが特徴だという。

パートナー専任エンジニアの強化

 次に、パートナーの評価において、認定資格数から認定資格保有者数で判断するように基準を変更した。これは、1人が複数保有しているとプロジェクトの掛け持ちが難しいという理由によるものだと石積氏は説明した。

パートナーの評価において認定資格保有者数を基準に

 これからの施策としては、「Delivery Readiness Score」を導入する。認定のうえで、スキルや業績をパートナーに登録してもらうことで、そのパートナーがどのようなデリバリー能力を持っているかを可視化する。さらに、顧客のビジネスが成功したときにはそのリターンがパートナーに戻るようにするという。

 そのほか、2月からパートナーからの問い合わせ窓口を一本化したことも石積氏は紹介した。

「Delivery Readiness Score」の導入
パートナーからの問い合わせ窓口を一本化