大河原克行のキーマンウォッチ

2年間で利用社数を倍増させたBox Japan、古市克典社長が目指す「コンテンツクラウド」の推進

 Box Japanが、日本におけるビジネスを大きく成長させている。

 2019年には約5000社だったBoxの国内利用企業数は、現在1万社以上となり、わずか2年で倍増している。コンテンツを、あらゆる環境から、あらゆるデバイスで、セキュアに利用することができるBoxのプラットフォームは、コロナ禍におけるコンテンツ管理に最適化したものとして高い評価を得ていることなどが、その背景にある。

 ここにきて、「コンテンツクラウド」という新たなブランドメッセージを打ち出し、同社独自の「クラウドコンテンツ管理(CCM)プラットフォーム」を通じた製品提供や機能強化を、さらに推進する姿勢を示した。

 Box Japanの古市克典社長に同社の戦略などを聞いた。

Box Japan 代表取締役社長の古市克典氏

今年に入ってから官公庁や金融機関でも関心が高まる

――日本でのBoxの利用者数は1万社に達しました。どんなユーザーがBoxを利用しているのですか。

 日経225の59%の企業が利用しています。ただ、こう聞くと大企業向けのサービスではないのか、といわれるのですが、実は、1万社の大半が中堅中小企業です。これらの会社にとっても、Boxは使い勝手がよく、IT部門がなくても最新のITツールとして活用できます。SaaSの特徴は、大手企業が利用している先進機能を、中堅中小企業でも利用できる点ですから、そのメリットが生かされているといえるでしょう。

 また、さまざまな業種で利用されているのも特徴です。製薬、自動車、化学、製造、建設、そして、IT企業やメディア/エンターテインメント企業のユーザーも多いですね。今年に入ってからBoxに対する関心が高めている業種が、官公庁/自治体、金融機関です。

 特に、官公庁/自治体は、クラウドに対しては慎重な姿勢があったのですが、クラウドファーストの考え方の導入、デジタル庁創設の動き、さらにはコロナ禍で、官公庁/自治体のデジタル化が遅れていることが浮き彫りになったという背景もあり、一気に導入意欲が高まっています。例えば、特別定額給付金では、欧米と比べてデジタル化の遅れを感じた国民も多く、それ以降、官公庁/自治体の意識が大きく変わったことを感じます。

 これまで、日本では、官公庁/自治体、金融機関でのBoxの利用は遅れていたところがありましたが、実は、米国市場では、Boxが最も利用されている業種の1番、2番が、官公庁/自治体、金融機関です。Boxが米国、欧州で培ったこの分野での事例を、日本にも伝えることができます。またBox Japanでも、約2年前から官公庁/自治体の領域に精通した社員を採用し、専任組織を設置しており、この成果も上がっています。さらには、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度であるISMAPも取得しました。また、米国ではFedRAMPを取得しています。

 一方で金融機関でも、クラウドやSaaSの活用に先進的な銀行などがBoxを導入していたという段階を過ぎ、これまで以上に高い関心が集まっています。

 Box Japanは、日本の社会にお役に立ちたいと考えており、その観点でも、官公庁/自治体、金融機関への展開は柱となり、重点業種になります。官公庁/自治体、金融市場に貢献したいと考えていたものが、ようやく現実になってきたといえます。

Box導入企業はスムーズにリモートワークへ移行できた

――Boxがコロナ禍で注目を集めている理由はなんでしょうか。

 新型コロナウイルスの広がりにあわせて、多くの企業が最初に直面したのが、リモートワークの導入でした。その際に、これまでは水や空気のようにいつでも利用できていたファイルやコンテンツが、リモートワークの実施によって自由に利用できなくなり、業務に支障をきたした企業が多く見受けられました。

 その一方で、Boxを導入済みで、社内のファイルにどこからでもセキュアにアクセスできる環境を構築していた企業は、スムーズにリモートワークに移行できたという声をよく聞きました。空気や水のように考えていたものがそうではなかったと気がついた企業も多かったといえます。コロナ禍においてコンテンツ管理の重要性が高まったのは明らかで、それがBoxの良さが認識されるきっかけになっています。

 もうひとつは、ここ数年のSaaSに対する関心の高まりとともに、コロナ禍によって、新たなアプリを利用する企業が増えた点です。具体的には、これまでのように、スイート製品を利用して、マイクロソフトの世界だけ、あるいはグーグルの世界だけで、アプリを利用するのではなく、SalesforceやZoom、Slackといったようにさまざまなアプリを利用することが増えてきました。

 この動きが加速すると、それぞれのアプリごとに設けられたストレージエリアでコンテンツが管理されたり、分散したりすることになります。その結果、コンテンツの保管場所がわからなくなることが増えたり、無駄なコピーが増加したり、亜種ともいえるデータが散在したりといったことがおきます。コピーが増えるということは、漏えいリスクも高まるということにつながりますから、その点でも避けたいことです。

 また、アプリごとにコンテンツのセキュリティポリシーがばらばらであり、運用する側にもリスクが生まれます。Boxによって統一したセキュリティポリシーで管理できることは、IT部門にとっても大きな安心材料のひとつになります。

 Boxは、すべてのコンテンツを一元管理し、アプリと切り離してコンテンツを守れること、どんなアプリからも、最新のコンテンツにアクセスできます。使うアプリが増えるほど、Boxの価値が高まるのです。

クラウドを導入した企業は、コンテンツの分散に四苦八苦している

 そして、これは、新たなアプリを試しやすいということにつながります。ほとんどのクラウドアプリはBoxとの連携が完了しており、どんなアプリを使ってもコンテンツはBoxがしっかりと守ります。新たなアプリを試してみたいという場合にも、コンテンツへの影響を気にすることなく、試験運用したり、本格導入したりということが可能になります。アプリ導入のハードルを下げることにもつながります。

“脱・ハンコ”も支援できる

――日本では、コロナ禍においてハンコの問題が顕在化しました。

 この点でも、Boxは新たな提案を行っています。2021年7月には、電子サイン機能「Box Sign」をリリースしました。Boxの標準機能として追加料金なく利用でき、日本における脱ハンコの流れを促進するものになります。これは、2021年2月にクラウドベースの電子サインソリューション企業であるオランダのSignRequestを買収し、この技術をベースに開発したものです。大切なのは、電子サインによる承認という機能をネイティブに組み込んでいるという点であり、コンテンツのライフサイクル全体において重要なプロセスとなる認証が、Boxのなかでセキュアに行えます。

 この買収および電子サイン機能の標準搭載については、日本からも本社に強く呼びかけました。Boxのグローバルの顧客数は10万社であるのに対して、日本は約1万社と比率が高く、重要な市場となっています。これまでにも日本の市場の要求を、機能として数多く反映してもらっています。例えば、日本では全国のコンビニエンスストアに高性能な複写機が設置されており、安心・安全なコンビニプリントが可能になっています。これは、海外にはない日本ならではのサービスであり、日本固有の連携ソリューションを作りたいと考えました。

 Boxはグローバル標準のプラットフォームであり、日本独特の商習慣にマッチしない部分もありますが、日本には多くの顧客ベースがあり、それが後押しとなって、日本のニーズに合致した機能を追加してもらうことができています。その点では、外資系IT企業のなかでも、ユニークなポジションにあるといえます。

 またAPI連携ソリューションをさらに強化することで、日本の商習慣に根ざしたサービスとして進化させることも可能です。すでに160以上の連携ソリューションを通じて、Boxと連携した活用提案が日本で行われています。

 実は、CEOのアーロン・レヴィは日本が大好きで、子供のころから任天堂のゲーム機で遊び、高校時代はオニツカタイガーのシューズを履き、大学生になって最初に乗ったクルマはホンダです(笑)。7月にオンラインで開催したBox Works Digital Tokyoでも、「日本を訪れたのは1年半以上前であり、日本のみなさんに直接会えないのが残念である」と語っていましたが、これは本音ですよ(笑)。オンライン会議で話をするたびに、「コロナ禍が明けたら最初に訪れたいのが日本」だと言っていますから(笑)。

――古市社長は、Box Japanを「シリコンバレー企業と日本企業のいいところ取りをしたい」という表現をしていますね。

 Box Japanは外資系IT企業ですが、日本にしっかりと根を下ろした企業です。私は13年間NTTで働き、日本の企業の良さと課題を認識しています。またBox Japanでは、私自らが登記を行い、会社を設立して8年が経過しましたし、それ以前にも外資系企業での経験を通じて、いいところ、悪いところを感じています。

 日本の企業は、現場にいる社員の当事者意識が高く、責任感も強い。継続的な改善や品質向上に対するこだわりも強い。一方で、シリコンバレーの企業は、役職に関係なく率直に議論を行える文化があり、創造的な製品やサービスの開発が行われたり、経営面でも大胆な意思決定が行われたりします。このような日本の企業が持つ現場力と、シリコンバレーの企業が持つ経営力を融合すると、働きがいがある会社を作ることができるのではないかと思っています。

 外資系日本企業として、こういう会社を作ることができれば、これからの日本の企業の参考にもなるのではないかと思っています。シリコンバレー企業と日本企業のいいところ取りをした企業を真剣に作っていきたいと思っていますし、それができつつあるとも思っています。

新たなブランドメッセージ「コンテンツクラウド」

――Boxでは今年に入ってから、「コンテンツクラウド」というブランドメッセージを打ち出しました。この意味と狙いを教えてください。

 これは、Boxが新たなフェーズに入ったことを示すのではなく、いままでBoxがやってきたことを表現するのに最適な言葉が「コンテンツクラウド」だ、ということになります。

 これまでにはクラウドコンテンツマネジメントという表現もあったのですが、ピンとこなかったり、定着しにくかったりということもありました。これをもっとシンプルにとらえたいということで使い始めました。Boxをひとことで示すことができる言葉が、やっとできたと思っています(笑)。

 セールスフォース・ドットコムのセールスクラウド、アドビのマーケティングクラウド、Snowflakeのデータクラウドというように、Boxではコンテンツクラウドを打ち出し、「Boxといえば、コンテンツクラウドの会社」と言われるようにしたいですね。コンテンツを使わない仕事はありませんし、コンテンツは業務の中心にあります。コンテンツを一元的に管理し、企業のコンテンツをがっちりと守り、コンテンツを使いこなせる環境を提供していくことが、コンテンツクラウドが目指す世界です。

――Boxが実現する「コンテンツクラウド」は、どんな要素で構成されるものになりますか。

 コンテンツを一元管理し、あらゆるアプリからアクセスでき、コンテンツが生成され、共有され、保存され、破棄されるまでのライフサイクルを一元管理することが、コンテンツクラウドによって実現されます。コンテンツのゆりかごから墓場までをサポートするのが、コンテンツクラウドです。

 また、これは、コンテンツがさまざまな業務システムのなかを旅するコンテンツジャーニーをサポートするものである、と言い換えることもできます。Microsoft 365のなかで作られたコンテンツがセールスフォースに渡って利用されたり、電子サイン機能によって承認を行ったりといったように、アプリ間を旅することをすべて管理します。

 保持、拡張、取り込み、スキャン、分類、共有、コラボレーション、自動化、署名といった機能を提供し、活用、共有、編集、保持、再利用、破棄、保存といったプロセスまで、ひとつのコンテンツ基盤で賄える、業界唯一のサービスであることがBoxの特徴です。また、SaaSですから、絶え間なく進化を続けていきます。

コンテンツクラウド

 さらに、文書、画像といった定性的なコンテンツだけにとどまらず、データベースで扱われいるような定量的なコンテンツも、Boxプラットフォームで一元管理するといった使い方ができます。例えば、小売業では、これまでのようにPOSデータや在庫データなどを利用して分析を行うだけでなく、店舗内の陳列棚の画像や、店内カメラでの顧客の動線などのデータを組み合わせて、データ分析をするケースが増加してきました。Boxが提案するコンテンツの有効活用を、ユーザー自らが進化させている事例だといえます。

 このようにBoxであれば、どんなアプリやシステムからでも、最新のコンテンツにアクセスできますから、コンテツ管理における多くの悩みから一気に解放されます。

定性的なコンテンツだけでなく、定量的なコンテンツにも対応

 今年秋には、「公開」機能を提供します。これによって、さらにBoxがカバーする範囲を広げることができます。公開の機能によって、Boxをポータルのように利用でき、コーディング不要で、コンテンツを集約したり、整理したり、検索したりできます。よりわかりやすく、スピーディーな情報共有が可能になります。

――Box Works Digital Tokyoでは、レヴィ会長が「Boxのイノベーションはかつてないペースで進行している」と発言し、新機能の発表を予告しました。毎年、Box Worksでは、数多くの新機能が発表されますね。

 2021年10月6日(米国時間)には、「Box Works 2021」がオンラインで開催される予定で、ここで新たな機能が発表されることになる予定です。日本のユーザーの多くは、オフィスワークを前提にしてBoxの利便性やメリットを感じていましたが、コロナ禍でリモートワークが進展し、Boxの機能が便利というとらえ方ではなく、Boxがないと仕事ができないというものへと変わってきました。あれもリモートでやりたい、これもリモートでやりたいという新たなニーズが出てきており、そこに応える形で、Boxの進化が加速することになります。

 2021年は、プロダクトイノベーションの重要な1年になり、特に2021年後半はさまざまな新機能が出てくることになります。軸や柱として提案していた機能が、コンテンツ全体の領域をカバーし、さらに広がりが出ていくというのが、これからのBoxの進化になります。

日本企業でDXが遅れている理由は?

――一方で、日本の企業のDXの遅れが指摘されたり、政府が出勤率7割減を要請してもリモートワークが浸透しないという状況があります。その理由はなんでしょうか。

 DXはいきなりできるものではなく、まずは、CX(コーポレートトランスフォーメーション)への取り組みが必要です。具体的には、経営者、事業部長のITへの「理解」、IT部門の「強化」、全社員による「活用」および外部人材の「活用」の3点となります。

 IT部門はコストを強く意識し、営業部門はリターンを重視するという傾向が強いのですが、その結果、インベストとリターンに対する意識や管理が分離している状況が多く見受けられます。インベストとリターンの両方に関わることができるのは、経営者です。経営者がしっかりとそれを見て、インベストに対して、あまりあるリターンが生まれることを確認することが必要です。

 日本の企業のトップは、IT部門に丸投げといったことが多く見られます。また、日本ではSIerが優秀であり、強力であり、強い信頼感がありますから、どうしてもIT部門がSIerに頼り切ってしまうという状況が生まれやすいといえます。

 個人的な感想ですが、商社とSIerがここまで強いのは、日本ならではのユニークな仕組みだといえます。ただ、SaaSは標準化されたサービスであり、ここに社内の業務に適用していくことが重要になります。そのため、外部企業であるSIerにはわからない部分や手に負えない部分が存在します。ITを理解し、社内業務を理解できるIT部門自らが、自信を持って活躍することが必要な時代がやってきているわけです。

 また社員も、IT部門に任せきりではいけません。もはや、ITは、英語や会計に続く基本素養になっています。全社員が積極的にITを活用することが大切です。そして、ITはどんどん進化しますから、これを自社の人材だけですべてを賄えるとは考えてはいけません。丸投げはいけませんが、社外の人材を積極的に取り入れることが必要です。こうしたことをやっていくと、その先にDXが広がることになります。

――確かに、日本でも、少しずつ外部人材を活用する動きが出てきましたね。外部から登用するという動きもあります。

 日本の企業では、転職は後ろめたいという認識がまだ残っている部分もありますが、CIOやCDO、IT部門においては、外部から優秀な人材を招いて、リーダーに据えるといった動きもかなり出てきていますね。DXの推進には、リーダーシップが求められますから、そこに優秀な外部人材を登用するといったことが、これからも増えていくのではないでしょうか。

 また、人事に対する企業の考え方も大きく変化しています。ジョブ型の人事制度が広がることで、適材適所でなく適所適材の考え方に変わり、中途採用や転職、多様化といった動きが、日本でも加速し始めています。

 Box Japanでもさまざまなバックグラウンドを持った人たちが活躍しています。なにかの課題にぶつかっても、誰かが、どこかで似たような経験をしていていますから、それによって、課題を突破できる。これは企業にとって、大きな強みになります。予測不可能な課題を解決し、イノベーションにつなげることができる企業へと変革が可能になるのです。

 実は、Boxを導入すると中途採用をしやすくなるという声を聞きます。直感的なインターフェイスであることに加えて、最近では前職でBoxを使っていたという人が増え、初日から社内のファイルやデータを使いこなしているという例が出ています。

――古市社長は、取材をするたびに、いつも、「Box Japanは人材が不足している」といいますが(笑)、いまはどうですか。

 それはいまでも大きな課題です(笑)。いまは、採用に特化したサイトを作って、営業、マーケティング、コンサルティングなど幅広い職種の人たちを募集しており、Box Japanの社員数は、この2年間で1.5倍以上になっています。今後もそうした勢いで増やしていくことになります。当事者意識を持っている人、向上心の高い人たちに、Box Japanの仲間になってほしいですね。

 日々進化している業界ですから、学ぶ場があるというのは大切です。Box Japanは、そのための仕組みを持っており、学ぶことができる会社でもあります。特に向上心が高い人は、Boxに入社したらきっと楽しいですよ(笑)。

今後の注力ポイントは?

――今後、Box Japanの注力点はどこになりますか。

 これまで8年間をかけて1万社に利用してもらえるようになったわけですが、そのうちの5000社は、この2年の間に導入していただいた企業です。コロナが後押した部分もありますが、Boxの認知度も急速に高まっていますし、日本における導入のスピードは、さらに加速すると見ています。

 今年から来年にかけては官公庁/自治体、金融へのアプローチをより強化します。さらに、2~3年という中期的な視点では病院などの医療分野にも力を注いでいきます。医療分野は、米国ではBoxの主要顧客セグメントであり、日本でもすでに製薬業界での実績が出ています。重要なデータを扱っている業界ですし、画像データなどの大容量データも扱っています。さまざまな規制がある業界においても、Boxが重要な役割を果たしていることを示したいですね。

 もちろん、製造、建設、IT、メディア・エンターテインメント、小売といった業種においても、Boxを使っていただける余地はまだまだ多いと思っています。日本の企業に対してコンテンツクラウドを提供し、企業を支えるインフラとしての役割を担いたいと思っています。

 今後1年は、「コンテンツクラウド」という言葉が日々の会話でできるように、日本の市場に対して、「コンテンツクラウド」の価値をしっかりと伝えていきたいと思っています。