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IoTのミッシングピースをAIで埋めていく――、ソラコム、年次カンファレンスを前にビジョンおよびプラットフォーム戦略を刷新
2025年7月14日 06:00
株式会社ソラコムは9日、新たな企業理念および事業戦略に関する説明会を報道関係者向けに開催した。7月16日に、都内で開催予定の年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2025」での発表内容を事前に説明したもので、特にIoTとAIの融合を強化する方針を前面に押し出している。
説明を行ったソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は「創業から10年が経過し、この間、生成AIが劇的に進化したことで、むしろ創業時に描いていたIoTの進化をより早く実現できるようになったと感じている。創業時からのビジョンは変えないが、世界をより良くするイノベーションへとIoTとAIでつなげていくという我々の意思をより明確にするために、今回、企業理念とプラットフォーム戦略をアップデートした」と語り、企業としてIoTプラットフォーマーを超えた新しいフェーズに入っていく姿勢を示している。
今回、ソラコムが発表した主なアップデートの概要は以下の通り。
新しい企業理念「Making Things Happen」
2015年9月に最初のIoTサービス「SORACOM Air」をローンチしてから10年を迎えるにあたり、創業時から掲げてきたビジョン「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」の基本コンセプトはそのままに、テクノロジの民主化をさらに進め、世界をより良くするイノベーションへとつなげていくというステートメントを表明した「Making Things Happen ‐ for a world that works together」を新たな企業理念として発表。日本発のグローバルIT企業として進化していく姿勢を明確にするうえでも、あえて英語でメッセージングを行っている。
新戦略「リアルワールドAIプラットフォーム」――MCPサーバー公開とOpenAIとのエンタープライズ契約
企業理念の刷新にあわせてプラットフォーム戦略もアップデートし、「フィジカルとデジタルの両方、現実世界のすべてをAIにつなぎ、より良い未来を想像するリアルワールドAIプラットフォーム」への進化を表明、これまで提供してきたSORACOMプラットフォームのAI化(AI Enabled)を推進していく。
その第一弾として、Claude Desktopなどの生成AI(MCPクライアント)環境からSORACOM APIをリモート実行できるMCPサーバー(npmモジュール)を公開、またOpenAIが提供する法人向けメニュー「OpenAI APIプラットフォーム」のエンタープライズ契約を締結、今後は生成AIを組み込んだサービス/製品の開発をさらに加速していくとしている。
1TBの先へ――IoT通信における“大容量化”にも注力
もともとIoTは小容量のデータ通信におけるニーズが大きかったが、昨今はカメラ映像をリアルタイムでアップロードするユースケースなどが増加しているため、ソラコムでは10~100GBの大容量アップロードに対応したIoT SIMプラン「plan-DU」を提供してきたが、今後は1TB以上の“超”大容量アップロードもカバーするプランを提供予定。
IoTデバイス製造を支援する「テストモード」
SORACOM IoT SIMを組み込んだIoTデバイス製造企業に対し、デバイスの商用利用開始前(製造/在庫期間)におけるSIMの保持コストをゼロにする機能「テストモード」を2025年6月から提供。商用利用の開始までは通信コストが発生せず、自社工場だけでなく外部の提携工場や委託先での製造も想定しているので、グローバル展開を前提にしたデバイスや大量生産が見込まれるプロジェクトにおける製造から出荷、商用利用開始までのプロセスを効率的かつ経済的に制御可能。
SOC2 Type2報告書を受領――セキュリティと信頼性向上の側面からIoT/AI/クラウド利用を後押し
IoTプラットフォーム「SORACOM」において、内部統制を評価するSOC2 Type2保証報告書を6月25日に受領、セキュリティ/可用性/機密保持の評価基準において、ソラコムのシステムと管理体制が、適合するTrustサービス基準にもとづいて適切にデザインされていることが表明されている。
ソラカメ屋外スターターキット&ソーラーキット――どこでもソラカメ
2022年にサービス提供を開始したクラウドカメラサービス「ソラカメ」の新しいラインアップとして、電源があればWi-Fi環境がなくてもすぐにカメラを利用できる「ソラカメ屋外スターターキット」と、電源がない場所でもカメラを設置できる移動式の電源供給ユニット(ソーラーパネルと大容量バッテリーのセット)の「ソラカメ屋外ソーラーキット」の提供を7月16日から開始。これまでクラウドカメラを設置することが難しかった工事現場や建設現場、商業施設、農地、避難所などでの活用が可能に。
自然言語によるIoTデータ分析も可能な「SORACOM Query」の一般提供開始
2023年からテクノロジプレビューとして一部のユーザーに先行して提供していたIoTデータ分析基盤「SORACOM Query」を、7月16日から一般提供開始。SORACOMプラットフォーム上に蓄積された通信管理情報(SIMの状態、通信料、利用料金など)や、データ収集サービス「SORACOM Harvest Data」に蓄積された時系列のIoTデータを分析し、リアルタイムなデータ可視化やスケーラブルなクエリ実行をサービスとして提供。
また今回の一般提供にあわせて、自然言語からの問い合わせ(生成AIによる自然言語→SQLクエリ変換)を実現する「QueryアシスタントAI」機能を実装、例えば「過去1週間でもっとも通信料が多かったデバイスをリストアップしてほしい」「IoTデータの異常値を検出して」といった自然言語による問い合わせが可能になり、SQLに不慣れなユーザーもサポート。
キャリアの垣根を越えるマルチプロファイルオーケストレーション機能「SORACOM Connectivity Hypervisor」
SORACOM IoT SIM上で、SORACOMが提供する通信プロファイルに加え、ほかの通信事業者が提供する通信プロファイルもリモートから追加/切り替えできるオーケストレーション機能「SORACOM Connectivity Hypervisor」を2025年度中に提供開始へ。「世界中どこに行っても最初にSORACOM SIMを入れておけば、あとから別のキャリアに切り替えることも可能になる。いろいろな理由で複数の通信事業者を使い分ける必要がある顧客に対して柔軟な選択肢を提供できる」(ソラコム 取締役 最高技術責任者 CTO 安川健太氏)。
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2015年9月に最初のIoTサービス「SORACOM Air」「SORACOM Beam」をリリースしてから10年が経過した現在、ソラコムは213の国と地域および509の通信キャリアをカバーするグローバルIoTプラットフォーマーへと成長した。
企業規模も順調に拡大しており、2025年3月期の売上高は89億円(うちグローバル売上比率は41.8%)、契約回線数は700万回線、売上継続率は117%を達成、2024年3月には東証グロース市場に上場も果たしている。特にこの数年は海外での知名度が急速に高まっており、新たな企業理念である「Making Things Happen」のステートメントを全文英語でリリースしているところにも、グローバル企業としての存在感をより強めていこうとする姿勢がうかがえる。
そしてグローバルIoTプラットフォーマーとしてのソラコムの存在感をさらに高める原動力となるのがAIによるプラットフォームの強化だ。「この10年でもっとも劇的に変化したトレンドは生成AI」という玉川氏のコメントにもあるように、生成AIの進化のスピードはこれまでの技術の比ではなく、毎月どころか毎週のように驚くべき機能を実装したAIサービスが次々と登場している。
このスピードは一般企業はもとより、ITのエキスパート集団であるテクノロジベンダのビジネスにも大きく影響しつつあるが、ソラコムにとっては「AIの進化によって、収集したIoTデータを活用し、価値に変えていくためのミッシングピースがそろった。いままでIoTだけでは生み出せなかった価値を、AIによって生み出せるようになったと実感している」(安川氏)という歓迎すべき状況のようだ。
「IoTとAIのクロスロード(交差)によって、より多くのイノベーションが世界中から誕生するための支援をするのがソラコムのミッション。だから生成AIに関してはこれからも爆速で進んでいく。AIの進化のスピードが速すぎて先が見えないという不安は多少あるが、それよりもトップランナーとしてより速く走り続けなければならないと思っている。次の10年に関しては不安というよりも、ワクワクする気持ちのほうが強い」(玉川氏)。
ソラコムは7月16日に東京ミッドタウンで開催する年次カンファレンス「SORACOM Discover 2025」において、本稿で紹介した内容や最新事例などを発表、基調講演にはOpenAI Japan 代表執行役員社長 長崎忠雄氏も登壇し、ソラコムとOpenAIのパートナーシップの詳細も発表される予定だ。