大河原克行のキーマンウォッチ

ヴイエムウェア・山中直社長、「ITのサイロを作らないように支援することが、今も昔も変わらぬ役割」

 VMwareは、「ITサイロの架け橋になる」となることが役割で、その役割は、いまも、昔も変わっていないという。かつては、仮想化によってハードウェアのサイロをなくし、いまはアプリケーションやマルチクラウドによるサイロ化を解決しているというのだ。

 ヴイエムウェアの山中直社長は、「VMwareでは、Any Device、Any Application、Any Cloud、そして、Intrinsic Securityといった観点から、アプリケーションやインフラのモダナイゼーションを支援し、あらゆるアプリケーション、クラウド、デバイスに、セキュリティを提供できる」とし、「ハードウェアの抽象化、クラウドの抽象化、アプリケーションの抽象化によって、デジタル変革を支援するのがVMwareの役割である」と定義する。

 そして、テクノロジーを提供するだけでなく、ピープル、プロセスの観点からも、VMwareに対する期待が高まっていると語る。

 Digital Foundationを掲げるVMwareの取り組みについて、山中社長に話を聞いた。

ヴイエムウェアの山中直社長

Digital Foundationの本質的な部分は、かつての仮想化とまったく同じ

――2021年1月に社長に就任してから、約9カ月を経過しました。この間、どんなことに取り組んできましたか。

 振り返ってみますと、あっという間の9カ月だったといえます。私自身、VMwareに入社して約15年になりますが、その間、ずっと続けてきたお客さまやパートナーとの対話は、社長になってからも継続しています。コロナ禍によってオンライン会議が広がり、むしろ効率よく、お客さまやパートナーの方々とお話しできるようになっています。物理的にお邪魔していたころに比べて、最低でも1.5倍ぐらいの面談回数にはなっていますよ。また、首都圏以外のお客さまやパートナーとも、オンライン上で頻繁に顔を見せあいながら話ができます。「ちょっと数分だけ」といったようなことも増えていますね。

 この9カ月間、意識してきたのは、いま大きな変革が起きていることを、まずはみなさんと共有することが大切であり、その変化において、VMwareはテクノロジーによってお客さまのビジネス変革を支援できるというメッセージを、きちんと伝えていくことでした。

 さらにVMwareは、顧客の成功を継続的に支援する際の3つの柱として「People(ピープル)」「Process(プロセス)」「Technology(テクノロジー)」を挙げているように、テクノロジーだけでなく、ピープルやプロセスの観点からも、しっかりと支援をしていくことに力を注いでいます。

VMwareの3つの柱

 VMwareというと、依然として「仮想化」のイメージを強く持っている方が多いの確かです。そのイメージを変えていく努力は必要なのですが(笑)、実は、いまVMwareが提案しているDigital Foundationの本質的な部分は、かつての仮想化とまったく同じだといえます。

 VMwareは、2012年からVisionとして示してきた、Any Device、Any Application、Any Cloud、そして、Intrinsic Securityへの取り組みを、Digital Foundationとし、アプリケーション、クラウド、モダナイゼーションにフォーカスして事業を推進しています。

 VMwareの歴史を振り返ると、15年前には仮想化技術によってハードウェアを抽象化して、ハードウェアのサイロをなくし、選択の自由を提供しました。

 いまは、ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの世界がやってきています。あらゆるワークロードがマルチクラウド環境で展開されていますし、ITとOTがひもづきはじめ、同時にエッジの仮想化が進み、ここでもマルチクラウドが促進される環境が生まれています。また、一部にはオンプレミス回帰という動きもありますが、これもハイブリッドクラウドへの流れを加速することになります。

 しかし、分散すればするほど管理は複雑になり、サイロ化が進展しますし、ひとつのセキュリティポリシーで管理することがより難しくなってきます。ここでも、VMwareはクラウドを抽象化し、クラウドに選択の自由を提案しています。

 そうした課題解決のための提案のひとつが、VMware Cloudです。ひとつのコンソールでひとつのネットワークポリシーおよびセキュリティポリシーを管理可能にしたり、ワークロードの実行環境に選択の自由を提供したりしているわけです。

 15年前と同じようなITサイロが、オンプレミス、エッジ、クラウドという環境のなかで生まれており、そこに対してVMwareのテクノロジーが活用されています。

 さらにVMwareは、Kubernetesやコンテナによる新たなアプリケーションを含めてアプリケーションの抽象化を行い、これら全体をコントロールすることができます。このように、新たに生まれたITサイロに対して、VMwareは解決手段を提案しているのです。

 VMwareは、アプリケーション、クラウド、モダナイゼーションにフォーカスし、それらをDigital Foundationとして、抽象化するプラットフォームとして提供できます。つまり、かつての仮想化とは対象となる階層が変わっていますが、本質的にやっていることは一貫しているのです。

 VMwareは「ITサイロの架け橋になる」と言い続けてきましたが、いまこそ、この言葉がとても重要になっています。VMwareは、ユーザーに対してオンプレミスにしてほしいとは言いませんし、クラウドにしてくださいとも迫りません。お客さまは、マルチクラウド化の動きを止めずに、最適なところに配置をしてもらえばいいのです。その際に大切なのは、コントロールを失わないこと、サイロを作らないことです。それをVMwareは支援します。

当社への期待の範囲がピープルやプロセスへと広がっている

――VMwareに対する期待の変化は感じますか。

 ITを取り巻く環境を俯瞰(ふかん)すると、さまざまなトレンドが生まれていたり、それに伴い複雑さが増したりしています。複雑化すればするほど、VMwareへの期待は高まり、その範囲が、テクノロジーだけでなく、ピープルやプロセスへと広がっていることを感じます。

 ここにきて、日本のお客さまから「レガシーシステムをなんとかしなくてはいけない」という声が急激に増えています。同時に、コロナ禍をアゲンスト(向かい風)ととらえず、フォロー(追い風)としてとらえ始め、それをきっかけに、デジタル変革に対して、いよいよ本気で取り組もうという姿勢が見られます。ただ、レガシーシステムをどうつなげていくのか、どうモダナイズしていくのかという壁に、多くの企業がぶつかっているのも事実です。もはや、アプリケーションのモダナイゼーションは日本の社会問題ともいえ、そのなかで「VMwareはどんな支援をしてくれるのか」といった対話が増えています。

 その回答のひとつとなるのがTanzuです。私は、日本の企業が抱えるITの課題に対して、Tanzuは最適な回答をもたらすと考えています。マイクロサービスやコンテナ、Kubernetesにより、アプリケーションをインフラから解放し、これらをモダナイズできます。優れたソフトウェアを本番環境に継続的にデリバリーでき、本番環境でのアプリケーションをプロアクティブに管理でき、そして、クラウド上でモダンなアプリを構築・実行・管理するために必要な機能を提供できます。

 その一方で、注目したい変化は、テクノロジーやプロセスよりもピープル(人材)の部分をどう変革するかといったことに、経営者がフォーカスしはじめている点です。

 実際、アプリケーションのモダナイズを支援するVMware Tanzu Labsに対する問い合わせが増えています。これは、企業が自ら変革しなくてはならないと考えている意識の表れだととらえています。VMware Tanzu Labsを通じて、テクノロジーや開発手法だけでなく、文化や思考方法まで持ち帰ってもらい、社内で展開してもらうといった例が増えています。

時間をかけてアプリケーションのモダナイゼーションを進めていく

――山中社長は、今後3年間をかけて、日本市場において、Digital Foundationを浸透させていくと発言しています。この意味はなんでしょうか。また、3年間の時限を設けたことも気になります。

 多くの企業が求めているのは、ビジネスを止めることなく、あらゆる状況に適応しながら、変革を促進することができるデジタル基盤の存在です。VMwareでは、Any Device、Any Application、Any Cloud、そして、Intrinsic Securityといった観点から、アプリケーションやインフラのモダナイゼーションを支援し、あらゆるアプリケーション、クラウド、デバイスに、セキュリティを提供できます。これにより、まさに、ハードウェアの抽象化、クラウドの抽象化、アプリケーションの抽象化を実現し、デジタル変革を支援するのが、Digital Foundationの基本的な考え方です。

新時代に求められる“Digital Foundation”

 3年という期間を設けたのは、その時点になると、日本でもデジタル変革が本格的に加速することになると考えたからです。先にも触れたように、日本のお客さまからは、レガシーアプリケーションをなんとかしなくてはならない、という危機感を持った声が数多く挙がっています。またコロナ禍においては、デジタル部門の重要性を社内や経営層に認識してもらうきっかけになった、というCDOの声もよく聞くようにはなりました。明確な変化がこの3年で起こるでしょう。

 しかし、日本の企業がアプリケーションのモダナイゼーションに取り組んだとしても、一気に変化するわけではありません。徐々に変化が起こることになります。かつてのインフラアーキテクチャの変化も、物理的な環境から、仮想化の環境に移行するのに、かなりの時間がかかりましたし、テクノロジーの広がりだけでなく、物事の考え方も同時に変えていく必要があります。アプリケーションのモダナイゼーションも、そう簡単にはいかないでしょう。いまは3年後を見据えて、私たちが積極的にメッセージを発信していくことが大切だといえます。

 もちろん、すべてのアプリケーションをモダナイズする必要はありません。戦略的な意図を持って「塩漬け」にするというシステムも必要だと思います。ただ、そうした企業においても、一部のワークロードはモダナイズし、それを実装しなくてはなりません。

 お客さまごとにモダナイズの状況や、いま居るステージは異なります。どんな環境においてもお客さまと伴走することができるのが、VMwareの強みだといえます。

 私はVMwareの社内に向けて、アプリケーションの抽象化といった場合に、「モダンアプリケーション」と、「アプリケーションモダナイゼーション」という2つの意味があることを認識しておくべきだという話をしています。

 前者はiPhoneやAndroidのコンシューマ向けアプリが広がり、これが企業にとっても、競争優位性を発揮するアプリになり、多くの企業がアジャイルに開発し、実装し、新たな機能を追加している状況を指します。

 これに対して後者は、SoRのレガシーアプリケーションをモダナイズするわけで、ここはアジャイルである必要はありません。ただ、マイクロサービス化することで、運用管理やセキュリティを強化したり、運用コストの削減をしたりといったことができます。

 ここで大切なのは、日本の場合には、SoRのアプリケーションに大きな変革を起こす作業には、システムインテグレータなどの戦略的パートナーと足並みをそろえる必要があるという点です。VMware Tanzu Labsにおいても、レガシーアプリケーションのモダナイゼーションであれば、お客さまだけで参加するのではなく、パートナー企業が一緒に参加してもらい、方向性をあわせながら一緒に変革し、スケールすることを提案しています。

 日本では70%のITプロフェッショナルがパートナーに在籍していますから、お客さまとパートナーが連携しながら、変革に取り組むがことが大切であり、私たちも、それを支援することが正しい選択だと思っています。VMware Tanzu Labsは、お客さまが活用する拠点としてだけでなく、お客さまとパートナーが一緒になって活用してもらえる拠点になることを目指しています。

――2021年4月に、東京・田町に本社オフィスを移転したのに伴い、VMware Tanzu Labsを設置しましたが、稼働率はどうですか。

 コロナ禍により物理的な場所を使うことが制限されており、結果として、いまはリモートでの活用が多いですね。多くの企業から、状況が変わったらVMware Tanzu Labsを活用したいというご要望をいただいています。卓球台が設置してありますから、新型コロナが収束しましたら、ぜひ卓球をしながら、アイデアを膨らませたり、コミュニケーションをしたりといったことをしてほしいですね(笑)。

VMware Tanzu Labsなど、新しい協働スペースを設置

――Digital Foundationでは、業界ごとのアプローチを進める考えですが、体制づくりを含めて進捗はどうですか?

 まずは、金融、電力、ガバメントを対象に組織を作り、業界ごとに専任のエンタープライズアーキテクトを配置しています。なかには、すでにお客さまのDXチームのなかに入り、一緒になってデジタル変革を進めている例もあります。

 また海外のチームとの連携により、それぞれの業界にあわせてグローバルの事例を紹介していますし、業界ごとに求められるセキュリティやコンプライアンスが異なりますから、それぞれに向けてリファレンスモデルを用意していくことも計画しています。お客さまや業界ごとの専任のストラテジストやアーキテクトが在籍するビジネス戦略推進室は、当初は10人体制でスタートしましたが、その後、体制を強化しています。

 いま製造業においては、工場でのエッジコンピューティングや、ITとOTの組み合わせといったことが重要になってきます。また、グローバルオペレーションをどう進化させていくかという課題もあります。日本では、製造業におけるDigital Foundationの提案を進めていきたいですね。日本の社会や日本の企業における変革を、テクノロジーの力で支援したいと思っています。

求められる「プラットフォームの抽象化」

――VMwareでは、VMware Workspace ONEやVMware Carbon Black Cloud、VMware SASEなどを統合したAnywhere Workspaceソリューションを、2021年4月に発表しました。コロナ禍におけるテレワークの浸透とともに、VMwareのDigital Workspaceに対する関心が高まっているようですね。

 従業員が、場所を問わず、より快適に、生産性を高めながら、セキュアな業務環境を実現したいというのは、多くの企業に共通したテーマです。私自身も、VMware社内で利用しているツールなどを、直接、デモンストレーションしながらご提案することが増えています。かつては、「それは外資系企業だから実現できるが、日本の企業にはちょっと難しい」と言われていたものが、いまは日本企業の経営者が、新たな働き方における生産性の向上、従業員体験の向上に、とても高い関心を持っていることがわかります。

 実はここでも、VMwareはDigital Foundationの提案を行っています。ひとつのプラットフォームの上で、マルチデバイスによる利用環境を実現し、モダンアプリケーションを開発し、活用できるようにしているからです。

 ご存じのように、コンシューマITの進化がエンタープライズITの進化を大きく超える時代が続いています。FacebookやLINEのアプリを利用して、多くの人がコミュニケーションを行い、さらにそれを利用するための説明書がなくても、利用するための講習会がなくても、多くの人が利用できるようになっています。しかも、意識しないうちに、企業におけるさまざまなワークロードのなかに組み込まれています。将来的なエンタープライズITの姿はこうなってくるのではないでしょうか。

 あるお客さまは、「うちは、ITリテラシーが低い社員が多い」というのですが、そのITリテラシーが低いと言われている社員たちが、スマホアプリで、積極的にポケモンGoをやっているわけです(笑)。しかし、エンタープライズITになった途端に、使えないという垣根が生まれる。この垣根が、自然となくなるのが、これからの世界です。アプリを選択でき、最適な場所で実行でき、誰もがいつでもビジネスが実行できるという世界がやってきます。そのためには、アプリケーションの抽象化が必要であり、それ以上に、プラットフォームの抽象化が求められます。VMwareはそのためのテクノロジーをすでに用意しています。

――一方で、VMwareは、デル・テクノロジーズからのスピンオフが予定されていますが、これは日本の市場にどんな影響を及ぼしますか。

 現時点では、詳細をお話しすることができないのですが、日本のお客さまやパートナーとの関係には、まったく変更がありません。これまで以上に緊密な関係を構築していきます。

これからの注力領域は?

――これから、VMwareが注力していく領域はどこですか。

 アプリケーション、クラウド、モダナイゼーションといった領域に加えて、Anywhere Workspaceソリューションにも、引き続き力を注いでいきます。そして、これらを実現するネットワーク、セキュリティ、マネジメントへの取り組みも重要になっていきます。

 また、Digital Foundationでは、Any Device、Any Application、Any Cloud、そしてIntrinsic Securityを打ち出していますが、そのなかで、セキュリティはこれからますます重要になってくるといえます。

 いま、多くの企業が直面しはしめているのが、セキュリティのサイロ化です。これが新たに誕生したサイロだといえます。エンドポイント、データセンター、クラウド、エッジといった、それぞれの領域におけるセキュリティをプラットフォームに組み込んで提供できるのがVMwareの特徴です。SASEを含めて、よりセキュアなプラットフォームを提供していくことになります。

 それともうひとつは、パートナーとの連携強化です。特に、アプリケーションやモダナイゼーションの領域においては、パートナーの力が欠かせません。パートナーも、デジタル変革のなで、お客さまとの関係を、今後、どうしていくべきかという課題に直面しています。その課題に対して、テクノロジーからの支援だけでなく、パートナーが、お客さまと伴走していくための体制づくりを一緒に考えていくつもりです。

 個人的な意見なのですが、施策や計画を企画し実行する前には、構想が必要ですね。そして、その構想を練りあげる前には、たくさん「妄想」することが大切だと思っています。さらに最近では、その前に「暴想(ぼうそう)」することが重要だと(笑)。オンラインによる面談では、どうしても目的やテーマが決まっている上で議論するケースが多いですから、なかなか妄想や暴想する機会がありません。妄想や暴想は、対面でいろいろな情報を交換しながら、生まれていくことが多いですからね。いいアイデアを生み、それを実行するために、なにかいい方法を考えなくてはいけないと思っています。

――山中社長は、事業方針説明において、今後、日本における組織を2倍にして、ビジネス規模も2倍にすることを宣言しています。成長領域はどこになりますか。

 VMwareが日本でやれることはまだまだ多いと思っています。VMwareが担う領域は、風船が膨らむように、どんどん広がっていますし、それに伴って、製品ポートフォリオも広がりを見せています。日本の社会、企業に貢献できるシーンが増えています。その点では、あらゆる領域が、成長領域だといえます。「妄想」、「暴想」の数を増やして、さまざまなチャレンジをしていくことが、日本におけるVMwareに成長につながると思っていますよ(笑)