大河原克行のキーマンウォッチ

デル・テクノロジーズのAPJプレジデントが語る、アジア太平洋および日本国内での“次の一手”

 デル・テクノロジーズが、過去最高の業績を更新する成長を続けている――。

 さらに、5月に開催したオンラインイベントの「Dell Technologies World 2021」では、as a Serviceの新たなポートフォリオであるDell Technologies APEXを発表。日本においては、9月に東京・大手町の新オフィスに移転する予定であり、新たな拠点の活用や新たな働き方を通じて、顧客やパートナー支援体制の強化を図るなど、積極策が相次ぐ。

 振り返れば、EMCを統合し、デル・テクノロジーズに社名を変更してから、ちょうど5年を経過。企業責任として、Moonshot Goals 2030と呼ぶ社会的影響を視野に入れた取り組みも加速しているところだ。

 デル・テクノロジーズ APJ(アジア太平洋および日本)プレジデント兼グローバルデジタルシティーズ事業プレジデント、アミット・ミダ(Amit Midha)氏に、積極的な仕掛けを進めるデル・テクノロジーズのアジア太平洋および日本における取り組みや、今後の展望などについて聞いた。

デル・テクノロジーズ APJプレジデント兼グローバルデジタルシティーズ事業プレジデント、アミット・ミダ氏

大きな成功を収めたデルとEMCとの統合

――デルは2016年にEMCとの統合を完了し、社名をデル・テクノロジーズに変更してから、約5年を経過しました。ダイレクトモデルの会社からスタートしたデルは、その後、ソリューションの会社になり、この5年間は、「テクノロジー」を社名に掲げた会社として事業を大きく成長させています。デルに25年以上務めるアミット・ミダAPJプレジデントから見て、この5年間のデルは、どう変化したととらえていますか。

 IT産業に限らず、企業統合や買収・合併は失敗することが多いものです。しかし、デルとEMCとの統合は、テクノロジー業界史上最大規模であったにも関わらず、大きな成功を収めたものになりました。人材を維持し、顧客基盤を維持し、両社のいいところを取り入れることができたからです。そして、この5年間でR&Dへの投資を拡大し、eコマースを含む営業体制の強化、世界最大規模のサポート体制を強化したほか、企業としての効率性を高め、顧客を支援し、イノベーションを加速することに力を注いできました。

 APJにおいても、デルとEMCとの統合によって各国にリーダーが2人という状態が生まれましたが、まずは各国でリーダーの統一を図りました。日本においては、2020年8月に、デルとEMCジャパンの2つの法人を統合し、デル・テクノロジーズ株式会社をスタートさせ、ちょうど1年を経過したところです。

 デル・テクノロジーズとなったことで、スケールを拡大し、5Gをはじめとするネットワーク分野やエッジコンピューティング領域、デジタルシティへの取り組みなど、多くの技術分野や、多くの顧客、多くの地域をカバーすることができるようになった点は大きな変化のひとつです。

 APJの本社機能があるシンガポールでは、「Innovation Lab」や「Digital City Lab」を開設し、日本においても、「5G Lab」や「AI Experience Zone」を開設して、将来の新たな価値創造に向けた取り組みにも着手しています。

 また、テレコ(Teleco)市場向けの新たなビジネスユニットも設置しました。5G市場に対しては、全世界で2兆ドルの投資が予定されており、インフラだけでも200億ドルの投資が予定されています。デル・テクノロジーズは、この分野に向けて、製品、サービス、営業体制、エコシステムの構築に力を注ぐ考えです。

 さらに、APJにおけるエッジコンピューティングに関する中核機能をシンガポールに置きました。エッジコンピューティング市場はパブリッククラウド市場よりも規模が拡大するとの予測があり、デル・テクノロジーズにとって重要な市場のひとつに位置づけています。

 現在、デル・テクノロジーズでは、5G、エッジ、データマネジメント、ハイブリッドクラウド、AI/ML、セキュリティの6つを重点戦略領域に位置づけています。これらの領域への投資をさらに加速していくつもりです。

 当社は、全世界で年間売上高1000億ドル(約11兆円)の規模を超える企業に成長しています。テクノロジー分野においては、世界最大規模の営業およびサポート体制を持っている企業でもあります。1カ月単位、四半期単位といったように、短期的な視点だけで物事を考えることはできません。むしろ50年といった長期的視点で、企業を維持し、成功しなくてはなりません。

 顧客やパートナーにとって、必要不可欠な製品、サービス、テクノロジーを、トレンドをとらえ、持続的に提供する企業であることが、デル・テクノロジーズに求められていることだといえます。

顧客のDXをしっかり支えたことが評価されている

――デル・テクノロジーズの業績が好調です。2021年度(2020年2月~2021年1月)は、売上高、営業利益ともに過去最高を記録し、最新四半期である2022年度第1四半期(2021年2月~4月)も同様に過去最高の業績となっています。コロナ禍において、デルの業績が好調な理由はなんでしょうか。

 社会が大きく変革するときに、重要となる要素や、求められる要素も大きく変化します。いま私たちが直面している大きな社会変革は、デジタルが最も重要な要素となり、データから価値を創出することが大切になっています。多くの企業にとって、データから、新たな製品やサービスを創出したり、新たなビジネスモデルを構築したりといった時代に入っており、この動きがコロナ禍において、さらに加速されています。

 コロナ禍では、在宅勤務をはじめとして、あらゆる場所から仕事ができるようになり、女性にとって、より働きやすい環境が生まれたり、ミレニアル世代が好むような働き方が浸透したりといった変化を及ぼしています。デスクやオフィス内に縛りつけられることがない新たな働き方は、まだまだ進化していくことになるでしょう。

 そしてデジタル化が進展することで、サイバーセキュリティに対する関心も高まっています。デジタルが広がるということは、あらゆるものがサイバー攻撃の対象になるともいえ、企業や個人は、これまで以上にセキュリティに対する関心を高め、投資を増やしています。

 こうしたなかにおいて、デル・テクノロジーズは、5GやAI、エッジコンピューティングといった新たなトレンド、新しい働き方や高度なセキュリティに対応した最新のPCやサーバー、ソリューションを提供している点が、多くの方々から評価を得たといえます。

 2020年度第1四半期においては、PCなどのクライアントソリューショングループ(CSG)の売上高は、前年同期比20%増の133億ドルとなり、営業利益は同84%増の11億ドル。いずれも過去最高を達成しています。また、サーバーやストレージ事業などで構成するインフラストラクチャーソリューショングループ(ISG)の売上高は同5%増の79億ドル、営業利益は同8%増の7億8800万ドルとなっています。CSGも、ISGも、業界全体を上回る成長を遂げ、市場シェアを高めています。VMwareについても、売上高は前年同期比9%増の30億ドル、営業利益は9%増の8億4100万ドルとなり、サブスクリプションやSaaSは29%増、VMware Cloud on AWSは、同80%増という大きな成長を遂げています。

2022年度第1四半期の業績(ワールドワイド)

 そして、RPO(Remaining Performance Obligations:残存履行義務)は、前年同期の370億ドルに対して420億ドルと増加しており、ビジネスはさらに拡大傾向にあります。キャッシュフローも健全であり、負債も大幅に前倒しする形で縮小しています。

 ただ、大切なのは、デル・テクノロジーズは、顧客のためにビジネスをしているという点です。テクノロジーが不可欠な時代は、これから何年も続くでしょう。そして、データがより価値を高めていくことになるでしょう。そのためのインフラを提供していくことが、デル・テクノロジーズの役割です。

 その取り組みの結果が過去最高の業績につながっています。顧客がDXの旅路に取り組むなかで、デル・テクノロジーズが、それをしっかりと支援できる製品、サービス、体制を敷いていることが評価された結果だといえます。

  ――IT産業だけでなく、多くの産業で半導体不足の影響を受けています。デル・テクノロジーズの事業への影響はどうですか。

 PCは世界的に旺盛な需要があり、半導体不足の影響を大きく受けています。実際、リードタイムが長期化するといったことにつながっています。それでも、バリューチェーンの強みを生かして、第1四半期における消費者向けオンラインビジネスの受注は58%増となっているほか、PCのXPSシリーズの受注は21%増、ゲーミングPCのAlienwareの受注は76%増、LatitudeシリーズやPrecisionシリーズ、法人向けChromebookの受注も2桁成長となっています。また、ISGで取り扱っているサーバーやストレージは、90%の製品がリードタイムを順守した形で、製品を供給できています。

 年末に向けて、Windows 11がリリースされる予定です。ユニークな機能を提供するものであり、顧客の活用が促進されると見ています。そうしたニーズも、しっかりととらえて製品を提供していきます。PCは、顧客が求めていることや、やりたいことを実現するために不可欠なツールであり、その役割がますます重視されています。そして、この領域は、デル・テクノロジーズが最も得意とする分野です。これからも期待してほしい分野です。

Dell Technologies APEXを日本で普及させるためには?

――2021年5月にオンラインで開催した「Dell Technologies World 2021」では、Dell Technologies APEXを正式発表しました。手応えはどうですか。

 2020年10月のイベントでは、as a Serviceビジョンとして「Project APEX」を発表していましたが、今年5月に発表したDell Technologies APEXは、製品ポートフォリオを体系化し、すべてのものをas a Service型で提供する新たなソリューションとなります。

 これは、デル・テクノロジーズの基本姿勢である、顧客のために優れた価値を継続的に提供するという狙いから生まれたものです。エンタープライズクラスの機能や性能、ソリューションを、クラウドのようなシンプルなオペレーションモデルで提供していくことになり、マルチクラウド戦略やハイブリッドクラウド戦略を推進したいと考えている企業にとっても最適な選択肢になります。

 新たなテクノロジーを迅速に提供でき、インフラのモダナイズを促進できますから、ITに俊敏性や柔軟性を持たせることができます。発表以来、非常にいい手応えを感じています。

Dell Technologies APEX

――日本の企業は、新しいものに対しては慎重な側面がありますが。

 日本でのDell Technologies APEXは、当社2022年度下期からの導入になりますが、すでに多くの日本企業から期待の声が出ています。APEXは、テクノロジーやアーキテクチャーの変化ではなく、オペレーションモデルの変化です。テクノロジーのように検証に時間をかけるというものではありませんから、新しいものに対して慎重な姿勢だと言われる日本の企業にとっても、移行に向けたハードルは低く、早い段階で浸透していくことになるとでしょう。

 大切なのは、日本の企業に対してAPEXの価値をしっかりと伝えることです。米国でのサービス開始が先行しますから、APEXを導入した企業がどんな状況にあるのか、どんなメリットを享受しているのかを日本の企業に伝えていくことに力を注ぎます。

サスティナビリティなど4つの観点から取り組んでいる「Moonshot Goals 2030」

――デル・テクノロジーズでは、Moonshot Goals 2030と呼ぶ取り組みを行っています。これはどんな狙いがあるのでしょうか。

 世界が大きな変化を遂げています。それに伴い、多様性が広がり、価値観も人それぞれに異なってきました。例えば、人々はお金を得るためだけに仕事をしているわけではありません。高い目標を持っている企業で働きたいという気持ちを持つ人たちが増加しているのもその表れです。また、社会貢献に関わることができる企業で働きたいという人も増加しています。その一方で、社会貢献に積極的な企業であったり、多様な価値観を持った企業から製品やサービスを購入したいという人たちも増えています。

 Moonshot Goals 2030では、循環型経済を促進する「サスティナビリティ(持続可能性)の促進」、公平と平等の重視する「インクルージョン文化の醸成」、10億人の生活向上を目指す「ライフスタイル変革への貢献」、透明性が信頼を促進する「倫理とプライバシーの順守」という4つの観点から取り組んでおり、それぞれに具体的な目標も設定しています。

 具体的には、デル・テクノロジーズでは、2030年までに社員の50%、マネージャーでは40%を女性にするという目標があります。この目標は、日本の市場では大きな挑戦になると思っています。また、2050年までにカーボンニュートラルを目指すこと、2030年までにデバイスの数と同量のリサイクルを行い、梱包材も100%再生可能なものを活用することを目指しています。そして、私たちが持つテクノロジーと規模を利用することで、医療や教育、経済的な機会均等の取り組みを推進し、2030年までに10億人の人々に永続的な成果をもたらすことも目指しています。

 これまでにも、8年連続で最も倫理性の高い企業として評価されていますし、NPS(ネットプロモータースコア)の評価でも、デル・テクノロジーズのような会社で働きたい、デル・テクノロジーズのような会社から製品を購入したいというスコアが上昇しています。テクノロジーが不可欠なものになるなかで、デル・テクノロジーズ自らが、世の中をよくするために不可欠な存在でなくてはいけません。Moonshot Goals 2030によって、社員の意識も大きく変化し、社会へのインパクトも大きなものになったと思っています。

Moonshot Goals 2030

国内企業のデジタル化やデータ時代にフォーカスした体制への移行などを支援したい

――2021年9月には、日本において新オフィスを開設します。ここでは、先端ソリューションショーケースや、新しい時代のWork From Anywhereなどの取り組みも行うことが発表されています。あらためて、デル・テクノロジーズにおける日本市場の重要性について教えてください。

 日本は世界第3位の市場であり、APJのなかでは最大の市場です。デルは、1989年から日本に進出しており、EMCも1994年から日本で事業を行ってきました。最重要視している市場であることに変わりません。

 日本のエンタープライズ企業のデジタル化や、データの時代にフォーカスした体制への移行、イノベーションサイクルを高めることを支援していきたいですね。

 2021年9月に、東京・大手町のOtemachi One タワーに移転する新たなオフィスも、日本の企業のイノベーションを加速させるためものだといえます。顧客と一緒にイノベーションを進め、チーム同士のコラボレーションを促進し、新たな働き方を通じて、将来のビジネスを加速することで、日本におけるDXの促進など、さまざまな機会での期待に応えていきます。

日本の重点戦略

――最後に、日本の顧客や、パートナーにメッセージをお願いします。

 まずは、日本のお客さまやパートナー各社にお礼を言いたいですね。デル・テクノロジーズをサポートし、コミットしてくれている。本当に、ありがとうございます。

 デル・テクノロジーズは、お客さまを成功に導くことに尽力する会社であり、新たな旅路を歩むための支援にベストを尽くしたいと考えています。日本の企業やパートナーが、グローバルで競争力を発揮し、成功できるように支援をしたい。そして、結果を出すためのイノベーションを支援することにコミットしています。

 しかし、デルは企業をロックインすることを考えてはいません。社会に貢献し、いい意味で、世の中を変えていく会社になりたいと思っています。

 コロナ禍が長期化しており、安全であること、健康であることが最も大切なことになっています。私も、今年のクリスマスには、なんとか日本を訪れ、東京・大手町の新オフィスで、日本のお客さまやパートナー各社と対面でお祝いができればいいと思っています。それを楽しみにしています。

 デル・テクノロジーズは、これからも、日本のお客さまやパートナー各社と一緒に、未来に向かっていきます。