特集
キヤノンMJが中期経営計画の進捗を説明、ITソリューション事業は2桁成長を維持
2024年2月7日 06:00
キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は、「2022-2025 中期経営計画」の進捗状況について説明。2023年度(2023年1月~12月)連結業績において、利益が3年連続で過去最高を達成したこと、ITソリューション事業が2桁成長を維持していることなどを踏まえて、2025年度の売上高6500億円、営業利益580億円、ROE9.0%、ITソリューション事業の売上高3000億円の目標を維持する姿勢を強調した。
キヤノンMJの足立正親社長は、「基本方針に沿った戦略を着実に実行する。各種施策により収益性を高め、計画を上回る実績にするつもりで取り組んでいく」と意欲をみせた。また、新たにパーパスを制定したことを発表したほか、新ビジネス創出機能を持つ専門組織「R&B(Research & Business Development)」部門を2024年1月に設置。コーポレートベンチャーキャピタルファンドである「Canon Marketing Japan MIRAI Fund」を設立したことも発表した。
さらに、データセンター3号棟の建設について、首都圏以外の候補地も視野に入れていることを明らかにした。
中期経営計画では、「利益を伴ったITソリューション(ITS)事業拡大」、「既存事業のさらなる収益性強化」、「専門領域の強化・新たな事業の創出」、「持続的成長に向けたグループ経営」を基本方針に掲げ、中でも、売上高3000億円を計画し、全社売上高の46%を占めることになるITS事業の成長は、同中期経営計画の重要な柱と位置づけている。
キヤノンMJの足立社長は、「ITS事業は、着実な成長を実現できている」とこれまでの取り組みを自己評価。その上で、「利益を伴った事業拡大を実現するために、サービス型事業モデルを強化、拡充していく。2023年度は、東京日産コンピュータシステム(現TCS)がグループ入りし、保守・運用サービス/アウトソーシング領域の拡大に向けて、積極的な取り組みを行った」と振り返った。
保守・運用サービス/アウトソーシングに加えて、SIサービス、ITプロダクト・システム販売も成長。大手企業、準大手・中堅企業、中小企業という顧客層別に見ても着実な伸長を遂げていることを示した。
ITS事業のうち、Edgeソリューションは、2023年度の売上高270億円を、2025年度には450億円に拡大するという。中でも映像ソリューションでは、店舗向けAI画像解析およびコンサルティング力に強みを持つAWLと資本業務提携を実施するなど、映像DX領域のソリューション強化を行うほか、デジタルドキュメントサービスでは、「DigitalWork Accelerator」シリーズの業種別サービスを展開。「請求書受取サービス」の提供を開始したのに続き、業務別および業種別サービスを今後拡充することになるという。
2023年度までに19万件の契約実績を獲得したHOME、IT保守・運用サービスは、2025年度に22万件の目標を掲げている。「まかせてIT DXシリーズ」の新サービスとして、「経営支援サービス」と「教育支援サービス」を新たに提供。ITの選定、導入、運用、保守に加えて、ITの投資計画から人材育成までワンストップで支援できるようになったという。さらに、ケアコネクトジャパンとの資本業務提携により、業種別サービスとして「介護ソリューション」を提供。今後、業種別サービスの拡充を進めていくことになる。
セキュリティ事業は、2023年度の売上高371億円を、2025年度には485億円に拡大する計画だ。ゼロトラストセキュリティを実現する「Cato SASEクラウド」の提供を開始。テレビCMなどを通じて、サイバーセキュリティとフィジカルセキュリティを提供するトータルセキュリティを打ち出していることを示した。
キヤノンMJでは、2025年までに、2000億円以上の成長投資を計画しており、ここでもITSビジネスの拡大に向けた投資を進めている。
投資領域として、Edgeソリューション、中小企業向けIT保守、データセンター、セキュリティを挙げており、先に触れた東京日産コンピュータシステムのM&Aのほか、ケアコネクトジャパン、AWL、ドクターズとの資本業務提携を実施。「検討案件は着実に増えている。M&Aにより、ITS事業を大きく成長させていくとともに、既存事業との親和性も含めたシナジーを効かせていく」とし、「2000億円以上の成長投資を実行することなどにより、ROEの水準を継続的に高めていく」とも述べた。
また、データセンター3号棟以降の案件を検討していることも明らかにし、「これからAIなどにより、データセンター需要は旺盛になると言われている。しっかりと新たな投資をして、早期に3号棟以降を進めていきたい。これまでは首都圏中心のアプローチだったが、もう少し広げていくことも含めて取り組んでいく」としたほか、「事業投資なので、当然、採算性が合うことが前提となる。電力供給がネックとなる場合もある」との課題感も示した。
さらに、人材の高度化にも注力。DX検定およびDXビジネス検定では、スタンダードレベル以上が約5700人、プロフェッショナルレベルは約600人が認定。ITパスポートは約5000人が取得したという。そのほか、デザイン思考テストの受検や、事業構想、データサイエンス、デジタルマーケティング、UX/UIなどの専門教育の強化を進めているという。
一方、プリンティング事業では、大手・中堅企業向けに、デジタルドキュメントソリューション「DigitalWork Accelerator」の提案を加速。中小企業向けには、法令対応ソリューションを、プリンティングデバイスとともに提案。カメラ事業では、ミドル層をターゲットにした1to1マーケティングを推進することで、Rシリーズの普及、拡大を図る。
また、産業機器事業では、「マルチベンダー保守を持つプラットフォーマー」に向けた転換を進めているほか、収益性と継続性が見込める半導体サービスの売り上げ拡大を進めていくという。
なお、このほどキヤノンMJが制定したパーパスは、「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」とし、「想い」には、顧客の想いを大切にすること、キヤノンMJグループ自身の内発的な原動力を大切にするという意味を持たせ、「技術」には、テクノロジーだけでなく、ノウハウや知見のほか、ビジネスパートナーとの技術連携も含めているという。
キヤノンMJの足立社長は、「キヤノンMJグループは、誕生して55年を経過した。これまでの55年を振り返り、今後の50年を考え、多様なステークホルダーとともにより広範な未来の社会課題を解決し続けていくことを決めた。その決意を象徴する表現として『未来マーケティング企業』を宣言する。常に未来を見据え、『共生』の理念のもと、社会的な存在意義を明示し、グループ社員の志をひとつにすることが、社会課題解決を加速するために必要だと考え、キヤノンMJグループのパーパスを制定した。社内外の同じ志を持った人たちと、従来にとらわれない新しいものを生み出し、想像を超える未来を切り拓いていきたい」と述べた。
また、2024年1月にR&B(Research&Business Development)部門を新設したことにも言及。社内外から多様な経験やスキルを持ったメンバーを集結し、リサーチ機能と新しいビジネスを創造する機能を担う専門組織になるという。
具体的には、ヘルスケアテックやフードテックなど、既存事業の延長線上にはない新領域に挑戦するほか、産官学との連携やスタートアップ企業との協業、世界的なオープンイノベーションネットワークの活用などを通じて、事業開発機能を強化。技術やビジネスアイデアを探索する。さらに、既存事業との連携も模索する。
足立社長は、「リサーチ機能とビジネスデベロップメント機能の両機能を持つことで、グループ全体の事業創出機能を強化できる。2026年以降の持続的な成長に向けて、フォアキャストによる既存事業の拡大とあわせて、より複雑化、深刻化する社会課題を起点としたバックキャストにより、新しい領域への取り組みを強化し、社会課題の解決に取り組んでいくエンジンにする」と位置づけた。
また、CVCである「Canon Marketing Japan MIRAI Fund」を設立。10年間の運用期間に、総額100億円規模の投資を行う。グローバル・ブレインがパートナーとして参画し、戦略的リターンを重視しながら、新規事業創出につながるスタートアップ企業に対して、スピーディに投資する考えを示した。
ファンド名称は、未来のマーケット創出を加速するという想いを込めており、「既存事業の領域に縛られることなく、未来志向で社会課題を想定して、投資領域を検討していく」という。
パーソナライズな健康や医療の実現に向けてヘルスケアテック領域に取り組むスタートアップ企業との連携を検討するといった「人の視点」、食産業の活性化に取り組むフードテック領域のスタートアップ企業との連携を模索する「産業の視点」を軸に、6つの投資領域を設定。これらの投資領域は定期的に見直しを行うことになる。
さらに、オープンイノベーションの推進についても触れ、産官学連携を通じて、新たな技術の社会実装や、潜在的な社会課題へのアプローチを推進。すでに東京大学との協同研究プロジェクトを開始しており、東京都と連携したイノベーションの促進やイノベーション人材の育成にも注力していくという。
2023年度の連結業績は増収増益に
なお、キヤノンMJが発表した2023年度(2023年1~12月)の連結業績は、売上高は前年比3.6%増の6094億円、営業利益は同5.1%増の524億円、経常利益は同5.1%増の535億円、当期純利益は同2.6%増の364億円となった。
キヤノンMJ 取締役上席執行役員の蛭川初巳氏は、「通期では3年連続で過去最高益を更新。第4四半期では、営業利益、経常利益、純利益で過去最高を更新した。キヤノン製品の供給回復に加え、ITS事業が好調を継続している。積極的なIT投資を背景としたSIサービスやITインフラサービスの売上拡大、オフィスMFPの供給回復やレンズ交換式デジタルカメラの新製品の好調な推移などに伴う売上拡大などが増収増益につながっている」と総括した。
グループITソリューションの売上高は、前年比11%増の2689億円となった。そのうち、SIサービスの売上高が前年比20%増の986億円、保守・運用サービス/アウトソーシングの売上高が同9%増の550億円、ITプロダクト・システム販売の売上高が同6%増の1153億円となった。また、グループITソリューションのセグメント別の売上高は、エンタープライズは前年比9%増の1600億円、エリアが同8%増の702億円、コンスーマは前年並の294億円、プロフェッショナルが同49%増の165億円となった。
なお、Edgeソリューションの売上高は、前年比2%増の270億円、セキュリティの売上高は前年並の371億円、ITO・BPO関連の売上高は前年比18%増の260億円となったほか、HOMEおよびIT保守・運用サービスの契約件数は同19%増の19万件となった。
通期のセグメント別業績では、「エンタープライズ」の売上高が前年比8.7%増の2203億円、セグメント利益が同15.1%増の196億円。ITソリューションでは、金融業および流通業向けのSI案件の売り上げが増加したことに加え、IT基盤に関する案件を複数獲得したことや、データセンター2号棟の売り上げが順調に推移したことなどにより、売り上げが大幅に増加した。同セグメントに含まれるキヤノンITソリューションズは、売上高は前年比15%増の1044億円、営業利益は25億円増の140億円となっている。
「エリア」の売上高は、前年比3.2%増の2339億円、セグメント利益が17.3%増の182億円。ビジネスPCの供給が回復したことや、複数のIT基盤構築案件を獲得したことに加えて、中小企業のIT環境をトータルで支援する「まかせてIT DXシリーズ」のラインアップを拡充し、受注件数が増加したという。また、「IT補助金の活用推進を図ったことにより、基幹業務ソフトの販売や導入支援が好調に推移した」とも述べた。なお、連結子会社のキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の売上高は前年比6%増の1044億円、営業利益は前年から12億円増の63億円となった。
「コンスーマ」は、売上高が前年比1.4%減の1347億円、セグメント利益が4.2%減の133億円。インクジェットプリンタは、市場の縮小により、売上が減少。インクカートリッジもプリントボリュームの減少によって売上が減少した。高性能PCやPC周辺機器の販売は堅調に推移したという。
「プロフェッショナル」の売上高は前年比3.5%減の402億円、セグメント利益は31.1%減の36億円となった。
2024年度(2024年1月~12月)の業績見通しは、売上高が前年比3.4%増の6300億円、営業利益が2.9%増の540億円、経常利益が2.6%増の550億円、当期純利益が2.8%増の375億円を見込む。
2024年度のセグメント別業績見通しは、「エンタープライズ」の売上高が前年比5%増の1393億円、営業利益が前年比8億円増の205億円。「エリア」の売上高が2%増の2350億円、営業利益は8億円増の183億円。「コンスーマ」の売上高が前年比微増増の1393億円、営業利益は4億円減の137億円。「プロフェッショナル」の売上高は9%増の440億円、営業利益は5億円増の38億円を見込んでいる。
「エンタープライズは、大手企業を中心として拠点統廃合に伴う機器の集約が進むことで、オフィスMFPの台数は減少すると見込んでいる。ITソリューションは、前年にあった大型IT基盤案件のはく落があるものの、製造業および金融業向けSI案件が好調に推移すると見ており、売り上げは大幅に増加する」としたほか、「エリアでは、使用期間が長期化している顧客へのオフィスMFPの入替促進などによる販売増加、レーザープリンタでは特定業種向けの拡販を進めることになる。また、Windows10のサポート終了に伴い、ビジネスPCの販売が順調に推移すると予測しており、ウイルス対策ソフトのESETや、IT支援クラウドサービスのHOMEなどのセキュリティ製品の販売を強化。中小企業のIT環境をトータルで支援する『まかせてIT DXシリーズ』の受注件数の増加を見込んでいる」という。
2025年度の中期経営計画の達成に向けて、引き続き、増収増益の達成に挑む1年とになる。