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キヤノンMJが中計の進捗を発表、好調なITソリューションの売上高を400億円上方修正

2024年度の連結業績は増収増益に

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(キヤノンMJ)は29日、2024年度(2024年1月~12月)連結業績を発表。そのなかで、中期経営計画の進捗状況などについて説明した。

 キヤノンMJの足立正親社長は、「売上高、営業利益、ITソリューション事業売上高、ROEのすべての経営指標において、2021年4月に設定した当初計画値を前倒しで達成した。特に、ITソリューション事業は大きく伸長している」と総括した。

キヤノンMJ 代表取締役社長の足立正親氏

 2025年度は、同社の「2022-2025 中期経営計画」の最終年度であるとともに、「2021-2025長期経営構想」の最終年度にあたるが、2024年度時点で、売上高は2025年度目標値の6500億円に対して6539億円、営業利益は500億円に対して531億円、ITソリューション事業売上高は3000億円に対して3146億円、ROEは8.0%に対して9.6%と、いずれも上回っている。

 「利益あるITソリューション事業拡大と、筋肉質な体質が定着した。事業収益を拡大すると同時に、資本効率を意識した事業活動ができるようになってきた」と自己評価した。

2022-2024年サマリー

 2025年度については、「5期連続で営業利益の過去最高益の更新を目指す。中期経営計画では、成長投資として2000億円を計上し、これまでに70%が実行済みとなっている。引き続き、ITソリューション事業を中心とした投資や、経営基盤強化に向けた投資を積極化する。ROEでは10.0%を目指し、これを通過点として、次の目標設定につなげたい」などと述べた。

成長に向けた事業投資の加速 キャッシュアロケーションの方向性

 また営業利益については、2023年1月時点で、2024年度の営業利益目標を580億円へと上方修正していたが、これを560億円に下方修正する。「M&Aによって発生したのれん償却費などが想定以上であること、拠点統合などによるシナジーを生み出しやすい環境づくりのための追加費用を計上したこと、エーアンドエーの売却によるはく落があることが要因。この下方修正は、グループシナジー創出に向けた見直しであり、ポジティブなものととらえている。現実的な目標として560億円としているが、580億円の達成は、引き続き視野に入れている」とした。

長期経営構想および中期経営計画

 2025年度の新たな目標として、ITソリューションの売上高を400億円上方修正し、3400億円とすることを発表した。これにより、ITソリューションの売上構成比は、初めて50%以上を占めることになる。

 「3000億円の目標を前倒しで達成できたのは、幅広い強固な顧客基盤に対して、ITソリューション事業で、価値を提供できた証左である。また、M&A投資を実行してきたことで、提供価値を提供できる素地(そじ)もできている。顧客のIT投資も堅調に推移すると考えており、グループシナジーの発揮を含めて、利益のあるITソリューション事業の拡大を加速する」と基本姿勢を示した。

2025年見通し・ポイント

 ITソリューション事業の拡大においては、顧客層別戦略の実行とともに、サービス型事業モデルの拡充、M&Aの実行による保守・運用サービス、アウトソーシングの伸長が貢献しているという。

 顧客層別戦略では、大手企業、準大手・中堅企業向けの「エンタープライズ」、中小企業向けの「エリア」に区分。これらの顧客層に最適な製品やサービスを4つのカテゴリーから提供している。

 エンタープライズ領域のEdgeソリューションでは、2025年度の売上目標を前年比39%増の450億円とした一方、エリア向けのHOMEおよびIT保守・運用サービスの契約件数は9%増の23万5000件を目指す。また、セキュリティの売上高は前年比20%増の485億円、ITO・BPO関連の売上高は15%増の475億円を目指す考えだ。

 「Edgeソリューションは、サービス型に移行していることもあり、進捗には若干の遅れがあるものの、映像ソリューションにおける防災防犯関連案件や、サプライチェーン計画ソリューションを核とした大型案件を受注しており、2025年度から加速する。セキュリティにも遅れがあるが、顧客を取り巻く環境ではセキュリティリスクが高まっており、クラウドセキュリティビジネスが活況となっている。体制の立て直しと案件の醸成に加え、新サービスもリリースしており、これから加速していく」とした。

 また「ITO・BPO関連は計画を前倒しで達成しており、2025年度の計画値を上方修正した。データセンター事業では、新生SOLTAGEのもと、堅牢なデータセンターによる高品質運用を継続し、2024年12月にはハイパフォーマンスコンピューティング環境に向けて、液冷方式サーバーによるサービスを開始している」という。

 さらに、エリア領域となるHOMEおよびIT保守・運用サービスでは、「計画を上方修正した。中でも、キヤノンS&Sが提供する『まかせてIT DXシリーズ』が好調である。業種別ソリューションやIT運用アウトソーシングサービスなど、サービスの拡充を継続しており、引き続き、新サービスの創出にも力を注ぐ」と語った。

顧客層別ITS戦略の実行・加速 KPI進捗状況(売上高、契約件数)

 ITソリューション事業の2025年度の売上計画である3400億円のうち、SIサービスは1075億円、保守・運用サービス/アウトソーシングは、885億円、ITプロダクト・システム販売は1440億円を計画している。

 「中でも、保守・運用サービス/アウトソーシングが堅調に伸びており、構成比は26%を占める。当初は750億円、25%の構成比を目指していたが、2024年度にこれを達成したため上方修正した。サービス型事業モデルの拡大により、保守・運用サービス/アウトソーシングの拡大を目指す。また、生産性向上によるSIサービスの収益性強化、M&Aを行いグループ入りした企業とのシナジーの発揮による提供価値の向上を目指す」と述べた。

ITS事業 財務実績および最新計画値

 既存事業についても、顧客層別戦略を徹底するという。

 プリンティング事業では、準大手・中堅企業での取引顧客の拡大に注力。カメラ事業ではミドル(ハイアマチュア)層をターゲットに、被写体や保有する機材ごとに異なるニーズを捕捉することで、ワントゥワンマーケティングに取り組むという。

 「各事業におけるターゲットを明確にした戦略により、顧客に価値を認めてもらい、高シェアの維持と、単価向上を実現し、収益性の強化に寄与している。プリンティングおよびカメラに共通しているのは、市場拡大の期待が難しい点である。だが、2021年以降は売上を維持し、収益率は改善している。ITソリューションとプリンティングのクロスセルを増やし、さらなる高収益化にも取り組む」とした。

顧客層に応じた戦略展開

 産業機器事業では、マルチベンダー保守を持つプラットフォーマーへの転換を標榜。専門性を生かして、半導体製造装置や検査計測装置の仕入れ、販売、設置、保守サービスを提供しており、今後は、収益性と安定性が見込める半導体サービス事業の売上拡大によって、市況変化に強い収益基盤の確立に注力するという。

産業機器事業のさらなる成長

 さらに、「2021-2025長期経営構想」についても言及。「現在の長期経営構想では、定めていた経営指標を前倒しで達成し、一定の成果を得ている。特に、キャッシュの創出力と、投資活動の促進において、成果があがっている。4年間に渡り、毎年400億円以上のキャッシュを創出し、手元資金とあわせて、成長投資にまわす活動を進めてきた。アセットを強化する事業投資や人材投資、システム投資に加えて、バックキャストにより複雑化する社会課題を解決するための投資も行ってきた。リサーチ&ビジネスデベロップメントを行う専門組織の立ち上げや、スタートアップ企業とともに取り組むためのCVCの設立も行った。共創と協業を進め、社会的な存在価値を明確化するためのパーパスも明示した。業績向上だけでなく、持続的な成長を実現する準備を着実に進めることができた」と振り返る。

 そして、「2026年度以降の新たな長期経営構想においても、幅広い顧客に対して継続して価値を提供し、創出したキャッシュにより、積極的な成長投資を実行する。また、人的資本の強化も進め、持続的成長を確かなものにしたい。来年には、さらにワクワクする次の長期経営構想を発表したい」と抱負を述べた。

2024年度の連結業績は増収増益、営業利益、経常利益、純利益は年間累計の過去最高を更新

 一方、キヤノンMJが発表した2024年度(2024年1~12月)の連結業績は、売上高は前年比7.3%増の6539億円、営業利益は同1.2%増の531億円、経常利益は同1.5%増の543億円、当期純利益は同7.7%増の393億円となった。

業績サマリー 年間累計(1月~12月)

 キヤノンMJ 取締役 常務執行役員の蛭川初巳氏は、「4年連続での増収増益を達成。中でも、営業利益、経常利益、純利益は過去最高を更新した。また、すべてのセグメントで増収となった。ITソリューション事業が好調に推移したほか、高単価のレンズ交換式デジタルカメラが増加。プリマジェストの子会社化といったプラス効果があった。中期経営計画で掲げていた2025年の売上高6500億円、ITソリューションの売上高3000億円を1年前倒しで達成した」と総括した。

キヤノンMJ 取締役常務執行役員の蛭川初巳氏

 だが、PCの売上増加やSIサービスの一部で不採算案件が発生したこと、コンスーマセグメントでのITプロダクトの構成比が高まったことで、粗利率は悪化しているという。

 キヤノンMJの足立社長は、「不採算案件は、これまでキヤノンMJが取り組んでこなかった新たな領域のもので、知見がなかった。チャレンジングではあったが、これを経験することで次の広がりが出せるということから取り組んだ。2024年度中にめどが立っており、2025年度には影響しない」と説明。さらに、「Windows 10のサポート終了に伴うPCの入れ替えは、大手企業は2024年にかなり進捗したが、中小企業では2025年に本格化する。その分、しばらくは粗利率の悪化が続く。パソコンにセキュリティ、IT運用保守サービスを組み合わせて、粗利率を修正していきたい」と述べた。

 グループITソリューションの売上高は前年比17%増の3146億円となった。そのうち、SIサービスの売上高が前年比2%増の1006億円、保守・運用サービス/アウトソーシングの売上高が同47%増の806億円、ITプロダクト・システム販売の売上高が同16%増の1333億円となった。また、グループITソリューションのセグメント別の売上高は、エンタープライズは前年比13%増の1801億円、エリアが同5%増の736億円、コンスーマが同24%増の365億円、プロフェッショナルが同11%増の184億円となった。

セグメント別 製品・サービス売上 年間累計(1月~12月)

 なお、Edgeソリューションの売上高は、前年比20%増の323億円、セキュリティの売上高は前年比9%増の405億円、ITO・BPO関連の売上高は59%増の413億円となったほか、HOMEおよびIT保守・運用サービスの契約件数は13%増の21万5000件となった。

 通期のセグメント別業績では、「エンタープライズ」の売上高が前年比8.8%増の2397億円、セグメント利益が同2.4%増の201億円。ITソリューションでは、製造業および流通業向けのSI案件が増加し、これに伴うアプリケーション保守が順調に推移。製造業向けの組み込みシステム開発案件も好調に推移した。さらに、文教分野向けPCの大型案件が貢献しているという。同セグメントに含まれるキヤノンITソリューションズは、売上高は前年比9%増の1395億円、営業利益は同3%増の145億円となっている。

 なお、データセンター事業を除く、第4四半期の受注残高は、四半期で過去最高を更新したという。「PCの大型案件や製造業SI案件が好調に推移している。だが、大型データセンター案件への切り替えがあった点が影響している」という。

業績 セグメント情報 エンタープライズ

 「エリア」の売上高は、前年比0.7%増の2312億円、セグメント利益が3.1%増の180億円。オフィスMFPの使用期間が長期化している顧客への入れ替え促進や、業務効率向上に向けた提案活動を積極化。レーザープリンターはペーパーレス化の影響があり微減となったが、Windows 10のサポート終了に伴うビジネスPCの入れ替えが進んだことに加えて、ウイルス対策ソフトの「ESET」などのセキュリティ関連製品、中小企業のIT環境をトータルで支援する「まかせてIT DXシリーズ」のセット提案が順調に推移したという。また、営業利益は、エーアンドエーの株式譲渡に伴い粗利が減少したものの、人件費などの販管費の減少により増益となった。

 なお、連結子会社のキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の売上高は前年比3%増の1077億円、営業利益は同9%増の69億円となった。

業績 セグメント情報 エリア

 「コンスーマ」は、売上高が前年比4.1%増の1445億円、セグメント利益が3.6%減の135億円。レンズ交換式デジタルカメラでは、2024年8月に発売した「EOS R5 MarkⅡ」と、11月に発売した「EOS R1」が好調な滑り出しをみせたほか、ITプロダクトは、高性能PCやPC周辺機器の販売が好調に推移し、売上高が大幅に増加したという。だが、インクジェットプリンターは、郵便料金の値上げに伴い、年賀状の販売が減退したことで市場が縮小し、売上高が減少した。

業績 セグメント情報 コンスーマ

 「プロフェッショナル」の売上高は前年比11.5%増の448億円、セグメント利益は25.0%増の45億円となった。半導体製造関連装置の販売が好調に推移したのに加えて、高速連帳プリンター案件の増加、病院向け大型システム案件の獲得により、大幅に成長した。

業績 セグメント情報 プロフェッショナル

 2025年度(2025年1月~12月)の業績見通しは、売上高が前年比4.0%増の6800億円、営業利益が5.4%増の560億円、経常利益が4.8%増の570億円、当期純利益が0.5%増の395億円を見込む。「5年連続での増収増益を目指す」とした。

業績予想サマリー

 2025年度のセグメント別業績見通しは、「エンタープライズ」の売上高が前年比7.0%増の2674億円、営業利益が17億円増の211億円。「エリア」の売上高が3.2%増の2386億円、営業利益は14億円増の197億円。「コンスーマ」の売上高が前年比1.5%減の1425億円、営業利益は3億円減の135億円。「プロフェッショナル」の売上高は10.7%増の496億円、営業利益は7億円増の53億円を見込んでいる。

業績予想 セグメント概要 前年比較

 「雇用や所得環境の改善により、個人消費が増加したり、好調な業績を背景にした企業のIT投資を中心とした設備投資が増加したりといったように、国内景気は緩やかな回復が見込まれる。成長事業と位置づけるITソリューションは利益を伴った売り上げ拡大を図る。エンタープライズ、エリア、プロフェッショナルは増収増益を見込む」とし、「エンタープライズでは、業務プロセスの改革提案を加速し、入出力機器を含めたシステム導入提案を増加させる。キヤノンITソリューションズで組み込みシステム開発などの製造業向けSI案件が好調に推移するほか、映像ソリューションやBPOなどの事業が、増収増益への貢献が期待できる。エリアでは、オフィスMFPやレーザープリンターの販売台数は増加すると予測。ビジネスPCの販売が好調に推移すると見ている」と語った。