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キヤノンMJの2022年度決算は増収増益 営業利益や経常利益、純利益で過去最高を更新
2022-2025中期経営計画の進捗状況も説明
2023年1月30日 06:00
キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は27日、2022年度(2022年1~12月)の連結業績を発表した。それによると、売上高は前年比6.5%増の5881億円、営業利益は同25.8%増の499億円、経常利益は同24.1%増の509億円、当期純利益は同20.8%増の355億円となった。
また第4四半期(2022年10月~12月)の業績は、売上高が前年同期比4%増の1601億円、営業利益は同7%減の121億円、経常利益は同7%減の124億円、当期純利益は同3%減の89億円となった。
キヤノンMJ 取締役上席執行役員の蛭川初巳氏は、「2022年度通期は、営業利益、経常利益、純利益で過去最高を更新し、すべてのセグメントで増収増益となった。粗利率については、コンスーマ、エンタープライズ、プロフェッショナルにおいて仕入価格が上昇して若干悪化。販管費は、社内の生産性向上や顧客との関係強化のための投資により、IT費用に増加の影響があったが、人件費が減少した」と総括。
「2022年度は、仕入価格や物流費などのコストが上昇するなかでも、提案力を強化し、高付加価値な製品・サービスの比率を高め、粗利率の維持に努めるととともに、筋肉質な体質へと転換を図る活動を進めてきた結果が、増収と大幅な増益につながっている」と述べた。
また、キヤノンMJの足立正親社長は、「中期経営計画の初年度として重要な年であると考えていたが、非常にいいスタートを切れた」と振り返った。
グループITソリューションの概況
グループITソリューションの売上高は、前年比9%増の2414億円となった。そのうち、SIサービスの売上高が前年比34%増の820億円、保守・運用サービス/アウトソーシングの売上高が同21%増の505億円、ITプロダクト・システム販売の売上高が同45%増の1088億円となった。また、グループITソリューションのセグメント別の売上高は、エンタープライズは前年比11%増の1426億円、エリアが同5%増の652億円、コンスーマは同2%増の293億円、プロフェッショナルが同24%増の111億円となった。
キヤノンMJの蛭川氏は、「エンタープライズおよびエリアにおいて、付加価値が高いサービスの提供に注力し、保守・運用サービス/アウトソーシングの構成比を21%にまで高めることができた」とし、「エンタープライズでは、SIサービスやITプロダクト、システム販売が好調に推移。保守・運用サービス/アウトソーシングは前年に複数のBPO案件があったため、年初の計画では減少すると見込んでいたが、公共関係を中心に新たなBPO案件を獲得したほか、データセンターの売り上げが増加。システム保守案件の拡大により、売り上げを伸ばすことができた。今後はサービス型事業モデルの拡大を目指す」とコメント。
さらに、「エリアでは、ウイルス対策ソフトのESETなどのセキュリティが順調に推移し、ITプロダクトとシステム販売の売り上げが拡大。保守・運用サービス/アウトソーシングでも、『まかせてITシリーズ』を中心にIT保守の受注件数を拡大した」とした。
また、「コンシューマでは、PC周辺機器やゲーミングPCが堅調に推移。今後も市場のニーズにあわせて特徴のある製品を調達し、販売を拡大する。プロフェッショナルでは、ヘルスケアにおけるSIサービスの比重が高く、キヤノンITSメディカルで過去最高の売上高を更新。医療IT市場へのソリューション展開に注力していきたい」と語った。
なお、Edgeソリューションの売上高は、前年比15%増の265億円、セキュリティの売上高は14%増の370億円、ITO・BPO関連の売上高は2%増の220億円となったほか、HOMEおよびIT保守・運用サービスの契約件数は19%増の16万件となった。
通期のセグメント別業績
通期のセグメント別業績では、「エンタープライズ」の売上高が前年比6.4%増の2027億円、セグメント利益が23.2%増の170億円。同セグメントに含まれるキヤノンITソリューションズは、売上高は前年比12%増の1095億円、営業利益は20億円増の115億円となっている。
「エリア」の売上高は、前年比2.6%増の2265億円、セグメント利益が29.2%増の155億円。なお、連結子会社のキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の売上高は前年比1%増の983億円、営業利益は13億円増の51億円となった。
「コンスーマ」は、売上高が前年比5.5%増の1366億円、セグメント利益が2.7%増の139億円。2021年末に発売した「EOS R3」や、2022年6月に発売した「EOS R7」、7月に発売した「EOS R10」、12月に発売した「EOS R6 Mark II」などにより、ミラーレスカメラの販売が増加。インクジェットプリンタでは高単価製品が好調に推移したほか、PCの周辺機器は供給不足の影響を受けたが、ゲーミングPCなどが好調に推移した。
「プロフェッショナル」の売上高は前年比32.1%増の416億円、セグメント利益は110.6%増の52億円となった。第4四半期は、ヘルスケアが増加したものの、プロダクションプリンティングと産業機器が減少したという。
2023年度の業績見通し
2023年度(2022年1月~12月)の業績見通しは、売上高が前年比6.1%増の6240億円、営業利益が同0.1%増の500億円、経常利益が同0.8%増の514億円、当期純利益が同0.1%増の356億円を見込む。
蛭川氏は、「半導体不足やサプライチェーンの混乱による供給制約、ウクライナ情勢による原材料価格やエネルギーコストの上昇を背景にした仕入価格の上昇は、2023年も継続すると想定している。さらに、2023年度は高度人材の採用増加や教育費の増加、従業員の特別昇給などといった人的資本への投資や、新たなサービス開発に関わるIT投資、生産性を高めるためのIT投資も積極的に行う。リアルイベントの回復も見込まれており、新たな顧客獲得のための広告宣伝や販促活動も積極的に行う。キヤノン製品事業はさらなる収益性の強化を図り、成長事業に位置づけるITソリューション事業は収益性向上を伴った売り上げ拡大を図る」とした。なお、2023年秋には、Canon EXPOの開催を予定していることも明らかにした。
2023年度のセグメント別業績見通しは、「エンタープライズ」の売上高が前年比6%増の2150億円、営業利益が前年から2億円増の173億円。「エリア」の売上高が前年比6%増の2394億円、営業利益は前年から17億円増の173億円。「コンスーマ」の売上高が前年比4%増の1425億円、営業利益は前年から1億円増の140億円。「プロフェッショナル」の売上高は前年比8%増の449億円、営業利益は前年から18億円減の34億円を見込んでいる。
「売上高は、すべてのセグメントで増収を見込む。営業利益では、プロフェッショナルセグメントで、前年度に産業機器における大型案件が集中した反動があるが、コンスーマ、エンタープライズ、エリアでは増益を見込んでいる」とする。
また、「エンタープライズセグメントでは、オフィスMFPやレーザープリンタは供給状態が回復するが、大手企業を中心にしたテレワークの継続、ペーパーレス化の動きにより売り上げは減少。ITソリューションは金融業や製造業向けのSI案件が順調に推移するほか、データセンター2号棟の受注済み案件が売り上げに寄与すること、2022年12月にリリースしたデジタルドキュメントサービスのDigitalWork Acceleratorによって、企業のDXを推進できると考えている。エリアセグメントでは、主要製品の供給が回復することにより、オフィスMFPやレーザープリンタは大幅な増加を見込んでいる。ITソリューションでは、ビジネスPCの供給が回復することや、ESETやHOMEなどのセキュリティ関連製品およびサービスが好調に推移することが見込まれる。また、まかせてITシリーズの受注件数を増やしていきたい」と語った。
「2022-2025中期経営計画」は営業利益やROEを上方修正
一方、2025年度を最終年度とする「2022-2025中期経営計画」の進捗状況についても説明した。
同中期経営計画は、2021年4月に発表した長期経営構想「2025年ビジョン」と連動。2025年度に売上高6500億円、営業利益500億円のほか、ITS(ITソリューション)の売上高3000億円、ROE8.0%を打ち出していた。
また中期経営計画では、顧客層別ITS(ITソリューション)戦略の実行・加速と、サービス型事業モデルによるストックビジネス拡大に取り組む「利益を伴ったITS事業の拡大」、顧客層に応じた戦略展開、主要製品事業のさらなる高収益化を目指す「既存事業のさらなる収益性強化」、産業機器事業のさらなる成長、新たな事業の創出を打ち出した「専門領域の強化・新たな事業の創出」、エンゲージメント向上ループの確立と、成長に向けた事業投資の加速を盛り込んだ「持続的成長に向けたグループ経営」の4点を基本方針に掲げている。
今回の発表では、2025年度の目標として、営業利益を80億円上方修正し580億円としたほか、ROEを9.0%に上方修正。さらに、「持続的成長に向けたグループ経営」のなかに、「人的資本の価値最大化」を追加した。
キヤノンMJの足立社長は、「営業利益はすべてのセグメントで上方修正した。また、ROEの8.0%という目標は前倒しですでに達成した。2025年度には9./0%以上を確実に達成し、近い将来には10%を実現したい」とコメント。「事業戦略の実行、推進を加速するために、グループ経営の取り組みに人的資本の価値最大化を追加した。社会や、お客さまの課題を、ICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループを目指し、2025年ビジョンの達成に取り組む」と話している。
4つの基本方針のうち、「利益を伴ったITS事業の拡大」では、2025年のITS事業の売上高3000億円の目標のうち、保守・運用サービス/アウトソーシングの売上高を750億円(売上構成比25%)とする計画を掲げているが、この計画を強力に推進する姿勢をみせた。
「ITソリューション事業では、サービス型事業モデルを拡大し、着実に成長させることができている。戦略的業務提携に向けた出資に加えて、ヘルスケアIT事業における事業移管や、BPOでのM&Aの実施などを進め、利益を伴ったITソリューション事業の実行を加速させている。デジタル化による業務の効率化やセキュリティ強化など、当社が注力している領域へのニーズが高いことが追い風となる。保守・運用サービス/アウトソーシング領域を中心に、利益を伴った事業成長を実現していく」と述べた。
2025年度には、Edgeソリューションの売上高で450億円、セキュリティの売上高は485億円、ITO・BPO関連の売上高は320億円、HOMEおよびIT保守・運用サービスの契約件数は22万件を目標としている。
Edgeソリューションでは、映像ソリューションにおいて、「見る」、「録る」といった領域の商品やサービスがそろったほか、Arculesの国内独占販売権を取得し、クラウドによる映像監視サービスを提供。今後は映像DX領域に注力し、映像ソリューションを拡充していくという。
またデジタルドキュメントサービスにおいては、DigitalWork Acceleratorにおいて、第1弾となるデジタルデータの一元管理とデータの利活用を促進する電子取引管理サービスを提供。今後は、第2弾、第3弾のサービスを創出に向けた開発を進めるとともに、業務アプリとの連携や、業種別サービスの拡充に取り組むという。「この分野は、キヤノンMJが得意とする領域であり、ITソリューション事業の拡大だけでなく、キヤノン製品の事業拡大にも寄与する」と期待を寄せた。
さらに、中小企業向けIT保守サービスでは、DX化を支援する「HOME」と、IT機器の保守、運用を行う「まかせてITシリーズ」を中心に展開。「HOMEでは戦略的業務提携や出資を行い、サービスメニューを拡充する。まかせてITシリーズでは、安心パックに加えて、保守、運用領域に特化したサービスをリリースした。さらなるメニューの拡充にも取り組んでいく」とした。
サイバーセキュリティ分野では、ESETやフォーティネットに加えて、ネットワークオペレーションサービス、セキュリティサービスといったコンサルティング領域の事業を拡大。保守、サービスのメニューも拡大し、運用支援の領域もカバーし、セキュリティ市場におけるプレゼンスを高めるという。
一方、データセンターを中心としたITO事業では、データセンターの運用品質をより高めるとともに、SOLTAGEクラウドサービスを中心としたサービスを拡充。BPO事業においては、行政関連BPOの拡大に加えて、デジタル文書管理BPOの領域にも展開。これらの実績をもとにパッケージ化することで、中小企業向けBPOサービスへと拡充していく考えを示した。また、子会社化したキュービーファイブにより、人事系BPOを強化する方針も示し、「この分野では、加速度的に実績を拡大していく」と意欲をみせた。
ヘルスケアIT事業では、キヤノンメディカルシステムズから、病院情報システムや検診システムのSIや営業機能をキヤノンITSメディカルに移管。中小病院におけるプライム案件の拡大や、診療時向け電子カルテのラインアップ強化により、事業移管シナジーを最大限に発揮し、利益を伴った成長に取り組むという。
「既存事業のさらなる収益性強化」については、キヤノン製品において、各販売チャネルに適した戦略を展開。プリンティングでは新製品投入に加えて、クラウド印刷サービスにより、コロナ禍でのテレワークの浸透にあわせたサービスを提供。さらに、新製品の投入により、1台あたりの単価を上昇させることができているという。
「キヤノン製品は、顧客層別戦略を展開するとともに、エリアマーケティングを強化。レーザープリンタやインクジェットプリンタは重点業種攻略の推進に加えて、コロナ禍における新たなニーズに合致した製品やソリューションを展開し、新たなプリントニーズを獲得していく。カメラ事業ではハイアマチュアを対象にしたミドル層顧客とのリレーションを強化し、サービスメニューを拡充。キヤノンのイメージング技術を結集した総合力で新たなビジネスを創出し、収益性を高めるとともに、高いシェアを堅持していく」と述べた。
「専門領域の強化・新たな事業の創出」としては、旺盛な半導体需要を背景に、産業機器が大きく成長していることを指摘。「一過性の要素もあるが、マルチベンダー保守対応による半導体サービス事業の売り上げ拡大といった成果も出ている」とし、「マルチベンダー保守を持つプラットフォーマとしてのポジションの確立に注力する」と述べた。
一方で、「次の柱となるビジネスの創出に向けた新規商材の検討や、設置および保守領域で強みを発揮するには、高度化した人材が欠かせない。フィールドサポートエンジニアの高度化に向けた教育に積極的な投資を行い、継続的な利益を得られる体質を構築したい」と述べた。新規事業創出を実現するための社内起業プログラムを起点として、プロジェクト化や法人化によるスピンアウトなどを通じて事業創出を目指すという。
「持続的成長に向けたグループ経営」では、新たに追加した「人的資本の価値最大化」がポイントになる。
足立社長は、「エンゲージメント向上ループを形成し、持続的な成長につなげていく。まずは専門性の向上を目指し、全社横断の基礎教育に加えて、部門ごとの専門教育や職種別選抜研修、外部からの人材登用も実施する。特に、利益を伴った成長を目指しているITソリューション事業においては、ITスキルの底上げが重要になる。高度IT人材を強化、拡充していく。事業戦略との連動性や人的資本への投資成果については、定量的なデータを含めて公表していく」とした。
キヤノンMJでは、2021年からITパスポート受験を開始し、すでに約5000人が取得。2022年にはデータリテラシー教育を実施し、約4000人が受講。2023年は、DX/DXビジネス検定の取得に、グループ全体で取り組むことになるという。
また、従業員のエンゲージメントスコアが1000点中686点に上昇したことや、女性管理職比率が4.0%になったこと、男性育休取得率が2022年に27%だったことも示し、「働きやすい環境の整備に取り組んでいく」と述べた。
このほか足立社長は、「サステナビリティ経営の推進に向けて、事業を通じて社会課題を解決することに取り組む。キヤノン製品事業に、ITソリューション事業を組み合わせることで、解決できる領域を広げ、安心安全な社会の実現、中小企業の生産性向上による地域活性化などに貢献していく」と語った。
一方、中期経営計画では、期間中に2000億円の成長投資を打ち出している。
「ITソリューションを中心とした事業投資だけでなく、システム投資、人的投資も積極的に実施する。2022年度の成長投資は、金額的には実行が十分ではなかったかもしれないが、事業投資に関する案件は広がっている。2023年は、M&Aや大きな投資を進めたい」とした。
また、「新たなデータセンターの投資は、提案活動は行っているが結実はしていない。2号棟の進捗がいい状況にあるため、2023年は3号棟以降の投資に向けた議論を加速したい。資材や人件費の上昇、完成後のエネルギーコストの高騰など、原価があがることが想定されるが、技術が進化するなかで、効率的なデータセンターにするための研究も続けている。どういったお客さまに入っていただきたいかということもあわせて検討をしている。付加価値が取れる提案で利益率をあげたい。1号棟は損益分岐点に到達するまでに時間がかかったが、2号棟は建てる前から提案活動を行い、契約をしてきたことが功を奏している。3号棟も早く物件を見つけて、同じように早めの営業活動をしていく。少しでも付加価値を高めた契約をしていきたい」などと述べた。