特別企画

富士通、AIや5Gなど最新の研究開発成果を公開 DXを支えるテクノロジーに経営リソースを集中

高信頼・低コストを実現するAI運用の新技術

 新たな技術として、2つの技術について時間を割いて説明した。

 ひとつは、「高信頼・低コストを実現するAI運用の新技術」である。

 AI運用時の入力データの正解付けを自動化することで、AIの精度の推定と、AIモデルの自動修復を可能にする技術である「High Durability Learning(ハイ・デュラビリティ・ラーニング)」を世界で初めて開発。これにより、運用中のAIモデルの精度を推定しつつ、精度低下を抑制することが自動で可能になるほか、AIモデルを高い精度で長期間維持し、さまざまな業務において安定したAI運用を実現できるのが特徴だ。

 富士通 Data×AI事業本部長の渡瀬博文氏は、「学習データから構築したAIモデルは、業務で使い続けるにしたがって、社会情勢や市場動向、環境変化などにより、入力データの傾向が構築当初の学習データと比べて変わってしまうことがあり、AIの推定精度が低下する問題が発生する。現在、全世界でこの課題に対する議論が行われている」と前置き。

 具体例として、「金融分野における信用リスクの評価では、当初学習時には91%の精度であったものが、経済構造の変化、為替や物価、金利の変動などにより、わずか1年で69%に精度が下がっている。そのため、運用中の精度検証や再学習が必要になり、多くのコストが必要になっている。新技術を活用することによって、精度の劣化を気にすることなく、再学習などのコストを削減しながらAIモデルの安定運用が可能になる」とした。

AIモデルの陳腐化の実例
現在のAI運用の課題
富士通 Data×AI事業本部長の渡瀬博文氏

 また、富士通研究所 人工知能研究所長の岡本青史氏は、「High Durability Learningは、さまざまな環境や状況に対して、高い耐久性を示し、よい結果を出し続けることができるAIモデルを実現する『高耐性学習』となる。AIモデルを学習する際に用いる学習データの分布と運用時の入力データの分布を、形状としてとらえ、学習時から運用時へのデータの変化の傾向を把握することで、運用時の入力データに対する正解付けを自動的に実施できるようになる」と説明。

 その効果について、「入力データに対する元のAIモデルの推定結果と、自動設定した正解を比較することで、その時点のAIモデルの精度が推定可能となる。精度劣化の自動監視により、精度誤差は3%にとどまり、精度劣化の自動修復を行うことで、金融分野の信用リスク評価では69%の精度劣化を89%で維持できる。これは、新たなAI運用を実現する画期的なものであり、現在、さまざまな分野で検証を行っている」と語った。

High Durability Learning
High Durability Learningの効果
富士通研究所 人工知能研究所長の岡本青史氏

 2020年度中には、富士通の目的指向型プロセスとフレームワーク 「Design the Trusted Future by Data×AI」に組み込んで実用化を目指すという。

高信頼・低コストを実現するAI運用の新技術

AI処理を最大10倍高速化する技術

 もうひとつは、「AI処理を最大10倍高速化する技術」である。

 富士通研究所 ICTシステム研究所長の赤星直輝氏は、「Content-Aware Computing(コンテンツ・アウェア・コンピューティング)と呼ぶこの技術は、DXにおけるAI利用の増加により、計算量が爆発的に増大。性能不足が発生し、現場のニーズの応えられないという課題を解決するものになる」と位置づける。

富士通研究所 ICTシステム研究所長の赤星直輝氏
Content-Aware Computing

 従来は、AI処理の高速化を図るために、専門家が演算精度の切り替えの個所などをデータや実行環境ごとに調整する必要があり、計算の厳密性を捨てて高速化を優先するといったことが行われていた。

 新技術では、学習の度合いにあわせて最適な演算精度を自動制御して高速化するほか、多様な実行環境に対し演算速度を安定化させることができるようになる。

 「内部データの分布に応じて、最適なビット幅を動的に選択するビット削減技術と、並列学習効果の低下による回数増加を予測し、打ち切りを自動調整する同期緩和技術によって、計算を最大10倍に高速化するとともに、専門家だけでなく、誰でもが使えるものとして提供できるのが特徴。汎用のCPUやGPUで動作できるほか、富岳でも利用できる。世界最先端のコンピューティング技術でお客さまのDXを支えたい」などとした。

 今後、広く普及しているAIフレームワークに組み込み、ディープラーニングを使ったAIサービスの実行基盤として活用を進めるという。

AI処理を最大10倍高速化する技術