特別企画
ワイヤレスから将来を見据えた次世代技術まで――、Dell Technologiesが6つの研究開発施設を公開
2019年11月29日 06:00
米Dell Technologiesは、「Wireless Innovation Lab」「Rugged Innovation Lab」「Design Sustainability Lab」「HPC/AI Lab」「Edge Innovation Lab」「Futures Ville Innovation Center」の6つの研究施設の様子を公開した。
いずれも米国テキサス州オースティンの同社本社エリア内にある、「PS(Parmer South)2」および「PS4」と呼ばれる建物のなかに設置されており、研究や試験の成果が同社の製品やサービスづくりに生かされている。
本稿では、6つの研究開発施設の様子を紹介する。
ワイヤレス通信環境をテストする「Wireless Innovation Lab」
5Gを含めた各種ワイヤレス通信環境をテストする施設が、Wireless Innovation Labである。建物内には電波暗室が設置されており、ノートPCから発信される電磁波を測定したり、通信感度に関するテストを行ったりしている。
テストの対象となる通信方式は、5Gや4G、3Gのほか、BluetoothやWi-Fiなどと幅広く、「2020年に発売予定のLatitudeでは5G対応を計画しており、それに関する研究や試験を行っている」という。
また、Antenna Labと呼ぶ施設も併設されており、設計段階にあるノートPCに搭載されたアンテナ感度を試験している。アンテナの配置場所によって異なる感度の差を測定し、最適なデザインにつなげるのが目的だ。
「数年前のノートPCでは、液晶ディスプレイの上部ベゼル部分に12mmの幅を取ってそこにアンテナを埋め込んでいたが、年を追うごとに狭額縁化して設置スペースが小さくなり、最新モデルではベースユニット部分に埋め込むことにした。一般にアンテナは大きいサイズの方が感度が高く、また上方向に設置した方が感度が高い。だが、小型化したり、ベースユニットに組み込んだりしても、従来と変わらない感度を実現している」という。
なおWireless Innovation Labでは、いくつかのユニークな取り組みがある。
ひとつめが、ロボットを導入したWi-Fiスポットとの接続試験だ。ノートPCを搭載したロボットが室内を移動し、Wi-Fiスポットに近づいたり離れたりしながら感度を測定する。「午後6時ぐらいに自動で測定するように設定すれば、朝まで休むことなくずっと動き続ける。データを収集して、これを設計に生かしている」とする。
2つめが、改良した19型ラックのなかにモバイルデバイスなどを詰め込み、それぞれのデバイスの電波干渉などを試験するというものだ。ここでは主に、アプリケーションを稼働させながら試験することになるという。
耐久性などの試験を行う「Rugged Innovation Lab」
Rugged Innovation Labは、主に堅牢ノートPCであるLatitude Ruggedシリーズの試験を行うラボだ。
「Dell Technologiesの製品を長年に渡って安心して利用してもらうためには、一定水準の堅牢性が求められる。それをクリアするために過酷なテストを繰り返している。これまでに数多くのノートPCを破壊してきたが、破壊したからこそわかることも多い」と語る。
最初に目につくのは開閉試験を行う装置だ。1万5000回に渡る開閉試験を行い、ヒンジの耐久性を確認する。さらに環境衝撃試験機では、3種類のチャンバーを用意して、マイナス53度から、71度までの環境を再現できるようにしている。試験では、このチャンバーのなかにノートPCを4時間入れて、動作を確認する。
そのほか、電源が入った状態で、4~7フィートの高さから木やスチール、コンクリートなどの床に向けて、26方向からPC本体を落下させ、それでも動作することを検証する落下試験や、350度というほぼ全方位から2~8時間に渡って水をかけ、雨が降るような環境でも動作することを確認する放水試験などがある。
「これらの試験は10年以上前から行っている。ノートPCは、オフィスのなかから屋外に持ち出して利用することが多くなり、オフィス内での利用では想定できなかった過酷な環境で利用されるようになった。そうした環境を想定して試験を行っている」とする。
素材のリサイクルなどにも取り組む「Design Sustainability Lab」
Design Sustainability Lab(DSL)は、製品のデザインやパッケージのデザインを行うだけでなく、素材のリサイクルなどにも取り組んでいるのが特徴だ。「Dell Technologiesの製品が、ユーザーと地球の両方を満足させられるための方法を模索している」とする。
Dell Technologiesは、サスティナビリティの実現に向け、高い目標を設定した「2020 Legacy of Good」プランを発表。そのなかで、2020年までに1億ポンド(約4万5400トン)のリサイクル材料や再生プラスチックなどをDell Technologiesの新製品に使用することや、リソースの再販、PC as a Serviceを通じたリサイクルサービスなどにより、20億ポンド(約91万トン)以上の使用済電子機器をリサイクルするという目標を掲げ、これを前倒しで達成しているという。
すでに、再生したカーボンをノートPCの天板に使用。自動車のフロントガラスからのPVB(ポリビニル ブチラール)をリサイクルして、ノートPC向けバックパックの防水部分に使用するといったことも行っている。
バックパック用の溶液染色にも新たな手法を採用したことで、一般的なパーツ染色工程との比較では、廃水を90%削減。29%の省エネ、62%のCO2排出量削減を実現したという。
また、2019年5月に発売したノートPC「Latitude」の25周年モデルでは、リサイクルカーボンファイバーの利用を前提とした設計を初めて採用し、再生部材使用率を最大で18%にまで高め、埋め立て廃棄量を200万ポンド以上削減している。また同製品では、パッケージにもリサイクル素材を採用してみせた。
「リサイクルした素材の活用は、社会から求められている企業責任を果たす意味でも重要である。Dell Technologiesは、サスティナビリティに対して率先して取り組む企業である」と語る。
企業などに一括で納品する場合には、1台ごとに段ボールで梱包するのではなく、約40台が収納できるラックを利用して出荷するなどの取り組みも行っている。
Dell Technologiesでは、2030年に向けたソーシャルインパクト(社会影響)に対するビジョン「Progress Made Real」を策定し、そのなかでサスティナビリティの促進に取り組んでいるところだ。
HPCの性能検証やAIソリューションのデモを行う「HPC/AI Lab」
Dell Technologiesは、HPC分野でも高い実績を持っている。世界のスーパーコンピュータの性能ランキングの5位には、Dell Technologiesの製品を活用したテキサス大学のTexas Advanced Computing CenterのFronteraが入っている。
Dell Technologies のHPC/AI Labでは、1200平方メートル以上のエリアに、2万7000コア以上のZenithスーパーコンピュータ単体を設置。10PB以上のコラボレーション用ストレージを持つ。HPCの性能を検証したり、AIソリューションのデモを行ったりする場であり、GPUやCPUといったパートナーテクノロジーの活用や、顧客との緊密な連携によって、性能のチューニングを行えるという。
施設の内部は、年間を通じて22~23℃に設定されており、ライフサイエンスなどの業種ごとに最適化したコンピューティング、ストレージ、ネットワークの検証のほか、機械学習などの最新技術の活用などにおける検証活動なども行っている。
対象分野のエキスパートとの対話を通じて、最新テクノロジーを早期に利用することによって、アプリケーションへの影響を検証。さらに、顧客固有のIT環境に合わせたワークロードソリューションを設計でき、これまでにも、多くのユーザー企業との連携によって、いくつもの成果を上げているとのことだ。
またHPC/AI Labでは、新しいテクノロジーに関する情報や検証結果を、ブログを通じて発信。パフォーマンステストの結果を投稿し、ベストプラクティスを共有している。
エッジ向けサーバーの開発などを行う「Edge Innovation Lab」
エッジコンピューティングに最適化したモジュラーデータセンターの検証などを行っているのが、Edge Innovation Labである。顧客との協力によって、ITスタックとソフトウェアソリューションを活用し、従来のデータセンターとは異なる環境で使用できるエッジサーバーなどを開発しているという。
今回は、駐車場の一角に設置した19型48Uのサーバーラックを利用したエッジソリューションを公開した。サーバー、ストレージ、ネットワーク、電源を一体化し、これを工場で組み込んだあとに現場に移送して設置するもので、数時間以内に稼働させることが可能としている。
フットプリントが小さいため、移動や設置が容易で、耐震ブラケットも用意されており、本体内のユニットと浮かせて設置することも可能だという。そのため、地震の影響を受けやすい場所にも設置が可能になる。
自動車、小売、軍事分野などでの利用も想定しており、顧客の要求に合わせた仕様にすることができる。すでに自動車メーカーのテストサイトで試験導入されており、そこで収集されたデータをもとに、新たなクルマの設計に反映させているとのこと。さらに小売店では、小さな店舗においても、これを設置することで、店舗運営に関する分析が可能になり、それをすぐに活用できるという例も示した。
今後、5Gネットワークへの対応や、太陽光発電や燃料電池を利用した独立稼働や冷却システムの運用も行えるようにする。「Dell Technologiesは、グローバルに展開している企業であり、さまざまな電圧や異なる周波数にも対応できるようにするのが前提だ」などとした。
2020年には米本社内にEdge Solution Centerがオープンする予定であり、ここでは、4つのラックを組み合わせた規模のエッジコンピューティングの検証なども行うことになるという。
3~5年先を見据えた技術を研究する「Futures Ville Innovation Center」
Futures Ville Innovation Labで行っているのは、すぐに活用する技術や、商品化を前提とした技術の研究ではなく、3~5年先を見据えた技術の研究である。そのため、実際には、商品化や実装されないものもあるという。
対象としている領域は、サーバー製品で、このほど新たに発表した自律型コンバージドインフラ「Dell EMC PowerOne」においても、Futures Ville Innovation Centerが重要な役割を果たしているとのこと。
業界標準グループとの連携も強化しており、現在、Futures Ville Innovation Centerでは、NVMeやRedFish、CXL、Gen Z、FPGAといった技術にフォーカスしながら研究を進めている。
また、Visual Analyticsという観点にも力を注いでおり、テレメトリによるクラウド型ネットワークの可視化も重要なテーマのひとつだという。ここでは、テキサス工科大学とともに、テレメトリプロジェクトに取り組んでいる例や、マネージドセキュリティサービスのN-Dimensionにおいては、467ノードのHPCクラスタから生成されるデータをVisual Analyticsとして活用する例などを紹介した。
また、データセンターにおけるサーバーディスアグリケーション(再分割)による最適化や構成可能性の研究、インテルと連携により、データマネジメントプロジェクトに取り組んでいる例も紹介している。