特別企画
日立、“総合システム工場”の大みか事業所を公開 IoTを利用した先端の取り組みを実施
2017年11月24日 06:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は21日、茨城県日立市のサービス&プラットフォームビジネスユニット 大みか事業所を、報道関係者に公開した。
大みか事業所は、インフラ事業者向けの情報制御機器およびシステムを設計、製造する拠点で、旧日立工場の制御盤部門と旧国分工場の配電盤部門が統合して、制御システムを生産する大みか工場として1969年に設立。社会インフラ向け専用コンピュータであるHIDICの生産などを行ってきた経緯がある。
現在は、各種発電制御、列車運行管理、上下水道監視制御、河川利水監視制御、一般産業用制御装置などを生産する。東西460メートル、南北600メートル、東京ドーム約4個分にあたる20万1000平方メートルの敷地に、約2500人が従事しているという。
かつては、日立の現社長である東原敏昭氏が工場長を務めたり、現会長の中西宏明氏が副工場長を務めたりした拠点でもある。日立の歴代社長では、三田勝茂氏も同工場長の経験者だという。また、2011年3月の東日本大震災では被災したが、約1週間で再稼働させたとのこと。
日立 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 大みか事業所の小林毅所長は、「大みか事業所は、日立のフロントBUや海外拠点を下支えするために、電力分野、鉄道分野、社会・産業分野を支える情報制御システムを、開発、製造、保守、品質保証、運用サポートまでの一貫体制を持つ総合システム工場。業務アプリケーションから制御機器までを開発、生産し、供給する役割を担う。高信頼かつニーズに応えるモノづくり、スケーラブルで高信頼なプラットフォームの実現、システムを持続する人財育成を通じて、高信頼性と長期使用が求められる社会インフラシステムに対する責任をまっとうすることを目指している」とした。
「高信頼かつニーズに応えるモノづくり」では、安全、安心をなによりも優先する「S(安全・安心)>>Q(品質)>D(納期)>C(コスト)」の考え方が徹底しているのが特徴だとする。
「スケーラブルで高信頼なプラットフォームの実現」では、自律分散システムアーキテクチャを独自に開発し、数多くの分野で適用。制御用コンピュータやサーバー、情報制御ネットワークコントローラ、制御コントローラ、電力用保護リレー、制御セキュリティ製品を自ら開発、製造していることを挙げた。
また「システムを持続する人財育成」では、設計部門や製造部門ごとに技術教育や倫理教育などを実施しているほか、失敗を成功につなげるために動機的原因追及を行い、原因と対策を全社で共有する「落ち穂拾い」といった独自の取り組みを行っていることを紹介した。
小林所長は、「これまでは顧客の求めるシステムを、ニーズに従って構築する工場だったが、これからは顧客の価値を創造する『総合サービス工場』を目指す。そのためには、大みか工場で培ってきた技術を活用し、顧客との協創が必要である。また、顧客のもとに納入した製品が、部品確保などの観点を含めて、しっかりとした稼働を保証することにも取り組みたい。実践された技術と経験をもとに、顧客と協創し、Lumadaを活用して新たな価値を創出。成長性、収益力、競争力を備えた事業体に転換する」などと述べた。
生産改革においてIoTを活用した高効率生産モデルを確立
大みか事業所は、IoTを活用した高効率生産モデルを確立し、これを「Lumada」のソリューションコアとして提供を開始している取り組みでも注目を集めている。今回の説明会でも、その取り組みについて、工場現場の視察を通じて紹介した。
大みか事業所では、生産改革において、IoTを活用した高効率生産モデルを確立し、同事業所の代表製品である制御装置の生産リードタイムを、180日間から90日間へと50%も短縮した実績を持つ。「50%の短縮のうち、設計で20%、調達で20%、製造で10%を削減している」という。これは、大みか事業所で製造している製品の約20%を占めており、今後、日立グループの国内外の製造拠点にも適用していくとした。
もともと大みか事業所では、日立グループの構造改革「Hitachi Smart Transformation Project」の一環として、約8万個のRFIDタグを活用することで、工程を見える化し、無駄を排除する「RFID生産監視システム」を導入したり、個別受注生産比率を縮小して、個別設計の減少によって設計および調達工程における生産リードタイムの短縮を図る「モジュラー設計システム」を導入したり、といったように、高効率と柔軟性、持続性を持った多品種少量生産に向け、さまざまな取り組みを行ってきた経緯がある。
しかし、「RFIDで状況を見える化しても、上長がそれを見ても課題を発見できない、改善につなげることができないといった課題があった。そこで、これらのデータをもとに、なにを改善すべきかといったことまでを実践するPDCA極小化システムを新たに導入した」という。
2015年からは、IoTを活用した「PDCA極小化システム」と「工場シミュレーター」を導入。以前からの「RFID生産監視システム」と「モジュラー設計システム」を相互にシステム連携させることで、人、モノ、設備の情報を循環させる高効率生産モデルを確立した。これによって、サプライチェーンと工場の生産活動をデジタル化。需要変化に即応する形で、人員や部品などのリソースを最適配分して、生産全体の最適化と品質向上を図る「Optimized Factory」の実現を目指している。
具体的には、「RFID生産監視システム」では、各工程の進ちょくを把握して、遅延が発生した工程に対して人員シフトなどの対策を検討。「PDCA極小化システム」では、作業時間が通常よりも長くかかっている生産工程を検出して、画像分析などにより問題点を可視化。対策および改善を行う。
生産ラインでは、組立作業を行う「屋台」に8台のカメラを設置。作業者の動きをさまざまな角度から録画。半年分の4TBにおよぶ動画データを、30個の「屋台」ごとに保存している。RFID生産監視システムとの連携で、作業を行っている時間が長い場合には、なにか課題があると判断。その部分の映像だけを再生して、なにが作業の遅れにつながっているのかを検証することができるようにした。
屋台では3D画像を用いた作業指示を使っているが、これは、作業品質を向上させるといった効果をもたらす一方、ひとつの作業をひとつの画面に表示していることから、予定よりも作業が遅れていることが、画面の表示時間からも検出可能になるという。
「作業時間が遅いものを毎週上位5位まで抽出し、改善の対象として解決していくことを徹底した。IoTは見える化しただけでは意味がない。課題を浮き彫りにして、改善していくことにまでつなげることが大切である」としている。
さらに、蓄積された改善結果は、「モジュラー設計システム」を通じて製品設計などに反映し、モジュラー設計の適用率を向上させて、個別設計の比率を減少。これらの3つのシステムから得られる生産実績データと納期などの情報をもとに、「工場シミュレーター」によって、受注品の生産仕様や要求納期に応じて、各工程の最新の生産能力と原単位(部品、生産手順、標準作業時間など)から、最適な生産計画に基づいた人員や部品などのリソースを最適に配分。これによって、生産リードタイムの短縮化と、部品の早期入荷を抑制などを含む部品発注量の最適化を行うという。
同社では、これらの4つのシステムで情報を循環させることで、さらなる改善を実行し、より精度の高い生産計画を立案し、生産の高効率化を図る。
また、同社では、大みか事業所において、高効率生産モデルのシステム精度と汎用性を高めることで、日立のIoTプラットフォーム「Lumada」のソリューションコアのひとつとして、これらのシステムを提供している。
具体的には、社内では異常リアルタイム検出システムとしていたものを「進捗・稼働監視システム」として、PDCA極小化システムとしていたものを「作業改善支援システム」として提供している。さらに、工場シミュレーターは、国内外のグループ会社などにも展開していく計画を示したほか、モジュラー設計システムはコンサルティングサービスとして他社に提供するという。
同社では、顧客やパートナー企業を対象に大みか事業所を公開して、高効率生産モデルを共有。顧客との協創を推進していくほか、今後は、ヘッドマウンディスブレイを活用した組立支援やAIの活用なども視野に入れたいとしている。
サイバー攻撃対応のための総合訓練・検証施設も
一方、大みか事業所には、サイバー攻撃対応のための総合訓練・検証施設「Nx Security Training Arena(NxSeTA)」を設置している。8月30日に設置された同施設は、実際のインフラシステムに近い環境を実装した訓練・検証施設で、日立がこれまで培ってきた制御システムと情報システムの技術、ノウハウを通じて、サイバー攻撃に対するBCP策定のためのノウハウを整備。同施設を活用して、重要インフラ事業者向けのサイバー防衛訓練サービスの提供を行っている。
例えば、分野ごとに個別構築する模擬システムを使って、サイバー攻撃に対する組織としての対応、判断力を訓練するプログラムを提供。運用手順やセキュリティ製品の防御有効性の検証および評価を行う。
同社では、「人や組織の強化に着目した実践的な訓練・検証サービスで、重要インフラ事業者におけるセキュリティインシデントへの対応スキル向上と、システムや運用の改善を図り、日進月歩のサイバー攻撃に対して、迅速に対処できる組織づくりに貢献する」としている。
第1弾として、電力事業者を対象に、情報系システムのほか、発電所の制御システムを模したシステム環境を施設内に構築し、システム監視や指揮命令を行う関連部門の組織訓練を目的としたプログラムと、サイバー攻撃に備えた運用手順の検証やセキュリティ製品の評価ができるサービスを提供している。
NxSeTAでは、受講者となる企業のIT部門担当者が、実際にインシデント対策を行う「制御室」、OA機器などを設置してオフィス環境などを再現した「OA室」、制御盤などを設置してOTに関するセキュリティチームが対策を行う「制御盤室」、経営層などによって構成される対策本部を設置する「特別対策室」と、日立の担当者によって攻撃を仕掛けるための「REDTEAM室」を設置。それぞれの部屋に入って、1回あたり2~3時間の演習を行う。
演習のカリキュラムは、プラントや情報システムを監視する部門や、緊急時の対応を指揮命令する部門の担当者や責任者、経営幹部を受講対象としたもので、制御システムと情報システムに関する日立の技術、およびノウハウをもとにしたプログラムによって、基本知識や最新事例を学習する講義と、防御スキルを身に付ける技術訓練、最新の攻撃シナリオにも対応した実践演習から構成されているという。
実践演習では、受講者が社内体制と同等の組織を編成して、普段利用するシステムに模した環境のもとで、別室にいる攻撃役から受けるさまざまなサイバー攻撃に対処するという。
「実際の現場に限りなく近い環境下で、受講者の冷静な判断力と適切かつ迅速な対応力を強化するのが目的。受講者のレベルや環境に合わせて演習を行うため、重要インフラ事業者は具体的な課題や弱点を抽出することができ、組織の強化を図ることが可能である」としている。
また、「演習中に詰まってしまった場合には、講師役を務める日立側のホワイトチームが支援をするといったこともある。演習終了後には、結果をまとめてフィードバックすることになる。実際のサイバー攻撃ではさまざまなことが起こるため、正しい答えというものはないが、正しいプロセスはある。それを学ぶためのものになる」としている。
さらに、同施設では、セキュリティ製品の稼働検証や効果測定を行うことができるため、導入検討中のセキュリティ製品の評価・比較に利用することが可能になっている。
なお、日立は、2017年5月に、イスラエルのサイバーセキュリティ大手であるCyberGym(サイバージム)との提携によって、同社のサイバー防衛演習関連サービス、ソフトウェアを、日本国内で独占販売。日立が提供するサービスにおいても、2018年をめどに、サイバージムの訓練ノウハウを具備したサービスを提供するという。
「現在、Nx Security Training Arenaでは、火力発電所に加えて、原子力発電所のモデルがあり、次のステップでは、鉄道や電力系統などに範囲を増やしていく予定であり、スクリーンの切り替えでこれらの業種への対応が可能になっている。大みか事業所にインフラ環境の設計者がいること、OTおよびITセキュリティ人材が集まっているといった理由から、この場所に設置したが、すでに演習を行った実績もあり、視察を含めて数十社が訪れている。ここまでの距離を使って、視察に来ていることを見てもわかるように、本気でセキュリティに取り組んでいる企業ばかりが訪れている」とした。