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どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは?

 11月2日、かねて「協議中」であることを表明していた富士通と中国のレノボ・グループ・リミテッド(以下、Lenovo)が合弁会社を設立し、PC事業を展開することが発表された。2018年度第1四半期をめどに、Lenovoが51%、富士通が44%、日本政策投資銀行が5%出資した合弁会社「富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)」を設立。現在ある富士通100%子会社「FCCL」の事業を、新体制で引き継ぐことになる。

 FCCLの代表取締役社長である齋藤邦彰氏は、「調達力、スケールメリットで世界最大規模のLenovoが加わることで、FCCLはさらに強化される。エンドユーザーであるお客さまに、より魅力ある商品がお届けできる」と統合のメリットをアピールする。

どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは? FCCLの代表取締役社長 齋藤邦彰氏
FCCLの代表取締役社長 齋藤邦彰氏
どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは? 新たなFCCLへ事業を引き継ぐ
新たなFCCLへ事業を引き継ぐ

 しかし、問題は法人事業だ。富士通の法人向けPCは、現在でも富士通がFCCLから調達し、富士通ブランドで販売、サポートを行っている。新体制後も同様の体勢を取ることになっているが、ご存じの通り富士通PC事業の最大のライバルで、国内のPC市場で富士通とトップシェアを争うNECは2011年からLenovo・グループとなっている。個人向けに比べ差別化しにくい法人向けPCで、富士通ブランド、NECブランドとなっていても、中身は両方Lenovo製品ということになる。

 富士通の代表取締役社長 田中達也氏は、「富士通ならではのトータルな価値提案を行うことで、法人向けPCでも差別化ができる」とアピールしているが、果たして――。

どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは? 富士通の代表取締役社長 田中達也氏
富士通の代表取締役社長 田中達也氏
どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは? 法人向けPCはFCCLから調達して富士通ブランドで販売
法人向けPCはFCCLから調達して富士通ブランドで販売

富士通、NECともに“差別化は可能”

 「法人向けPCビジネスは、製品を販売するだけではなく、お客さまの価値をどうつくり出すか。当社がトータルな価値を提供することで、差別化を図ることはできる」――、富士通の田中社長はそう自信を見せた。

 法人向けPCは、高付加価値モデルはともかく、低価格のボリュームゾーンの製品は差別化が難しい。利用するソフト、サービスもPCメーカーが提供するものではない場合が多く、PCだけを見ると独自性を出しにくいからだ。

 それに対し、「トータルでの価値提案」という言葉を、富士通の田中社長は何回も使った。富士通が行っている法人向けPC事業は、単に本体を販売するだけでなく、クラウドサービス、ソフトウェア、サポートなどを含めた提案を行うビジネスであり、PC単体でビジネスしているわけではないという点を強調するために、「トータルな価値提案」をアピールしているのだろう。

 富士通の会見終了後、同じ質問をNEC側に投げかけると、「NECの強みである顔認証技術、お客さまの視点に立った働き方改革の提案などによって差別化は可能だと考える。PC単体についても、富士通が合弁会社設立後も、NEC、富士通セパレートでの運用体制となると聞いている。世界最軽量ノートPCのように特徴ある製品が法人用でも提供され、NECらしさを出していくことは十分に可能となると認識している」(NEC コーポレートコミュニケーション部)との回答が返ってきた。やはり、差別化は十分に可能だと説明しているわけだ。

 ただし、ユーザーによっては「法人ユーザーの場合、外資系製品ではなく、国産メーカー製品を望むケースがある」という声もある。Lenovo系列となった後でも、これまで同様の顧客からの信頼を得られるのか、富士通にとっては課題となっていきそうだ。

サーバー事業はどうなる?

 また、PC事業がLenovo・グループとなったことの影響は、PC事業だけにとどまらない。サーバー事業は富士通自身が開発、販売していくことになるが、サーバー事業にもPC事業のLenovoグループ入りが影響することになる。

 サーバーに使われる部材はPCと共通のメーカー製品が多数存在する。これまでPC、サーバートータルの調達量での取引に比べ、サーバー単体での取引となり、取引量は当然減少する。部材の単価は取引量に左右される部分もあるため、その分コストが増加し、製品単価を引き上げる、収益が落ちるといったマイナス側面が出てくる可能性もある。

 この点に対し、富士通の田中社長は、「確かにサーバー部材調達のデメリットが生まれる可能性はあるが、Lenovoとの連携によって、新しい市場開拓の可能性が広がる。より大きな市場にアプローチできると思っている」と返答した。

 田中社長は「新しい市場」がどんなものなのか具体的に言及しなかったが、Lenovo 会長兼CEOのヤンチン・ヤン氏は、「富士通は欧州市場で高い実績を出している。欧州市場でさらに大胆に海外で展開することができるよう、サービス面で助けることもできる」と述べ、今回の合弁会社にとどまらないサポートを行う可能性を示唆した。

 これがどれほど具体性を持った発言なのか、今回の会見だけでは明確ではない。新体制発足後も、富士通はLenovoと良好な関係を続け、ビジネスを拡大していくことができるのか。合弁会社発足以上に、その行方をきちんとウォッチしていく必要がありそうだ。

どうなる富士通の法人向けPC――、“競合”NECと同じLenovo傘下での差別化ポイントは? Lenovo会長兼CEO ヤンチン・ヤン氏
Lenovo会長兼CEO ヤンチン・ヤン氏