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さくらインターネット、生成AI向けクラウドサービス「高火力 DOK」で「NVIDIA H100プラン(β版)」を提供

 さくらインターネット株式会社は、NVIDIAのGPUを使う生成AI向けクラウドサービス「高火力」の中のコンテナシリーズ「高火力 DOK」において、「NVIDIA H100 TensorコアGPU」を利用できる「NVIDIA H100プラン(β版)」を8月27日に提供開始した。

 高火力 DOKは、ユーザーがGPUを使うタスクをDockerイメージにしておき、さくらインターネットのGPUサーバー上で時間課金にて実行できるサービス。これまでNNIDIA V100プランが用意されていたが、今回、より高性能なNVIDIA H100を使うプランが登場した。

 料金は、1秒あたり0.28円、1時間で1008円となる。GPUメモリは80GB(V100プランは32GB)。なお、名称のとおりβ版として提供される。

「高火力 DOK」で「NVIDIA H100プラン(β版)」提供開始

 これは、さくらインターネットが同8月27日に開催したプレス向けの事業説明会の中で発表された。

 事業説明会では、代表取締役社長の田中邦裕氏がさくらインターネットの事業戦略として、国産クラウドとしての立ち位置やGPUクラウドの強化などについて語った。また副社長 執行役員の舘野正明氏が、「高火力」事業の戦略について、説明した。

国産クラウドで大成長を目指す

 田中氏はさくらインターネットの事業について、デジタルインフラ、GX(グリーントランスフォーメーション)、人材の3つの面から説明した。

さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中邦裕氏
デジタルインフラ、GX、人材の3分野の事業戦略

デジタルインフラ:垂直統合で日本の「デジタル赤字」に対抗

 まず氏は、創業期から売上高がほぼ右肩上がりで成長してきた様子をグラフで示した。その中で2021年に一度売上高が落ちている部分を指して、事業構成で分けるとデータセンターのラックごと貸す物理基盤サービスがメガクラウドの影響で縮小していると説明。それに対して、クラウド事業、特にGPUクラウドやガバメントクラウドの成長を見込んで、今年度(2025年3月期)の売上高は280億円を見込んでいると4月に発表したことを語った。

 さくらインターネットのデジタルインフラ事業の背景として田中氏が挙げるのが、日本から海外のデジタルサービスの利用が進む「デジタル赤字」により、海外サービスへの依存が強まることだ。氏は、日本で海外の便利なサービスを使えるのはすばらしいことだとしつつ、便利なサービスが日本からも登場すべきだと語った。

 田中氏は、米国ではSaaSから出発した事業者が物理的なデジタルインフラにも範囲を広げるのに対し、日本の大手事業者がデジタルインフラに向かっていないことを、日本の課題として挙げた。さらに、ハイパースケーラーが国内で利用するデータセンターも、国内デベロッパーを通さずに直接外資企業が扱うようになり、物理アセットをみな外資企業が持つリスクを氏は危惧した。

 これに対してさくらインターネットでは、データセンターを持ち、自前でソフトウェアやサービスを開発し、自前で運用する、垂直統合の自前主義である点が特徴だと田中氏は強調した。

 その最近の動向としては、日本でガバメントクラウドの認定を国内企業では初めて受けたことや、生成AI向けGPUクラウドの助成を受けたことを紹介した。

さくらインターネットの売上高の推移
「デジタル赤字」の課題
さくらインターネットの垂直統合の特徴
ガバメントクラウドの認定と、GPUクラウドの助成

GX:日本および北海道のデータセンターの優位性

 続いてGX、つまりデータセンターが電力を“爆食い”する状況への対策だ。

 この対応としてまず、自然エネルギーで発電できる所で計算資源を動かすことが語られた。たとえば北海道の自然エネルギー発電で東京の需要を賄ったり、自然資源が少なく電気が足りないシンガポールの需要をインターネット経由で賄ったりすることがある。また、海底ケーブルのルートでは日本は米国や欧州からアジアの玄関口にあり、日本のデータセンターの市場規模が拡大していると田中氏は述べた。

 また、千葉県の印西市が、変電所を新設して電力を引き込んだことでデータセンターが相次いで建設されて集積地となり、副次的に住みやすい町ランキングにも入るようになったことも紹介。そして、送電だけではなく発電を増加するために、本州の発電能力を高めることと、発電能力の高い九州や北海道へのシフトの、二通りの方向が検討されると語った。

 その中で北海道については、さくらインターネットが2011年に開始した石狩データセンターを含めて、石狩・千歳・苫小牧の地域(これを田中氏は「ICT地域」と略す)で最近データセンターの建設が相次いで発表されていると紹介した。

 北海道へのデータセンター建築のさきがけといえる石狩データセンターでは、さらに当初から外気冷房方式など省電力に取り組んでいたのが、“たまたま”現在のGXの流れに乗って、うまくはまったと田中氏は説明。さらに、同社のGPUサーバーは石狩データセンターにてすべて、北海道電力から供給される再生エネルギーで動いていると紹介した。

日本のデータセンターの地理的優位
さくらインターネットの石狩データセンター

人材:性善説で風土、制度、ツールを整備

 人材の面では、まず前述のとおりサービスをオペレーションもカスタマーサポートも自前主義で運営していることを田中氏は背景として挙げた。そして、リモートワーク9割で業務が回り、離職率が2.5%と少ないとアピールし、その管理について「性悪説に立つとリモートワークができない。性善説にもとづいて、風土、制度、ツールを整備している」と語った。

 もうひとつ田中氏が強調したのが、「余白の経営」だ。ITでは需要に波があるので、施設も人もそのときどきにぴったりの量だと変化に追随できない、「余白」を持っておくことで急に来た案件にも対応できる、という意味だ。「コストを最適化して利益を最大化する経営と真反対だ。デフレの時代には余白は無駄だが、インフレの時代は変化が大きい」(田中氏)

さくらインターネットの働き方
リモート前提の働き方

今期中にもさらなるGPU増設を発表予定

 今後の経営施策としては、短期的にはGPUクラウドの強化を田中氏は挙げ、「他社にさきがけてGPUへの投資をしていく」と述べた。また採用も強化し、2024年度は200名の採用を予定していると語った。

 今後、GPUクラウドを中心に大きな成長を目指す。前述の280億円の売上予想について田中氏は「これはすでに動いているもの」であるとして、さらに「今期中にもGPUを増設していって、近々に発表できると思う」と述べた。

 そして、「サービスとソフトウェアが最も重要。インフラ投資に注目が集まりがちだが、それを自社でマネージし、自社でソフトウェア開発やサービス提供をしていくのが、さくらインターネットの強み」だと改めて語った。

GPUクラウドの強化
自社でのサービスの開発と提供が強み

高火力シリーズで最新GPUへの投資を続ける

 生成AI向けクラウドサービス「高火力」については、さくらインターネット株式会社 副社長 執行役員 舘野正明氏が説明した。

 高火力コンピューティングは、高性能GPUを使ったサービスとして2016年から提供し、技術的知見や事業的経験、NVIDIAとの関係を築いてきたと、舘野氏はこれまでの経緯を説明した。そして、その消費電力やCO2排出量を抑制して拡張していく上で、石狩データセンターが最適だと語った。

さくらインターネット株式会社 副社長 執行役員 舘野正明氏
高火力シリーズの取り組みの背景

2027年までにGPU 1万基、総計算能力18.9EFLOPSを目指す

 前述のように、さくらインターネットは、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資であるクラウドプログラムの供給確保計画の、「次世代に向けた基盤クラウドプログラムの開発に必要な生産基盤の整備」に認定され、GPU調達の助成を受けている。

 第一次整備は2023年に認可を受け、総事業費約130億円でNVIDIA H100を2000基採用し、2024年8月1日に前倒して整備完了した。

 そして第二次整備では、総事業費が約1000億に桁が上がり(うち1/2の助成を受ける)、2027年までに第一次と合わせてGPU 1万基、総計算能力18.9EFLOPSを目指す。

 その対応においても非常にタイトなスピード感で整備を進めたと舘野氏は説明。第一次は検討開始から約2カ月で、取締役会で投資を決議したという。そして2024年1月から「高火力」シリーズの第1弾である「高火力 PHY」を提供開始した。

第一次と第二次のGPU整備

高火力 DOKのH100プランが発表、年度内に「高火力 VM(仮)」も予定

 「高火力 PHY」は、H100を8基搭載したベアメタルサーバーを提供するサービスで、複数サーバーの400GbE×4でのインターコネクトにも対応している。

 そして第2弾がコンテナシリーズ「高火力 DOK」であり、その中の新プラン「NVIDIA H100プラン(β版)」が、冒頭で取り上げたように発表された。

 さらに「高火力」シリーズにおいて、「高火力 PHY」「高火力 DOK」に続いて、「高火力VM版(仮)」も、2024年度内に予定していることを舘野氏は明らかにした。NVIDIAのGPUを搭載したサーバー上で複数の仮想マシンを動かして提供するものだ。

 3サービスの位置づけについて、舘野氏は「個人的には、VM版が真ん中のサービスだと思っており、ハイエンドの方にPHY、ライトユースやジョブ的な利用にDOKと考えている」と説明した。

「高火力 PHY」
「高火力 DOK」
「高火力 DOK」で「NVIDIA H100プラン(β版)」提供開始
高火力 PHY、高火力 DOK、年度内予定の高火力 VM(仮)の比較

コンテナ型データセンターでGPUサーバーを収容

 高火力シリーズのためのインフラとしては、石狩データセンターの4号棟建設予定だった場所にコンテナ型データセンターを構築しており、今期中に追加予定のGPUサーバーはそこに収容する予定だ。さらに来年度以降のGPUサーバーのために、同じく4号棟建設予定だった場所にもう1つコンテナ型データセンターを予定しているという。

 また、現在提供しているH100サーバーは通常の空冷式だが、新しいコンテナ型データセンターでは水冷式(コールドプレートを使ったダイレクトリキッドクーリング)を予定している。空冷では冷却効率が低いため、1ラックにH100サーバーを1~2台しか収納できないが、水冷であれば冷却効率が高いためより収容できるという。コンテナ型データセンターであれば水冷を導入しやすく、またデータセンターの工期短縮も期待できると舘野氏は説明した。

 今後としては、H100の後も「NVIDIA HGX B200」などその都度最新世代のGPUに投資し続けていくと舘野氏は述べ、「今回のわれわれのアクションが、日本の産業にとってポジティブなインパクトになるよう邁進していく」と語った。

コンテナ型データセンターの整備予定