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アカマイ、「コンテンツデリバリー」「クラウドコンピューティング」の両事業を説明

ABEMAのサッカー中継を支えた事例なども紹介

 CDN(Contents Delivery Network)事業を手がけるAkamai Technologiesの日本法人アカマイ・テクノロジーズ合同会社は、あらためて自社のサービス内容について解説するメディア向けセミナーを8月9日に開催した。

 Akamaiはもともと、MITの応用数学教授だったトム・レイトン氏(現在CEO)が、インターネットの渋滞を数学的に解決する手法としてCDN(Contents Delivery Network)を発明して創設された、CDNの元祖といえる会社だ。

 現在では事業として、もともとの「コンテンツデリバリー」と、オリジンサーバーをサイバー攻撃から守る「サイバーセキュリティ」、顧客にクラウド環境を提供する「クラウドコンピューティング」の3つの領域がある。

 今回のメディア向けセミナーでは、このうち「コンテンツデリバリー」と「クラウドコンピューティング」について、アカマイ・テクノロジーズ合同会社の中西一博氏(マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネージャー)が解説した。

Akamaiの事業の3つの領域
アカマイ・テクノロジーズ合同会社の中西一博氏(マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネージャー)

コンテンツデリバリー:ABEMAのサッカーW杯全試合中継配信を支える

 あらためてCDNとは何か説明すると、もともとのWebサーバー(オリジンサーバー)のコンテンツを世界中に分散されたエッジサーバーにキャッシュしておくことで、利用者から近いエッジサーバーから高速配信するものだ。

 仕組みとしては、DNSのCNAME(別名)レコードを用いて、利用者がアクセスするホスト名の別名としてAkamaiの持つホスト名(akadns.netやakamaiedge.net、edekey.netなど)を登録しておく。これによりAkamaiのサーバーが、利用者に近いエッジサーバーを選出して、DNSの返答としてそのIPアドレスを返す。

 これらのエッジサーバーは、大規模なキャリアやISP、データセンターに配置される。世界で接続拠点(PoP)数が4100以上、ネットワーク数が1200以上、都市数が750以上、国数が130以上にのぼるという。

 なお最近では、Akamai以外のCDN事業者も複数活動している。そうした競合企業とAkamaiとの違いについて尋ねると、中西氏は大きな要素として、このエッジの拠点の多さを答えた。

CDNの仕組み
Akamaiの拠点の規模
筆者が例としてANAの「www.ana.co.jp」のDNS情報を調べた結果。CNAMEでAkamaiのサーバーが登録されていることがわかる

 Akamaiのコンテンツ配信による高トラフィック対応の事例として、中西氏はインターネット放送局「ABEMA」による2022年サッカーW杯全試合中継配信を挙げた。このケースでは、複数のCDN事業者を利用した中で、映像配信にAkamaiを利用したことが公表されている。

 同時に、Akamai API Gatewayも利用されたことを中西氏は紹介した。視聴アプリケーションが起動したときに発生するAPIリクエストについて、エッジで流量(秒間接続数)を制限することで、サーバーがアクセスに耐えて正常稼働を保ったという。

「ABEMA」による2022年サッカーW杯全試合中継配信での事例

通信や画像を最適化してWebパフォーマンスを向上させるサービスも

 Akamaiではコンテンツをキャッシュして配信するのに加えて、通信やコンテンツを最適化してWebパフォーマンスを向上させるサービスも提供していると中西氏は説明した。

 「Ion Adaptive Acceleration」では、HTTP/2やHTTP/3による高速化や、TCPの高速化、フォントのキャッシュなどにより、Webを高速化する。さらに、それらの手法について、機械学習を用いて適用を決めるサービスも持っていると中西氏は語った。

 また、エッジサーバーで画像や動画を最適化する「Image & Video Manager」についても中西氏は説明した。見た目の品質を保ちながら、画像や動画のサイズを削減・最適化して配信するものだ。JPEGファイルから人間が知覚できない部分を取り除くことでサイズを6割削減したり、圧縮率の高いAVIFやWebPなどへ変換したりするという。

 Image & Video Managerの採用事例としてはイーブックイニシアティブジャパンの漫画電子書籍サービス「ebookjapan」を中西氏は紹介した。アクセス数の増加により、書籍のサムネイル画像が並んだページを高速化する必要があったが、読者にも作者にもサムネイル画像の品質が重要であるため、Image & Video Managerにより画質維持とサイズ削減を同時に実現したという。

 またミサワホームの事例でも、画像の多いページの高速化のために、IonとImage & Video Manager、技術支援サービスを利用。トップページのレスポンス時間を45%削減したという。

Ion Adaptive Acceleration
Image & Video Manager
イーブックジャパンの事例
ミサワホームの事例

 最近では、ページ表示速度などのユーザー体験は、Googleのページ評価にも含まれるため、SEOにも影響する。こうしたWebパフォーマンスを分析するWebツールが「Akamai mPulse」だ。mPulseでは、Webサイトについて、実ユーザー体験に関するデータを収集し、パフォーマンス悪化の原因を分析できる。

 その事例としては、メガネのJINS(ジンズホールディングス)のケースを中西氏は紹介した。自分たちで表示時間の短縮をいろいろ試みていたが限界だったところ、mPulseで分析したところ、サードパーティのJavaScript読み込みが原因だったと判明。これを除くことでページ表示時間が最大で半分以下になったという。

 またAkamaiによる支援サービス「Technical Advisory Service(TAS)」も提供している。その事例として、ベネッセのデジタル教材「デジタルタッチ」のケースを中西氏は紹介した。端末数が当時で約80万台あり、コンテンツは最大1.6Gバイトに及び、しかも新年度などには一斉にアクセスが発生して、コンテンツの円滑なダウンロードが困難になっていた。これをTASの支援により、AkamaiのエンジニアがCDNの最適化をして、スムーズにダウンロードできるようになったという。

Akamai mPulse
JINSの事例
ベネッセの事例

クラウドコンピューティング:エッジのサーバーレスコンピューティングで処理をオフロード

 さて、Akamaiの事業において、コンテンツデリバリーの領域がビジネスの大半を占める中で、新しい柱にしようとしているのがクラウドコンピューティングの領域だ。

 中西氏はキーワードとして「“エッジネイティブアプリケーション”に最適なクラウド」を挙げた。つまり、CDNで使っているAkamaiのエッジ拠点で、顧客のアプリケーションを動かすモデルだ。使い方も、サーバー処理のうちクライアントにかかわりの強いものをエッジにオフロードするものだ。

 そのサービスが、Akamaiエッジ上のサーバーレスコンピューティング環境「Akamai EdgeWorkers」と、同じエッジで動くキーバリューストア「Akamai EdgeKV」だ。

 EdgeWorkersでは、利用企業のJavaScriptコードがAkamaiエッジで動く。これにより例えば、認証処理や動的なページの生成など、キャッシュが効かないページの処理をエッジにオフロードして、高速化できる。

 ちなみに類似サービスとしては、CloudflareにはCloudflare WorkersとCloudflare Workers KVが、FastlyにはCompute@EdgeとKV Store(少し違うが)がある。

 EdgeWorkersの事例としては、高校生が大学講義動画を閲覧できる「夢ナビ」(フロムページ)で、認証・認可の処理をエッジにオフロードして、サーバーの負荷を軽減したケースを中西氏は紹介した。

 また通販のニッセンのケースでは、パーソナライズにより商品一覧が人により違うためCDNでキャッシュしにくく、また商品1点ごとにAPIリクエストが発生していた。これを、商品情報をEdgeKVに置いてEdgeWorkersで処理することで、処理をエッジにオフロードできたという。

Akamai EdgeWorkersとEdgeKV
EdgeWorkersの利用形態と、「夢ナビ」の事例
ニッセンの事例

IaaSサービスも開始

 さらにAkamaiは2023年から、一般的なIaaSサービス(Cloud Computing)も開始した。すでに大手ハイパースケーラーが地位を確立している分野だが、中西氏は「ハイパースケーラーでは解決できないものを解決する」と意図を説明した。

 例えば、ハイパースケーラーがサーバーを置いていない地域での処理や、既存クラウドでは思ったより課金されるようなケース、エッジサーバーの近くに置いてアプリケーションを構築することなどを例として中西氏は挙げた。

 ハイパースケーラーのサービスほどではないが、一般的なユースケースについては一通りの機能がそろっているという。新しいところでは、動画エンコーディング用に、NVIDIA RTX 4000 Adaを搭載したGPUインスタンスも開始している。

 価格体系としては、予測可能でリーズナブルな価格設定であり、特にエグレス(サービスから出る側の通信)コストが低減できることを氏は強調した。

 IaaSサービスの提供拠点としては、全サービスを使えるコアリージョンは世界で25リージョンで、日本では東京と大阪にある。また、CDNのエッジサーバーの隣に基本サービスの基盤を置く分散型サイトが現在10リージョン、2024年内に75リージョンに展開予定だという。

Akamaiのクラウドの特徴
Akamaiのクラウドの機能
Akamaiのクラウドの価格体系
Akamaiのクラウドの提供拠点

 Akamaiクラウドの利用事例としては、Akamai自身のプラットフォームを大手ハイパースケーラーから移行したことや、大手Eコマースでエッジコンピューティングを使って動的なページの読み込み時間を改善したケース、金融サービスで応答時間を短縮したケース、オンラインゲームのマッチングサーバーの遅延をなくしたケース、動画配信で画質をサーバー側で調整するケース、AIモデルをエッジにてCPUベースで展開するケースを中西氏は紹介した。

Akamai自身の利用事例
大手Eコマースでの利用事例
金融サービスでの利用事例
オンラインゲームでの利用事例
動画配信での利用事例
AIでの利用事例